夜の海は黒い硝子を幾重にも重ねたように静まり返っていた。
窓の向こう、水平線と夜空との境目はとうに失われている。遠くに浮かぶ灯台の光だけが、闇の中を瞬くように明滅していた。風は弱く、波音も遠い。昼間には何かと騒がしい警備府も、今は眠りについた巨大な生き物のようにひっそりと息を潜めている。
執務室に残された明かりは、机上のスタンドライトひとつきり。その淡い光の下で、九条と柳森はとある書類に目を落としていた。
「…………」
一時間以上前に淹れたコーヒーの表面には、薄い膜が張っている。
九条はそれをしばらく眺めてからカップを口元へ運んだ。が、すぐに顔を顰めた。案の定、すっかり冷めている。苦味だけが妙に鮮明で、不快なざらつきだけが舌の上に居座り続けてくる。
淹れ直すか。
そこまで逡巡して、しかし九条はそれを取りやめる。
向かいでは長らく黙り込んでいた柳森が書類をパサリと机上に手放して、目頭を押さえつつ天を仰いだ。
「……やはり異常だよ、これは」
その固い表情に九条も腕を組んで向き直る。夕食での酒の影響など二人の表情からは微塵も感じられない。
書類には九条警備府におけるここひと月の、阿形と艦娘における特別任務の内容が簡潔に纏められていた。
「ある程度の波はあれど、彼が関わった時は軒並み高水準の数値。しかも僅かではあるが最高値を更新している日もある」
各艦娘の性能は技術妖精の特殊技能によって数値化されている。
九条は目の前に置かれた書類を一枚手に取った。
しかし何度読んでも、そこに記された内容は変わらない。
記載された数値に誤りはない。測定方法にも不審な点はなく、複数回の試験結果にも一貫性がある。書類の末尾には測定を担当した技術妖精たちの偽造できない小さな手形まで添えられていた。
「赤城たちの練度自体はほぼ変わっていない。そんな艦娘の基礎能力をこうも引き上げられるものとは一体なんだ?」
冗談ともとれない九条の言葉に対面に座る柳森は苦笑するでもなく、ただ静かに頷いた。
「たまたま、という言葉で片付けるには些か数値が揃い過ぎているね」
艦娘も人間である以上、その日の好不調の波はある。事実、阿形との任務を行った日でも平凡な結果で終わっている一日も少なからず存在している。
だが傾向は出ている。
測定する艦娘を変えても、今のところは同じような傾向が。
「彼が意図して艦娘に触れる事で、その後の彼女たちの任務結果に好影響が見られる。しかも、一時的な身体能力の変化ではなく、艦娘としての基礎性能そのものに影響を及ぼしている可能性すらある」
「可能性、ね」
「現時点ではどこまでが能力の効果範囲なのか、正確にはわかっていない。だが、少なくとも偶然で片付けられる結果ではないのは明らかだ」
艦娘の能力を向上させる。
それ自体は軍事組織にとって決して珍しい発想ではない。装備の改良、練度の向上、戦術の最適化。艦娘の性能を引き出すための研究は鎮守府だけでなく、軍上層部にとっても重要な課題だ。
しかし、それらはいずれも相応の時間と資金、そして膨大な研究と艦娘個々人の努力の積み重ねを必要とするのが定石だ。
それをたった一人の人間が、何らかの装置を用いるわけでも特別な訓練を施すわけでもなく、ただ艦娘に直接触れる――ように見える――という行為によって成し遂げてしまった。
しかも、その人物は海軍の英雄でも数奇な研究者でもない。ごく普通の人間として警備府に赴任し、日々の業務をこなしている一介の提督補佐である。
「……頭が痛いな」
「仕方ないよ。現状では情報が足りなさすぎる」
「情報云々だけではないよ」
「確かに彼、かわいいもんね」
柳森はコーヒーに口を付けると、うげえと嫌そうに舌を出した。
「柳森」
「分かってるよ」
九条は組んでいた足を入れ替える。
「艦娘一人の性能が僅かに向上する……それだけなら、優秀な整備士を一人雇ったのと大差ない。だが、もし彼の能力が艦娘の人数に左右されず、何度でも発揮できるものならば――」
柳森はじっと黙っている。
「もし、彼が複数の艦娘に触れることで艦隊全体の戦力を底上げできるようになったとしたら。もし、熟練艦娘の限界さえ引き上げられるのだとしたら――」
九条の声が、少しずつ硬さを増していく。
「その存在価値はもはや、一警備府の範疇に収まらん。長年歪な形で均衡を保ってきた軍全体の勢力図に大きな変動を巻き起こしかねん問題だ」
最後の一言を口にしたあと、九条は静かに息を吐いた。
柳森もまた、同じ結論に至っていた。だからこそ、九条はこのタイミングでこの話を持ち込んだのだ。
単に彼の持つ珍しい能力の情報を共有するためだけではない。
――この事実が公になったとき、いったい彼の身の回りで何が起きてしまうのか。
その答えを、二人とも容易に想像できてしまったからだった。
「ほら」
「ん、ありがと」
結局、淹れ直したコーヒー片手に、柳森にもカップを手渡す。
時刻は既に夜中の一時を回っているが、二人の間には未だ解散する気配は見えない。
「ねえ、九条。現時点でこの件を知っている人間はどのくらいいるの?」
「当人たちを除けば、現時点では私と先生とお前だけだ」
「師匠からはなんて?」
「むやみな口外は控えるよう言われている。能力の性質もどこまでが確実な事実なのかも、完全には把握できていないからな」
「上層部には……?」
「いずれは何かしらで伝わる事にはなるだろう……だが、こちらから進んで情報を差し出すつもりはない」
「……そう」
柳森の眉間に皺が寄った。
機密指定を急げば、かえって事態を大きくする恐れがある。正式な命令書が発行され、関係部署への通達が行われればそれだけ情報に触れる人間も増えていく。
海軍も一枚岩ではない。
秘密を守るための手続きが、逆に秘密の存在を知らせる結果になりかねない事を九条は危惧している。それほどまでに現在の海軍という組織は、そうした皮肉をいくらでも生み出す危険性を内包してしまっている。
ただ、だとすれば。
「阿形クン本人が、どれほどその重要性を認識しているのか。それが気になるね」
その疑念に、同意するように九条は視線を上げた。
「本人は自分の能力について、何か言っているの?」
「艦娘の能力向上について、多少の自覚は生まれ始めている。だが、まだその程度だ」
「つまり、能力を自覚してからまだ日が浅いわけか」
「能力の仕組みについては、本人もほとんど手探りの状態みたいだからな」
柳森はそこで溜め息を一つ。
彼が自身の能力に無知であること自体は、責めるべきではない。
自分の身に起きていることを、最初から正確に把握できる人間などどこにもいないだろう。だが、能力の持ち主がその性質を理解していないという事実は、この場合別の問題を生み出す原因になる。
例えば、彼が無意識に別の場所で全く知らない艦娘に能力を使用した場合。
何気ない任務の中で、その効果を本人に、ひいてはその当人の口から周囲に勘付かれる可能性は大いにあるだろう。幸いなのは、彼が艦娘以外に然程興味を示していないというところぐらいか。
「阿形にも一応の釘は差しているが……柳森は彼が、誰かにこの事を話すと思うか?」
「相手による、かな。信頼している人間に相談することはあるかもしれない。ただ、積極的に誰彼女に吹聴するような性格ではないと思う」
「確かに……いや、だが、そもそも性格の問題ではないな」
本人に悪意がなくとも、秘密は漏れるものだ。
何気ない会話の中で口を滑らせることもあれば、周囲の人間が異変に気づくこともある。このまま一部の艦娘の性能だけが不自然なほど向上すれば、何処かしらで誰かが理由を探るだろう。
九条は書類の上部分を指先で軽く叩いた。
「そして一度その可能性に気づく人間が現れれば、広まるのは一瞬、か」
柳森の表情が、今日一番の険しさを見せる。
「……能力の存在が疑われるだけでも、十分に危険だと?」
「当然だ。確証がなくとも、疑念が生まれれば監査官を通じて調査依頼は出す事ができる。彼と接触した艦娘の記録を調べ、能力向上の時期を照合し、関係者を問いただすくらいはしてくる筈だ」
九条は然も当たり前といった様子で言葉を並べる。
「そうなれば、隠し通すことは難しい」
窓の外で夜風が木々を揺らした。葉擦れの音が短い沈黙を埋める。
柳森はカップへ手を伸ばしたが、口をつけることなく再びテーブルに戻した。
「仮に今、上層部に彼の能力の内容が漏れた場合……どうなると思う?」
「まずは保護を名目に、彼の身柄を管理しようとするだろうな」
「保護、か」
「表向きはな」
九条の言葉に冷ややかな声音が入り混じる。
「軍に有益な能力を持つ人間を、好き勝手に行動させるわけにはいかない――そう主張する者は必ず現れる。そうでなくても、ただでさえ若く貴重な男だ。彼の身の安全を確保するため、能力の研究を進めるため、軍事上の利益を最大化するため。理由は後からいくらでも付け加えられる」
「そこに本人の意思は? 後回し?」
「後回しにされるだけなら、まだましだろう」
柳森は一瞬、言葉を呑んだ。
「最初は穏当な試験から始まるかもしれない。だが期待した結果が出なければ、より厳密な条件が求められる。結果が出たら出たで、より高度な試験が必要だと言い出す者が何処かで現れる」
彼女の瞳が鋭利な刃物のように細められる。
「そして最終的に彼自身すら、自分の能力を自由に扱うことさえ許されなくなる」
柳森はしばらく何も言わなかった。
彼女の脳裏にも、同じ光景が浮かんでいたのだろう。
最初は丁重な扱い。次に任務への協力の要請。それから軍務上の必要性を理由とした制限。
命令に従う限りは厚遇され、拒めば義務や責任を持ち出される。露骨な暴力など必要ない。組織とは見せかけの規則と正当性を積み重ねるだけで、一人の人間から簡単に自由を奪うことができるのだ。
「……恐ろしい話だね」
「恐ろしいのは、これが特別な悪人の存在を必ずしも必要としないことだ」
窓の外の暗がりを見やりながら、九条は静かに言った。
「誰もが自分の仕事をこなしているだけだと思っている。前線に立つものは戦力を必要としている。整備士たちは能力の仕組みを知りたい。上層部は成果を求められている。それぞれの理屈だけを見れば、理解できなくもない」
そこで彼女は初めて、内包する激しい感情をその表情に浮かべて見せた。
「だがそういった理屈を全部足し合わせたとき、結果として阿形という人間の人生が、誰の心にも残らず摩耗して消えていく――そういう事態が十分に起こり得るんだよ」
それはひと一人の人生を無にするという意味で、本当に恐ろしい話だった。そしてそれが近い未来の可能性として十分に起こり得る事実だという事に、柳森は思わず言葉を飲み込んだ。
「そんな事は……絶対にさせないよ」
「ああ。だからお前にも話したんだ」
この相方はいつもそうだ。
冷めているように見えて、その実、信頼している者のためならば全身を投げうってでも応える気概と信念を併せ持っている。
九条の言葉の端々に彼と艦娘への想いを感じられるようで、柳森は心の中に熱い何かが灯るのを感じて、思わず拳をぐっと握り締めた。
「ただ、そうなるともう一つ懸念点があるね」
柳森の指摘に、九条も同意の首肯を返す。
「軍の上層部だけじゃない――各鎮守府や警備府の提督たちも、彼の持つ能力には関心を持つはずだよ」
「……そうだな」
自分の鎮守府の艦娘が、他所の鎮守府に所属する艦娘よりも優れた性能を発揮できる。しかもそれが特殊な装備や研究設備を必要とせず、阿形本人との身体的接触によって容易に実現する。そんな情報が世の提督の間で流れたらどうなるか。
九条は答えなかった。
答えるまでもなかったからだ。
鎮守府の運営は単純な戦力比較だけで成り立っているわけではない。だが、艦娘の能力が任務の成否を左右する以上、戦力の優劣が重要な意味を持つことは否定できない。
成果を上げる鎮守府には資材や資金が回り、戦果を挙げる提督は評価され、その発言力を増す。
反対に結果を残せない鎮守府は、自然と予算や人員の配分で不利な立場に置かれることになる。そこへ艦娘の潜在能力を引き上げる人間が現れたとしたら。
欲しがらない者が、果たしてどれほどいるだろうか。
「阿形クンを自分のところに招きたいと考える提督は、必ず出てくるね」
「招くだけで済めば、まだ穏当なほうだ」
「九条」
不穏な予想を繰り返す九条に、柳森の諌めるような声音が届く。
それに分かっていると表情で伝えながらも、九条の言葉に甘えの類は一切含まれない。
「お前も理解している筈だ。この先、彼の能力が広く知られる事になれば、今度は各鎮守府の間で争奪戦が始まる。表向きは人事交流、技術協力、共同研究。もっともらしい名目はいくらでも用意できる」
九条はそこで一度、目を伏せた。
「だが、多くの提督が本当に欲しがっているのは、阿形という人間の本質そのものではない。彼が自分の艦娘と介する事によって得られる利益と、男という莫大な付加価値だけだ」
柳森は苦々しげに唇を引き結んだ。
彼女の言っている事は一個人の想像の範囲でしかない。それでもそれは軍の内部状況を知る人物としての、限りなく一つの正しい予測として成り立っている。
「仮に、彼が特定の鎮守府への協力を断ったとしよう。その事実だけで面白くないと考える者は少なからず出てくる。自分たちには協力しないのに、別の鎮守府には力を貸している。そう受け取る人間もいる筈だ」
「本人が誰に対しても同じ態度だったとしても、かな」
「すべての人間が事実だけで物事を判断するならば、世の中に法律なんてものは生まれてないさ」
その言葉にはどこか二人の師である藤原を思い起こさせる、苛烈な環境に身を置いてきた者特有の苦みがあった。
「誰と親しいのか、誰を優先したのか、誰の頼みを聞いたのか。そうした些細なことが、知らぬ間に勝手に物事に対して意味を与えられる。やがて、本人の意図とは関係なく全く別の場所で敵味方の区別まで作られてしまう」
柳森は静かに息を吐いた。
能力を使えば、更なる利益を求める者が集まってくる。能力を使わなければ、協力を拒んだと受け取る者が現れる。
どちらを選んでも、誰かの思惑に巻き込まれる可能性は否めない。
それは、艦娘との絆を深めたいだけの彼にとって、煩わしい以外の何物にもならないだろう。
「ひとまず現状は理解したよ。で、これからの方針は?」
「そこは先生と色々と考えてはいるが、彼に関しては――まだ暫くは見守る方針で進めている」
九条の言葉に柳森が眉根を寄せる。
それを察したかのように彼女が補足の言葉を付け加えた。
「彼には、能力を使うかどうかを自分で決める権利がある。そこがブレては元も子もない」
「それはそうだね」
九条は慎重に言葉を紡いだ。
「誰に協力するのか、どこまで協力するのか。そもそも能力を使うこと自体を望むのか。その判断は他でもない彼自身が下すべきだ」
「それには私も賛成だよ」
あの夕食時の彼らの楽しそうな光景を見せられれば、誰だってそう思うに違いない。
「ただし、自由に使えばいいと完全に放任するわけにもいかない。本人が望んでいても、能力の影響を受ける艦娘に予期せぬ変化が起こる可能性はある。能力の仕組みも限界もまだ分かっていない以上、我々が見守る必要はある」
「能力の検証と、本人の意思の尊重。その両立が必要、か」
柳森の言葉に九条は深く頷く。
「幸いにも今現在、阿形は先生の警備府所属だ。先生のところなら、大本営も簡単には手を出せない。とはいえ長い目で見た場合、それでも味方は多い方が良い」
九条は執務机に積まれた報告書から数枚の用紙を手元に引き寄せる。
その表紙には、一人の人物の名前が大きく記されていた。
「まさか……
「まだ確定したわけではないが、できれば近いうちに顔合わせは済ませておきたい」
「なるほど……確かに彼女のところならあるいは――」
ぶつぶつと何かを呟く柳森に、九条の相好が僅かに和らぐ。どうやら彼女も遅まきながらエンジンが掛かってきたようだ
「優先されるべきは彼の意志だ。その障壁となるものは我々が可能な限り取り払う」
「露払い、か。いいね、私もかなりやる気が漲ってきたよ」
「それから、阿形の身辺を過剰に警戒させないこと。護衛を増やしたり露骨に行動を制限したりすれば、かえって本人に不安を与えてしまう。周囲に不審がられる危険もあるしな」
「彼を守るつもりが、彼を孤立させることになっては本末転倒だからね」
九条は静かに頷いた。
守るべきは能力か、軍の利益か、鎮守府の戦力か。それとも阿形誠二という一人の人間か。
その答えを曖昧にしたままではどれほど立派な対策を講じても、いずれ判断を誤ることになる。
「私たちは提督だ。艦娘を指揮し、警備府を運営し、戦果を求められる立場にある」
「そうだね」
「それでも、踏み越えてはならない道理はある。戦力を増やすことがいつだって正しいとは限らない。成果を上げることが何よりも優先されるべきだとも私は思わない」
九条は取り出した報告書の表紙に置いた手を静かに離した。
二人の間に、再び沈黙が降りた。
しかし今度の沈黙は、先ほどまでのものとは違っていた。驚愕も困惑も、ひとまず言葉にした。様々な危険性についても互いの認識を確かめ合った。
それでも問題が解決したわけではない。
むしろ話し合うほどに、彼を取り巻く歪な輪郭はより明瞭になっていく。
阿形誠二の能力はあまりにも特異だ。
艦娘の潜在能力を引き上げるという力。それはこれまで積み重ねてきた研究や訓練の常識を根底から揺るがす可能性を秘めている。
そしてその力を持つ人間は、自分がどれほど大きな価値を持つ存在なのかまだ十分に理解していない。
彼が望むのは、ただ艦娘のため。
艦娘たちの力になりたい。彼女たちが無事に帰ってこられるように手助けをしてやりたい。その程度の、ありふれた願いなのかもしれない。
だがこの世界ではそのありふれた願いさえ、時に残酷で危険なものへと簡単に変貌してしまう。
「……皮肉なものだね」
柳森がぽつりと呟いた。
「艦娘たちを守るために必要な力が、今度はその力を持つ本人を危険にさらしかねないなんて」
九条はすぐには答えなかった。
やがて、重々しく口を開く。
「だからこそ、私たちが先に動く必要があるんだ」
窓の外では雲が月を覆い始めていた。
白く輝いていた月明かりが失われ、執務室の隅に濃い影が落ちる。
九条は報告書を閉じた。
一見するとそれはただの紙束でしかない。しかしその中に記された事実はこれから先、幾人もの人間の思惑を呼び寄せることになるだろう。
彼女らがその力を何と呼ぶのか。
奇跡か、兵器か、あるいは少女に手を差し伸べる希望か。いずれにせよ守らなければならないモノなのは間違いない。
阿形誠二が内に秘める一筋の光を、いびつに歪んだこの世界が壊してしまうその前に。
二人はその報告書を公にすることなく、静かに席を立つ事にした。