風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


喧嘩を売られたら買う。それがゲヘナの流儀

 サオリがヒヨリを連れて戻ってから暫くして、比較的に被害が少ない部屋にミサキとアリウス分校の生徒達を運んだ小鳥は、マダムの件について2人を交えて話し合いの場を設けた。

 

 マダムにアツコを連れ去られ、サオリは強い怒りを抱いている。そんなサオリの心情を察しながらも、小鳥は努めて冷静に言葉を紡ぐ。

 

「先ずは、此処を襲撃された件についてですが、申し訳ありません。私はマダムという人物を甘くみていました」

 

 サオリ達を匿った事で、何らかのアプローチがあるとは思っていた。しかし、マダムは何の警告もなしに襲撃を仕掛けてきた。

 

 それが、小鳥の誤算だった。襲撃される事は想定していたが、それはあくまでも、取引に応じなかった時の最終手段として捉えていた。

 

 何より、匿ってから襲撃までのタイミングが早すぎる。まるで一部始終を監視していた別動隊が……いや、別動隊がいたのだろう。

 

 別動隊からの報告をマダムが受け、襲撃を指示した。そう考えるのが自然だ。

 

 しかもご丁寧に、黒服の協力者である小鳥とレンが家を留守にしているタイミングでだ。

 

 私の狙いはあくまで脱走した所有物の確保であり、断りもなく彼女達を匿い、協力者である黒服に連絡を怠った小鳥達にも非がある。そういう筋書きなのだろう。

 

 小鳥の謝罪の言葉に、サオリは首を横に振った。

 

「いや、小鳥が謝る事はない。私も同意見だ。マダムとはそういう人物という事を失念していた。責を問われるなら私の方だろう」

 

 そう呟きながら、怒りを鎮めようと深呼吸した。そんなサオリの様子を目にしながら、ヒヨリがおずおずと口を開く。

 

「あ、あの……私達は、これからどうなってしまうんでしょうか?」

 

 ヒヨリの問い掛けに、サオリが静かに答える。

 

「マダムの目的はアツコだ。連れ戻した以上、私達は用済みだ。また新しく部隊を編成して、私達を処分しに来るだろう」

 

「そんな……」

 

 サオリの言葉に、ヒヨリは悲嘆に暮れた。そんな彼女の姿に、サオリは奥歯を噛み締め、俯いた。

 

「ですが1つだけ、分からない事があります」

 

 そんな中、小鳥は襲撃を受けた時の状況を思い返した。襲撃班は、レンの神秘に干渉される事なく任務を達成した。レンは常に、時を司る神秘でマンションの周囲を警戒し、襲撃班が入り込む隙を与えなかった筈だ。

 

 しかし、実際に襲撃班はレンの神秘を掻い潜り、マンションを襲撃した。何かあると考えていいだろう。

 

「詳しい事は伏せますが、レンちゃんはマンションの周辺を警戒していて、何かあった際は直ぐに私に伝えるよう伝えていました。そうでなければ、戦力を分散するリスクは選びません」

 

「だが、襲撃は行われた。つまり、小鳥の力とは別のものを持つレンの力を無効化する何かがあったという事か」

 

 サオリがそう結論付けた時、レンの身体がビクリと震える。今回の事に責任を感じているのはレンも同様だ。

 

 自分が監視している中起きた襲撃。自分の神秘を無力化させる何かを、マダムが有しているとなると、自ずと答えは導き出せる。

 

「マダムは恐らく、私達の協力者から得たレンちゃんの情報を解析して、その力を妨害する事が出来たのでしょう」

 

 機械か、或いはアリウス分校の生徒達の身体を使って神秘を無力化する何かを生み出したのだろう。

 

「他にも、私の情報を持っている可能性もあります。とはいえ、それを兵器として実用化するのは難しい……と言うより、意味がありません」

 

 『死』の概念を武器に転用する意味は限りなく薄い。そもそも、マダム達はヘイローを破壊する爆弾という、『死』の概念と関連深い兵器を既に所有しているのだ。

 

 今更、それの精度を上げた所で余り意味があるとは思えない。

 

「最悪なのがマダムに私の力が通じない可能性がある事です。それに、私の力は使用回数に制限があります。それを把握しているとなると……」

 

「待ってくれ」

 

 小鳥の言葉を遮り、サオリが待ったをかける。彼女はその瞳に困惑の色を宿しながら口を開いた。

 

「小鳥、その話は、私達にして良かったのか?」

 

「その話って……あ〜」

 

 サオリが言わんとしている事を理解し、小鳥は気まずそうに視線を逸らした。そして、そのまま言葉を続ける。

 

「うーん……まぁ、そうですね。先程の話は失言でした。ですが、今更隠しておく必要もないでしょう」

 

 元々、サオリ達は小鳥の神秘を見ている。今更、他の秘密を知られた所で問題はない。

 

「私の力……正確には、私の身体に宿る神秘の事なのですが、『死』と『再生』……この2つの性質を兼ね備えています」

 

 エデン条約にて、小鳥の身体から顕現した鳥の化物が想起される。

 

 アレが放った銃弾のような攻撃は、アツコが使役していたユスティナ聖徒会の複製を文字通り消滅させ、被弾したアリウス分校の生徒達を戦闘不能にまで追い込んだ。

 

 あの時は、何が起こったのか理解出来ず、呆然とするしかなかったが、負傷した仲間の傷を癒した力の事もあり、小鳥が嘘を言っているとは思わなかった。

 

「一見すると強力な力ですが、その分デメリットもあります。それが、回数制限という事です」

 

 そこまで言い終えると、小鳥は自身の頭上にあるヘイローを指差し、話を続ける。

 

「私の神秘は、使用する度にヘイローが砕けます。以前は半分ほど欠けた状態でしたが、今は4分の1ほどを残すのみです」

 

「そう……だったのか」

 

 小鳥の言葉に、サオリは沈痛な面持ちで目を伏せた。そんなサオリを他所に、ヒヨリがおずおずと口を開く。

 

「で、でもそれって、全部使い切ったら……」

 

「まぁ……そうなるのでしょうね」

 

「そ、それじゃあ……」

 

 ヒヨリが顔面蒼白となる。ヘイローの消失は死を意味する。ミサキやアリウス分校の生徒達を治癒した際、神秘を使用したという事は、それだけ、自身の寿命を削ったようなものだ。

 

「ご安心下さい。あくまでも使い切った場合に限ります。私の身体は特殊でして、ヘイローだって、時間が経てば修復します。節度を守って使用すれば問題ありません」

 

「…………」

 

 サオリが安堵したように息を吐いた。しかし、その表情は暗く、その瞳には憂いの色が見える。

 

 そんなサオリに、小鳥は小さく咳払いをしてから、言葉を続けた。

 

「情報は共有していた方が選択肢が増えますからね。私に関しては兎も角です……問題はマダムです」

 

 小鳥はそこまで言うと、改めてサオリに問い掛ける。

 

「サオリさん、貴女はどうしたいですか?」

 

 その問いに意味はない。既に分かりきっているからだ。それでも、本人の口から直接聞く必要がある。

 

「私は、アツコを助けたい。このままでは、アツコの命はない。ならば、どんな事をしても助けたい」

 

 サオリは、真っ直ぐに小鳥の目を見ながら答えた。その瞳に宿るのは強い決意と覚悟。仲間を救いたいという、純粋な思いだ。

 

「……良いね」

 

 小鳥は小さく呟いた後、サオリの目を見ながら笑みを浮かべた。

 

「私も同じ気持ちです」

 

 小鳥は、サオリの覚悟に同調するように、静かに頷いた。

 

「私も、アツコさんを助けたいと思っています。ですが、その前にやるべき事があります」

 

「それは?」

 

 サオリが問い掛けると、小鳥は真剣な表情で答える。

 

「武器の調達です。私は兎も角、サオリさんやヒヨリさんの武器弾薬の補充をしなければ、何も出来ません」

 

「確かにそうだな」

 

 小鳥の言葉に、サオリが同意するように頷いた。そして、ヒヨリもまた、慌てた様子で口を開いた。

 

「あ、あの……私の銃は……」

 

「えぇ、覚えてますよ。私が壊しましたからね」

 

 その事はよく覚えている。何故、ヒヨリの事だけ鮮明に覚えているのかは不明だが、そうしなければいけないと、身体が動いていた事だけは、しっかりと覚えていた。

 

 ヒヨリとは、あの時初めて会ったのだが、もしかすると、知らない何処かで彼女と会っていたのかもしれない。

 

「ヒヨリさんもですが、サオリさんの武器も消耗が激しいです。救出作戦中に銃が破損して使用出来ない……なんて事になっては大変ですからね」

 

 小鳥の言葉に、サオリとヒヨリが頷いた。そして、そんな2人を見ながら、小鳥も小さく頷き、言葉を続けた。

 

「話は纏まりましたね。まずはサオリさんとヒヨリさんの武器の補充から……」

 

「待って」

 

 小鳥の言葉を部屋で寝ていた筈のミサキが遮った。

 

「私も……武器が欲しい」

 

「ですが貴女は……」

 

 ミサキの突然の申し出に、小鳥は戸惑った。神秘によって傷は癒したが、それでも、万全とは言い難い状態だ。

 

「私の事は良いから……アツコを助けるなら、頭数は必要でしょ?」

 

 ミサキはそう言いながら、サオリの方へと視線を向けた。置いていかないでくれ。私はまだやれる。そんなメッセージが込められた視線だ。

 

 ミサキの言葉に、サオリは暫く沈黙した後、静かに口を開いた。

 

「……分かった」

 

「サオリさん……良いんですか?」

 

「あぁ、だが、無理はするな。それが条件だ」

 

「……うん。了解」

 

 ミサキが小さく頷くと、サオリは立ち上がり、小鳥へと視線を向けた。

 

「小鳥、武器は何処に行けば手に入る?」

 

「……そうですね。此処から近くて種類が豊富な店でしたら……」

 

 ミサキが参加するなら、彼女が持つ武器を置いている店がいいだろう。記憶にある店の場所と店舗名を上げていくと、横からレンが口を挟んだ。

 

「それならよぉ、良い場所があるぜ」

 

 レンの言葉に、その場にいる全員の視線が彼女へと向く。レンは一瞬、ビクッと反応しながら話を続けた。

 

「此処から少し離れた場所に最近オープンした店でな、品揃えも豊富だから、欲しい物はそこで全て揃う。そこがお勧めだ」

 

 レンがそう説明し終えると、小鳥は顎に手を当てながら小さく唸った。最近オープンした店なら、自分が知らないのは仕方がない。というより、レンの神秘で店を見つけたと考えるのが妥当か。

 

「……ふむ、そうですね」

 

 レンのお勧めなら信用出来る。小鳥は小さく頷くと、口を開いた。

 

「なら、その店にしましょう」

 

 小鳥がそう言うと、サオリも小さく頷いて答えた。

 

「私も異論はない。ミサキも、それで良いな」

 

「うん。私も問題ない」

 

「はい。わ、私も賛成です。えへへ、漸く私も、皆さんのお役に立てそうです」

 

 3人が頷くのを確認してから、小鳥は改めてサオリに視線を向ける。

 

「それでは、武器の補充とアツコさん救出の為、先ずは店に向かいますが、レンちゃんは……」

 

「おぉ、今回の私はお荷物だ。黒服と連絡を取って、暫く保護して貰うぜ。勿論、怪我をした他の皆も含めてなぁ」

 

「……そうですね、私達の神秘を研究されている以上、何が起こるか分かりません。レンちゃんは安全な所で待機していて下さい」

 

「おぉ、でもなぁ、安心しろ。出来る範囲でよぉ。小鳥の事、支援するからなぁ」

 

「ありがとうございます。それでは、黒服がレンちゃんを預けてから作戦開始です」

 

 小鳥がそう宣言すると、サオリは頷きながら口を開いた。

 

「あぁ、分かった」

 

 そうして4人は武器の補充とアツコの救出作戦の為、レンの保護を黒服に頼んだ後、店へと向かった。




おまけ
レン:なぁ小鳥。店に行くのは良いけどよぉ。金はあんのかぁ?

小鳥:実はちょっと手持ちが不安で……マダムの喧嘩を買うと言った手前、黒服に頼むのは……。

レン:しょうがねえなぁ。ちょっと待っててな。

レン:お〜黒服かぁ? 私だぁ。お〜そだなぁ、小鳥も皆いっちまってよぉ、私1人なんだ。お〜保護してくれぇ〜。おめぇ〜んとこのよぉ、マダムってやつこえぇから、お〜急いでな〜。後、いっぱい買い物してぇからよぉ……お〜ありがとなぁ〜。

ピロリンッ♪

小鳥:え、何で私の所に振り込みが。

レン:まぁ、間違えたんだろうなぁ。そういうこった。

小鳥:あ〜そういうもの……なんですね。

レン:お〜まぁ、そうだなぁ。それと、黒服からは普段から沢山お小遣いもらってっから、私は大丈夫だかんなぁ。安心しろ〜。

小鳥:レンちゃん

レン:それとな、クロノスがよぉ全面的に協力してくれてっから、何かあったら時を止めて逃げるから安心しろ〜

小鳥:へぇ……クロノスからは何を要求されたんですか?

レン:お〜なんかなぁ、チーパオっつぅ服着て子猫のポーズだなんだぁってすれば頑張れるってよぉ。因みにチーパオってなんだぁ?

小鳥:そうですね。とても素敵な衣装なので、私も個人的に写真とか沢山撮りたいですしなんならその服を着たレンちゃんを抱き枕にしたいくらいですね。

レン:お〜分かった。そういうタイプの服なんだな……



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