風紀の狂犬   作:モノクロさん

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圧倒的力

 一方的な蹂躙劇の後、事もなさげにそう言い放つミカに、小鳥達は戦慄しながら思考を巡らせる。

 

 何故ここに?

 

 そんな疑問が頭を過る。小鳥の記憶では、アリウスの手引きをした主犯として、トリニティに幽閉されていると聞いていた。

 

 恐らく、サオリも小鳥と同じ情報を有しているのだろう。その表情は困惑を隠せずにいた。

 

 サオリと小鳥の戸惑う様子に、ミカが再び首を傾げる。

 

「あっ、もしかして、何で私が此処にいるって思っているのかな? それなら簡単だよ。貴女達に会いたくて、出てきちゃった⭐︎」

 

 檻から脱走して、此処まで来た。それも、自身の愛銃を所持している事から、没収されていた筈のそれを取りに行く余裕すらあったのだろう。先程の戦闘を見れば納得のいく話だが、ミカの表情を見た小鳥は、その瞳から流れてくる情報に思わず困惑した。

 

 小鳥が、ミカの瞳から感じ取ったのは、複数の感情が入り混じり過ぎて、基の感情が何だったのかすら判別出来ない程にグチャグチャになったものだった。

 

 トリニティで、一体何があった?

 

 そう思わざるを得ないレベルで、今のミカは……一言で言えば『錯乱』していた。

 

 何かに怯えている?

 

 それとも、怒りだろうか?

 

 何を考えてこの行動を起こしたのだろう?

 

 考えれば考える程に分からなくなるが、1つだけ分かるのは、今のミカは危険な状態にあるという事だった。

 

「……通路が閉じるまでは?」

 

「まだ時間がある。とてもじゃないけど、振り切る事は出来なさそう」

 

「時間に余裕があると思っていたが、此処にきて裏目に出たな」

 

「かといって、あの女と交戦するのは避けた方がよさそう。勝てる勝てない以前に、どちらに転んでも被害が大きくなる」

 

「む、無謀……ですかね? 上手く立ち回れば何とか……」

 

「やるにしても、距離が近過ぎる。それに、聖園 ミカ……彼女はティーパーティーとしては異様なほど、それこそ、正義実現委員会の委員長と同等の武力を持っている。乱戦に持ち込まれたら、それこそさっきのエリート兵みたいに……っ」

 

 ミサキの視線の先には、ミカによって意識を刈り取られてしまったアリウスの生徒達の成れの果て。訓練を受けたエリート集団を1人残らず戦闘不能にしたミカに捕まれば彼女達と同じ末路を辿るだろう。

 

「それに、此処で待ち伏せしていたという事は、彼女はアリウス自治区に繋がる暗号を……」

 

「あぁ、あの暗号ね。うん、あれくらいのものだったら直ぐに分かったよ⭐︎あ、もしかして、愚鈍な女って思われてたのかな? 集合場所とか、拠点の事も覚えているよ。こう見えて、クーデターを起こした張本人だからね」

 

 その時のやり取りを思い出したのだろう。アリウスの生徒達が向ける、感情に、何か察せるものがあったのか、苦笑まじりにミカが呟く。

 

「貴女達からすれば、バカで御し易い女って思ってたのかな? それは否定しないよ」

 

 ミカは、サオリ達に視線を向けると、そのままゆっくりと歩を進めた。その足取りはゆっくりだが、一歩ずつ確実に近付いてくる。

 

 肉食獣が獲物を捕捉した時のように、ゆっくりと、しかし、確実に仕留める為に、間合いを測っている。

 

 思わず、後退るサオリ達だったが、そんな彼女達に向かって、ミカの感情が揺らいだ。

 

「ねぇ、どんな人にだって、大切な人っているよね。私にもいたから分かるよ」

 

 感情が津波のように押し寄せてくる。

 それは、サオリ達に対する怒りと、憎しみの感情。そして、深い悲しみと絶望。

 

 その感情が何を意味しているのか、その一端に心当たりがある小鳥は、ミカに銃口を向けるべきか、一瞬だが、逡巡してしまった。

 

「貴女達が殺そうとした、セイアちゃんの事なんだけどさ……」

 

 彼女は人を怒らせる天才だった。

 

 何度グーパンが出そうになったか分からないくらいに。

 

 普段は嫌なヤツって、そう思っていた筈なのに、いざケガをしたら不安になるし、心配もする。

 

 そんな彼女が死んだと聞いた時、目の前が真っ暗になった。

 

 話すだけでイライラもしたし、そんな彼女が嫌いでもあった。それでも、大切な人に、かわりはなかったのだ。

 

 死んで欲しいわけではなかった。人殺しになるつもりもなかった。

 

 ……それなのに。

 

「私は言ったよね? ちょっと痛い目にって。それがなんで? 私がいつ、ヘイローを壊せって言ったかな?」

 

 結果的に、セイアは生きていた。それでも、彼女を殺そうとしたという事実は変わらない。

 

 自分もその一件に関わった立場だ。被害者ヅラをするつもりはない。

 

 ……それでも。

 

「私の大事なもの……ぜーんぶ、無くなっちゃった」

 

 学園も、友人も、宝物も、帰る場所も……

 

「だからさ……『スクワッド』の……特にサオリ。貴女達も同じ痛みを受けなきゃね。私が失った分だけ、貴女達も失ってよ。そうじゃないと……」

 

 気が付けば、ミカは間合いに入っていた。そしてその瞬間、ミカの姿が消え、サオリの懐まで肉薄していた。

 

「っ!!」

 

 咄嗟に後ろに跳躍するサオリだったが、その時には既に、ミカの拳が空気の壁を突き破り、サオリの腹部めがけて放たれていた。

 

「不公平でしょう?」

 

 回避は間に合わない。せめてもと歯を食いしばるサオリだったが、2人の間に割って入る影があった。

 

 小鳥である。

 

 ミカの拳は小鳥の腹部に深々と突き刺さり、その衝撃で小鳥は血反吐を吐きながら、吹き飛ばされた。

 

 幸いな事に、吹き飛ばされた衝撃は、サオリがクッションになって軽減されたが、それでも、2人を同時に易々と吹き飛ばすミカの膂力は計り知れない。

 

 サオリがクッションになった事で、衝撃を軽減できたものの、それでもダメージは小さくない。腹部に走る痛みを堪えながら立ち上がろうとするも、ガクンと膝をつく。

 

 内臓にダメージが……いや、それどころか、骨にまで衝撃が響いたのか、身体全体に力が入らない。

 

「小鳥っ!!」

 

「大丈夫です……ちょっと致命傷なだけですから……」

 

 銃弾程度では少し痛いくらいなのだが、ミカの拳は戦車の砲弾か、或いはエデン条約にてアリウスが使用した弾道ミサイルの凝縮版か……神秘によって直ぐに回復する筈の小鳥をもってしても、時間を要するだろう。

 

 これがサオリだったらと思うだけで、小鳥はゾッとしながら、回復に努めて、ゆっくりと立ち上がった。

 

 その様子を、ミカは不思議そうに眺めている。

 

「貴女……誰かな? マスク姿の無口な子……じゃないもんね」

 

「えぇ、そうでしょうね。貴女とは初めましてになるのでしょう」

 

 小鳥は、マスクを外して素顔を露にする。といっても、マスクを外した姿も、彼女が知る由もないのだが。

 

「初めまして、聖園 ミカさん。私は……不死川と申します。以後、お見知り置きを……」

 

 口の中に広がる鉄の味、それを飲み込んで、小鳥はミカの瞳を真っ直ぐ見つめて、そう答えた。

 




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