風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


VSミカ

 小鳥達がベアトリーチェと、そしてミカと対峙する少し前。

 

 ベアトリーチェに付き従うアリウスの生徒達が旧校舎へ急行する中、アリウスの自治区に侵入する人物がいた。

 

「……此処が、アリウスの自治区」

 

『お〜そだな〜こっから先はよぉ〜電波が通じ辛くなってっからなぁ〜ナビゲートの方法が変わっけどよぉ〜何とかなりそぉか〜?』

 

 端末越しに聞こえる、間延びした声が途切れ始める。外部との連絡を絶つ為の設備か、それに準じた機材を配置しているのだろう。

 

 それらを全て無力化するには時間がかかる上、その最中に接敵する恐れがある。

 

 下手なリスクを冒すより、このまま進む方がリスクは少ない。そう判断した侵入者の2人は、端末越しに此処までナビゲートしてくれた協力者に感謝の言葉を送る。

 

「……此処まで、案内してくれてありがとう」

 

『お〜良いって事よ〜アリウスの事は頼んだぜぇ〜それと、小鳥の事もなぁ〜』

 

「もちろん。後の事は任せて」

 

 そう言って通話を切り、端末をポケットの中にしまう。

 

 携帯越しとはいえ、まるで実際に現地を見ながらのような正確なナビだった。しかし彼女は、この後も自分達の事をサポートしてくれるとの事。

 

 その事に深く感謝しつつ、2人は旧校舎のある区画へと走り始めた。

 

 

 

 

 

「く、くそっ!! 離せっ!! 離せぇ!!」

 

 アリウスの生徒の悲鳴が響く。それを成した人物……ミカは、首根っこを片手で掴み、軽々と持ち上げた生徒の声量に、やや煩わしげに顔を歪めた。

 

「もぉ、煩いなぁ。今から離してあげるから、少し黙っててね⭐︎」

 

 そう言って、辺りを見渡した後、近くの建物の壁へと歩み寄ると、ミカは生徒の顔面を、壁に向かって勢い良く叩き付けた。

 

「ブフッ!!」

 

 ビルの壁にめり込み、そのままピクリとも動かないアリウスの生徒。周りにいた他の生徒達は、その凄惨な光景に言葉を失い、動きを止めた。

 

 ミカは動かなくなった生徒の首根っこから手を離すと、その生徒は力無くズルズルと壁から剥がれ落ち、そのまま地面に倒れ伏した。

 

 ミカは何事も無かったかのように、アリウスの生徒達へ歩みを進めながら、小鳥達を攫うために行動していた彼女達の排除を、淡々と行う。

 

「な、何なのよ……アンタは……」

 

 ミカの異常な行動に恐怖した1人が、震えた声で呟くが、ミカはその言葉を聞くと同時に、一瞬で距離を詰めると、狼狽するアリウスの生徒の腹部を思いっきり殴り付けた。

 

「ぶべぇ!!」

 

 そのまま吹き飛び、建物の壁に叩き付けられた生徒は、白目を剥いて気絶。その光景を見ていた他のアリウスの生徒達は、ユスティナ聖徒会の複製を前面に展開し、ミカと対峙する。

 

「み、皆!! 怯むなっ!! 相手はたった1人だ!!」

 

 1人の生徒が鼓舞すると、周りのアリウスの生徒達は武器を構えミカを囲むように陣形を展開しようとした。

 

 次の瞬間、ミサキのRLにより、ミカとアリウスの生徒達の間で爆発が起き、視界が遮られる形となった。

 

「っ!! しまった!!」

 

 ミカとアリウスの生徒達が爆炎で視界が遮られている間に、小鳥とサオリがアリウスの生徒達の中へと紛れ込む。

 

「なっ!!」

 

 突然の出来事に反応が遅れたアリウスの生徒……味方を鼓舞していた生徒が、小鳥が振り上げた銃床で顔面を殴り付けられる。

 

 そして、意識を刈り取られたアリウスの生徒から銃を奪い取ると、それをサオリに向かって投げ渡し、黒煙が立ち込める中、声色を変えて叫んだ。

 

「サオリ姐さん!! 今の内に逃げて下さい!!」

 

「っ!! すまない!! 助かる!!」

 

 小鳥の意図を汲み取り、敢えて話に乗った後、受け取った銃で混乱するアリウスの生徒達に向けて引き金を引いた。

 

 放たれた銃弾は、アリウスの生徒に被弾したものの、狙って撃った訳では無かった為、大したダメージを与える事は無かった。

 

 しかし、被弾したアリウスの生徒の声に被せるように、今度は別の声色で叫ぶ。

 

「くそっ!! 裏切り者だ!! 裏切り者がいるぞ!!」

 

「っ!!」

 

 その声によって、アリウスの生徒達は更に混乱した。この中に裏切り者がいる。そんな筈はないと頭の中で理解はしていても、普段から使い慣れ、聞き慣れた銃声を間違える筈がない。

 

 未だ黒煙で視界は定かではないが、サオリに逃げろと言った者がいた。そしてその直後に銃声が鳴り響き、仲間が撃たれた。

 

 元々、サオリはアリウスで育った仲間だ。彼女の事を慕っている者も少なくはない。例えマダムの命令であろうと、この瞬間であれば、魔が差してしまう事だって、あり得なくはないのだ。

 

 アリウスの生徒内で渦巻く疑惑の念、そのひと押しを加えるべく、小鳥は更に別の声色で決定的な一言を放った。

 

「いたぞ!! 裏切り者だ!! 目の前にいるぞ!! 撃てっ!! 撃てぇぇぇぇ!!」

 

 その言葉が、最後の引き金となり、アリウスの生徒達は、黒煙が薄れゆく中、視界に映った仲間を敵と誤認し、引き金を引いてしまった。

 

 次の瞬間、銃声が鳴り響く。敵と誤認して放たれた銃弾は、次々に同士討ちという形でアリウスの生徒達を襲い、1人、また1人と地面に倒れていく。

 

 その隙間を縫うように、駆け抜けるサオリに、ミサキとヒヨリが追随する。

 

「し、仕方がなかったとはいえ、酷い有様ですね」

 

「本当に、此処の嫌な所を正確につかれた気分」

 

 アリウスは決して、結束力が弱いというわけではない。しかし、マダムの教育方針が、ある種の洗脳に近い事もあり、洗脳されやすい人物の特徴として『相手が言っている事が正しい』と思っている人や『自分は間違っているかもしれない』と考える人が当てはまる。

 

 小鳥が態々声色を変え、サオリを助けようとする同胞を演じ、サオリがそれに答える。

 

 それだけで、アリウスの生徒達は、私達の中に裏切り者がいるかもしれないという疑心暗鬼に囚われてしまったのだ。

 

 そして、実際にアリウスの生徒達が所持する銃で攻撃し、目の前に裏切り者がいるぞと黒煙が晴れ始めて、最初に映った人物が、果たして裏切り者ではないと、誰が言えるだろうか?

 

 後は1人。たった1人でも、疑心暗鬼の果てに引き金を引けば良い。

 

 その引き金をきっかけに、負の連鎖がアリウスの生徒達を襲う。

 

 味方が同士討ちで倒れ、撃ち合いに巻き込まれて負傷した者や、疑心暗鬼の果てに、その場に蹲る者が現れた。

 

 中には、サオリ達を排除せんと銃口を向けようとした者もいたが、彼女が引き金を引くよりも早く……

 

「すまない!! 助かった!! 合流場所はエリア5だ!!」

 

「っ!! くそ、何を言って「こいつも裏切り者だ!!」……ま、待て!! 私は違……っ!!」

 

 真偽を確認する事もなく、勝手に自爆し始める。

 

 今回の作戦は、前もって考えられたものではない。あくまでも、マダムと……ベアトリーチェとの遣り取りと、これまでのアリウス分校の話を聞いていた小鳥が、即興で考えついたものだ。

 

 それを瞬時に理解し、機転を効かせるサオリもまた、流石と言う他ないだろう。

 

 少なくともこれで、アリウスの脅威は一段と下がった。

 

 残された問題は、やはりミカだろう。

 

 混乱するアリウスの生徒達を気に止めるでもなく、サオリ達の逃げる姿を見据えながら、銃口を向け、引き金に指をかけた。

 

 ミカの意識がサオリ達に向けられる。その僅かな隙を狙い、アリウスの生徒から奪った銃を振りかぶり、ミカの側頭部を狙い、殴り付けた。

 

 意識を刈り取る為の打撃ではなく、一時的にでも身動きが取れなくなる程度のダメージが入れば僥倖と思っての一撃は、奪った銃が破損するという形で終わった。

 

「っ!!」

 

「いったいなぁ⭐︎もぉ〜」

 

 エリート兵の時もそうだったが、どれだけ身体が頑丈なのだ?

 

 少なくとも、一般の生徒であれば、この一撃で意識を刈り取る事も可能な威力だった筈だ。

 

 現に、頭の側面を殴打した部分は僅かに赤くなっているが、それ以外はこれといったダメージを受けた様子は無い。

 

 しかし、今の一撃が功を奏したようで、ミカの注意はサオリ達から小鳥に向けられた。

 

「君かぁ⭐︎確かゲヘナの……お腹大丈夫? まぁ、ゲヘナだから大丈夫か♪」

 

 ニッコリと笑いながら、ミカは拳を握り締め、大振りで小鳥に殴り掛かる。

 

 風を切る音と共に繰り出された拳を回避するも、頬を撫でる風圧だけで、小鳥の頬に一筋の傷が入った。

 

「惜しい惜しい⭐︎後ちょっとでミンチに出来たのに」

 

「……例えではなく、本当にミンチになる所でしたよ」

 

 接近戦は危険だ。追撃が来る前に後ろに飛び退き、愛銃を構えるも、ミカは気にした様子もなく、小鳥の動きに感心していた。

 

「へぇ、お腹の方は大丈夫みたいだね⭐︎」

 

「はい、ゆっくりと休む時間がありましたから、体調は万全ですよ」

 

「あはは⭐︎面白い事言うね。本当は良くて7割程度じゃないかな? 気持ちで誤魔化しても、身体は正直なんだよ」

 

 ミカは笑いながら、挑発する様に言い放つ。ミカの言葉に小鳥は何も答えなかったが、その沈黙を肯定と受け取ったのだろう。ミカは満足そうに頷いた。

 

「まぁ、それでも動けるだけ凄いと思うよ。うん⭐︎凄い凄い……凄いけど」

 

 次の瞬間、ミカは一瞬で小鳥との距離を詰めた。

 

「っ!!」

 

「それだけじゃあ、私には勝てないよ」

 

 そのまま繰り出された拳は、咄嗟にガードした腕の骨を砕きつつ、小鳥を建物の壁に叩き付けた。

 

「あぐ……っ!!」

 

 肺の中の空気が吐き出され、苦悶の表情を浮かべる小鳥。ミカは追撃するべく拳を引き戻すと、ガードが崩れた小鳥に向けて一撃を放つ。

 

「っ!!」

 

 しかし、ミカの拳は空を切った。真横に飛び退き、攻撃を躱した小鳥はそのままサオリ達の向かった方角へと駆け出したのだ。

 

 負傷はしたが、時間は稼げた。もとより、ミカと対峙して五体満足でいられる事は難しいと踏んでいたので、このダメージは想定内だ。

 

 砕けた骨は……やはり、傷の治りは遅いが、少しずつ修復している。痛みはあるが、これも想定内だ。

 

 対してミカは、小鳥を追おうとした矢先に、ユスティナの亡霊達が立ちはだかり、足を止める。

 

「もぉ、邪魔だなぁ⭐︎」

 

 立ちはだかるユスティナの亡霊達を前に、やれやれといった様子でため息をつく。

 

「まぁ、良っか⭐︎」

 

 そして、次の瞬間にはユスティナの亡霊達を、まるで紙屑の様に吹き飛ばしていた。

 

 一瞬にして、ユスティナの亡霊達が消滅し、そのままサオリ達を追い掛けようとしたが、先程からアリウスの生徒達の流れ弾が飛んでくる。

 

「あ〜もう、邪魔だって言ってるのに……もぉ」

 

 一難去ってまた一難とはこの事なのだろう。ミカは歯止めの効かなくなったアリウスの生徒達に苛立ちを隠せず、思わず引き金を引こうかと考えた。

 

 しかし、あれだけの数を相手にするとなると、予備の弾倉も含めて、サオリ達の追跡が困難になると考え、仕方がないと、小鳥が叩き付けられた建物の壁の一部を素手で削り取り、塊を細かく握り潰して粉状にした。

 

 そしてそれを、アリウスの生徒達に向けて勢いよく投げつける。

 

 粉状の破片が散弾のように飛び散り、地面ごとアリウスの生徒達を吹き飛ばす。その威力は、アリウスの生徒達ごと穿たれた地面が証明していた。

 

 悲鳴と呻き声が辺りに響き渡る。運良く難を逃れたアリウスの生徒達は、ミカに向かって恐怖の眼差しを向けていた。

 

 しかし、ミカは止まらない。

 

 再び壁を削り取って細かく砕くと、運良く射線上から逸れていたアリウスの生徒達に向けて、投げ付ける。

 

 壁や遮蔽物に隠れて尚、細かな破片は全てを削り取り、アリウスの生徒達の兵力と戦意を確実に削ぎ落としていく。

 

 先程まで裏切り者を探し出す為に無駄な争いを続けていた彼女達だが、ミカの敵意に当てられ、戦意が完全に折れていた。

 

 それでもミカは、立っているアリウスの生徒を1人残さず潰していく。

 

 そして、周囲が更地になった頃には、ミカ以外、誰1人として立っている者はいなかった。

 

「うんうん⭐︎これで少しは静かになったかな?」

 

 ミカは満足げに頷くと、サオリ達の後を追い始めた。




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