風紀の狂犬   作:モノクロさん

114 / 166
誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


舞い降りるは尽力の翼

 サオリ達から少し遅れて、小鳥は旧校舎に到着した小鳥は入り口に入ると同時に扉を閉めた。

 

 ミカは追ってきていない。途中、アリウスの生徒達との小競り合いに巻き込まれて、此処に来るまでに暫くは時間がかかるだろう。それまでに地下の回廊を発見し、ベアトリーチェに接触する。

 

 小鳥は、ミカによって骨を砕かれた腕を軽く動かし、支障がないかを確認する。旧校舎に来るまでに、骨の方は何とかなった。動きに関しても、ある程度は問題なく機能するだろう。ただし、あまり無理をする事は出来ないが……。

 

 そう考えながらも、小鳥は手短にある放置された机や椅子で扉を封鎖し、バリケードを作る中、先に旧校舎に潜入していたサオリが戻ってきた。

 

 サオリは小鳥に気付くと、安堵の表情を浮かべた。

 

「無事か、小鳥」

 

「えぇ、とはいえ、五体満足とはいきませんでしたが……」

 

 言って、治りかけの腕をプラプラとふり、無事をアピールする。

 

「また無茶をしたな。それに、ミカを相手にバリケードは……」

 

「あまり意味を為さないでしょうね。ですが、バリケードを破った後、足場に残骸があれば、障害物として機能する筈です」

 

 サオリは小鳥の言葉に納得し、小鳥がミカを引き付けている間にヒヨリが地下の回廊を発見した事を告げる。

 

 そこを利用すれば、バシリカまで一直線。ベアトリーチェと対峙する事になる。

 

 本来であれば、今直ぐにでも向かいたい所だが、ミカがサオリ達を狙っている以上、このまま向かうのは得策ではない。

 

 旧校舎で迎え撃つか。それとも、地下回廊を崩して足止めをするか……。

 

 和解というのは不可能だろう。

 

 そもそも、彼女の今の原動力はアリウススクワッドに対する復讐心。しかし、彼女の表情や言動からは、それ以外の様々な感情が入り混じり、収拾がつかなくなっている。

 

 小鳥が後天的に習得した感情を読み解く能力をもってしても、グチャグチャになった感情を正確に把握する事は出来ない。

 

 寧ろ、情報量が多くなりすぎて、逆に読み辛くなってしまう程に、感情の波が激しかった。

 

 今の状況で対話は不可能だろう。敵と認識されている以上、相対すれば、確実に交戦となる。

 

 彼女は、一体何を望み、何の為に復讐を果たそうとしているのか?

 

 その答えは、彼女自身にしか分からない。そして、小鳥達にも時間は残されていない。

 

 ミサキとヒヨリが、地下回廊内の安全を確保し、サオリの元に戻って来る。

 

 彼女達の意見も聞こうと思ったが、2人は……特にミサキの方は、この辺りで決着をつけた方がいいと提案した。

 

 ヒヨリも、アツコの救出の際に横槍が入るとしたら、一番に狙われるのが後方支援である自分と分かっているのか、此処で抑えた方が良いと賛同。サオリも同意見らしく、多数決で此処で迎え撃つ事となった。

 

「ミサキさん。残弾は後何発ですか?」

 

「3……出来れば1〜2発は温存しときたい」

 

「此処で1、最悪地下回廊で1……それが限界ですね」

 

 ミカを殴打して破損したアリウスの生徒が所持していた武器が手元に残っていたらと、失敗したと後悔しつつ、小鳥は銃に弾を込め、サオリとミサキも武器を構える。

 

「ミサキの攻撃の後に私と小鳥が前に出る。ミサキとヒヨリは私達を支援しつつ後退して地下回廊を目指してくれ」

 

 サオリが作戦を指示し、皆が頷く。

 

 照準は旧校舎の入り口。バリケードを張り巡らせた玄関へと狙いを定める。

 

 辺りが静寂に包まれ、僅かな物音ですら響いて聴こえる。サオリ達の息遣い。姿勢を維持する為に、僅かに軋む床の音。そして、ミカの足音……。

 

 その足音が、旧校舎に向かって近づいて来る。その音を聴いていたサオリは、引き金に掛けてた指に力を入れる。そして……。

 

 足音は歩みから一変して地面を強く蹴る音に変わり、旧校舎の入り口……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではなく、入り口の真横の壁へと、ミカは速度を落とす事なく突撃してきた。

 

 『ボゴォン!!』と大きな音を立てて旧校舎の壁が砕け、瓦礫が飛び散る。

 

 入口ではなく、壁を突き破ってきたミカの眼光が入り口に向かって銃を構えるサオリ達に向けられ、踏み込んだ足を軸に方向を変え、真っ直ぐに此方へと突っ込んできた。

 

「なっ!!」

 

「うそっ!!」

 

「そ、そんなっ!!」

 

「っ!!」

 

 サオリ達の反応は様々だ。驚愕や絶望を表す者もいれば、まさかといった表情の者もいる。

 

 普通に考えれば、入り口から旧校舎内に入るのが当たり前であり、壁を突き破って来るとは、誰も考えつかない。

 

 しかし、入り口が閉じていた事から、何かしら仕掛けて来るのだろうと咄嗟に判断したミカは、あろう事か、己の肉体を壁にぶつける事で壁を突き破り、瞬時に中の状況を把握。

 

 そして、入り口に向かって銃口を向けるサオリ達を視認したミカは、真っ直ぐにサオリ達へと肉薄したのだった。

 

 最初に狙われたのはミサキだった。

 

 彼女の持つ武器は、他のメンバーの誰よりも火力という点では群を抜いている。此処で迎え撃つ事が失敗しても、地下回廊まで撤退し、有無を言わさず火力で道を崩せば、時間を稼ぐ事が出来る。

 

 此方の狙いが読まれている。此処でミサキを失うわけにはいかない。咄嗟に反応出来たのはサオリと小鳥だった。

 

 瞬時に銃口を向け直し、引き金を引くサオリと、既に拳を振り抜こうとしているミカに体当たりし、体勢を崩そうとする小鳥。

 

 しかしミカは放たれた銃弾を気にも止めず、瞬き一つすらせずにいた。そして、小鳥のそれも、彼女の重心を僅かにずらす程度に留まり、ミカの拳は、ミサイルコンテナへと直撃。

 

 誘爆に巻き込まれる可能性を恐れたミサキが、咄嗟に手放し、事なきを得たが、吹き飛ばされたミサキのRLは遥か後方で誘爆し、爆発した。

 

 そして、一拍遅れて今度はヒヨリへと狙いを切り替え、振り抜いた拳に力を込める。

 

 サオリは咄嗟に射撃を止め、ヒヨリを突き飛ばしてミカの拳から、紙一重で回避させる事に成功。

 

 しかし、この段階で、連携を完全に崩されてしまった。これ以上の追撃はさせまいと、試みるも、ミカを抑え込もうとした小鳥は、片手で動きを封じられ、そのまま投げ飛ばされ、壁に激突。

 

 サオリも、ミカに銃口を向けられ、真横に回避するも、その隙にミカはサオリの懐に飛び込んだ。

 

 そして……。

 

「これで、お終いだね⭐︎」

 

「っ!!」

 

 ミカの拳が、サオリの胸へと突き立てられ、拳が深々とめり込んだ。

 

 骨が砕かれる音と内臓が破裂する異音が響き渡る。

 

 次の瞬間にはミカの拳は引き抜かれ、サオリの身体は力無く地面に倒れそうになった。

 

「サオリさんっ!!」

 

 迷う暇は無かった。ヘイローが砕ける音と共に、小鳥は銃弾を装填しなおすと、銃口をミカではなく、サオリに向かって引き金を引いていた。

 

 放たれた銃弾は、サオリの身体を穿ち、それを見たミカは首を傾げる。

 

「酷い事するね⭐︎仲間じゃなかったのかな? それとも、ゲヘナではこれが……」

 

「私が時間を稼ぎます!! 足止めします!! 皆は早く地下回廊へ向かって下さい!!」

 

 小鳥の必死の叫びに……膝を突きかけたサオリは踏み止まり、血反吐を吐きながらミカに背を向けて走り出した。

 

「えっ!! うそ……なんで動けるの?」

 

 サオリが立ち上がり、走り出したのを見てミカは驚愕し、その隙を突くように、ヒヨリとミサキがサオリの後を追う。

 

 流石のミカも、目の前で起こった不思議な現象に、サオリ達の後を追おうとはせず、立ち尽くしていた。

 

 何故動けた?

 

 確かに胸骨が砕ける感覚と、その周囲の内臓に深刻なダメージが及ぶような手応えはあった。それなのに、何故?

 

 先程の小鳥が放った銃弾。あれはもしや、彼女の傷を癒す効果でもあったというのだろうか?

 

 そんな、ゲームの世界にあるような現象を引き起こす武器など、聞いた事がない。

 

 視線が……いや、標的がサオリから小鳥へと切り替わる。

 

 内臓のダメージに骨が砕けたダメージも、ある程度回復している。いや、これを回復と呼ぶには、あまりにも異常だ。まるで、撃たれる前に戻ったような感覚。

 

 どうやら、小鳥が放った銃弾には何かしらの効果がある事は分かった。そしてミカは理解した。

 

 先に小鳥を始末しなければ、サオリ達に復讐する事もままならないと。狙いを小鳥へと切り替え、ミカが走り出す。それと同時に、サオリ達の姿が見えなくなったのを確認した小鳥は、彼女を迎え打つべく、銃口をミカに向けた。

 

 ミカが距離を詰める速度に合わせ、小鳥は後退しつつ銃弾を放つも、ミカは怯まず、寧ろ好機とみなして速度を上げた。

 

 近接戦を主体としていた小鳥にとって、自ら距離を取る日が来るとは、夢にも思わなかった。しかし、時間を稼ぐと言った以上、少しでも長い時間、ミカを引き付ける必要があった。

 

 付かず離れず。言うは易いが、その難易度は計り知れない。

 

 逃げてばかりではダメだ。時折反撃を試みるも、その度にミカは上手く切り返してカウンターを繰り出し、小鳥の集中力を削り取る。

 

 此方の集中力が切れ、一撃でも受ければ負ける。小鳥は、此処が正念場と覚悟を決めていた。対してミカは、中々決め手に欠けているのか、痺れを切らしたかのように大振りの一撃を繰り出す。

 

 速度の乗った一撃だ。しかし、大振りなそれを躱す事は十分に可能。

 

 回避と同時に、小鳥の背後にあった壁に、ミカの拳が深々と突き刺さる。

 

 拳を壁から抜くまでの間、僅かながら時間が生まれる。この隙に、距離を取らせて貰おうと後ろに下がった瞬間、小鳥はミカの口角が釣り上がったのを見逃さなかった。

 

(しまった!!) 

 

 そう思った時には、既に手遅れだった。ミカは壁から拳を引き抜くと同時に、指で壁を削り取り、細かな破片を握りしめ、それを小鳥に向かって投げつけたのだ。

 

 散弾のように細かな破片が小鳥の身体を襲い、皮膚を突き破って肉を抉る。

 

 咄嗟の事に反応出来なかった小鳥は、破片が身体中に突き刺さり、鮮血が弾け飛ぶ感覚に、一瞬の油断が招いた失態であると唇を噛みしめる。

 

 致命傷では無いものの、出血が酷い。このまま放置すればまともに動く事すら……。

 

 いや、それすら考える間も無く、ミカの追撃が小鳥を襲っていた。

 

 一撃一撃は今までと比べて弱いものの、顔面と胸、腹部の至る所に拳を叩き込まれ、骨や内臓にダメージが蓄積される。

 

 一箇所ではなく、複数の箇所にダメージを与える事で、異常な回復力を分散させ、小鳥をジワジワと追い詰めていく。

 

 もしもミカの狙いが、最初からコレだったとしたら……今の一撃で勝負は決まっていた。

 

 為す術なく壁に叩き付けられ、崩れ落ちそうになった小鳥の身体を、ミカが片手で首を抑えて持ち上げる。

 

 意識が朦朧とする。足腰に力が入らない。それでも、銃だけは握りしめていた自分に苦笑を浮かべつつ、小鳥はせめてもの抵抗とばかりに引き金を引いた。

 

 銃口はミカには向けられていない。従って、銃弾は彼女に被弾する事もない。本当の意味で無駄な抵抗だ。

 

 それでも、少しでもミカの意識が此方に向くようにと、小鳥は引き金を絞った。

 

「凄いね⭐︎此処までしぶといなんて、ゲヘナって本当にゴキブリ並の生命力だね」

 

 ミカは関心したように小鳥に賞賛を送る。しかし、小鳥の首に添えられた手に力が込められると、次第に呼吸が困難となる。

 

「その回復力も、サオリの傷を直した不思議な力も、それが何かは私には分からないけど、貴女がいたら、邪魔になる」

 

 ミシリと、小鳥の首の骨が軋む。ミカはサオリを仕留め損なった事に対して、少し苛立っているようだった。その苛立ちが、小鳥に向けられる。

 

「でも、いくら傷の治りが早いからって、此処を潰されたら流石に動けなくなるよね⭐︎」

 

 ミカが小鳥の首の骨を折るべく力を込める。万事休すだ。せめてサオリ達が、アツコを無事に救出出来れば……。

 

 サオリ達が無事に事を成す事を祈り、目を閉じた刹那。

 

 懐かしくも耳心地の良い銃声が、旧校舎内に鳴り響いた。

 

 そして、小鳥の首を絞めていたミカの腕から解放され、支えを失った小鳥は床に倒れ込む。

 

 咳き込みながらも、銃声が聴こえた方向に視線を向け、そして目を見開いた。

 

「……そんな……なんで?」

 

 体躯にそぐわぬMGを構え、凛とした佇まいでコツコツと足音を立てながら近付いてくる。

 

「……久し振りね。小鳥」

 

 忘れる筈がない。小鳥にとって、心の支えであり、彼女がいたからこそ、今の自分が此処にいるのだから。

 

「酷い怪我。また無茶をしたのね」

 

 彼女は……空崎 ヒナは、小鳥とミカの間に立ち塞がる。

 

 小鳥を守るように翼を広げ、ミカを睨みつけた。

 

「後の事は私に任せて。小鳥……貴女は貴女のやるべき事があるんでしょ?」




感想ありがとうございます。
凄く励みになっています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。