風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


聖女バルバラ

 壁に叩き付けられ、肺の中の酸素が全て吐き出される中、ミカの拳がヒナの胸を捉えた。

 

 衝撃の逃げ場はなく、ヒナの体内を蹂躙したその衝撃の余波は、背合わせとなった壁に大きな亀裂を刻み、ガラガラと音を立てながら壁が崩れ、2人に瓦礫が降り注いだ。

 

 一瞬の静寂。しかし、音を立てながら瓦礫の山からヒナは這い出ると、口から血反吐を吐きながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ゲホッ!! ゲホッ!!」

 

 口元に手を当てながら、何度も咳き込み、その度に血反吐を吐き出す。内臓の損傷が激しい。だが、その眼差しに宿る眼光は衰える事を知らない。

 

 対して、少し遅れて瓦礫から這い出たミカは膝をついたまま起き上る事が出来ずにいる。その姿を見て、ヒナは息も絶え絶えに言葉を漏らした。

 

「ゲホッ……ゴホッ……もう、終わりかしら?」

 

 ヒナはミカを見据えながらそう問い掛ける。

 

「まだ……っ!!」

 

 ミカは歯を食い縛って立ち上がろうとするも、力が入らない。

 

 彼女もまた、ヒナと同様に身体はボロボロであり、身体はおろか、内臓にも大きなダメージを受けている。その為、受けたダメージの蓄積で意識こそあったが、身体の反応は鈍くなっていたのだ。

 

 それでも、ミカは立ち上がろうとする。ボロボロの手を握りしめながら、顔を上げ、ヒナを睨み付けた。

 

「私は……っ」

 

 苦しい息の中、ミカが絞り出すように言葉を紡ぎ、そして……。

 

「……っ」

 

 ガクンと、足腰から力が抜け、ミカは膝から崩れ落ちた。

 

 意識はある。しかし、これ以上動けないミカに、ヒナは静かに目を閉じ、漸く一息ついた。

 

 最後に受けた一撃。その一撃のダメージが想像以上に重く、そして大きかった。少しでも気を抜けば、そのまま意識を失ってしまいそうな位に身体が重い。

 

 らしくない事をした事は自覚している。普段ならば、間違いなくしなかったであろう行動。不良生徒が相手ならば、このような回りくどい事をせず、一方的な暴力で叩き伏せていただろう。しかし、ミカは違う。

 

 彼女は贖罪を求めていた。救済を求めていた。己の罪を理解しながら、それでも受け入れる事が出来ず、しかし自分自身を許す事も出来ず、様々な感情が入り乱れ、そして壊れてしまった。

 

 そんな彼女を、本当の意味で救う事が出来るのは、ゲヘナに所属する自分では不可能だろう。

 

 彼女にとって、本当の意味で救済が出来るとしたら、別の立場の人物でなければならない。

 

 今回の事件のきっかけとなった人物か、もしくは、大人であるシャーレの先生か。

 

 小鳥の時のように、救う事は出来なかった。何故なら小鳥は、他の誰でもない、ヒナに救済を求めたからだ。

 

 求めた人物が目の前にいた。それが偶々自分だっただけの事。

 

 だが、ミカに関しては違う。彼女が救いを求めるのは自分ではない。それが分かっている以上、自分に出来る事は、暴走する彼女を受け入れる事だけだった。

 

 小鳥やサオリであれば、一撃で行動不能に至らしめるであろう拳を、ヒナは敢えて受けた。

 

 指一本動かすだけで、息をするだけでも全身に激痛が走る。口の中は常に鉄の香りが充満し、折れた鼻を無理矢理元の位置に戻しはしたが、折れた箇所が未だに痛み、口でしか酸素を取り込む事が出来ない状態だ。

 

 それでも、ミカの拳を受けた事に後悔はない。

 

 鉛のように重たい足を無理矢理動かし、引き摺るように歩き出す。ミカは、そんなヒナを呆然と見つめていた。そして……。

 

「なんで……?」

 

 そう、思わず呟いた。

 

「なんでよ……っ」

 

 ボロボロと涙を零すミカ。ヒナは、そんなミカにゆっくりと歩み寄った。

 

「なんで……っ!! なんでよっ!! 私は……っ!!」

 

「……ごめんなさい。貴女の事情は、なんとなくではあるけど理解しているわ。それでも、私は小鳥の方が大事なの」

 

「っ…………うぅ……」

 

 ヒナの言葉に、ミカは嗚咽を漏らしながら項垂れる。

 

 今の自分の感情を吐露すればどれだけ楽か。それを分かっていながら、それを口にする事がないと言う事は、やはり、ミカにとって自分はその対象ではなかったのだろう。

 

 ヒナは、ミカに手を差し伸べる事なく、そのまま彼女の横を通り過ぎる。そして、後の事は先生に任せようと、手放したMGを拾おうとしたその時……

 

 地響きと共に、パラパラと天井から土埃が降り注いだ。

 

 何かが近付いて来ている。ヒナはMGを手に取り、気配の先を見据えて警戒を強めた。

 

 対して、気配の元であるそれは、ゆったりとした歩調で、ヒナ達の前に、悠然とした立ち振る舞いで姿を現した。

 

 全身ボンテージ姿に拘束具を纏った何か。一見すると、ユスティナ聖徒会の複製の上位互換を思わせる雰囲気に、ヒナは警戒心をより一層強めた。

 

 両手に握られた銃火器は航空機関砲と思わしき形状をしており、その火力はヒナの持つMGを凌駕する代物だろう。

 

 もしも、それらを十全に扱う事が出来るのだとしたら、彼女の脅威は計り知れない。

 

 恐らく、アリウスにとっての切り札である事は間違い無いだろう。

 

 目的は恐らく、小鳥の援軍の妨害とシャーレの先生に危害を加える事。今まで、自分の我儘で傍観に徹して貰ったが、それも此処までのようだ。

 

 物陰で見守っていてくれた先生が姿を現す。敵の持つ武器を考えれば、遮蔽物は意味を為さないだろう。

 

 ならば、先生は自分の後ろにいるべきだ。ヒナは、今まで傍観に徹してくれていた先生に向き直ると、僅かに口元を緩めながら、感謝の言葉を告げた。

 

「先生。私の我儘に付き合ってくれてありがとう」

 

「生徒を見守るのも、先生の役目だからね。でも、流石に驚いたよ」

 

「それは……ごめんなさい」

 

「いや、いいんだ。ヒナの意外な一面を見れて良かったよ。それに……」

 

 そう言って、先生は視線をミカへと向けた。

 

「ミカの事は任せて」

 

「えぇ、後の事はお願い。私は、目の前の敵に集中するわ」

 

 先生の言葉に、ヒナは頷いて返答し、改めて敵を見据える。

 

 敵は強く、そしてその実力は未知数だ。それでも、退くつもりはない。

 

 ユスティナ聖徒会の複製……バルバラの背後から、無数の気配が増え始める。

 

 彼女に率いられしユスティナ聖徒会の複製の大軍が列を成し、ヒナ達の前に立ち塞がる。

 

 そして、ユスティナ聖徒会の複製達は、一斉にその銃口をヒナに向けた。

 

 対するヒナも、ボロボロとなった翼を広げ、彼女達を迎え撃つべく、MGの引き金に指を掛けた。




おまけ
多忙でシナシナシロモップ

先生に呼ばれてシャーレへ

フワフワシロモップ

黒服から電話&レンからSOS&先生からのお願い

頼られた!!

ゲヘナサイキョウツヨツヨツヤツヤモフモフシロモップ

超ド級のシロモップにミカが勝てる筈もなく……という結果でした。
下書きの段階で、ヒナは5.6回やられてますが、最後の1回で大勝利です。


感想ありがとうございます。
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