風紀の狂犬   作:モノクロさん

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狂犬は穏便に収めたい

「ふへぇ、校則違反者逮捕の為に一個中隊でありますか」

 

『うん、本当だったら小鳥ちゃんも参加して欲しかったけど、今、遠出してるんでしょ?』

 

「ですねぇ、大変申し訳ないであります。ちょっと野暮用が出来てしまって、もう少ししたら戻るであります」

 

『了解です。それじゃあ、私もそろそろ行かなくちゃだから、自分探しの旅、楽しんできてね』

 

「はいはーい、ありがとうございまーす」

 

 風紀委員の子とのやり取りを終え、電話を切る。

 

 自分がいない間に、随分と大掛かりな事を……というやり取りから数日。小鳥は眼前に広がる砂漠に埋もれた街々を見渡していた。

 

 私服姿に身を包み、武器はキャリーケースに仕舞い込み、手には観光案内の雑誌を一冊。

 

 何処からどうみても、アビドス観光に来た一般生徒にしか見えないだろう。

 

 これなら、シャーレの先生に接触したとしても、身分を明かさない限り、何処の学園の所属か分からない筈だ。

 

 問題があるとすれば、アビドスについてから早々に道に迷い、数日野宿をした事くらいか。

 

「さて、そろそろ目的地について欲しいのですがねぇ」

 

 砂漠化の影響で、辺りは砂だらけ。植物と言えば、背の低い雑草が申し訳程度に生えるだけ。

 

 長い道のりをひたすら歩くが、人の気配が殆どない。

 

 情報通り、かつての栄光は砂に埋もれ、今は衰退の一途を辿っているようだ。

 

「あっ、あれですね。あれですかね。あれであってほしいのですがねぇ」

 

 暫く歩き続けた小鳥の視界に、アビドス高等学校が遠目に見える。かつて生徒で賑わっていた学校は、今や見る影もない程に寂れてしまっている。建物は周りの建物と同様、砂にまみれて、学校として機能しているか怪しいレベルだ。

 

(取り敢えず、目的地は確認できましたし、一旦休憩しますか)

 

 アビドスの現状を確認出来ただけでも、大きな収穫だ。

 

 此処に先生がいる。今直ぐにでも会いたい気持ちを抑え、一度休憩も兼ねて食事を取る事にした。

 

 確か、この辺りだと柴関ラーメンなるお店があった筈。値段もリーズナブルで、味も美味しいと評判のお店だ。

 

 小鳥は、期待を膨らませながら、雑誌に書かれた地図を頼りに、柴関ラーメンへと向かった。

 

 それがいけなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっほ〜、大変美味でありますなぁ〜」

 

 柴関ラーメンに到着した小鳥は店のおすすめを注文し、その味を堪能していた。値段も安いし、此処は当たりの店だと、小鳥はご機嫌だった。

 

 久方振りのまともな食事、身体に染み渡る。店長と談笑を交えながら、ラーメンを堪能し、最後の一滴まで飲み干そうかと思った所で……。

 

 カランコロンと店のドアが開き、新たな客が訪れた。

 

 その人物と、目が合い、そして互いに仰天する。

 

「え…なななななな……こ、小鳥ちゃん!!」

 

「えっ!! は? えぇ!! アルちゃん!!」

 

 店に訪れた新たな客とは、少し前に一戦交えたゲヘナの生徒、便利屋68だった。

 

 まさか、こんな所で会うとは思わなかった小鳥は、驚きで目を見開く。

 

(な、なんで此処に便利屋がいるでありますか!! 此処はアビドスですよ!! ゲヘナと関係無いでありますよ!!)

 

(なんで此処に小鳥ちゃんがいるのよ!! た、確かに、他校の自治区で問題を起こしたと言ったら起こしたわ!! でも、だからってなんで小鳥ちゃんが?)

 

 二人の思考は、互いに予想外の邂逅により、混乱状態に陥りかけていた。

 

 そんな二人の様子を遠目に、カヨコとムツキは、小鳥の様子に勘付き、耳打ちをする。

 

「ねぇ、もしかして小鳥ちゃん、シャーレの先生に会いに来たとか?」

 

「多分ね。しかも、あの様子だと風紀委員会としてではなく、個人的に会いに来たって所かな」

 

 小鳥の立場上、風紀委員会のメンバーとして先生に会いに行けば、他の対立する学園や生徒会との間に軋轢が生まれる。

 

 それを覚悟の上で会いに来た理由を推察するに、恐らくはエデン条約関連だろう。

 

 中立的な立場でありながら、ある程度の権限を持つ人物。

 

 その人となりを知らない小鳥からすれば、先生がエデン条約に異を唱えればそれを推し進めている人物からすれば不利益となるだろう。

 

 そして、狂犬と呼ばれた彼女が身分を偽ってまで先生という人物を知ろうとした理由は、自ずと絞られてくる。

 

 

「ヒナ絡みだろうね。彼女の独断行動は」

 

 そう考えると、ヒナは随分と小鳥に懐かれてる。

 

「どうする? 今の小鳥ちゃんなら、派手な事出来ないんじゃないかな?」

 

「あまりお勧めはしないかな。追い詰められて、暴走されても困るし。だから、今は穏便に済ませた方が得策だと思う」

 

「それもそうだね。それじゃあ、アルちゃんを連れて一旦アジトに……そういえばハルカちゃんは?」

 

「えっ?」

 

 アルと小鳥が混乱して四苦八苦している姿に気を取られ、ハルカがいなくなっていた事に気付かなかった。

 

 これは拙い。

 

 小鳥は、以前のやり取りで、アルの敵判定を受けている。目の前にアルの敵がいて、ハルカが何もしない筈がない。

 

「アル様の敵は許さない。アル様の敵は許さない……」

 

 ブツブツと呟く声が聞こえる。声のした方角を見ると、その手に何かのスイッチが握られており、それが何か分かったカヨコとムツキは息を飲んだ。

 

 そんな二人の様子に気付き、小鳥の視線がハルカへと向けられる。

 

 正確には、ハルカの手に握られた起爆スイッチへと。

 

「あっあ〜ハルカちゃん、落ち着いて。ほら、あの時は風紀委員会としての立場だったからだからね」

 

「許さない許さない許さない許さない……」

 

「今日の私は穏健派なのっ!! ノー狂犬!! イエスキュートなワンコ!! ほーらハルカちゃん、目の前にいる可愛いワンコはな〜にかな?」

 

「ピットブル!!」

 

「上等だその喧嘩かったらぁ!! 吐いた唾を飲み込むなよゴルァ!! 殴り合いじゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「アル様の敵……許せない!!」

 

 起爆スイッチが押され、店内に爆発音が響き渡る。お忍びの風紀委員と便利屋68の鉢合わせは、店内での遭遇戦へと発展した。

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