風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


後始末

 サオリ達の様子を遠目に、小鳥は安堵の息を漏らすと同時に、消える間際にフェネクスと交わした遣り取りを思い出し、忌々しげに眉を顰めた。

 

 余計な事を言って……

 

 しかしその言葉は、小鳥にとって今後の方針を固めるには十分過ぎるものだった。

 

 小鳥の手には1発の銃弾。『死』の概念を重ねがけして生成したそれを、フェネクスはたった一言『悪くない』と告げたのだ。

 

 これを用いて何をするかは既に知り得ている筈。それに対して、この発言をするという事は、フェネクスは、小鳥のやろうとしている事に対して、協力をしてくれるという事だ。

 

 それが悪魔の気紛れである事に間違いは無い。そして、これが何に用いられるか理解した上で、その結末の後に小鳥がどうなるかを楽しみにしている節がある。

 

 嫌な性格だ。

 

 遥かな高みからの見物を決め込んでいるフェネクスを心の中で罵倒しつつも、小鳥は利用出来るのならとことん利用してやると誓い、銃弾をそっとポケットにしまいこんだ。

 

 此処での目的は終わった。後の事は、アリウスの皆が決める事。

 

 部外者である自分は、早々にこの場から立ち去ろうと、ボロボロの身体に鞭を打ち、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……小鳥」

 

 その瞬間、背後から声が聞こえた。

 

 忘れるはずもないその声色に、小鳥は振り返り、声の主を見つめた。

 

「……ヒナ委員長」

 

 小鳥が発したその名前に、サオリを含むアリウススクワッドのメンバーの視線がヒナへと向けられる。

 

 ミカを足止めしていた小鳥の援軍としてアリウスの自治区に来た彼女の経緯は不明だが、アツコ救出に協力してくれた事を知るサオリは、武器を地面に置き、敵意がない事を示しながらヒナに近付いた。

 

「空崎 ヒナだな」

 

「えぇ、貴女はエデン条約で会った……」

 

「……錠前 サオリだ」

 

「……そう」

 

 短い遣り取り。本来であれば、2人は敵同士である。いや、もっと大きく解釈すれば、アリウスはゲヘナとトリニティのみならず、キヴォトスにおいて、学校絡みで事件を起こした犯罪集団と認知されている。

 

 当然、ヒナからすれば、サオリ達は制圧して、然る後に正規の手続きと共に収容所へと送るべき対象だろう。

 

 しかし、ヒナはサオリと、その後ろに控えるアリウススクワッドのメンバー達の様子を見て、小さく息を吐き、最後にチラリと小鳥を見据え、小さく頷いた。

 

「これからどうするつもり?」

 

「どうする……か、それも含めて、考えていかなくてはいけないんだな」

 

「そうよ。これからどうするか、それを考えて、そして行動する必要がある」

 

「責任だな」

 

「えぇ」

 

「お前はどうするんだ? 私達を捕まえに来たのではないのか?」

 

 サオリの問いに、アリウススクワッドのメンバーがヒナへと視線を向ける。

 

 しかし、ヒナは首を振ってサオリの問いを否定した。

 

「今の私は、ゲヘナの風紀委員として此処に来たわけじゃないわ」

 

「なら、何故此処に?」

 

「後輩が困っているって連絡があったの。だから迎えに来ただけ。それだけよ」

 

「……そうか」

 

 その言葉で、ヒナが此処に来るように仕向けたのがレンである事が確定した。

 

 タイミングを見計らい、ヒナが先生と行動していた所で先生に連絡をとり、それがヒナに伝わるようにした。

 

 それが出来るのは、『時』を司る神秘を保有するレンにしか出来ない事だ。

 

 此処までヒナを導いたのも、レンの力だろう。神秘を封じる技術を掻い潜り、アリウスの自治区までヒナを案内した事に驚きはしたものの、自分の神秘と同様に、ベアトリーチェの持つ技術だけでは、レンが扱う神秘を完全に封じ込める事は出来ない事を再認識した。

 

 しかし、その事は置いておくとしよう。今はヒナとサオリの事が重要だ。

 

「私は小鳥を連れ帰るけど、何か問題はある?」

 

「……ない。寧ろ、私達に此処まで協力してくれた小鳥には感謝している。彼女のお陰で私達は救われた。到底、許されない事をした私達に手を差し伸べてくれた事を、私は絶対に忘れない」

 

 その言葉に、偽りがない事を示すように、サオリは深々と頭を下げた。

 

 他の3人も同じだった。

 

 その姿に、ヒナも小さく頷いた。

 

「そう……なら、私達はもう行くわ」

 

「あぁ。ありがとう。そしてすまない。長く足止めしてしまって」

 

「良いの。それに、貴女達にはやるべき事が沢山あるわ。此処の事もそうだし、ミカの事も」

 

「……そうか、彼女とも向き合わなくてはいけないな」

 

「えぇ、こればかりは私が関わる事じゃない。当人同士で向き合う必要がある。凄く大変な事よ」

 

「……分かった。感謝する」

 

「必要ないわ。もしも困った事があったら先生に相談すると良い」

 

「先生……先生に相談か。私達にそれが出来ると良いのだが」

 

「……それは、これからの貴女達次第よ。それじゃあね」

 

 そう言って、小鳥を連れて地下の回廊へと戻るヒナ。

 

 その後ろ姿を、サオリはただ、静かに見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰1人として、ベアトリーチェがバシリカから姿を消した事に気付かないままに……

 

「い〜のか〜これで?」

 

「えぇ、後の事は我々にお任せを」

 

「こえ〜な〜おめ〜らはよぉ〜」

 

「仕方のない事です。先に禁忌に触れたのは彼女です。無論、その報いを受ける必要があります。それに、良かったではないですか」

 

「何がだぁ〜?」

 

「錠前 サオリが、人殺しにならずに済んだ事です」

 

「そっか……そだなぁ〜」

 

「この言葉の重みを、誰よりも理解している貴女なら理解出来るでしょう?」

 

「……そだな。改めておめぇの事も嫌いになったぞ。黒服ぅ」

 

「ククク、私とした事が失言でした。申し訳ありません」

 

「……気にすんな〜おめぇ〜も気がたってんのはわかっからよぉ〜」

 

 触れてはならぬ禁忌に触れたベアトリーチェ。その脅威を誰よりも理解しているからこそ、彼女の所業は到底許される事ではない。

 

 レンは敢えて口にはしなかったが、この先の未来にアレが関わると考えると、気が滅入ってしまう。

 

 どちらに転んでも、碌でもない未来しか待ち受けていない。

 

 それを解決するには荷が勝ちすぎるが、やるしかない。これから先の未来、キヴォトスに降り掛かる脅威に、大事な人が関わるのなら、尚更である。




おまけ
・レンの秘密
凄く大事な人がいる。
その人が、実は小鳥と関わっていた。
尚、小鳥はその事を知らない。知る由もない。知る筈もない。
レンが小鳥に協力する理由が基本これ。

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