訂正させて頂きました。
バシリカと旧校舎を繋がる地下の回廊。ユスティナ聖徒会の複製達との戦闘痕が残る道のりを歩く2人。
ヒナの背中を追うように後ろに続く小鳥。その足取りは覚束ない。負傷と疲労から、気を抜けば膝をおってしまいそうだ。
それだけ、今回は無茶してしまったのだと自負しているし、それでも、この選択に後悔はないと胸を張る事が出来る。
対して、前を歩くヒナは小鳥よりも酷い状態だった。
歩く度に、身体が揺れている。
本人が意図していない所で、身体の異常が、顕著に現れていた。
ミカの足止め以外にも、ベアトリーチェの切り札であるバルバラとの戦闘も重なり、傷の具合で言えば、小鳥以上の重傷を彼女は負っていた。
それでも、ヒナは誰にもその弱音を吐かなかった。誰のせいにもしなかった。全て自分の責任だと受け入れて、気丈に振舞っている。
「ヒナ委員長」
そんなヒナに、小鳥は居ても立っても居られず声を掛けた。その声に、ヒナは立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
顔も青痣だらけだ。鼻に至っては、折れたのを無理矢理元に戻したのか、呼吸の度に、詰まったような音が漏れ出ていた。
「何? どうしたの?」
問い掛けるヒナに、小鳥は、一瞬躊躇しつつ、意を決して口を開いた。
「本当にありがとうございました」
そう言って、深々と感謝の意を込めて頭を下げる。ヒナは、その姿をただ静かに見つめ、そして、ゆっくりと首を振った。
「気にしないで。私はただ、自分がやりたいと思った事をやっただけだから」
「それでも……いえ、だからこそ言わせて下さい。ありがとうございました」
「……そう」
再び頭を下げる小鳥に、ヒナは視線を逸らすように顔を下に向けた。
「……そうやって、貴女は何時も無茶をする」
そして、小さく呟いたその声は、小鳥の耳に届く事はなかった。
小鳥がゲヘナを去ってからそう時間も経っていない。しかし、別れてから僅かな期間で、小鳥は成長していた。
それは、良くも悪くもだ。
自分の事を顧みず、誰かの為に行動する子であった。その行動に一切の見返りを求めない。
いや、求めるとするならば、その人の幸せを望んでいる。その意味では、小鳥は貪欲に見返りを求めていると言って良いだろう。
目の前の誰かが困っているから手を差し伸べる。それを繰り返す事で、小鳥は自分を追い込んでいた。
アリウススクワッドを救った件もそうだ。小鳥は決して、彼女達を許さないだろう。それだけの事を彼女達はしてきた。
それも、自身が被害を受けたわけではなく、エデン条約締結に尽力していたヒナの努力が破綻した事が原因でだ。
それでも、小鳥は彼女達を救った。
自分の感情を二の次にし、その上で尽力を尽くした。そんな彼女に、ヒナは何も言えなかった。思う所が無い訳ではなかったが、それでも何も言わなかった。
小鳥は優しい子だ。そして、その優しさは美徳であり、同時に、自分の身を傷つける諸刃の剣でもある。
小鳥は、誰かの為なら平気で無茶をする。必要ならば、自分を傷つける事を躊躇しない。
ミカを足止めする為に、彼女の前に立ち塞がった行動こそが、その証明だ。
ヒナは、小鳥の行動を咎めるつもりもなければ、責めるつもりもなかった。
しかし、ただ1つ。小鳥の行動原理の中に、ヒナ自身が含まれている事が問題だった。
小鳥と別れたあの日、小鳥がゲヘナを去ったあの日、小鳥がヒナに告げた言葉。
『やりたい事が出来た』『やらなければならない事が出来た』『私個人の問題』……違う。
あの時の小鳥の目には、誰かを守りたいという意思が、顕著に現れていた。そして、その対象はヒナに他ならなかった。
だからこそ、ヒナは何も言わなかった。いや、言えなかったと言った方が正しいのだろう。
あの目を見てしまった後に、小鳥を止める事を、ヒナは出来なかった。
止めても聞かない。その後悔が募る。ヒナは、小鳥の無事を祈る事しか出来なかった。笑顔で送り出す事しか出来なかった。
そして今日、匿名希望を名乗る人物から小鳥の名を聞いたヒナは、小鳥が無事である事を知り、安堵すると同時に、彼女の身に危険が迫っていると知った。
匿名希望の要請に、二つ返事で助ける事を了承した。
その結果がこれだ。自身が傷つく事を顧みない小鳥は、それでもヒナへの感謝を忘れない。ただ、その身を案じるばかりだ。
思えば、自分も無茶をした。ミカを止める際に、小鳥の流儀に従い、その結果、身体がボロボロだ。
この姿が、この結果が、今の小鳥の状況なのだと考えれば、今すぐにでも、戻ってきて欲しい。ゲヘナに、風紀委員会に帰ってきて欲しい。そう思わずにはいられない。
それでも、この気持ちを小鳥に知られるわけにはいかない。それが、彼女の目的の妨げになる事を理解しているからこそ、ヒナはその事に触れる事なく、頭を下げた小鳥を見つめながら、小さく息を吐いた。
「……お互い様よ」
「え?」
不意に、ヒナが呟いた言葉。その言葉の意味を、小鳥は知る由もない。顔を上げる小鳥に、ヒナは、ただ小さく微笑んだ。
「貴女が無事ならそれで良い。だから気にしないで」
本音を隠す為の本音。小鳥が無事であった事に、心から安堵するヒナに、小鳥も、何処か気恥ずかしそうに苦笑を浮かべながら、再び前を歩き出すヒナの後を追った。
長く、そして短く感じる地下の回廊。
静寂の中に響き渡る2人の足音。昔のように、ヒナの後を追う小鳥の姿が、かつて2人が出会った時の記憶と重なり、あの頃を懐かしく感じながら、ヒナは歩を進めるのであった。
おまけ
今回更新された内容の没案
・ヒナにおんぶされて地下回廊を移動する小鳥
ヒナの毛髪から漂う香りとうなじから発する汗に会話どころではなくなる為却下。
・ヒナと共にアリウスの自治区そのものから退却
先生とミカが置いてけぼりになる上、絡むとなると2人の会話が出来ない為却下。
おまけのおまけ
今回のエデン条約でヒナが小鳥を助ける為に頑張ってしまった為、神秘の侵食が上昇。その結果、先生の力に頼らず、単騎でバルバラを撃破。
ヒナが無茶した事は知ってはいるが、神秘の件は小鳥は知らない。しかしレンだけは知っている。
なお、今回のエデン条約では、ヒナが助っ人として現れなかった場合、小鳥達はミカに敗北するか、痛み分けの泥沼状態であった事は間違いない。
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