風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


それぞれの道

 ヒナと小鳥がサオリ達と別れた後、皆の視線が2人に集中するタイミングを見計らう様に、バシリカ内に彼女達とは異なる足音が鳴り響く。

 

 コツコツと、ゆったりと、そして余裕を持ったその足音は、真っ直ぐにベアトリーチェの下へと近付くと、その前で立ち止まり、倒れ伏す彼女の様子を観察する。

 

 『死』の概念。それも、黒服と共有した小鳥の持つ神秘ではなく、ベアトリーチェの手駒であった筈のサオリが齎したその力は、確かにベアトリーチェへと届いていた。

 

 しかし、彼女はまだ生きている。

 

 手心を加えたのか、それとも、サオリを人殺しにしない為の配慮か。それを知るのは、彼女の神秘のみぞ知るのだろう。

 

 息も絶え絶えに、それでも、まだ生きながらえたベアトリーチェは、自身を見下ろす人物に気付き、忌々しげにその者達の名を呟いた。

 

「ゴルコンダ……デカルコマニー…。貴方達がなぜ此処に……」

 

「貴女を連れ戻しに来たのですよ。マダム」

 

「巫山戯るな……私は……まだ……っ!!」

 

 震える身体で何とか立ちあがろうとするも、身体に力が入らない。サオリの神秘を纏った銃弾を正面から受けたダメージが深刻なのだろう。

 

 それでも、ベアトリーチェは身体に力を込め、這ってでも前に進もうとするも、今の状況に違和感を感じ、そして目を見開いた。

 

 自分とゴルコンダ。そしてデカルコマニー以外の全ての時が停止していたのだ。その異変に、ベアトリーチェの脳裏にある可能性が過り、ゴルコンダをキッと睨み付けた。

 

「これは、黒服の差金か」

 

 この異常現象を起こす事が可能な人物は1人しかいない。

 

 黒服の協力者。『時』を司る神秘の保有者。現段階で、小鳥以上に危険な人物。

 

 辰巳 レン。彼女の神秘に他ならない。

 

「えぇ、ご明察の通り。これは彼女の力です。此処にいる私達を除く、全ての時を停止させています。彼女の神秘……『クロノス』でしたか。あれは実に素晴らしい力を秘めています。例え、貴女が此処で行おうとした儀式の本来の目的を隠蔽しようと、彼女の神秘にとっては取るに足らない抵抗だったのでしょう」

 

「っ!! ゴルコンダ!!」

 

「私としても非常に残念です。マダム。貴女がアレの危険性を理解していない事に」

 

 ゴルコンダの言葉と共に、彼を……シルクハットを被った後ろ姿の写真の彼を小脇に抱え、デカルコマニーが空いた片方の手でベアトリーチェを担ぎ上げると、サオリ達から離れていく。

 

「貴女の処遇は既に決まっています。非常に残念です。マダム……いいえ、ベアトリーチェ」

 

「ま、待て……待ちなさい。私はまだ……」

 

「領地を失い、手駒も失い、そして、シャーレの先生ではなく、己自身の傲慢ゆえに敗れ去った貴女の物語は、「取るに足らないもの」に格下げとなりました。貴女は彼女達の物語の、ただの『舞台装置』でしかなかったのですよ」

 

「そういうこった!!」

 

「待って、待ちなさい!! そんな……そんな……っ」

 

 ベアトリーチェの願いを聞き入れる事もなく、ゴルコンダとデカルコマニーは、時が止まった世界の中、彼女を何処かへと連れ去って行った。

 

 残されたのは、ただ静寂のみ。

 

 そして、再び時が動き出した時、ベアトリーチェの姿が消えた事に、サオリ達は驚愕したものの、その手際……いや、小鳥とレンの事を知る彼女達は、ベアトリーチェを連れ去った者が誰かを察するのに、そう時間はかからなかった。

 

 ベアトリーチェが再び此処に戻って来る事はないだろう。その過程の中で、彼女がどのような末路を辿ろうと、それは全て過去の事となる。

 

 彼女に対し、思う所は多岐に渡り、彼女に虐げられた者達の感情も、彼女なき今、晴らす事は出来ない。

 

 しかし、ベアトリーチェの失脚と共に、アリウスは漸く、新たな一歩を踏み出す事が出来るのだ。その事を噛み締め、そして、アリウススクワッドのメンバー達は前を向き、歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ〜小鳥〜も〜い〜だろぉ〜?」

 

 ソファーの上で、小鳥に抱き枕にされたレンが問い掛ける。

 

 かれこれ数時間……とまでは言わないが、長い時間拘束されているレンは、そろそろ限界だった。

 

 小腹が空いた。何か飲みたい。

 

 しかし、そんなレンの訴えに小鳥が耳を貸す事はなかった。

 

 アリウスの一件以来、黒服から彼女達の……そしてゲヘナやトリニティの話を聞いた小鳥は、レンの髪に顔を埋め、その匂いを堪能しながら思いに耽る。

 

「もう少し……」

 

 そう言って、レンを抱き締める力を強める小鳥に、レンはなす術がなくされるがままだ。レンにとっては災難だが、小鳥に心配を掛けた事を思えば、自業自得とも言えよう。

 

 ただ、辛いのは事実だ。今のこの状況もそうだが、これから先の事を考えると、気が気ではない。

 

 拠点を襲撃され、負傷したアリウスの生徒達は、レンと黒服が連れ出した後、目を覚ました。そして、アリウスの一件を伝えると、2人に感謝の言葉をのべ、自治区へと戻った。

 

 アリウスは……シャーレの先生の協力の元、トリニティの傘下に着く形となった。

 

 いや、あれは傘下に着くというより、降ったと言った方が良いのかもしれない。

 

 今回の騒動含めて、彼女達の起こした事件はトリ二ティやゲヘナのみならず、キヴォトスに多大な影響を与えた事に違いはない。

 

 学校ぐるみのテロリスト集団。これが、今のキヴォトスにおける彼女達への評価だ。

 

 この状況で自治区として運営して行く事は不可能に近い。ならばと、アリウスの生徒達はサオリ達スクワッドを新たなリーダーとし、トリニティに降伏する形で傘下に降る決断をしたのだ。

 

 サオリ達スクワッドのメンバーは、ティーパーティー、正義実現委員会、救護騎士団、シスターフッドの監視下におかれる形となり、各々が活動を再開している。

 

 その中で一悶着あったのがサオリとミカだ。本人達の願いで実現した対話の中で、互いに思いの内を打ち明けあった結果、和解が成立した。

 

 無論、これは2人だけの間での出来事の為、これがアリウスとトリニティに何かしらの影響を与える事はない。

 

 それでも、ミカが何を思い、サオリ達を襲撃したのか、そして、ミカを裏切り、ベアトリーチェの命令に従ったサオリ達との間に出来た亀裂は、僅かながらも修復した事は間違い無いだろう。

 

 2人の間でどのような遣り取りがあったか、気になる所だが、これは2人にしか分からない事であり、当事者ではない小鳥に、その事を知る術はない。

 

 話は戻るが、スクワッドのメンバーが監視下に置かれる事で、実質人質という状況ではあるのだが、彼女達は彼女達なりに、新しい一歩を踏み出せている。

 

 これまで、学校の方針で習ってきた常識と、新たな環境下に置かれて学んだ常識。その2つに悩まされながらも、アリウスの生徒達は、ベアトリーチェの支配から解放された事の喜びを噛み締めている。

 

 今後、彼女達がどのように過ごして行くのかはこれから次第だし、衝突も多々あるだろう。しかし、それでも彼女達は彼女達なりに歩んで行く事となるだろう。

 

 ゲヘナはゲヘナで、色々と問題があった。

 

 シャーレに赴いていたヒナが帰ってきたと思ったら、身体中包帯と絆創膏だらけの状態。本人は転んだと誤魔化してはいるものの、それが嘘である事は一目瞭然だ。

 

 何があったのか問い詰めるアコに、ヒナは頑なに口を閉ざした。

 

 淡々と仕事をこなしてはいるが、暫くはまともに動く事は出来ないと、誰しもがそう思い、現に不良生徒達の間にヒナ重症の知らせが来ると同時に一時的に治安が乱れ、その全てがヒナ本人によって制圧された。

 

 ヒナ重症という吉報を受けた温泉開発部のカスミも、これを好機と捉え、大規模な温泉開発計画を企画。

 

 それをヒナ1人に制圧された上に、メグの火炎放射器で包帯や服の一部が焼けて晒され、アリウスの一件での傷痕だらけの姿のヒナに睨まれたカスミは、ガタガタと震えながら特別牢へと収監された。

 

 アリウスの事があろうと、ゲヘナは変わらない。いつも通りの日常だ。そこに、ちょっとしたトラブルはあったものの、ヒナからすれば、不良達がいつもより元気に暴れている程度の認識しかないのだろう。

 

 いつも通りの日常を過ごし、そしてほんのちょっとだけの変化が1つ。

 

 帰宅の最中に目に映ったケーキ屋に足を運び、以前、小鳥がお勧めしたスイーツを発見し、それを購入。

 

 食事とお風呂を済ませ、就寝前に、ケーキを1口頬張りながら、クスリと笑みを浮かべた。

 

 そして、ゲマトリア……いや、ベアトリーチェについては、最早語る事はないだろう。

 

 彼女の存在は、彼女という物語は、取るに足らない物語として終止符を打った。

 

 しかし、彼女が残した負の遺産は、ゲマトリアにとって大きな問題となっている。

 

 これから起こるキヴォトス全土を巻き込む大事件。そのきっかけとなった彼女の物語は、1つの舞台装置としての役割を残したまま、彼女ではない誰かの、新たな舞台の幕開けとなるきっかけとなった。

 

 その事件に、小鳥も大きく関わる事となるだろう。そしてレンも、彼女が守りたい者を守る為の物語として、その事件に関わる事となる。

 

 しかし、その事件が起こるまでにはまだ時間がある。

 

 今の小鳥では対処する事は難しいが、再び切り捨てられた世界線の過去に飛び、力を蓄える事に集中すれば、或いは……

 

 いや、この話は一旦此処までとしよう。今は、この小さな日常を噛み締める事にしよう。

 

「なぁ〜小鳥〜もう時間も時間だからよぉ〜抱き枕にしてベットで寝てい〜から、せめて何か食わせてくれ〜」

 

 抵抗しないからよと、レンは上目遣いで懇願する。

 

「……レンちゃん、それは本当に無防備過ぎるのでダメです」

 

「お〜ヘタレてんな〜意外とチキンってやつだなぁ〜」

 

「ヘ、ヘタレ……」

 

 ショックを受ける小鳥に、レンは笑みを浮かべる。

 

「お〜ヘタレだなぁ〜クロノスも言ってんぞぉ〜ヘタレのチキン、腰抜けって」

 

 よりにもよってクロノスにそんな事を言われるとは。少し悔しかったので、小鳥はレンを持ち上げると、そのままベットへと連れて行った。

 

「んぉ〜?」

 

「悔しいのでこのまま抱き枕にして寝ます。お休みなさい」

 

 そう言って、レンをベットに寝かせてそのまま横になる小鳥。そんな彼女にレンは笑うと、空いた手で小鳥の身体をポンポンと叩き、目を閉じた。

 

「あぁ〜……おやすみ〜」

 

 抵抗しないと宣言した以上、レンは大人しくする他ない。小鳥にされるがままになっていると、数分後にはレンの口から寝息が漏れ始めた。

 

 嘘だろ本当に寝やがった。

 

 思わぬ行動に小鳥は驚き、その体勢のまま動けないのであった。




おまけ
クロノス:何を怖気付いているんだこのヘタレっ!! 腰抜けっ!! 恥を知れっ!! 良いか、私のレンちゃん(ねっとり)が抵抗しないって言ったんだぞ。つまり合法だ。合法百合案件だ。ファッキンクソバードの飼い主よ、お前には『ピーーー』して『ピーーー』して『ピーーー』する義務がある。これは責任だ。あのシャーレの先生とやらも言ってたよな? 大人の責任だのなんだの。あれはな、そう言う意味だ。責任ってのはそういう事なんだ。分かったならヘタレてないで、早く私は2人の百合園を後方彼氏面しながら擬似NTRれを「ヴァルキューレ警察だ!! 変態神を逮捕する!!」くそっ!! 離せっ!! 私はまだ!! 崇高な使命が……




風紀の狂犬 エデン条約『相反する共同戦線』編は以上を待ちまして完結となります。此処まで閲覧して頂き、本当に感謝です。次の更新は以前アンケートを取ったifストーリーとお盆の時に受け付けたリクエストの更新後となります。それまで少しの間、お待ち頂けると幸いです。

気が付けば、120話以上更新する事が出来ました。
これも全て閲覧してくださった皆様のお陰です。
これから、更新頑張っていきますので、お時間が空いた際は見て頂けると幸いです。

また、感想や評価、ここすきなどして頂けると、より一層やる気が出てきますので、此方も沢山頂けたら凄く嬉しいです。

それでは、次の更新まで楽しみにして頂けると幸いです。
長文失礼しました。
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