風紀の狂犬   作:モノクロさん

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前回があれでしたので、今回はほのぼのに。



アリウスのその後

 アリウスでの出来事から少しして。

 

 小鳥の頭上に浮かぶヘイローが、漸く回復の兆しを見せた頃、小鳥の携帯に一件のモモトークが流れてきた。

 

 相手は槌永 ヒヨリ。何事かと思い、内容を確認してみると、その後の彼女達アリウスの現状が大まかに書き記されていた。

 

 トリニティに降り、ティーパーティー、救護騎士団、シスターフッドと連なる組織の監視の元ではあるが、新たな生活を送っている事。

 

 不自由がないとは言えないが、それでも、ベアトリーチェの支配と比べると、今の生活は遥かに良い事。

 

 また、アリウスの生徒達が、キヴォトスでの生活に順応し、彼女達なりに新しい一歩を踏み出せている事などが記されていた。

 

 その内容に、小鳥は内心安堵する。

 

 事情が事情とはいえ、彼女達は罪を犯した。たとえそれがベアトリーチェの命令であったとしても、その罪は簡単に償えるものではない。

 

 そんなアリウスの生徒達が今後どう成長するのか……それは全て彼女達次第だが、少なくとも今の時点では、彼女達はアリウスの一件から立ち直り、そして前へ進んで行くのだろう。

 

 それが良い事なのか悪い事なのかは分からないが、彼女達が選んだ道である以上、小鳥がとやかく言う事ではない。

 

 ただ、新しい一歩を踏み出す事が出来たという事実に、小鳥は『良かった』と呟き、そっと携帯を閉じようとした。

 

 しかし、その行動の直前。

 

 ヒヨリからもう一件メッセージが届き、その内容に小鳥は目を細めた。

 

 その後も、大量のメッセージが流れ始め、小鳥の目が忙しなく動き始める。

 

 内容は、至ってシンプルだった。

 

 トリニティは美味しいものが沢山ある。しかし、どれもこれも高すぎて手が出せない。うわーん、私はこのままガラスの向こうの食べ物を見続ける事しか出来ない人生なんだ。辛いです。これはまさか、トリニティが私達アリウスに仕掛けた巧妙な罰なのかもしれません。助けて下さい小鳥さん。あ、お土産はあの蟹缶が良いです……というものだった。

 

「ヒヨリさん……貴女という人は……」

 

 恐らく、一通りの手続きが終わり、漸く腰を落ち着かせて周りに目を向ける事が出来たのだろう。

 

 そして、改めて周りを見たヒヨリは、トリニティには美味しいものが沢山あると気付き、それに目移りしていたのだと容易に想像がつく。

 

 しかし、いざ購入しようと思ったが、どれもこれも値段が高くて、とても手が出せないと、涙ながらに連絡したのだろう。

 

 普段なら働いて稼いだお金で買いなさいと言いたい所だったが、悲しき事に、今の小鳥も、黒服が提供する資金で生活している。

 

 手持ちが無いわけではないが、小鳥自身、余裕があるとは言い難かった。

 

 つまり、小鳥はヒヨリと同じような立場。所持金はないが、黒服からお金を貰っている分、小鳥の方がヒヨリ達よりかはまだ恵まれている。

 

「……美味しいものですか」

 

 そう言えば、最近は非常食や缶詰ばかりの生活だ。それに満足していないわけではないが、小鳥だって青春を謳歌するうら若き学生だ。

 

 甘味に飢えている事は否めない。それに、頼られているこの状況でそれを無碍にする程、小鳥も冷たい人間ではない。

 

「仕方ない……ですね」

 

 小鳥は、ヒヨリに返信のメールを送ると、トリニティの地図を表示し、おすすめのお店をピックアップした。

 

「レンちゃん」

 

「んぉ〜なんだ〜?」

 

「私はこれからトリニティに行ってきますが、レンちゃんはどうしますか?」

 

「お〜私はここで留守番でもしとく〜だからお土産買って来いよ〜」

 

「分かりました。それじゃあ行ってきますね」

 

 レンはソファーで寝転がったまま、ヒラヒラと手を振る。それを確認した小鳥は、トリニティへと向かうのであった。

 

 

 

 

 ヒヨリとの待ち合わせ場所に到着した小鳥は携帯で時間を確認し、少し早めに到着した事を確認した後、トリニティ内の街並みを散策し始めた。

 

 今の小鳥は、私服姿にマスクで口元を隠し、髪型も変えているため、パッと見でバレる事はないだろう。

 

 とはいえ、学校からは少し離れているとはいえ、学生の姿がチラホラと見える。出来るだけ人目につかない場所を選んだが、流石はゲヘナに並ぶマンモス校といった所か。

 

 スイーツ以外にも食事処でおすすめの店もピックアップしたが、何を食べるかはヒヨリ次第だろう。

 

 お店が営業しているか確認し終えた小鳥は、再度時間を確認し、待ち合わせの場所に戻った。

 

 時刻は11時50分。待ち合わせの時間は12時の為、まだ時間がある。

 

 と、待ち合わせ場所に戻った小鳥の目に、辺りをオドオドと見渡しながら、誰かーこの場合私だろうーを探しているヒヨリの姿が見えた。

 

「ヒヨリさん」

 

「……っ!!」

 

 小鳥の声に、ヒヨリは肩を震わせて後ろを振り返り、そこにいる小鳥の姿を見て安堵の表情を浮かべた。

 

「あ、お、お久し振りです小鳥さん。え、えへへ、き、今日はありがとうございます。あの、その……お忙しい中、ご足労頂いて」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。ヒヨリさんも、此処に来てからまだ日が浅いのですから、色々と気苦労とかもあるのでしょう。今日くらい、多少は羽目を外しても良いと思いますよ」

 

「あ……は、はい。ありがとうございます」

 

 表情を綻ばせながら頭を下げるヒヨリに、小鳥も笑みを浮かべる。

 

「では、ヒヨリさん。お腹が空いてるでしょうし、何か食べに行きますか? 行きたい場所があったら教えて下さい」

 

 そう言って昼食を提案する。

 

 この辺りはおしゃれな喫茶店が多い。見栄えの良いスイーツは勿論、ランチも評判が良い。

 

 ヒヨリだって立派な乙女だ。きっと可愛らしいものが食べたいに……「では回らないお寿司で」……おっとどうやら違ったみたいだ。

 

 さてはこの子、遠慮という概念を何処かに置いてきたのかもしれない。

 

 とはいえ、本人がそれを所望しているのだ。無碍にするのも野暮というものだ。何より、なんだかんだ言って、お金は黒服もちなのだ。

 

 多少の事は多めに見てくれるだろう。

 

 そう、色々と。

 

「それでは、回らないお寿司屋さんに行きましょうか」

 

 小鳥のその言葉に、ヒヨリは目を輝かせて大きく頷いた。

 

 

 

 

 そういえば、回らないお寿司は生まれてこの方初めての体験だったなと、小鳥は思った。

 

 時価ってなんだろう?

 

 マナーとか、色々あるんだなぁ……そう思いながら、隣で美味しそうに大トロやらよく分からないネタを、マナーやルールを全て無視して頬張っていたヒヨリが凄く羨ましい。

 

 大将も、最初はヒヨリの食べ方に驚いていたが、ヒヨリの美味しそうに頬張る時の表情を見て悟ったのか、優しく微笑んでいた。

 

 会計の際に、黒服から渡されたカードで支払ったが、後で黒服には謝罪の連絡をしよう。

 

 帰り支度の際に、ヒヨリがメニュー表にあるお土産をじっと見つめていたので、サオリ達にもと思ったのだろう。

 

 買って帰りますかと提案すると、ヒヨリは目を輝かせて頷いた。

 

「そ、それじゃあ、特上握り4人前で」

 

「あ、自分の分も買うんですね」

 

「え……あ、それじゃあ16人前で」

 

「……成程、1人で4人前の計算だったんですね」

 

 流石にそれは買い過ぎと注意すると、泣きそうな顔をしながら5人前に変更した。恐らくヒヨリは2人前分食べるのだろう。

 

 用意するのに時間がかかるとの事だったので、後で取りに来るからと先に会計をし、空いた時間にショッピングを楽しんだ。

 

「ヒヨリさんは、これから何がしたいとかはあるんですか?」

 

「えっと、これからと言うのは、今からではなく……」

 

「はい、もっと先の話です」

 

 ベアトリーチェから解放されたヒヨリ達は、自由の身となった。無論、制約は課せられたままではあるが、それでも今までに比べれば自由の身となった事に変わりない。

 

「先の事……ですか」

 

「はい、なんでも良いんですよ。遊びに行きたい場所があれば、そこに行きたいとかでも良いですし。何か趣味を見つけたいとかあれば、それでも良いんです」

 

「あ……えっと、その……」

 

 ヒヨリは口ごもり、視線を彷徨わせる。そして、少しの沈黙の後。

 

「……サオリ姉さん達と、皆で色んな所に遊びに行きたいです。海も良いですし、山に行くのも良いですし、他の自治区の観光スポットを巡る旅行とかも良いです」

 

「旅行ですか、良いですね。私も、スイーツ巡りの旅行が好きですから結構楽しいですよ」

 

「そ、そうなんですね。えへへ、まだ何をしたいとかは分からないですけど。それでも、皆で色んな所を回って、思い出をいっぱい作りたいです」

 

「……良いですね。それはきっと、凄く大事な事ですよ」

 

「あ……はい、そうですよね。あ、ありがとうございます」

 

 そう言って笑みを浮かべると、ヒヨリの視線がとある店舗へと向けられる。

 

 そこに目をやると、先程話していた海に関連する商品を販売しているお店があった。

 

 水着……時期的にはギリギリかもしれないが、見に行って損はないだろう。

 

「折角ですし、見に行きますか?」

 

「え、良いんですか?」

 

「勿論です。私も、新しい水着が欲しかった所ですから」

 

「そうなんですね。で、では、行きましょう」

 

 テンションが上がったのか、早足になるヒヨリを追いかけるように店内に入る。

 

 流石はトリニティだ。

 

 多種多様な水着が並んでいる。

 

 それも、ブランド物ばかりだ。

 

 値段も、目が飛び出るような物から、比較的手が届きそうな物まで幅広い。

 

 ヒヨリに目を向けると、目移りしているのか、目を輝かせながら店内を見渡していた。

 

 小鳥もまた、自分用の水着を吟味するべく、商品を物色していると、1つの商品に目が留まった。

 

 それを手にとって、じっと見つめる。

 

 これは……成程……。

 

 その商品を手に取り、小鳥はヒヨリが商品を選ぶのを静かに待った。

 

 それから数分後、ヒヨリは名残惜しそうにしながらも水着を手に取り、小鳥の下へと戻ってきた。

 

 どれも欲しい商品ばかりだったのだろう。それを1着に絞るのはかなり苦労したに違いない。

 

 試しに試着室で着替えて貰い、お披露目する事にしたのだが……びっくりする程でかかった。何がとは言わない。言ったら敗北した気持ちになるからだ。

 

「え、えへへ。ど、どうですか? 似合うでしょうか?」

 

 少し恥ずかしげに、ヒヨリがその場でクルリと回ると、水着に付いているリボンやフリルがフワリと揺れる。

 

 ついでにたわわも揺れに揺れていた。

 

「うお、でっか……ではなく。凄く似合ってますよ。かなり可愛いです」

 

「そ、そうですか? えへへ、あ、ありがとうございます」

 

 ヒヨリは照れながら笑みを浮かべると、その水着を脱いで普段着に戻る。

 

 今度は小鳥が試着室に入り、件の水着を纏うと、カーテンを開いてヒヨリの前に姿を見せた。

 

「どうですかヒヨリさん。セクシーバードで本当に申し訳ない案件ですよ」

 

 小鳥が選んだ水着。それは、寄せて上げてバストを大きく見せる仕様の水着であった。

 

 しかし、悲しき事に小鳥の体型は、水着の力をもってしても、その効果を発揮する事はなかった。

 

「普段着ですと、中々目立たないんですけど、実はしっかりあるんですよねぇ。いやぁ、お恥ずかしい限りです」

 

「ぇ……ぁ……ぅ……」

 

 言葉に詰まるヒヨリ。

 

 恐らく胸の事を言っている事は理解したが……それでも何とか褒めようと、思考をフル回転させているのだろう。

 

 しかし、その思考は上手く纏まらないのか、ヒヨリは目を回しながらあたふたとし始め、そして……。

 

 寄せてもない。

 

 上げてもない。

 

 小鳥には元々……。

 

「す、凄いです小鳥さん。ま、まるで、ル⚪︎シア王国みたいですね」

 

「よしその喧嘩買ったぞ。なんとなく気付いていたけど口に出されちゃもうやるしかないよなぁ」

 

「あ、す、すいません本当の事を言ってごめんなさいぃ!! 」

 

 その後、ヒヨリの謝罪は1時間にも及んだ。

 

 その後、別の水着を試着した後で元の服へと着替えると、小鳥は会計を済ませてお店を後にした。

 

「次からはもっと言葉を選んで下さいね」

 

「は、はい。すいませんでした……」

 

 ペコペコと頭を下げるヒヨリに、小鳥は購入した水着が入った袋を渡すと、ヒヨリはおずおずとそれを受け取った。

 

「これは……?」

 

「お土産ですよ」

 

「え、で、でも……私」

 

「折角ショッピングにきたんですよ。気に入ったものがあったら、買わないで後悔するより買って後悔した方が良いんです」

 

 それにこれは、黒服から貰ったカードではなく、自前で購入したものだ。何の問題もない。それに、これは小鳥からのほんの気持ちでもあるのだ。

 

「良い思い出をいっぱい作って下さいね」

 

 ヒヨリは袋を大切に抱えると、コクリと頷いた。

 

「あ、ありがとうございます。小鳥さん」

 

 ヒヨリは再度頭を下げると、顔を上げて笑みを浮かべた。

 

「いいんですよ。では、そろそろ行きましょう。他のお土産も、サオリさん達にあるんですし、何よりトリニティは門限に厳しかった筈ですからね」

 

 そう言って、昼に食べた寿司屋に戻り、注文していたお土産を受け取ると、小鳥はヒヨリをトリニティ総合学園の近くまで送り届けた。

 

「それじゃあヒヨリさん、また会いましょうね」

 

「……はい、ありがとうございました」

 

 ヒヨリはペコリと頭を下げると、小鳥に手を振ってトリニティ学園へと帰って行った。

 

 小鳥はそれを見送った後、土産品を手に、レンが待つ拠点へと帰るのであった。

 

 後日、小鳥はサオリ達から改めて感謝のモモトークが送られて、皆で撮った食事中の写真がプレゼントされた。

 

 その写真に映るサオリ達は、皆笑顔を浮かべている。小鳥もまた、その写真を見て笑みを浮かべるのであった。




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