……なんだ……これは?
黒服から呼び出しを受けた小鳥を見送った後、彼女のヘイローが回復する時間を得る為に、過去の切り離された世界線を見て回っていたレンは、その作業を止め、呆然としていた。
「これは……何なんだ?」
この世界線の歴史が、これまでの記録が、次々に改変されていく。いや、それだけじゃない。
これまでの人々の交わり全てに亀裂が走り、記憶すらも改変されている。
このままでは、この世界そのものが破綻して、これまでの多くの歴史が辿った『切り離された世界線』へと変貌してしまう。
死者が生者として蘇り、そして、その生者だった者達が死者として作り替えられていく。
あらゆる物語の結末は破綻し、その結末に至る為に必要なピースが、次々と消失していく。
これは自然現象ではない。明らかに人為的に起きている現象だ。
「……巫山戯るな」
何の目的があってこのような事をしているのかは定かではない。だが、少なくともレンにとってこの行為は不快でしか無かった。
「『同じ過ちは繰り返さない』って、そう決めた筈だろ。例え世界から切り離されたとしても例外じゃないって……そう決めただろ」
何故、こんな事が出来る?
こんな事をしてなんになるんだ?
レンの疑問は尽きる事はない。だが、考える事を止めるつもりもなかった。
考えられる最悪のケース。
自ら取り決めたルールを破ってまで、このような事をする理由。
レンは考える。そして1つの可能性に辿り着く。
それは……その考えに至りたくないが故に目を逸らした最悪のケースであり、そしてその世界が切り離されるには十分すぎる理由。
「『色彩』に魅入られちまったのか……『私』が」
有り得たかもしれない2つの選択肢。
アリウス自治区にて、ベアトリーチェの目的を知ったレンに起こり得た可能性の1つ。
『色彩』によって反転してしまった『辰巳 レン』という世界線が、この世界に干渉し始めたのだ。
このままでは拙い。
小鳥が消える。消されてしまう。
皆の記憶から小鳥という存在が抹消され、『小鳥がいなかった世界線』に書き換えられてしまう。
時間がない。今すぐ行動に映さなければ取り返しのつかない事になってしまう。レンは、神秘の力を最大限に行使し、世界そのものの時を停止させると、小鳥と黒服のいるゲマトリアの施設へと移動した。
ーねぇ、素敵な提案があるんだけど、どうかな?ー
ーそう身構えないで。私は貴女の味方だよ。小鳥遊 ホシノさんー
ー私は貴女の望みを叶える事が出来るー
ー梔子 ユメさん。彼女を生き返らせてあげる。ううん。そもそも、彼女が亡くなったという歴史そのものを改竄する事もー
ーあはは、疑ってますね。では、お見せしましょう。私の神秘をー
ーふふ、凄いでしょ? 貴女が求めたユメさんです。あぁ、急に触れないで下さい……あーあ、壊れちゃったー
ーまだ完全に繋ぎとめてないんですから、乱暴に扱えば壊れるに決まってるじゃないですかー
ーえ、もう一度蘇らせろ?ー
ーえぇ、良いですよ。その代わり、私と契約してくれますか?ー
ー契約を破ればどうなるか……分かってますね?ー
ー部屋で塞ぎ込んで、何か進展がありましたか?ー
ーないですよね。当たり前です。何もかも投げ出した貴女では、何も得る事も出来ませんからー
ーですが朗報です。先生を守り切れず、失意に暮れる貴女に、先生をプレゼントしたいと思いますー
ーあはは、貴女も私を疑っている。仕方のない事ですー
ーでは、証明してみましょうー
ーどうですか? 空崎 ヒナさん。貴女が守れなかった先生が、こうして無傷で……あぁ、貴女もそうやって乱暴に扱ってー
ー掻き集めても床に散らばってるそれは、もう元には戻りませんよー
ーえ、もう一度元に戻して?ー
ー良いですよ。これは貴女の先生です。貴女だけの先生です。存分に甘えると良いです。自分の好きなようにしても良いのですー
ーですが、勿論対価は頂きます。でなければ……あはは、大丈夫ですよ。『まだ』用意出来ますからー
ーですから、はい。私と契約してくれますね?ー
手駒は手に入れました。キヴォトス最高の神秘と、それと同等の力を持つゲヘナ最強。まだ万全とは言い難いですが、彼女の心を折るには、これだけあれば十分です。
過ちは繰り返さない?
巫山戯るな。失う事のない世界線にいるから、そんな事が言えるんだ。
私は違う。抗う。抗い続ける。
例え世界そのものが崩壊しようと、もう2度と大事な人を失わない為に。
次の更新から新章突入です。
楽しみにして頂けると幸いです。
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