訂正させて頂きました。
温泉開発部のカスミからゲヘナの状況を粗方把握した小鳥達は、当初の目的通り、お金さえ払えば退学処分を受けた生徒も宿泊可能なホテルにチェックインし、一息つくのであった。
歩き疲れたのか、レンは部屋に入るなりベットにダイブし、程よく反発するベットを堪能していた。レンがベッドでゴロゴロしている間、小鳥は今後の方針を考える。
風紀委員会と万魔殿の併合。
そのトップがイブキとイロハで、実働部隊のトップがイオリ。マコトが万魔殿のトップから失脚したのは驚いたが、それ以上の改竄を見ている為、今はすんなりと受け入れる事が出来ている。
美食研究会や便利屋68の情報も確認したが、この辺りは特別な変化はなく、レン・テラーも歴史の改竄の中でも手を加えなかったのが窺える。
いや、もしかすると、そもそもマコトの失脚もレン・テラーからすると予想外のものだったかもしれない。
あれこれと弄っている間に、偶々『マコト失脚』というフラグが立ち、その筋書きをそのまま回収してしまった。
レン・テラーにとって、ゲヘナの一件は、あくまでもヒナという最大戦力を引き抜く為の処置であり、その後の風紀委員会と万魔殿の併合も、目的の過程で起きた些細な出来事だったのかもしれない。
ゲヘナにおける大きな改竄は『空崎 ヒナの回収』とみるのが妥当か。
それなら、小鳥遊 ホシノの件も、歴史の改竄の中でアビドスに何かしらの変化があったのかもしれない。
最初に浮かんだのは黒服が口にした『アビドスを卒業したOBと共に『アビドス砂祭り』の準備をしている』事だ。
ホシノの先輩は1人しかいない。
梔子 ユメ。彼女の事は、先生の件でアビドスを調べた時に目を通している。その上で改めて考えると、これは大きな歴史の改竄だ。
人の死を無かった事にした。
ホシノの先輩であるユメは、本来ならこの世にはいない人物だ。その記憶を、その歴史を改竄し、無かった事を条件にしたならば、それを条件に仲間に引き入れたホシノは小鳥にとって脅威となり得るだろう。
何故なら小鳥自身も、同じ立場に立たされたら、そうするからである。
(アビドスには……行かない方が良いかもしれませんね。藪蛇案件です。次に行くとしたら……)
と、ふと黒服の事を思い出し、そして彼女達の事が脳裏に浮かんだ。
サオリ達も、マダムの元にいるとはいえ、幸せに暮らしているという。レン・テラーによる歴史の改竄の賜物ではあるが、別の形で幸せを享受している事に、小鳥もまた思う所はある。
少なくとも、ホシノやヒナ、サオリ達は幸せなのだろう。その上で様々な生徒達が、別の形で幸せを掴んでいるならば、歴史を改竄したレン・テラーの行動もまた……。
「なぁ、小鳥ぃ」
レンの言葉に、思考が中断される。ベットでゴロゴロしていたレンが枕を抱きながら、小鳥の方を見ていた。
「言っとくが、私がやった事は最悪の最悪だ。1人2人の幸せとは別に、確実に不幸になった奴も沢山いるからなぁ。目の前の数字だけを見て、他のもんに目を向けねぇのはダメだかんなぁ」
「……えぇ、分かっています。レン・テラーもそれを理解しているからこそ、邪魔されないようにヒナ委員長やホシノさんを仲間に引き入れたのですからね」
「……そうだぞぉ。だから遠慮する事はねぇ。分かったなぁ?」
一瞬の間。それが意味する事は明白だ。レン・テラーもまた、自分の為に歴史の改竄を行った。譲れないものがあったからこそ、それ以外の全てを壊してでも歴史を改竄し、自分の望みを叶えた。
そしてそれは、少なくともレンの望みであると同義である事も、小鳥は理解している。それを口にしないと言う事は、それだけの理由がある。言いたくとも言えないではなく『言いたくない』のだ。
だから小鳥は、敢えてその先の話題には触れない事にした。
「えぇ、分かりました。レン・テラーを見つけたら容赦はしません。それで良いですね?」
「おぅ、それで良いぞぉ」
小鳥の答えに満足したレンは笑みを浮かべた。その笑みも、本心からくる笑みではない事を理解しつつ、小鳥は触れないでいた。
「取りあえずは、レン・テラーの捜索も大事ですが、他の自治区も調べましょう。ゲヘナとアビドス……アビドスは後回しにして、ミレニアムやトリニティの情報も欲しいですからね」
時計を確認すると、まだ活動するには十分な時間がある。今日はゲヘナを起点に調べるとして、明日はミレニアムかトリニティだ。
レンをベッドから起こすと、2人はゲヘナ自治区を散策する為、ホテルから出た。
その時……。
勢いよく走ってきた少女とぶつかり、少女が尻餅をついた。
「おっと」
「いたた……ご、ごめんなさい!」
ぶつかってきた少女は慌てて謝罪すると、急いで立ち上がり、その場を後にしようとする。
しかし、勢いよくぶつかったせいで、リュックにぶら下がっていたマスコットのぬいぐるみが地面に落ちるのを見て、小鳥は慌てて呼び止めた。
「待ってください」
「え……な、なんですか?」
少女は突然呼び止められた事に戸惑いを見せる。しかし、小鳥は気にせずにぬいぐるみを拾い、それを少女に手渡した。
「ペロロのぬいぐるみ、落としましたよ……って」
ペロロのぬいぐるみを渡そうとして、漸く気付いた。
小鳥とぶつかったのは、トリニティの生徒、阿慈谷 ヒフミだったのだ。ヒフミは小鳥が差し出したぬいぐるみを受け取ろうと手を伸ばす。
「すみません。ありがとうございます」
そして、ペロロのぬいぐるみを取ろうとした手で、小鳥の手首を掴んだ。
「……っ!!」
突然の事に、小鳥はヒフミがレン・テラーの仲間の1人だったのではと警戒し、レンもまた同じ様に身構える。
ヒフミは手を離さないまま、小鳥の目をジッと見つめながら口を開いた。
「……所で、何故貴女は」
ペロロ様の本当の名前を知っているんですか?
その言葉に、小鳥はぬいぐるみのタグを見て驚愕した。
そう、小鳥がペロロと認識していたぬいぐるみは、ペロロではなく『ペロペロさんシリーズ』と書かれていたのだ。
・阿慈谷 ヒフミの記録
ある日を境に、皆の様子がおかしくなりました。
皆が皆、ペロロ様の事を『ペロペロさん』と言い始めたのです。
私が何度訂正しても、皆が皆、首を傾げて『これはペロペロさんだよ』と言いました。
私も分かっていました。この子は『ペロペロさん』だと。
私の記憶も、私の持つこれまでの情報全てが、これを『ペロペロさん』だと言っていました。
でも、私の心が、私の魂がそれを否定しました。
この子は『ペロペロさん』ではないと。この子は『ペロロ様』だと。
私は私と同じように周りと認識がズレた人達を探しました。
すると、思っていた以上に、沢山の人達が周りの人達との認識の誤差に困惑していました。だから私は、皆を導く事に決めました。
『ファウスト』
それが私の……キヴォトス解放戦線の指導者としての名前です。
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