「……取り乱してしまい申し訳ありませんでした」
小鳥のビンタで頬を腫らした黒服が頭を下げる。正直、この世界線で起きてる歴史の改竄で、最も被害を受けているのが黒服だろう。
正史ではベアトリーチェを粛清した経緯がある事から尚更である。
「いえ……記憶の混濁というのは、偶にある事です。私もそういった手合いの方を何度も見てますので」
「そう言って頂けると助かります。私も、現実を受け入れている自分と反発している自分の板挟みでちょっと混乱してますが、なんとか順応していこうと思います」
そう言って、懐から携帯端末を取り出すと、それを小鳥に差し出した。
「これを……連絡用の携帯です。電子決済も可能ですので、困った時はこれを利用して下さい」
「……仕事が早いですね。連絡用の携帯を用意してくれるとは思っていましたが、もう少し先かと思っていました」
「何事も迅速に事を運ばないといけない事もあります。今がその時なんですよ」
黒服の言葉に、確かにと小鳥は頷いた。
「では、連絡用の端末も頂いた所で……この世界線の情報を改めて共有しましょう。此方はゲヘナとトリニティの現状。そして、この世界線に違和感を覚えた生徒達の情報です」
「分かりました。では、此方はアリウスの現状とアリウススクワッドのメンバーが何処で何をしているか……後は、ミレニアムの現状ですね」
良い具合に互いに別の情報を入手している。ミレニアムに関しては、小鳥達も『ある情報』だけは入手しているが、その件かもしれない。
「ふむ、では1つずつ情報を精査していきましょう」
そして、3人は互いの情報を共有するべく、昨日の出来事について、情報交換を始めた。
カスミから聞いたゲヘナの現状。
ヒフミから聞いたトリニティの現状。
アリウスとアリウススクワッドの現状と、ヒフミ達が設立したキヴォトス解放戦線の情報。そして……。
「最後に、ミレニアムの件ですが、恐らくこれは、小鳥さんもテレビで見たかもしれませんね」
「あぁ、成程。それでしたら、確かに私も確認しました」
早朝のテレビで流れたミレニアムの情報。正確にはミレニアムの生徒会であるセミナーの生徒会長、調月 リオがキヴォトス全域に放送した内容だ。
「『全人類アバンギャルド化計画』……キヴォトスの利益と安全を追求した果ての結論とはいってましたが……これは、なんとも……」
皆が同じ存在になれば差別は生まれない。そして、皆が同じ性能に至れば、争いは無くなると結論付けられたこの計画を唱え、そして実行に移そうとするリオ。
この話を聞いた時に、小鳥は一瞬だけ嫌なものを感じるような寒気に襲われたのだ。明らかに歴史の改竄の中で暴走した生徒の末路である。
一応、リオの唱えたこの計画に反旗を翻したミレニアムの生徒達が彼女を止めるべく行動に移ってはいるが、セミナーの資金を横領して建造した超ハイテク要塞都市エリドゥなる場所の攻略に手こずっているらしい。
「……ミレニアムは放置の流れでいいでしょう」
「そうですね。この要塞都市にレン・テラーが隠れている可能性も否定出来ませんが、恐らくは違うでしょう」
何事もなければ隠れ家としては最適だが、争いが起きている以上、そこにレン・テラーがいる可能性は低い。
「しかし、ミレニアムは放置するとしても、このセミナーの生徒会長が暴走している事に関しては後々の問題になる可能性があるので、注意は必要ですね」
「そうですね。この情報はニュースとして流れているので、情報が更新され次第、個々人で確認くらいでいいでしょう」
「では、その方向で」
そして3人は、この情報を共有してどう動くかを話し合う。
「私はキヴォトス解放戦線との情報共有で手を組むのがありだと判断します。少なくとも、ゲヘナとトリティは、ミレニアムと比べればあれですが、不安な空気が流れていますので」
「私はゲマトリアとしての活動を主軸としますが、アリウスや他の情報が入り次第、それらを小鳥さんの携帯端末に送信します」
「分かりました。それでは、早速ですが行動に移りたいと思います」
ヒフミと手を組むのは良しとしよう。そして、次に行動するとなれば、やはりあそこしかない。
「私とレンはシャーレに向かいます。そこで先生の現状の確認が出来れば良し。仮に戦闘になる可能性があれば、即時撤退する事を視野にいれます」
「ホシノさんは兎も角、シャーレにはヒナさんがいます。戦闘は避けられないでしょうが、怪しいと思ったら直ぐに撤退して下さい」
「分かってますよ。流石に本調子ではないので、無理はしません。それでは、行きましょうか」
そう言って、小鳥はレンを連れてその場を後にした。
敵対者情報②
・空崎 ヒナ
レン・テラーの協力者。有事の際はレン・テラーに協力する事を条件に先生直属の護衛兼秘書となる。
幸せな現状を噛み締める一方で、自分だけが幸せなのが申し訳ないという気持ちがある。
早朝と夜の遅い時間帯にアコの散歩に出掛けるのだが、その行為に対して違和感を感じている。
アコは昔二足歩行だった気がする。それなのに何故、今のアコは四足歩行で歩いているのかと。トイレも食事も自分でしてくれるし、時折寝室に潜り込んでくるのを咎める程度だが、その違和感を拭う事が出来ない。
後、先生が近付くと吠えるので何度も注意するが、そこだけはなおらない。今度、先生と一緒にアコを連れて散歩に出掛けるか検討している。