訂正させて頂きました。
シャーレの建物を視界に捉える。
此処まではレン・テラーからの妨害はなかった。しかし、此処から先はどうか分からない。恐らく妨害はあるだろう。そして、その相手は間違いなくホシノとヒナだ。
正直な所、2人と戦闘になれば勝てる見込みはない。持久戦であれば粘る事は出来るがそれだけだ。仮に、手札として切りたくはない『フェネクス』の顕現をもってしても格上の2人を相手にするには心許ない。
それでも、小鳥はシャーレに向かう選択肢を選んだ。理由は単純に、レン・テラーの居場所を確認する為である。
切り離された世界線を正史に繋ぎ止めるともなると、相応の力を必要とするだろう。色彩に魅入られ、どのように変異したかは定かではないが、歴史の改竄と世界を繋ぎ続ける行為に力の大半を消費していると考えるのが自然だ。
そして、自身の守り手として選んだ2人の事を考えると、彼女の居場所も大体想像がつく。
少なくともアビドスではない。
以前、違う世界線でアビドスを訪れた時、その気候に滅入っていたレンがそこを拠点にする筈がない。逆にシャーレならば、先生の護衛兼秘書であるヒナがいる上に生活環境も整っている。
前者か後者ならば、レン・テラーは後者を選ぶ。
シャーレは、レン・テラーが小鳥達に対して優位に立つ為に必要な環境が整っている。その優位性を手放す筈がない。
そこまで分かっているなら、態々シャーレに向かう必要はあるのかと思うかもしれないが、答えはノーだ。
小鳥達はレン・テラーの情報を全く持っていない。性格や行動、思考に至るまで全てを理解するには、一度本人と会う必要がある。
ハイリスクであり、リターンとしては殆ど望めないとしても、それでも小鳥はレン・テラーに会いに行く。
この世界線……本来ならば、切り離された世界線の小鳥を抹消した理由も含め、レン・テラーの思惑を知りたい。そして、それを知った上でレン・テラーと対峙する為に。
「……小鳥ぃ、気を付けろ」
「えぇ、分かっていますよ」
レンに離れるよう促し、小鳥はシャーレから此方に向かって歩いてくる2人の人物と対峙する。
1人はヒナ。そしてもう1人はホシノ。
ヒナは兎も角、アビドスの自治区にいる筈の彼女が此処にいる。レン・テラーの神秘で呼び寄せたか、偶々近くにいたからか、それは定かではない。
それでも、ヒナ1人を相手にするのであれば、少しは情報を入手出来るかもと期待はしたが、どうやらそれは無理なようだ。
「止まりなさい。貴女の所属と、此処に来た目的を話しなさい」
ヒナが一歩前に歩み出て、小鳥に問い掛ける。視線は小鳥を捉えているが、チラリと視線がレンが隠れた建物の影にも向けられている。
接触する前に隠れてもらったが、どうやら気付かれているようだ。もしもの時は、レンを守る事を最優先に考えないといけない。
「初めまして、ヒナ委員長。そしてホシノさん。私は不死川 小鳥と申します。所属は特にありません。そして目的は、恐らくご存知かと」
「……そう、それなら、私達がこれから貴女にする事も理解していると捉えて良いのかしら?」
「はい、勿論です」
小鳥はヒナの問い掛けに即答した。それに、ヒナは一瞬目を見開くも、直ぐに無表情になり、銃器を構えた。
「……本当に良いのね?」
ヒナの問いに、小鳥は違和感を感じる。此方を攻撃する事に躊躇いがある。それでも与えられた役割を果たす為に、2人は本気で小鳥の事を排除するのだろう。
「えぇ、構いません」
小鳥の答えにヒナは頷き、そして……。
「そう……なら始めましょうか」
2人は同時に銃を構え戦闘態勢に入る。ホシノは前衛、そしてヒナはホシノをサポートする形で陣形を組み立て、そして2人同時に動いた。
銃声が響くと同時に、銃弾を防ぐべく射線上から身を翻し、そして防ぎきれないと判断したものは受け止める。
重い。この世界線のヒナは変わらず強い。ホシノもまた同様に……。
ヒナのサポートで一気に肉薄したホシノがSGとHGを駆使して巧みな射撃を繰り出す。
小鳥はその射線を見極めて回避し続けながら、ホシノの隙を突いて反撃を試みるも、ヒナがそれを許さない。
連携が上手い。2人の息が合っているのだと実感する。反撃しようにも、ホシノの盾が小鳥の攻撃を全て捌く上に、立ち回り方も此方を誘導する動きを取っている。
不自由を強いられる戦い方だ。離れればヒナの高火力による制圧射撃。近付けばホシノの巧みな立ち回りに圧倒される。
コンビとして、これ程までに完成された2人のコンビネーションは、小鳥にとって脅威だった。
(何も出来ない。させて貰えない)
既に手痛いダメージが蓄積されている。ヒナの射撃を避け、ホシノの追撃を躱してはいるが、ジリ貧だ。このまま押し切られるのも時間の問題だろう。
上手くヒナの射線の死角を突き、ホシノに攻撃を仕掛けるも盾で防がれてしまう。付かず離れずでホシノを盾にしようとするも、今度はヒナの射線から身を守る為に盾を活用し、咄嗟にその射線上から逃れようとすればホシノの的にされる。
小鳥の逃げ道を塞ぎ、確実に仕留める2人の連携は見事と言わざる得ないだろう。
思わず見惚れてしまう程に。思わず嫉妬心を刺激される程に。
(私には出来ない連携を、意図も容易くやってのける……良いなぁ)
自分も2人の様に、上手くヒナと連携を組めたら。それが場違いな事とは理解していても、そう考えてしまう。
「……羨ましい、なぁ!!」
思わず呟いたその一言と共に、盾を構えるホシノに蹴りを繰り出す。防がれたとはいえ、その衝撃で僅かにバランスを崩すホシノの隙を突き、追撃を加えようとするが、ホシノの視線が一瞬ヒナへと向けられたのを見て、小鳥もその場から離脱する。
バランスを崩したのは、そう見せかける為のものだった。ホシノの本当の目的は、小鳥の意識を自身に向けさせ、攻撃の要であるヒナの射線に誘導する事だったのだ。
直後、激しい射撃音と共に無数の弾幕が小鳥を襲う。射線から身を逸らそうと試みるも、避けきれないと判断した小鳥は防御態勢に入った。
しかし……。
「っ!!」
小鳥の腹部に衝撃が走る。
ヒナの攻撃に意識を向けた途端、今度はホシノが盾を投擲し、小鳥の腹部に強烈な一撃を叩き込んだのだ。
その衝撃は凄まじく、防御態勢に入った小鳥を吹き飛ばすと、そのまま建物の壁に叩き付けた。
「かっ……はぁ……」
肺から空気が抜ける感覚と共に、一気に壁へと叩き付けられた小鳥はガクリと項垂れる。
終わってみれば、終始圧倒されるばかりであった。分かってはいたが、勝ち筋が全く見えない。これが『キヴォトス最強の2人』の実力なのかと、小鳥は心の中で呟いた。
足音が聞こえる。聞き慣れた足音だ。
ヒナが此方に近付いてくる。勝敗は決した。そう判断したのだろう。
顔を上げると、銃口が此方に向けられている。近過ぎず遠過ぎず。確実に銃弾を命中させられる位置。
その距離は、ヒナの表情を確認出来る距離でもあった。
「ーーっ」
「……っ」
ヒナの声が聞こえる。しかし、小鳥はヒナの言葉よりも、その表情に意識を割かれた。表情を崩さずに銃を構えるヒナ。だが、小鳥の目には、その表情から困惑の色が浮かんでいるのが見てとれた。
何を迷っている?
いや、何を戸惑っている?
何故、攻撃しない?
一体どうして……。
「……どうしたのヒナちゃん?」
ホシノの声にハッと我に帰るヒナ。そして、直ぐに小鳥から視線を逸らすと銃を収めた。
「……もう終わりにするわ。戦意喪失したみたい」
そう言って踵を返して歩き出すヒナだったが、途中で足を止めた。
「もう二度と、此処には近付かないで。そうすれば、此方から貴女に危害を加える事はないわ」
最後にそう言ってヒナは歩き出した。小鳥からの返事を待つ事なく、ホシノが後を追う。
小鳥はそれを見送る事しか出来ずに、2人の姿が完全に見えなくなるとその場に座り込んだ。
見てしまった。そして、理解してしまった。ヒナのあの表情の意味を。
「あぁ……辛いなぁ……」
ボソリと呟いたその言葉は、誰にも聞かれる事なく虚空に消えた。
・空崎ヒナ
何故、手心を加えたのだろう?
不死川 小鳥は私達の敵で、あの子もそれを肯定した。
なんで、あの子は自分が敵であると肯定したのだろう?
あの子の顔を見た時、胸がズキンと痛んだ。
理由は分からない。私とあの子は『初対面』の筈なのに。
それなのになんで、あの子の顔を見た時、何処かで会ったような感覚にとらわれたのだろう?
あの子の顔を見て……昔……何処かで……私の目の前で泣きじゃくるあの子の顔が浮かんだ。私の前で笑顔を向けて、私の為に頑張って、私の……私の……頭が痛い。少し休もう。疲れているのかもしれない。
・小鳥遊 ホシノ
うへぇ、無事に終わって良かったよぉ。不死川ちゃんだっけ?
あの子、中々筋がいいねぇ、最後の蹴り。びっくりしたよ。
まだまだ粗があるけど、経験を積んだらおじさんも危ないかなぁ。
まぁ、ヒナちゃんと私が組んだらそうそう遅れをとる事はないけどね。
さて、仕事も終わったし、ヒヨリんちゃんに会いに行こう。
怒ってたもんなぁ。謝ったら許してくれるかな?
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