「……本当に良いんですか?」
小鳥の問い掛けに、レンは静かに頷く。彼女が齎した情報は、レン・テラーにとって致命的なものだった。
レン・テラーにとってのアキレス。たった一手で全てが御破算となる究極の選択肢。
それと同時に、今までレンが隠してきた本音を垣間見た小鳥は、レンが何を思い、何を感じて協力してきたのかを知ってしまった。
あぁ、成程。これが彼女の本質。そして、その元凶となったのが、原点の私だったとは……。
「……っ」
開きかけ、言葉を発する寸前でそれを呑み込む。それを言葉として表す事が出来ない。そしてそれは、レンに告げるのが憚られるものでもあった。
横目に黒服へと視線を向ける。彼もこの事を知っていたのだろう。しかし敢えてそれを口にする事がなかったと言う事は、その事情を含めてレンと取引していたに違いない。
「……では、この件は黒服さんにお願いしたいと思います」
言いたい事は沢山ある。しかし、今はそれ以上に時間が惜しい。レンの情報を元に、作戦を組み立てていく。
いや、これは作戦というよりも、役割分担の様なものだった。
『足止め』する者がいて『気を逸らす』者がいる。そして『運び屋』が件の者を運んで終了だ。
『足止め』は無論小鳥だ。彼女以外に出来る者はいない。
『気を逸らす』のはレンの役目だ。少なくとも、レン・テラーの神秘に対抗出来るのは同じ神秘を保有するレンしかいない。
そして、『運び屋』となるのは黒服だ。レンの事情を把握しており、そして、本来の世界線では接点があった黒服以外に適任はいないと判断出来る。
「えぇ、分かりました」
小鳥の提案に、黒服は頷く。レンも同様だ。
「足止めに関しては長くは持ちません。良くて5分が精々です。私達が何をしようとしているのか、レン・テラーは直ぐに把握すると思います。ですので、出来るだけ早く『彼女』をレン・テラーの下に送り届ける事が重要となります」
最も重要な事だが、レン・テラーの前に彼女を連れていくとなると、最大の壁となるのがホシノとヒナだ。
彼女達の守りは堅牢だ。それこそ、あの2人を相手にして無事に切り抜けるには、それ相応のカードを切るしかない。
何か手はないかと、思案する中、レンはスッと手を上げ『1つだけ良い手があるぜぇ』と告げた。
「この世界線は、私が好き勝手に弄った世界線だ。つまり、私もある程度は干渉する事が出来る。つまりだ、この世界線がかかえている問題全てを同じ日にぶつけてしまえば良い」
「この世界の問題……それってつまり」
「あぁ、全部巻き込むんだ。『キヴォトス解放戦線』も『全人類アバンギャルド化計画』も『何もかも』だ」
レンの言葉に、小鳥はゾッとする。いや、それは小鳥だけではなく黒服も感じた事だろう。
この世界に起きている問題を全てぶつけ、その混乱に乗じて行動する。
1人の力では不可能でも、多くを巻き込めばそれだけ対処に追われ、レン・テラーの行動にも支障が出るだろう。
「そうですね。此方も危険ですが、やむを得ません」
「……そうですね」
小鳥は頷いた。確かに、全てを巻き込めばホシノやヒナを混乱させ、その隙を突く事が出来るだろう。しかし、そう都合良くいくのだろうか?
しかし、今は何よりも迅速な行動が求められている。
このまま問題を長引かせれば、神秘に侵食されたヒナの身も危険だし、何よりこの世界線そのものが破綻して崩壊する可能性もあるのだ。
それならば、文字通り手段は選ばない。
小鳥は携帯を開き、電話をかけた。相手は無論、キヴォトス解放戦線のリーダーであるヒフミである。
ー某日某所ー
キヴォトス解放戦線は何も1箇所に纏まっているわけではない。
ゲヘナ、ミレニアム、その他多くの自治区に活動拠点があり、ヒフミのいるトリニティが本拠地であり、他は少数ながらも互いにコミュニティを形成し、活動している。
そんな、大小様々な拠点に一通の緊急通信が入った。皆が皆、内容を目にし、そして行動を開始する。
「ファウスト様からの連絡が来ました!」
「……内容は」
「『時は来た、準備されたし』……キヴォトス解放戦線の作戦を開始する。各員、行動を開始せよとの事です!!」
その一報は、瞬く間にキヴォトス中に広がった。
『ファウストだ! ファウスト様が動いたぞ!』
『準備を始めろ! 急げ!』
『……キキキ、ファウストが動いたか。ならば此方も奴を解放するとしよう。あいつらめ、目にもの見せてやる』
『情報を集めろ! 些細な情報でも良い! 兎に角情報を集めまくれ!!』
『ティーパーティーが正義実現委員会を招集していると情報が入りました! 情報源はキャスパリーグです!』
『ティーパーティーが……分かった。ファウスト様に連絡をしろ!』
『ヴァルキューレの同胞からも連絡がありました。いつでも行動に移せるそうです』
『大変です! C&C率いるミレニアム勢力がアバンギャルドの軍勢に敗北したとの情報が入りました!』
『バカな……いや、戦力差10000対1の状況でよく持ったというべきか……』
『C&Cが!? そんな、まさか……』
『落ち着け。今はファウスト様の指示通り、キヴォトス解放戦線は行動を開始する』
『C&Cが敗れただと? ビックシスターの戦力がそこまで……いや、今は良い。ファウスト様の指示に従おう』
『C&Cが敗れ、ティーパーティーも動き出した。なら私達の出番はもうすぐだ……』
『あぁ、そうだ。行くぞお前達! ファウスト様の為に』
『ファウスト様の為に』
『ファウスト様の為に』
C&C率いるミレニアム勢力
ゲーム開発部や他の部活も参加していたが、要塞都市エリドゥ攻略に失敗した後にリオのドローン部隊&アバンギャルド軍の反撃に耐え切れず敗北。ネルは最後の最後まで抵抗したが、最後は数の暴力に飲み込まれた。
キヴォトス解放戦線
それぞれの自治区に大小様々な拠点が設けられ、コミュニティを形成し情報のやり取りをしていた。そして、ヒフミことファウストによる檄文にて一切蜂起の準備が始まる。決戦の時は近い。
ティーパーティー
正義実現委員会のメンバーを総動員し、トリニティ自治区のある場所を目指している。
ベアトリーチェ
最愛の夫が何か隠している事を察している。しかし、それを口にする事はない。何故なら彼女もまた、準備をしているからだ。彼女の背後には多くのアリウス生徒。そして、1人足りないがアリウススクワッドの姿も……
ヒヨリん
ホシノのお気に入り。イメクラで働く学生。呼び出しを受け、ホシノの元へ……
ユメ先輩
砂祭りに向け、関係者と打ち合わせの最中。その帰りに……
ホシノ
地獄が始まる。