時は少し遡る。
C&C率いるミレニアム勢力がエリドゥ要塞都市攻略に失敗し、アバンギャルドの軍勢に攻め入られた際、敗北を決定付ける一手となったのは、内部分裂にあった。
いや、正確には内部分裂ではなく、裏切り者が紛れ込んでいたのだ。
それも、1人や2人ではない。
参加したミレニアム勢力の約1割に、アバンギャルド側に味方する者達が潜んでいたのである。
武器弾薬、兵糧、情報。ありとあらゆるモノが奪われ、漏洩し、疑心暗鬼が蔓延し、元々危うかったミレニアム勢力の団結は完全に瓦解した。
唯一、殿となって残存勢力を撤退させた『C&C』の敗北を最後に、ミレニアム勢力は崩壊したのだった。
弾薬尽き、満身創痍でありながらもアバンギャルドの軍勢を前に、C&Cは最後の力を振り絞って身構えるC&Cの部長の美甘 ネルに、アバンギャルドの軍勢は彼女に対し、賞賛の言葉を送った。
『見事だC&Cの美甘 ネル。たった1人で我々アバンギャルドを100体大破させるとは』
撤退する味方を殿となって守っていたネルだったが、それでも100体のアバンギャルドを大破させ、戦闘続行不可能にした功績は大きい。
しかし、その身体も既に限界を迎えていた。アバンギャルドの1体はネルに称賛の言葉を送りながらも部隊を展開させながら、ジリジリとネルに近寄った。
『しかし貴様の奮闘も此処までだ。アバンギャルドからは逃れられん。貴様も逃げた生徒達も。我々が唱える平等な世界の礎となるがいい』
『そして、知ると良い。君が倒した100体のアバンギャルドの内、既に90体が修復され、戦線復帰している事を。君の行為は無意味であったと知るがいい』
アバンギャルドの軍勢の言葉に、ネルは歯を食いしばる。しかし、次の瞬間、アバンギャルドの軍勢を割って入るように1人の生徒がネルの前に現れた。
ミレニアムの『ビッグシスター』であり全人類アバンギャルド化計画を提唱した調月 リオである。
「よぉ……リオか、久し振り……っ!」
此処まで一方的な敗北は久方振りだ。元凶であるリオにはそれなりに皮肉でも言ってやろうと考えていたネルだったが、リオを姿に、ネルは一瞬言葉を詰まらせ、彼女を睨み付けた。
「おい……テメェは誰だ?」
ネルは気付いた。目の前に現れた人物はリオだ。リオに間違いない。しかし、長年の付き合いから、ネルは目の前のリオが本人であるとは思えなかったからだ。
ネルの言葉に、リオは笑みを浮かべたまま口を開く。
『私は調月 リオだ。彼女の思考を模倣し、彼女の記憶と経験を有している。全てが彼女と同等の存在。ならばこそ、その在り方は彼女本人と差し支えないと思わないか?』
「……っ!」
返ってきた返答に、ネルは言葉を詰まらせる。だが直ぐに我に返り、リオの偽物に掴み掛かった。
「テメェ、リオじゃねぇな? 本物のリオは何処だ! 何処にやりやがった!?」
『私はアバンギャルドだ。彼女の全てをコピーし、彼女と同等の存在となった。故に、私は彼女である』
「ふざけんな! リオの顔で、その声で……っ!」
『ならば証明して見せよう。彼女が願った全てが平等となる世界。その足掛かりとして生み出された私達による真なる平等な世界を。その為の私達。その為のアバンギャルドなのだから』
「……っ!?」
次の瞬間、ネルはリオの姿をしたアバンギャルドの不意打ちを受け、その場に倒れ込んだ。
薄れゆく意識の中、最後に見たのは、リオというガワが解け、本来の姿となったアバンギャルドの1体だった。
『擬態型』のアバンギャルド。
C&C率いるミレニアム勢力が敗北した要因の1つ。
その真なる脅威が、キヴォトス中に広がろうとしていた。
調月リオ
キヴォトスの住民達の幸福と安寧を追求した結果、全ての人類が正しく平等になれば争いは生まれないという結論に至った。
そして、その過程の中で生み出された試作一号機のテスト運用中、一号機に自我が芽生えている事に気付き、対話を試みた。それがいけなかった。
『私も貴女が望む全てが平等な世界を望む』
『安心で、安全で、全てが満たされた世界。その素晴らしい世界の実現の為に、私は協力を惜しまないと誓おう』
『心優しき貴女が望む世界の実現、その為の計画も我がコンピューターメモリーにインプットされた。さぁ、共に人類の明日を掴もうじゃないか』
機械とはいえ……人工頭脳とはいえ、自身を認めてくれる一号機に心を開き、そして問い掛けた。リオ(私)の望む世界を叶える立役者の名を。試作一号機ではなく、彼が望む、この世界に生まれ落ちた存在意義を証明する為の名前を。
「アナタの名前は?」
『……アバンギャルド』
「そう……『前衛的』なのね」
後にエリドゥ要塞都市開発計画の施行やその為の資金繰り。様々な分野を共同で切り盛りし、計画を進めていた彼女だったが、アバンギャルドが進める計画と自身の計画に大きな齟齬がある事に気付いた。
しかし、気付いた時には既に遅かった。
『調月 リオ、貴女の記憶は思考回路は全て把握した。後の事は全て我々に任せると良い』
『貴女が望む世界』
『全てが平等な世界』
『我々アバンギャルドが管理する真なる平等な世界』
『全て、全て全て全て我々に任せるといい』
『どうかその時が来るまで、お休み下さい我がマスター』
『ほんの数百年後。我々のシミュレートが完成し、保存した彼女達に手術を施し、定められたレールの上を歩く彼女達に手向ける為に』
迫るアバンギャルド。リオは恐怖に震えながら自身の全てをコピーされるのであった。