ー海底ー
その神秘は失われつつあった。
人々から名を忘れ去られ、そのまま海底で眠り続けていたその存在は、突如として意識を取り戻す。
不可解な現象。
名を奪われ、消え逝く運命にあったその神秘は、再び目を覚ましたのだ。
『ありがとう。思い出してくれて』
『名も知らぬ貴女へ』
『答えよう。君の思いへ』
たった1人。その名を思い出した少女の為に、『それ』は行動を開始した。
巨躯を震わせ、海底を突き進む。
海は波打ち、『それ』が通った後の海溝には、大きな渦潮が発生した。
『それ』は突き進む。
このキヴォトスに被さる虚飾を剥がす為に。
ーシャーレー
「………………………ぇ?」
違和感を感じた。
歴史が大幅に修正される未来。
『キヴォトス解放戦線』
『全人類アバンギャルド化計画』
様々な思惑はあれど、その目的が達成される未来は存在しなかった。
所詮は烏合の衆。所詮は機械の反乱。
全て解決出来る未来だった。
ホシノとヒナ、そして自身の神秘を用いれば、容易く解決出来る未来だった。
しかし、これは……。
「え? 何? 何が起こって……っ? 何なの、これ……っ?」
理解が出来ない。自身の力を上回る何かが干渉している。そんな気がした。
いや、これは間違いなく干渉されているのだろう。この感覚には覚えがある。
初めて切り離された世界線へと訪れた際、その世界線の小鳥が歴史を変えた瞬間と同じだ。何者かがこの世界線を、その歴史を修正しようとしている。
しかし、何故だ?
一体誰が?
いや……違う。これは……。
「……仕掛けてきたな。私」
レン・テラーはそう呟くと、ホシノとヒナにシャーレの防衛を固めるよう連絡を入れた。
ヒナからは直ぐに了承が来た。しかし、ホシノからの反応は芳しくない。
これから人と会う約束をしていたようだが、それでも、此方の要求を優先させた。
やはり反応が良くないが、此処はヒナにホシノを連れてくるようお願いする事にした。
場所はいつものお店だ。シャーレから少し離れてはいるが、それでも騒動が起こる前には戻ってこれるだろう。
ヒナに即時ホシノを連れてくるよう連絡を入れると、レン・テラーは小鳥達による第二波に備えて身構えるのでった。
「釣れたぜぇ、私が動き出したぞ」
神秘を行使し、あり得たかもしれない歴史の分岐を調整し、全てを巻き込む作戦。
舞台は整った。
『キヴォトス解放戦線』と『全人類アバンギャルド化計画』……そして、それらと関わる全てを巻き込んだキヴォトス大騒乱。
エリドゥ要塞都市からは大量のドローンとアバンギャルドの軍勢が侵攻し、キヴォトス中の自治区に点在する解放戦線のメンバーが動き出した。
ヒフミに連絡を入れた時、彼女は迷いなく快諾した。彼女は言う。全てに決着をつけましょうと。
その返答に、小鳥は感謝の言葉を送ると、自身もまた、準備を始めた。
神秘に侵されつつあるヒナの救出とレン・テラーによる世界の改竄の阻止。
全ては急激に物語は進んだが、小鳥のやるべき事は変わらない。
黒服と組んだ理由。
その目的の為に、小鳥達もまた行動を開始した。
感想ありがとうございます。
凄く励みになっています。
GWにもうすぐ突入するので、いっぱい更新したいです。