ートリニティ自治区・某所ー
ナギサだった物の頭部が弧を描き、その身体は力無く地面に崩れ落ちる。
その光景に、正義実現委員会の生徒達は顔を青くした。
しかし、地面に落ちて転がるそれが、ナギサのガワを被った機械だと認識するや否や、別の意味で実現委員会内で動揺が走る。
テレビやSNSで『全人類アバンギャルド化計画』のニュースは把握していた。そして、C&Cとミレニアムの生徒達が徒党を組んで調月 リオの計画を阻止しようとエリドゥ要塞都市を攻めた所までは知っている。
しかし、リオ―正確には、リオのガワを被ったアバンギャルド―はミレニアムを相手にしながら、トリニティ自治区を含めた全自治区に同時攻撃を仕掛けたのだ。
各自治区の主要人を狙った同時攻撃。その被害は甚大だった。トリニティ自治区では、ティーパーティーの桐藤 ナギサが拉致され、『全人類アバンギャルド化計画』の一端として記憶データを回収され、『擬態型』アバンギャルドが影武者としてトリニティを管理していたのだ。正義実現委員会のメンバー達も、各自治区がどのような状況に陥っているかは把握していない。だからこそ、目の前で起こった事実に動揺するしかなかったのだ。
そして同時に、その動揺はトリニティ自治区での『全人類アバンギャルド化計画』の進行をも加速させる。
「な、何が……」
「ナギサ様が……ロボット?」
『いいえ、ロボットではありません。アバンギャルドです』
「…………え?」
正義実現委員会のメンバーが混乱する中、その中に機械音が会話に混ざる。
振り返ると、実現委員会のメンバーのガワを被っていたアバンギャルドが次々に姿を現し、その肉体を本来の姿へと戻していく。
仲間だった筈の生徒達が、アバンギャルドへと変貌していく。その光景に、実現委員会の生徒達は恐怖した。
「あ……あぁ……なん……なん……で……」
『さぁ、貴方達もアバンギャルドになるのです。我々が貴女達を管理し、そしてアバンギャルドにする。そうすれば、この世界は本当の平和が訪れるでしょう』
ガワを被っていた生徒達全てが、その生身を晒していく。その姿に、実現委員会のメンバーは後ずさるしかなかった。
しかし、その背後から、別の生徒達が正義実現委員会に襲い掛かった。
「な、何っ!?」
『さぁ! アバンギャルドになるのです!』
『擬態型』は正義実現委員会だけに潜んでいたわけではない。ティーパーティーのナギサにも擬態していたのだ。当然、彼女の派閥にいた生徒達もまた、その大半がアバンギャルドだった。
突然の展開に実現委員会の生徒達は混乱し、瞬く間に正義実現委員会のメンバー達が制圧される。そして、次々とガワを脱ぎ捨ててアバンギャルドへと変貌していく。
『さぁ、ミカ。貴女もアバンギャルドになるのです!』
数体のアバンギャルドがミカ目掛けて殺到する。
先程の一撃で彼女の実力をある程度把握したのだろう。
犠牲を最小限に、しかし、確実にミカを捕縛する為に、その数体のアバンギャルドは連携を取り、ミカを包囲する。
『さぁ! アバンギャルドになるのです!!』
「やーだよ☆」
ミカの発する拒絶の言葉。それと同時に、飛び掛かって来た数体のアバンギャルドに衝撃が走り、粉々に砕け散った。
『な、何事ですか!?』
驚くアバンギャルド達の動きが止まる。
先の一撃でミカの実力を計算した上での連携だった。しかし、その連携がいとも簡単に打ち破られた事に動揺を隠せなかった。
そして、その隙をミカは見逃さなかった。
動きを止めたロボットなど、ただの的でしかない。ミカはSMGで牽制しつつ、一体ずつ確実に破壊していく。
『ぐ、ぐぬぬっ! こ、この力は……まさか!』
ミカの放つ力にアバンギャルドは動揺を隠せなかった。
『我々の計算の上をいくだと……そのような事、あっていい筈が』
「うん、どうでもいいんじゃないかな? そんな事は」
ミカの無慈悲な一撃が、アバンギャルドの頭を貫いた。
煙を上げながら、アバンギャルドの体が崩れていく。しかし、それは一部に過ぎない。未だに何十体もの『擬態型』のアバンギャルドは存在しているのだ。
正義実現委員会は……ツルギが我に返り、慌てふためくメンバーを纏め上げ、その場で防衛陣形を敷いて守りを固めている。そして本人は前に出て、迫りくるアバンギャルドの軍勢に正面から立ち向かっていた。
しかし、いくらツルギの力が強くとも、アバンギャルドの軍勢の数はそれを超える。守るべき生徒を守りながら戦うのは、ツルギと言えども至難の業だった。
キヴォトス解放戦線のメンバーは、ヒフミ……ファウストを守りながら陣形を整え、建物の各階層から、建物内へ突入しようとするアバンギャルドを迎撃している。
しかし、数の差は覆らない。キヴォトス解放戦線のメンバー達は徐々に追い詰められていた。
流石に数の暴力には抗い難いか。そう判断したミカは、ファウストを守ろうと動き出した。その時。
「ミ、ミカ……これは一体……どういう……」
ミカの腕を、同じティーパーティーのメンバーであるセイアが掴んだ。
「どういう事も何も、見ての通りだよセイアちゃん。……っ!」
ミカは咄嗟に、背後から迫っていた『擬態型』のアバンギャルドの頭部に、SMGの銃口を突き付けた。
『……っ!』
「セイアちゃんっ! 此処は危ないから正義実現委員会かキヴォトス解放戦線のメンバーに保護してもらっ……」
『いや、その必要はないよ。ミカ』
「っ!!」
掴まれた腕が強く引っ張られる。思わず体勢を崩したミカを、セイアは……否、セイアのガワを被っていた『擬態型』が機械的な腕をミカの胸に押し当てる。次の瞬間、ミカの胸に衝撃が走り、その身体が大きく吹き飛んだ。
「がっ……は、ぁ……」
壁に叩きつけられ、そのまま床に倒れ込むミカ。そんなミカを見下ろしながら、セイアはガワを脱いでその素顔を露にする。
その腕は杭打機を想起させるデザインをしており、その先端は丸みを帯びてまるで武器には見えない。しかし、その本質はゼロ距離で対象の身体に突き刺せば、相手の体内に致命的なダメージを与える兵器である。
架空兵器『パイルバンカー』。装甲を貫通させ、対象の内部を破壊する恐ろしい兵器だ。
『しかし驚いたよミカ。まさか友を躊躇なく吹き飛ばすとはね。君とナギサは友人同士と記憶していたが、違ったのかい?』
そんなアバンギャルドの問いに、ミカは嘲るような笑みを浮かべた。
「当然でしょ。ナギちゃんは大事な友達だけど、『アレ』はナギちゃんじゃないんだし……」
よろめきながら立ち上がるが、先程の衝撃は確実にミカにダメージを与えていた。
本来であれば、厚さ1000ミリの鋼鉄でさえ容易く貫通させるパイルバンカーの一撃を、ミカは無防備な状態で受けながらも、辛うじて意識を保っていた。
『成る程……その精神力は称賛に価する。だが……』
そんなミカの目の前にアバンギャルドが立ち塞がる。
『今の君では我々には勝てないよ。ミカ』
『君だけじゃない。他の自治区の生徒達も。我々アバンギャルドの敵ではない』
『さぁ、諦めて君もアバンギャルドになるといい』
『それが君達の救済。それこそが人類の救済に繋がるのだから』
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