風紀の狂犬   作:モノクロさん

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悲しきモンスター

―ゲヘナ学園―

 場所は変わってゲヘナ学園。そこでは食堂に立て籠った羽沼 マコトを包囲するように風紀委員会と万魔殿が陣取っていた。

 

『無駄な抵抗は止めて出てこい!! 今なら特別牢に一生閉じ込めるだけで済ませてやるぞ!!』

 

「キキキ……断る」

 

 マコトの返答に、現在、風紀委員会を束ねる立場のイオリが深く溜息を洩らし、後ろに控えるイブキとイロハに目を向ける。

 

 対して、イロハもやれやれ仕方がないといった表情で、イブキは心底呆れ果てた表情で首を横に振った。

 

「仕方がありません。実力行使でマコト先輩を捕らえて下さい。後の処遇は私達で決めますので」

 

「いいのか? まぁ、イロハがそういうなら、私は構わないが……」

 

「はい。それでは……」

 

 イロハの言葉を受け、イオリを先頭に風紀委員会と万魔殿は食堂に向けて進軍する。

 

 しかし、イオリ達が食堂に突撃するよりも先に扉が開くと、中からマコトが姿を現した。

 

「お、なんだ? 諦めて投降する気になったか?」

 

 武器は所持していない。ならば、諦めて投降する気になったのかと、イオリは身構えながら声を掛ける。しかし、マコトはそんなイオリの言葉を無視すると、イロハとイブキに向けて言葉を発した。

 

「イロハ、イブキ」

 

「はい?」

 

「……どうしたんですか。マコト先輩」

 

「キキキ、貴様らが此処に来てくれて助かったよ。でなければ、この作戦は実行出来なかった」

 

 マコトの言葉に、イオリ達は首を傾げる。

 

「作戦? 何を言っているんだ?」

 

「ふん、ヒナのいない風紀委員会に興味はない。そして、今の万魔殿にも興味はない」

 

 マコトの言っている言葉が理解できず、イオリは更に警戒心を強くする。しかし、此処にいる皆が警戒を強くするには、あまりにも遅すぎたのだ。

 

「返してもらうぞ……『イブキ』と『イロハ』を」

 

「は? お前、何を言って……」

 

 そう、イオリが言い終わる前に。マコトの背後から巨大な影が現れた。

 

 それは、食堂を破壊しながら姿を現し、皆が皆、それを見上げた。

 

 毒々しい紫と緑の液体、鼻を刺激する悪臭を垂れ流し、吸盤の付いたたこ足の様な触手を生やしたモンスター。

 

 グジュグジュと異音をまき散らしながらその全体像が露わになると共に、その醜悪な姿に皆が絶句する。

 

 それは、給食部の牛牧 ジュリが調理の過程で生まれた悲しきモンスター。

 

 意図して生み出されたわけではなく、偶然の産物として生を得た生命体である『パンちゃん』は、マコトがこの時の為に秘密裏に飼育していたのだ。

 

 全ては、自身を失脚に追いやったイブキとイロハの……否、イブキとイロハのガワを被った『擬態型』アバンギャルド達を一体でも道連れにする為に。

 

「ひっ! ば、化け物!」

 

「う、撃て……撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 風紀委員会が一斉に銃を構え、発砲する。しかし、その銃弾はパンちゃんの表面に吸い込まれるように着弾し、一向にダメージを与える様子は無かった。

 

「キキ……無駄さ。その程度の攻撃では、この化け物には傷一つ付けられない。そして……」

 

 無駄な抵抗を試みるイオリ達ではなく、イブキとイロハをキッと睨み付けた後。マコトはパンちゃんに向けて言葉を発した。

 

「さぁ、食事の時間だ! 『イブキ』と『イロハ』のガワを食い千切れ! キキキキキ……キャハハハハハハハハハハ!!」

 

 言葉と共に、イブキとイロハが悲鳴を上げる。

 

 パンちゃんの触手は、その巨大な身体からは想像もつかない速度で二人へと襲い掛かる。そのあまりの速度に、皆はその場から動けず茫然と立ち尽くした。

 

 次の瞬間、轟音と共にパンちゃんの身体が大きく吹き飛ばされた。

 

「なっ!」

 

 尻もちをつくように崩れ落ちるパンちゃん。そしてパンちゃんを吹き飛ばしたイブキとイロハ……否、二人のガワを被っていたアバンギャルド達は、困惑する風紀委員会のメンバーを他所に、部下達に命令を下した。

 

『既にトリニティで我々が動き出しました。『コードA』発令……『コードA』を発令。全人類アバンギャルド化計画を始動します』

 

『コードA』……その命令が下された時、万魔殿のメンバーの大半がガワを解除し、本来の姿に戻った。

 

「え……は? え?」

 

「え、な、なに……なにが……おこって……?」

 

 混乱し、錯乱する風紀委員会のメンバー。そして、それはマコトを囲んでいたイオリ達も例外ではなかった。

 

 対して、マコトは全てを察していたのか、大して驚いた素振りを見せず、パンちゃんに向けて『命令』を下した。

 

「キキ……仕方がない」

 

 食事を与えるたびに少しずつ巨大化していったパンちゃんだったが、密かに飼育するには限界があった。故に、今のままでは力が足りないと判断したマコトは、『イブキ』と『イロハ』を取り戻す目的の為に、この作戦を実行したのだ。

 

「パンちゃん、私を喰らえ」

 

 その命令に、パンちゃんは咆哮を上げながら触手を天高く伸ばし、マコトの身体に巻き付いた。そして、そのままマコトを宙に放り投げると、大きな口を開く。

 

「キキキ……さらばだ。貴様等を一人でも多く、道連れにしてやる」

 

 その言葉を最後に、マコトは自らパンちゃんに喰われ、取り込まれた。

 

 そして、パンちゃんはその巨体を大きく震わせ、咆哮を上げる。

 

 無数の触手が伸び、風紀委員会のメンバーを捕らえてはマコトの時と同じように飲み込み、巨大化していく。

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!」

 

「た、助けて……助けてくれぇぇぇ!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図。そんな光景を目にして、イオリ達は呆然としていた。

 

 しかし、いつまでも放心しているわけにはいかないと悟ったのか。自身の武器を構えなおす。

 

「くっ……総員! あの化け物を撃退するぞ!」

 

「「「りょ、了解!!」」」

 

 イオリの号令に、風紀委員会が武器を構える。しかし、そんな彼らを尻目に、万魔殿の生徒達のガワを被っていたアバンギャルドの軍勢が風紀委員会のメンバーを取り押さえた。

 

「なっ! お、お前達、何の真似だ!」

 

『コードAが発令された。これより、お前達をアバンギャルドにする』

 

『『アレ』に関しては問題ない。我々の計画に何の支障も生じない』

 

「な、何を言っているんだ……そんな事より、今は……っ」

 

 そんなイオリの反論は最後まで続かなかった。パンちゃんの触手がイオリの胴体に巻き付き、その身体を宙へと持ち上げる。

 

「う、うわぁぁ! く、くそっ! 離せ……離せぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 じたばたともがくも、パンちゃんの触手はビクともしない。そして、そんなイオリの身体を喰らおうとパンちゃんが口を大きく開く。

 

「や、やめろ……い、いやだ……いやだいやだいやだいやだ……うぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 イオリの悲鳴は最後まで紡がれる事はなかった。

 

 パンちゃんに飲み込まれた風紀委員会。アバンギャルドに取り押さえられた風紀委員会。

 

 そして、対峙するパンちゃんとアバンギャルドの軍勢。

 

 最早、此処は学園都市でもキヴォトスでもない。ただただ狂気に支配された世界だった。




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