風紀の狂犬   作:モノクロさん

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痴情のもつれ

 彼方此方で悲鳴と銃声、そして爆発音が鳴り響く。

 

 ホシノを迎えに行ったヒナもまた、『擬態型』のアバンギャルドやキヴォトス解放戦線のメンバーと幾度となく交戦し、そして鎮圧しているが、それと同等以上の数のアバンギャルドとキヴォトス解放戦線のメンバーがキヴォトス全域で戦闘を繰り広げている。

 

 これは思った以上に混乱状態になっている。

 

 本来であれば風紀委員会の役割としてこうした暴動を鎮圧する立場だが、今のヒナはシャーレ専属。

 

 ゲヘナはきっとイオリが何とかしてくれているだろう。

 

 イオリは強い。それこそ、○○と遜色ないくらいには……っ。

 

(まただ、不死川 小鳥と会ってから頭の中から靄が消えない)

 

 何か大事な事を忘れている。

 

 それこそ、忘れてはいけない筈の誰かを……

 

 ヒナは頭を振って思考を切り替えて、ホシノの迎えに行く。

 

 場所は分かっている。最近彼女がはまっている『イメクラにゃんにゃんパラダイス』というお店だ。

 

「ホシノ……あの子が早く戻ってこいって言ってるわ。行くわよ」

 

「ヒ、ヒナちゃん……もうちょっと待ってよ。せめて、このプレゼントだけでも……」

 

「プレゼントは……スタッフに渡すよう言伝をすればいいじゃない。早く戻るわよ」

 

 店に着くなり、待合室で待っていたホシノの手を引き、シャーレに戻るよう告げる。

 

 対して、ホシノは名残惜しそうにしながらもプレゼントをスタッフに渡してお店を後にする。

 

 思う所は色々ある。あの手のお店にはまるのは、あまりよくないものだと。

 

 しかし、自分も先生があの手のお店で働いていたら、きっとはまっていたのかもしれないと思い、敢えてその事を口にする事はなかった。

 

「ヒナちゃん、いったい何が起きてるのさ?」

 

「えっと……『全人類アバンギャルド化計画』を目論む調月 リオと阿慈谷 ヒフミ率いる『キヴォトス解放戦線』の一斉蜂起……あと、『巨大ぺろぺろさん』の本土上陸?」

 

「……ごめん、言ってる意味が分からない」

 

「私も……自分で話していて頭が痛くなりそう」

 

 つまるところ、キヴォトス全域が混乱状況というわけだ。

 

 これが誰かが意図して扇動したものなのか、それとも偶然の産物かは定かではない。

 

 しかし、レン・テラーが慌てて連絡したところを見るに、予期せぬ出来事なのだろう。

 

(ただでさえ頭が痛いのに、これ以上、おかしなことが起きたら……)

 

「……あれ、ホシノちゃん?」

 

 と、そんなヒナの思考を遮るように、背後から声を掛けられた。

 

 その声に聞き覚えがあり、ヒナは警戒しながら振り返ると、そこにはホシノの元先輩である梔子 ユメの姿があった。

 

「ユ、ユメ先輩っ!! こんなところで何をしているんですか!」

 

「え? アビドス砂祭りの件で色々と打ち合わせがあったんだけど、何かあったの?」

 

 街中では方々で銃撃戦が繰り広げられているというのに、彼女は気が抜けているのかそれとも危険に対する感覚が麻痺しているのか、ユメはきょとんとした様子でホシノに尋ねる。

 

「えぇと……あの、その……」

 

 返答に困る。本当に困る内容だからだ。

 

 しかし、このまま一人にしていては危険と判断した二人は、ユメをシャーレまで避難させようとする。

 

「今、彼方此方で暴動が起きているみたいなので、付いて来てください。詳しい事はそこでゆっくりと……」

 

 そう言って、ユメの手を掴もうとしたホシノだったが、背後から聞こえた声に、身を震わせた。

 

「ホシノ……さん……」

 

 震える声で、ホシノの名を口にする少女。

 

 振り返ると、ユメと同じ服装の『ヒヨリん』こと槌永 ヒヨリが涙目で立ちすくんでいた。

 

「ヒ、ヒヨリんっ!!」

 

 最悪のタイミングで、最悪の人物が来てしまった。

 

 恐らく、ヒヨリはホシノを探して此処まで来たのだろうが、そこでホシノと一緒にいるユメを見た彼女の心境は想像するに難くない。

 

「ホシノちゃん。あの子と知り合い?」

 

 服装からしてアビドスの後輩だろうか?

 

 そう思うユメだが、ホシノから聞いた後輩の中に当てはまる人物はいない。

 

 その事は無論、ヒナも知っている。

 

 寧ろ、先程ホシノを回収した場所が場所な為、ヒヨリの服装とユメの服装が同じ事から、色々と察してしまったのである。

 

「……ユメ先輩、今すぐヒナちゃんと一緒にシャーレに避難してください」

 

「えっ……ちょ、ちょっと待ってよホシノちゃん!」

 

「ホシノ?」

 

「此処は私に任せてっ! 早く言ってヒナちゃん! ユメ先輩!!」

 

「ホシノちゃん?」

 

「小鳥遊 ホシノ!?」

 

 ヒナの中で、ホシノの好感度が急降下していく。

 

 いや、それは色々と拙いだろ……。

 

 「ヒナちゃん、これは違うんだよ」

 

「いや……だってその子って……」

 

「ヒナちゃん! 私の事は構わず行って。此処は私に任せて早くいくんだ!!」

 

「小鳥遊 ホシノ!?」

 

「いや、だから違うって。ヒナちゃ……落ち着いて! その子はきっと……早く行ってヒナちゃん!! 此処は私に任せるんだぁ!!」

 

「う、うん……分かった」

 

 混乱し、完全に冷静さを失っていたホシノ。そして、これ以上深堀してはいけないと判断したヒナは、レン・テラーからホシノを連れ戻す命令を放棄し、シャーレに帰還するのであった。

 

「……………………っ」

 

「「……………………」」

 

 そして、なんだかんだとその場に残ったユメ。

 

 ホシノからすれば修羅場以外の何物でもない。

 

「あ、あの……ユメ先輩。此処は私に任せて早く避難を……」

 

「……ホシノちゃん、その子が誰なのか教えて?」

 

「……いや、この子はえっと」

 

「ホシノさん……やっぱり私なんかより別の子の方がいいってわけなんですね!」

 

「いや、そういうわけじゃ……」

 

「うわぁぁぁぁぁん!!?! やっぱり私なんていらない子だったんだぁぁ!!」

 

「いや、だから違うんだって! ヒヨリんも落ち着いてよ!」

 

「ホシノちゃんっ!!」

 

「ちょ……ユメ先輩……これは違くて……」

 

「ホシノさん!」

 

「あ、ちょ……だ、誰だね君はっ!!」

 

「……ホシノちゃん」

 

 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたヒヨリがホシノに縋りつくも、ホシノはしどろもどろといった様子で、ユメの相手もしなければならない。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああん!!酷いですぅぅぅぅぅぅぅぅ!! この間は『私はヒヨリん一筋だからねっ』って言ってくれたじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「いや、それは……」

 

「ホシノさん……私、信じてたのにっ」

 

「だから違くて!」

 

 と、そんな時、ユメがホシノの服を掴みながら、静かに言葉を発した。

 

 その声色はどこか冷たく、そして……どこか『機械的』だった。

 

『理解した。これが痴情のもつれというやつか』

 

「え……ユメ……先輩?」

 

 突然人が変わったように機械的な声へと変貌したユメに、ホシノは目を見開く。

 

 そして、それはヒヨリも同様だったらしく、互いに目を点にしてユメを凝視していた。

 

『やはり人は度し難い。我々アバンギャルドがお前達を導かねばならぬという事か』

 

「ユ、ユメ……先輩?」

 

『私はアバンギャルド。梔子 ユメは此処にはいない』

 

 ユメのガワがベリベリと解け、彼女の顔がアバンギャルドへと……本来の姿へと変貌する。

 

 呆然とする……という表現だけでは生ぬるい。

 

 その場で固まるホシノに対し、アバンギャルドは顔に張り付いたガワを剥がし、地面に投げ捨てる。

 

 ユメの顔を模した皮が地面に捨てられ、真の姿を露わにしたアバンギャルドは、周囲にいる同胞を呼び寄せると、固まる二人もアバンギャルドにすべく、行動を開始するのであった。

 

『さぁ、貴女もアバンギャルドになるのです』

 

『痴情のもつれなど起きない真の平等なる世界。不平等の無い世界の為に、貴女達をアバンギャルドにします』

 

『愚かな行為。愚かな選択。人とは度し難い生き物である。しかし、そんな貴女達をすくいましょう』

 

―人は……救われなければならない―




・梔子 ユメ
レン・テラーとの交渉で生存ルートを辿ったホシノの先輩。
しかし、彼女は既に『全人類アバンギャルド化計画』により『擬態型』と入れ替わっていた。ホシノの脳が爆4寸前&臨戦モード突入で単騎でエリドゥ要塞都市攻略に向かった。

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