風紀の狂犬   作:モノクロさん

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今回は少し短めです。


妻として

―??? 某所―

 街中に響き渡る銃声と怒号。それらを掻い潜るように目的の民家へと車を飛ばす黒服。

 

 しかし、周囲の雰囲気が一瞬で変貌し、黒服は車を急停車させた。

 

「これは……気付いたようですね」

 

 レン・テラーによる運命操作。過去の様々な選択肢を変える事により、世界の流れを改竄する。

 

 しかし、その改竄は極端に大きな変化をもたらす事は出来ず、よくて周囲の人間の選択の幅を変える程度のもの。

 

 キヴォトス解放戦線の目的や全人類アバンギャルド化計画の理念を変えるには至らない程度のものだが、それでも、黒服の目的地に彼女達やアバンギャルドを妨害させる程度の事はできる。

 

「やはり、レン・テラーが妨害を……っ」

 

 黒服は周囲を見渡しながら、騒動がなるべく少ない場所を選んで進んでいく。

 

 しかし、再び運命操作による妨害が黒服の行く手を阻んだ。

 

 曲がり角から数十体にも及ぶアバンギャルドの軍勢。

 

「ちっ……っ」

 

 黒服は舌打ちをしながらも、車をバックさせ、その場から逃走を図るも、既にアバンギャルドの照準が黒服へと向けられていた。

 

 車を破壊され、無力化される。そう思い、身構えた瞬間……。

 

 黒服の背後から無数の銃声が鳴り響き、アバンギャルドの軍勢を一掃したのだ。

 

「なっ……」

 

 黒服は驚愕に目を見開くも、その銃声の先にいた存在を見て更に驚愕した。

 

「『ユスティナ聖徒会の複製』……何故、此処に?」

 

 そう、黒服を助けたのは、この世界では存在しない筈の『ユスティナ聖徒会の複製』だったのだ。

 

 数は数十、数百にも及び、その戦列はアバンギャルドの軍勢を圧倒し、そして殲滅した。

 

 唖然とする黒服。しかし、『ユスティナ聖徒会の複製』の群れを率いていた1人の存在に気付いた時、黒服は更に驚愕する事となった。

 

「……ベア子……さん」

 

「良かった。無事だったのですね」

 

『ユスティナ聖徒会の複製』を率いて黒服を助けたのは、ベア子ことベアトリーチェだったのだ。

 

「何故、貴女が此処に」

 

「話は後です。今は事態を収拾しなければ」

 

 そう言って、ベアトリーチェは後ろに控えていたアリウスの生徒達に周囲を警戒するよう指示を送り、そして黒服に対して向き直る。

 

「ふふっ、マエストロに無理を言って、この子達を分析していて良かったわ。彼の主義に反するものだけど、あなたを守る事が出来たんだもの、きっと彼も許してくれるでしょう」

 

 そう言って、自分と同じようにユスティナ聖徒会の複製達を行使する権限を持つアツコに彼女達の制御を任せ、黒服との会話を続ける。

 

 周囲は相変わらず、アバンギャルドとキヴォトス解放戦線による銃撃戦が繰り広げられている。しかし、黒服とベアトリーチェのいる空間にはアバンギャルドもキヴォトス解放戦線も近付く事は出来ずにいた。

 

「ベア子さん……私は」

 

「皆まで言う必要はありません。あなたの行動には何かしらの意味があり、私はそれを支えるだけ。それだけの話なのですから」

 

 そう言って、ベアトリーチェは黒服に対して笑みを浮かべた。

 

「行って下さい。此処は私とあの子たちが食い止めますので」

 

 そう言ってベアトリーチェが歩き出し、それにアリウスの生徒達が続く。

 

 本来の正史ではありえない光景。

 

 アリウスの生徒達が、自らの意思でベアトリーチェに付き従い、アバンギャルドの軍勢やキヴォトス解放戦線のメンバーに攻撃を仕掛けている。

 

 そしてベアトリーチェも、そんなアリウスの生徒を守る為に『ユスティナ聖徒会の複製』を使役し、キヴォトス解放戦線やアバンギャルドの軍勢に攻撃を仕掛ける。

 

 本来あり得なかった光景、しかし、今この瞬間だけは確かに存在していた。

 

 切り離された世界だからこそ、本来有り得ない世界だからこそ有り得た光景。

 

 その光景を、いや、どのような形であれ、ベアトリーチェと意思を通わせたこの世界を、黒服は滅ぼそうとしている。その事に罪悪感を感じてしまった。

 

 普段の彼なら、そんな感情に芽生える筈がなかったというのに……。

 

(私も、彼女達に絆されてしまったのかもしれませんね)

 

 だが、感傷に浸っている時間はない。ベアトリーチェやアリウスの生徒達がキヴォトス解放戦線とアバンギャルドの軍勢を相手にしているとはいえ、レン・テラーの次なる妨害が無いとも言い難い。

 

 ならば、一秒でも早く、目的の人物に……レンの姉であるユタカと接触しなければならない。

 

 黒服は改めて覚悟を胸に、車を走らせる。

 

 すれ違いざまにベアトリーチェに『行ってきます』とだけ伝え、ベアトリーチェもまた『行ってらっしゃい。あなた』と短く告げ、黒服の運転する車を見送る。

 

 それが、黒服との最後の別れになるのかもしれないと思いつつも、それでも彼女は、夫である彼の妻として、彼の目的が果たされる事を切に願うのだった。




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