キヴォトス解放戦線とアバンギャルドの軍勢の戦線もエリドゥ要塞都市へと移り、キヴォトス全域で起きていた混乱が収束しつつあった。
そして、レンとレン・テラーの問題も収束へと向かっていく。
レン・テラーから言質をとった事で取引が成立し、後はこの世界線を正史から切り離せば全てが解決である。
『小鳥が存在しない世界』……その世界線が切り離され、そして正史世界は正しく機能する。
筈だった。
「…………………………………………………………ぇ?」
最初に異変に気付いたのはレン・テラーだった。
この世界線を切り離し、そして正史世界と乖離させようとした直後、シャーレの前で異変が起きたのだ。
「待て……なんだこれ? し、知らないぞ……こ、こんな……おい、クロノス。お前、これ、何が起こって……」
場所はシャーレの建物の前、ヒナと小鳥のいた位置だ。その位置から突如、『何か』が2人を……否、ヒナを飲み込んだのだ。そして、ヒナを飲み込んだ『何か』の神秘が暴走し、徐々にレン・テラーの支配から脱していく。
「っ!! まさか、そんな……」
レン・テラーが動揺する最中、その『何か』は彼女の支配から完全に脱し、切り離した筈の世界が再び、正史世界に結び付き、世界線の再固定を行った。
「な、なんで……っ」
レン・テラーは焦燥の表情を浮かべる。本来起こりえない筈の出来事が今、レン・テラーを襲っていた。
「おいクロノス!! お前何かしたんじゃねぇだろうな!?」
レンが声を荒げるも、クロノスからの返事はない。
「くそ……何が起こってる」
混乱と焦燥に駆られながらも、レン・テラーはなんとか現状を打破しようと試みる。しかし、その手段はどれも失敗に終わり、そして……。
「まさか……ヒナさんの神秘が暴走して……」
レン・テラーは漸く気付いたのだった。
ヒナの神秘が不安定だったのは知っていた。しかし、それも想定の範囲内での数値だった。
正史世界とこの世界線を定着させ、その後ゆっくり対処すれば問題ない。
その筈だったのだ。
しかし、ヒナの神秘は、レンが想定していた数値を遥かに超えていたのだろう。
そもそも、ヒナの神秘は小鳥のフェネクスと共鳴していた以上、その正体は自ずと想像がつく。そして、その神秘の正体とこの現象は辻褄が合わない。
クロノスの神秘とは関係のない力であるにも関わらず、単純に神秘の質で、クロノスが繋いでいた世界線を再結合し、正史世界に定着させてしまったのだ。
それは、ヒナ自身の力が余りにも強大である事を意味していた。
単純な質であれば、レン・テラーの神秘を遥かに凌駕する力。
その力がこのタイミングで暴走した。
それが意味するのは、1つだけだった。
「あぁ……終わった」
レン・テラーが力なくそう呟くと、それに呼応するように、ヒナの神秘が世界に顕現する。
姿そのものは変わらずに、しかし、その身に内包されていた神秘が暴走し、ヒナの身体が徐々に変質していく。
小鳥の時とは異なる顕現。それは、ヒナの神秘が『小鳥とは別物』である事を意味していた。
「すまない……もうこの世界はどうする事もできねぇ……もう、私の管理下から完全に切り離されちまった。単純な神秘の質で負けちまった……嘘だろ。そんな馬鹿な事があってたまるかよ。こんなの……無理だろ……」
そう言って、レン・テラーはフラフラとした足取りでその場を後にする。
もう、何もかもが手遅れだ。この状態になってしまった以上、もう手を加える事など出来ない。
ヒナの神秘は、もうレン・テラーの知る神秘とは『別物』なのだ。
「あぁ……くそ……私はまた、結局道を違えちまったってのか」
最初のレンと同じく、選択肢を違えた。
一発の銃弾と同じく、味方にした筈の仲間の暴走により、この世界が正史と結びつき、そして暴走の果てに……。
「私は、また姉ちゃんを殺しちまうのか……」
その事実に、レン・テラーはただ絶望する事しかできなかった。
しかし、そんなレン・テラーの前にレンが立ちふさがり、行く手を阻む。
「……バカか私? まだ、やるべき事は残ってんだろ」
そう言って、レンは自身の神秘を発現し、起こり得る未来を予測する。
「思い出せ。私達がどうして黒服と手を組んでいたのか。そもそもだ。この未来は予想していた筈だ。その為に、小鳥に協力したのを……私は忘れてたのか?」
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