―貴女は……私の敵なの?―
その言葉が、小鳥の心を大きく揺さぶる。
言葉にして告げたい。私は貴女の敵ではないと。
それでも、事実から目を逸らす事が出来ない。どれだけ否定しようと、それこそが事実なのだから。
しかし、次の瞬間、先程まで目尻に涙を浮かべていたヒナの表情が変化し、そして、その表情が……小鳥のよく知る顔へと変わっていった。
「そう……良かった……」
「…………え?」
突然の言葉に、小鳥は目を見開く。
「そんな悲しそうな顔をする貴女が、私の敵である筈がない。少しずつ、思い出してきた。貴女はそう……小鳥は本当に、すぐに顔に出るんだから」
先程までとは打って変わって、ヒナは柔らかな笑みを浮かべている。
「良かった……思い出せて。なんで私は、小鳥の事を忘れてたんだろう。本当に、いったいなんで……」
徐々に小鳥の記憶が蘇りつつあるのか、ヒナは心から安堵した表情を浮かべた。
「小鳥……ごめんね。私のせいで、貴女を傷付けてしまった」
記憶が蘇る事で、小鳥の考えている事が理解できる。
何故、彼女が自分の事を敵であると誇示したのか、その意味を、ヒナは改めて理解した。
そうだ、小鳥はそういう子だ。
この世界……レンと名乗るあの子が提示した条件でヒナは先生の専属となった。
上手く言葉には出来ないが、この世界はきっと、本来ではありえない世界なのだろう。
そして、その世界で幸福な時を過ごしたヒナにとって、小鳥の行動はきっと、自分の事を『敵』であると認識せざるをえない立ち位置にいたのだろう。
そうでなければ、小鳥が自分の感情を押し殺してでも、自分に敵対する事などありえないのだから。
小鳥は優しい子だ。誰よりも他者を思い、そして、誰よりも自分に厳しい子だ。
自分が傷付く事を厭わず、他者を守る為に行動できる優しい子なのだ。
そんな小鳥を……なんで忘れていたのだろう。
それでも、思い出す事が出来た。
こんなにも嬉しい事はない。
こんなにも喜ばしい事はない。
こんなにも……こんなにも……。
それなのに、何故だろう。嬉しい筈なのに……幸せな筈なのに……。
頭痛が止まらない。
刹那、ヒナの神秘が暴走し、ヒナの意識を飲み込んだ。
「ヒナ委員長!!」
小鳥が手を伸ばし、ヒナを助けようとする。しかし……。
『それ』は小鳥の差し伸べた手を弾き、そのままゆっくりと、ヒナの意思を、肉体を侵食する。
ヒナの内に秘める神秘。その神秘が、ヒナの肉体を、精神を、魂さえも支配する。
神秘が顕現する。ヒナの内に秘められし神秘が。
フェネクスすらも超える神秘が、キヴォトスに顕現する。
最悪のタイミングで、しかし、フェネクスと同じ悪魔であれば最高のタイミングで、ヒナの神秘はこの世界に顕現したのだ。
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