風紀の狂犬   作:モノクロさん

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不死川 小鳥の物語

 不思議な感触が身体を包み込んだ。

 

 何処までも優しく、そして温かい。まるで母親の胎内にいるような安心感がヒナを包み込む。

 

 『再生』の概念の弾丸は、確かにヒナへと着弾し、その神秘をヒナの肉体に浸透させてゆく。

 

 それは、ヒナの持つ神秘による浸食と比べれば、その効果は微々たるものだった。

 

 しかし、必要なのは神秘の効果ではない。それはあくまでもきっかけであり、必要なのはヒナ自身が神秘に抗う力なのだ。

 

 事実、『再生』の概念の弾丸を受けたヒナは、徐々に神秘に蝕まれていた肉体を元の状態へと回復しつつあった。

 

 頭痛は治まり、意識も徐々に覚醒し、そして……。

 

『良かった……ヒナ委員長』

 

 声が聞こえた。とても懐かしく、とても安心する声。

 

『また……貴女に会えて良かった』

 

「小鳥……小鳥なの?」

 

『……はい。そうです。良かった。本当に良かった』

 

 小鳥が安堵したような声を漏らす。

 

「ごめんね……心配かけて」

 

『いいえ、大丈夫です。ヒナ委員長が無事だったならそれで……良かった。それだけで本当に良かった』

 

 本当に嬉しそうに、そして自分自身が救われたとでも言いたげに、小鳥の歓喜に満ちた声が響き渡る。

 

『これで安心していく事が出来ます』

 

「……え?」

 

 それは、唐突に告げられた一言だった。

 

「待って……何を言っているの? そんな別れみたいな事……」

 

『いいえ、『私』とは此処でお別れです。ですが大丈夫です。きっと……きっとまた会えます』

 

 その一言に、ヒナは困惑する。

 

「待って、小鳥……貴女は……」

 

 そんなヒナの困惑を置き去りにするように、『小鳥』が言葉を紡ぐ。

 

『ヒナ委員長……また明日……また明日……』

 

 それは叶う事の無かった彼女の結末。

 

 しかし、その結末は覆された。

 

『明日』を願う彼女の想いが……果たされぬ筈だった約束が、この世界で果たされたのだ。

 

「うん……また明日」

 

 そう言って、ヒナの意識が覚醒される。

 

 シャーレの建物の前、柔らかな感触を後頭部に感じながら、ヒナは瞳を開いた。

 

「おはようございます。ヒナ委員長」

 

 その瞳が映し出したのは、小鳥の姿だった。

 

「おはよう。小鳥」

 

 ヒナがそう告げると、小鳥は嬉しそうに微笑んだ。

 

 その笑顔を見て……ヒナも嬉しそうに微笑んだ。

 

「ねぇ、小鳥」

 

「はい、なんですか? ヒナ委員長?」

 

「……ありがとう」

 

 ヒナの一言に、小鳥は柔らかく微笑んだ。

 

 それは、選択肢を違え、過ちを犯した彼女が唯一、為し得た事。報われた瞬間でもあった。

 

 再び切り離されゆく世界。しかし、此処にいるヒナは正史の世界線のヒナと変わりない。切り離され、消滅すると共に、もしかしたらこの記憶はなくなるかもしれない。

 

 それでも、小鳥が為した結末は変わらず、そして彼女の思いは確かに届いた。

 

 これは彼女1人の成果ではない。

 

 多くの人々の協力の元、漸く掴み取った奇跡の一端。

 

 『時』を司る神秘の所有者ですら見通す事が出来なかった奇跡の道筋を進む事が出来た彼女の……不死川 小鳥の物語である。




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