風紀の狂犬   作:モノクロさん

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ヒナとお出かけ 前編

 夜、人気のないゲヘナ近郊を歩く小鳥。

 

 静まり返った住宅街。銃声や爆発音が一切ない。そんな、普段と違った平穏な街並みを歩く小鳥の正面から、誰かが歩いてきた。

 

「こんばんわ、小鳥。珍しいわね」

 

 落ち着いた声。ヒナの声だ。その手には何時も所持しているMGではなくリードが握られており、紐の先には四つん這いで歩く行政官の姿。

 

「おや、これはこれはヒナ委員長。この様なお時間にお散歩でありますか?」

 

「えぇ、この時間は静かだから、よく散歩しているわ。小鳥も?」

 

 ヒナの質問に対して肯定で返した小鳥は、両手で抱きかかえたカスミを見せ、にっこりと笑みを浮かべた。

 

「はい、最近飼ったばかりなので、右往左往しましたが、漸く懐いてくれました」

 

 見て下さい。こんなにプルプル震えてチワワみたいですよと。腕の中で震えるカスミをヒナに見せると、カスミは必死に首を横に振っていた。

 

「あら、珍しいわね。確か、カスミってペットとして飼うのは大変って聞いてたけど、小鳥はカスミと仲良くなれたのね」

 

 そんなカスミの事など気に留めずにヒナがそう言うと、小鳥は嬉しそうに笑いながら首を縦に振った。

 

「いえいえ~愛情を注いで躾をすれば、どんな子も良い子になりますよ。ねぇ~カスミちゃん」

 

 そう言って優しく頭を撫でると、カスミはプルプルと震えながら目から涙を流す。いったい、カスミはどのような躾をされたのだろうか?

 

「そう言うヒナ委員長もアコちゃん輩先の躾がしっかりと……」

 

 そう言ってアコの頭を撫でようとすると、歯を剥き出しにして威嚇を始めるアコちゃん輩先。

 

「こらっ、アコ……お座り」

 

「……クゥン」

 

 ヒナの一言で直ぐにお座りするアコちゃん輩先。しかしその目は恨めしそうで、小鳥に対しての敵意が目に見えて分かる。ヒナは、そんなアコちゃん輩先を優しく撫でると、リードを持ち直した。

 

「ごめんね。アコは私には懐いてるみたいだけど、まだ他の子達の前だと厳しいみたい」

 

「仕方がありませんよ。アコちゃん輩先の躾もかなり大変と聞いてますので」

 

 寧ろ、此処までしっかり躾をしているヒナの手腕に、小鳥は賞賛の言葉を送った。

 

「そうかしら? この子、飼い始めた時から大人しかったから、特に大変と思った事はないわよ?」

 

 そのかわり、他の人が近付くと威嚇するという問題が後から発覚した為、最初の段階での躾が遅れて、今でも注意しないとアコちゃん輩先は人に懐かないらしい。

 

 その話を聞いて、小鳥はフフッと微笑んだ。

 

 ヒナ先輩でも失敗はするのだなと、何処か完璧超人を思わせるヒナの思わぬ一面に気付いたと、小鳥は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ではでは、あまり長時間外に出しているといけないので、私はこれで失礼させて頂きます。ヒナ委員長はもう少し散歩を?」

 

 小鳥の言葉に、ヒナは顎に手を当てて少し考えこむと、微笑みながら小さく頷いた。

 

「そうね、まだトイレも終わってないから、もう少し散歩を続けるわ」

 

 アコはカスミと比べると大きい。色んな意味で大きい。トイレは外で済ませないと大変なのだろう。

 

 その点、カスミは大丈夫だ。この間、仕事後に購入した動物用のおむつがまだ残っている。

 

「それではヒナ委員長。また明日。アコちゃん輩先もまた明日ぁ~」

 

「グルルルルルルル……ワンワンワンッ!!」

 

「こらっ!! アコ、ステイ!!」

 

 ヒナの制止も聞かず、小鳥の後姿に向かって吠えるアコちゃん輩先。対してカスミは、小声で『タスケテ……タスケテ……』と、ヒナ……ではなく、リードに繋がれたアコちゃん輩先に向かって吠えていた。

 

 ははは、全く、カスミちゃんは不思議な鳴き声で吠えますなぁ。はっはっはっはっは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーテン越しに漏れ出た光に、小鳥は目を覚ました。

 

 時計を見ると、まだ早朝の5時前だ。学校に行く時間でもない。二度寝をしようと瞼を閉じるが、小鳥は思い出したかのように飛び起きた。

 

 昨日の夜、カスミと散歩をしていた時の出来事を……。

 

 ベッドの横を見る。するとそこには、誰もいなかった。

 

「……あぁ、そっかぁ。夢でありましたかぁ」

 

 そういえば、カスミは少し前に逃げ出したのだった。まぁ、逃がしたとも言うのだが。

 

 そもそも、先程のヒナとの遣り取りは夢だ。カスミは兎も角、アコちゃん輩先が犬の様に四つん這いで散歩させられるなんて……いや、ヒナが相手ならば有り得るか?

 

 アコちゃん輩先が……ヒナ先輩に……。

 

 小鳥は、そこまで考えて思考を停止した。変な夢を見たせいか、身体が妙に怠い。取り合えず二度寝しよう。

 

 そう思いながら、視界の端に映った動物用のおむつを見て、『ふむっ』と呟いた。

 

「まだ半分、残ってるんだよなぁ」

 

 勿体ないと思いつつ、使い道がない。また、カスミを捕らえた時に……いや、流石にバレたら拙いな。

 

 小鳥はおむつを片付けると、再び布団に潜り込んだ。夢の続きを見ようと……そして、ヒナの事を思いながら微睡む意識の中、ふと、ある事を思い出した。

 

 そういえば、大分前にお出かけの誘いをしていたような。それに対して、少しの時間ならと了承を得ていた筈。ならば……。

 

「そうだ……今後、ヒナ先輩を誘って遊びに行こう」

 

 それだけ呟くと、小鳥の意識は夢の中へと吸い込まれた。




沢山の感想・評価ありがとうございます。
凄く励みになっています。
今回は前編・後編に分けての投稿になります。
次の更新も楽しみにして頂けると幸いです。
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