ゲヘナの正門前、特に出動する事も無く、待機していたイオリは、最近、温泉開発部が活動していない事に気付き、最後の活動を確認していた小鳥に問い掛けた。因みに今日の小鳥は非番だ。特に予定も無く、正門前で待機していたイオリと談笑していただけである。
「なぁ、最近、温泉開発部の奴等に動きがないんだが、何か知ってないか?」
「……いやぁ、知らないでありますなぁ」
「おい、今の間はなんだ? 何か知っているんじゃないのか?」
「あっはっは。本当に知らないでありますよ」
他愛のない遣り取り、温泉開発部の部長であるカスミが、暫く行方不明であったことも知らないし、その後、心神耗弱状態で発見された事も知らない。彼女はただ……少しの間、お泊りをしていただけである。
きっと、外泊疲れで活動を一時的に中断しているだけだ。そんな事を思いながら、『まぁ、温泉開発部が動かない分、風紀委員の出動頻度も減るから、ラッキーでありますな』等と暢気に考えながら、イオリと他愛ない話に華を咲かせていると、此方に近付いてくる人影が一つ。
誰だろうとその人物を凝視すると、それは見間違う筈もない。シャーレの先生であった。
シャーレの先生が何故此処に?
彼は今、アビドス高等学校にいる筈。それが何故、ゲヘナに?
(何か問題が起きた? ゲヘナに……他校を頼らざるを得ないくらいに?)
それとも、何か別件で用事があったか。であれば、其方の方が断然良いのだが。
イオリも気付いたらしく、訝し気にシャーレの先生をジッと睨み付け、警戒している様子。
そんな二人の視線を他所に、先生は二人に向かって話し掛けた。
内容はヒナに会いたい。話したい事があるというものだった。
「はぁ? 風紀委員長に会いたい? 事前の連絡も無しに会えるとでも思っているのか?」
イオリと先生が押し問答を繰り広げる。互いに一歩も譲らない様子だ。余程切羽詰まっているのか、先生は中々引き下がらない。
「まぁまぁ、イオリちゃんも、先生が態々ゲヘナまで出向いて来たのです。少しだけお話を聞いても良いのでは?」
あくまで非番であるが故に、嗜める程度に留める小鳥に、イオリは仕方なしといった表情で『ハァ……』と息を吐き……。
「そうだな。じゃあ土下座して私の足でも舐めたら……」
イオリが言い切る前に、シャーレの先生が彼女の前で膝をつき、足を……足を……舐め……。
「……えっ?」
シャーレの先生がイオリの足を舐めている。土下座して、足を……イオリの足を。
イオリも先生の奇行に顔を真っ赤にして驚愕し、困惑の色を隠せないでいる。
「ちょっ、まだ話の途中……んっ!! ちょっと!!」
人としてのプライドも何もかもかなぐり捨て、ヒナに会う為にイオリの言葉に従う先生に、小鳥は困惑しながら、どうしたものかと混乱する思考の中で考える。
取り合えず、拘束すべきか? いや、今の私は非番だった。非番の日は何もしない。でも、目の前でイオリの足が……。この場合はどうすればいいのだ? 私も一緒にイオリの足を舐めるか? いや、しかし……。
「何だか楽しそうね?」
そこまで考えた辺りで、小鳥とイオリの背後から声が聞こえた。
「い、委員長!!」
「ヒナ先ぱ……委員長」
ヒナの声にハッとなる小鳥だが、先程のヒナの発言。
楽しそう? イオリの足を舐める事が? いや、違う。丁度ヒナの立ち位置からは見えないのか。
ヒナ目線では先生がイオリの前で土下座しているだけの様に見えるだけなのだと知り、心から安堵する。
「自分の望みの為に膝をつく姿なら、これまで何度も見てきた。でも、生徒の為に跪く先生を見たのは初めて」
顔を上げて欲しい。そして言ってほしい。私に何をしてほしいと問い掛けるヒナに、イオリは顔を真っ赤にしながら、先生は跪いているのではなく、足を舐めていると恥ずかしそうに言った瞬間、少しだけ自分の思っていた状況と違った事に気付いたヒナが顔を真っ赤にしながら『っ!!!!』となった表情はとても良いものだった。
先生から話を聞き、咳払いを一つ。アビドスの現状を知り、助けが必要と聞いたヒナは、後の事は任せてと先生に言って、その場は解散となった。
「小鳥、お願いがあるんだけど」
風紀委員会本部に戻るヒナの後を追う小鳥とイオリ。イオリは舐められた足をハンカチで拭きながら、今も顔を真っ赤にしている。対して小鳥は、足の件は兎も角、生徒の為に我武者羅になっていた先生に対しては好印象だ。
少なくとも、彼の手助けをしたいと思うくらいに。
「ヒナ委員長。今日の私は非番です。今日の私は、風紀委員としてではなく、自由に動く事が出来ますよ」
「そう、ありがとう」
「いえいえ~。それに、先生と交流を持ついい機会でもあります。ヒナ委員長もそうではないですか?」
「えぇ、そうね。過程は兎も角、生徒の為……というのは間違いなかったし」
先程の事を思い出して、またも顔を赤めるヒナに、小鳥も苦笑しながら隣を歩くイオリに声をかけた。
「勿論、イオリちゃんも参加しますよね? 先生にあそこまでさせたのですから」
「う、五月蠅いなぁ!! 分かっているよ!!」
少し意地の悪い笑みを浮かべて、イオリを揶揄う小鳥に、イオリは先程以上に顔を赤くして怒りを露わにするが、参加する意志を示す。
ヒナに小鳥にイオリ。単純な戦力としては十分すぎる戦力だ。
そこにサポート役にチナツとアコも誘えば盤石だ。
後は、アビドス自治区に赴く為の理由も欲しい。流石に、小鳥は顔を隠せばいいが、イオリやヒナはゲヘナの風紀委員としての知名度が高い。下手に干渉した事を追及されれば色々と問題だ。
此処は一つ、使える手は使うに越した事はない。
「ヒナ委員長。実はですね、ちょっと協力してもらいたい組織に心当たりがあるのですよ」
「……そう、いいわよ。彼女達に協力を要請して頂戴。この件は、私より、貴女から連絡した方が良いでしょうから」
「はい~。ではでは、早速……」
そう言って携帯を取り出し、番号を入力する。少しして、相手が出た様だ。
「ハロハロ~。久し振りでありますなぁ。小鳥ちゃんでありますよ。え? 何で番号を知ってるですと? あっはっは、風紀委員会の情報部の力は偉大なりぃ~ってやつですよ。アルちゃん」
電話の相手は便利屋68の社長。突然、風紀委員会の小鳥から電話がかかって来た事に驚いてはいたが、小鳥と言葉を交わす内に、次第に落ち着きを取り戻して行った。そして、依頼の内容を小鳥が説明すると、二つ返事で了承してくれた。
要件は済んだと言わんばかりに電話を切った後、小鳥はニコリと笑みを浮かべた後、ヒナに向かって親指を立てて、了承を得た事を示した。
「無事に依頼完了であります。それではヒナ委員長。急ぎアビドスに行きましょう。校則違反者の便利屋68がアビドスにいます。風紀委員会として、彼女達の身柄を抑えなくては」
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美食研究会も追々……
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