風紀の狂犬   作:モノクロさん

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先生と守りたい者 後編

「それじゃあ、そろそろ行こっか」

 

 支度を整えたムツキが、アルに向かってそう言う。

 

「……社長。本当に行くの? 今回の依頼、私達には何のメリットもない。しかも相手は風紀委員会。いや、あくまでも、風紀委員会に所属する、小鳥ちゃんの依頼だよ」

 

 対して、同じく準備を整えたカヨコが、アルに苦言を呈する。

 

 少し前に、小鳥からの依頼を受けた便利屋68だが、その内容はあまりにも破綻していた。

 

 アビドスを助けたい。先生に頼まれた。便利屋68にも協力して欲しい。

 

 具体的な内容は、カイザーコーポレーションに所属するPMC達を風紀委員会が到着するまで足止めしてほしいという事だ。

 

 一見すると、風紀委員会と共闘してアビドスを助けようという内容。しかし、自分達は校則違反者で、共闘相手が風紀を守る風紀委員会だ。

 

 一時的な結託の後、拘束されてもおかしくはない。いや、風紀委員会は拘束に躊躇いはしないだろう。

 

「小鳥ちゃんは風紀委員会を動かす理由が欲しいだけ。その上で都合が良かったのが私達便利屋だった。態々PMCと戦う上に捕まるなんて馬鹿げてる。こんな依頼、無視した方が良いと思うよ」

 

 カヨコの言う事は尤もだ。小鳥個人が内密に依頼するのであれば、まだ話しは分かる。

 

 彼女は、プライベートでは中立の立場を崩さない。しかし、今回の依頼は、風紀委員会の立場としての小鳥が依頼している。

 

 この場合、小鳥は最終的に、風紀委員の立場として、自分達を拘束するのではないか。その事をカヨコは懸念していた。

 

 しかし、ムツキはアルの表情をジッと見つめた後、小悪魔的な笑みを浮かべて言った。

 

「カヨコちゃん。アルちゃんはそれすらもお見通しだよ。あの顔を見ればわかるでしょ? 『その時はその時。私達に敵対するならPMC諸共やってやる』って、今にも言い出しそうじゃん」

 

「小鳥ちゃんだけでもきついのに、ヒナもいるとなると、流石に無理じゃ……え、本気?」

 

「…………」

 

 ムツキの言葉に、一瞬、目を見開き、頬を汗が伝うのを感じるアルだったが、今度はハルカがその場の雰囲気を悪い意味で察して、歓喜の声を上げる。

 

「な、成程。流石アル様です!! PMC諸共、風紀委員会を血祭りに上げるのですね!! その為に依頼を承諾した振りをしたのですね!! 分かりました。私も、アル様みたいなアウトローになる為に、今度こそ小鳥ちゃん諸共、全部消して見せます!!」

 

 期待の眼差しで見つめられ、アルはびくりと身体を震わせながらも、気丈に振る舞う。此処で弱気になってしまえば、アウトローらしくない。

 

「…………ふふっ。カヨコ。ムツキとハルカはやる気みたいよ。私と一緒に地獄の底までついてくる覚悟は出来たかしら?」

 

(社長、正直にそこまで考えてなかったって……言える筈ないか)

 

 心の中で溜息を吐きながらも、カヨコはハルカが暴走しないよう、見張っていなければと決意する。

 

(ど、どうしてこうなってしまったの……アビドスを助けたいから協力してほしいって、あの小鳥ちゃんが言ってたから、それに乗っただけなのに)

 

 軽いノリではあったが、アビドスを助けたい。先生に頼まれた。協力してほしい。合流したら保護する。といった内容だったから承諾した。

 

 しかし、カヨコの指摘を聞いて、その可能性に至ったアルだが、ムツキが話を誇張してハルカを焚き付けたお陰で引くに引けない状態になってしまった。

 

(ど、どうすればいいのよこの状況。流石に小鳥ちゃんとヒナを相手にするなんて無茶よ。絶対無理!!)

 

 今からでも逃げ出したい。しかし、アビドスの事も気になるし、一度依頼を受けた以上、此方の勝手な想像で反故にするのは筋が通らない。ただ、今回の相手はPMC。そこに風紀委員会も加われば勝敗なんて目に見えている。

 

 色んな感情がごちゃ混ぜになった状態で、何を言っていいのか分からず、その場で固まっているアルを他所に、三者三葉の反応を示す三人。

 

 その中でムツキは、益々面白くなってきたと思いながら、アルに早く出発しようと急かし、アルは、もうどうとでもなれと思いながら、指定されたポイントへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在、シャーレの先生の指示のもと、指定されたポイントに到着したヒナ達は、一個大隊に相当するカイザーPMCの部隊を前に、戦闘態勢を整えていた。

 

「わっはぁぁぁぁ……これはこれは圧巻でありますなぁ。数は一個大隊といった所でありましょうか?」

 

「そうね。恐らく此処以外にも部隊を展開していると思うから、数はこれ以上といった所かしら?」

 

「ははっ。良いですね良いですねぇ。これはやりがいがあるでありますなぁ」

 

 数の差は歴然。敵のカイザーPMCが一個大隊に対して、ヒナ達はサポートのアコを含めて5人。

 

 圧倒的不利な状況であるにもかかわらず、小鳥の笑みは消えない。それどころか、先程よりも歓喜の色が濃くなっている。

 

「さてさて、アルちゃん達もその内ドンぱちするでありましょうから、此方は此方で既成事実を作るとしますかねぇ」

 

 愛銃を片手に、無警戒にカイザーPMCのもとに行こうとする小鳥。

 

 そんな小鳥に、ヒナは呆れ気味に吐息を漏らすと、彼女の背中に向かって命令を下した。

 

「やり方は任せるわ。でも、これだけは言っておく……」

 

 その声色は真剣そのもの。立ち止まってヒナへと振り返った小鳥は嘴の付いたマスクを取り出すと、それを嬉しそうに弄りながら、ヒナの言葉を待った。

 

「遊んじゃダメ。全て狩り尽くしなさい」

 

 ヒナがそう命令すると、小鳥は待っていましたと言わんばかりに嘴の付いたマスクを装着した。

 

「りょ〜かい。で、あります」

 

 トントンと、愛銃で肩を叩きながらカイザーPMCの前に立つ。銃口が自身に向けられているにも関わらず、小鳥は他人事の様に笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ハロハロ〜カイザーPMCの皆様。私はゲヘナ学園風紀委員会の不死川 小鳥であります。以後、お見知り置きを」

 

 自ら素性を明かす小鳥に、カイザーPMCの一行は、より一層警戒態勢に入る。

 

 そんな中、一人のカイザーPMCの兵士が前に出て問い掛けた。

 

「ゲヘナの風紀委員会が何のようだ。此処が何処か分かっているのか?」

 

「さぁ、アビドスの自治区である事くらいですかねぇ」

 

「その認識だったら訂正する事だ。此処はアビドスの自治区では……」

 

「あはは、此処が何処であろうと関係ないですよ。私達はただ、我が校の校則違反者達を匿っている貴方がたに用があるのですから」

 

「なんだと?」

 

 小鳥の返答に、カイザーPMCの兵士達はどよめき立つ。

 

「我々は貴方がたカイザーコーポレーションの関係者がゲヘナの生徒を匿っている事を把握している。今すぐに彼女達の身柄を渡してもらおうか」

 

「何を言っているのか分からない。確かに一時期雇ってはいたみたいだが、既に契約は破棄されて……」

 

「成程、知らぬ存ぜぬと。本当にその理屈が通るとお思いで?」

 

「知らん!! 変な言い掛かりをするなら、此方にも考えがあるぞ!!」

 

 問答を繰り返すカイザーPMCの兵士が銃口を小鳥に突き付けた。その指が、引き金に掛かろうとした時、小鳥は目を細めてフフッと笑った。

 

「良いね」

 

 マスク越しで彼女の笑みが見えた者はこの場には誰一人いない。しかし、カイザーPMCの兵士は直感した。自分は手を出してはいけない相手に喧嘩を売ってしまった事に。

 

 銃声が響き渡り、カイザーPMCの兵士の身体が宙を舞う。

 

 それを見た兵士達は即座に行動に移したが、その時には既に二発目の銃声を以って、また1人の犠牲者が生まれた。

 

 そこから先は阿鼻叫喚の地獄絵図と成り果てた。銃弾飛び交う最前線。小鳥は全身にそれらを浴びながら1人、また1人と兵士達を確実に仕留めていく。

 

「な、なんだこいつ!! 化け物か!!」

 

「無駄口を叩く暇があったら撃て!! 多少頑丈でも、撃ち続ければ……っ!!」

 

 動揺する兵士を激励する指揮官クラスの兵士だったが、小鳥が眼前に迫った瞬間、彼の思考が一瞬だけ停止した。

 

 弾切れなのか、銃を持ち直し、それを高らかに振り上げている。次の瞬間、頭部に走った衝撃と共に、彼の意識は刈り取られた。

 

「お、おい!! しっかりしろ!!」

 

「くそったれ!! やってやらぁ!!」

 

 仲間が次々とやられていく中、なんとか小鳥を止めようと兵士達が殺到するも、今度は小鳥の後方から放たれた銃弾に、多くの兵士が薙ぎ倒されていく。

 

 小鳥はあくまで囮だ。前線で縦横無尽に暴れ回り、混乱する敵陣をヒナとイオリの支援射撃で更に掻き乱す。

 

 ヒナもイオリも、自分達の銃弾が小鳥に被弾する事も厭わない。同士討ちという概念を捨てた射撃は、カイザーPMCの兵士を一方的に蹂躙していく。

 

 唯一心配する事は、何時も以上に、弾薬を消費している事くらいだろう。

 

「小鳥ちゃん大丈夫かな? あれだけばかすか撃ってたら弾なんて直ぐに……」

 

「問題ないわ。小鳥は弾切れなんて起こさない。だって、弾入りの銃なんて目の前に沢山転がってるもの」

 

「え、あぁ、そう言う事か」

 

 何時の間にか、小鳥の手には愛銃はなく、代わりにカイザーPMCの兵士達が所持していた銃が握られている。

 

 倒れた兵士達の銃を拾っては利用して、弾切れになれば鈍器として使い潰す。その繰り返しで攻撃の手を緩めない。ヒナとイオリの援護射撃もあり、兵士は倒れ、武器も転がる。武器弾薬に不足は無い。

 

 そんな中、カイザーPMCの兵士達も、戦力の出し惜しみは悪手と捉え、戦車や戦闘機を前線に投入し始めた。

 

 兵士では手に負えないと見たのだろう。戦車が主砲を放ち、戦闘機から機関銃やミサイルが放たれる。

 

 機関銃に全身を穿たれ、ミサイルや主砲は被弾せずとも、衝撃で吹き飛ばされる。

 

 しかし、ミサイルや主砲による土煙が晴れると、そこには無傷とは言えないものの、平然とした様子の小鳥が佇んでいた。

 

「……良いね」

 

 そう呟きつつ、小鳥は周囲に転がっているカイザーPMCの武器を手に取る。

 

 カイザーPMCの兵士がいる限り、武器や弾の心配はない。いくらでも補充できる。例え戦車であろうと、戦闘機だろうと、いずれは自分達の武器によって破壊される。

 

 小鳥は、カイザーPMCの兵士を狩り尽くすまで止まらない。

 

 恐怖からか、1人の兵士が逃げ出そうとした。しかし、次の瞬間にはヒナやイオリの援護射撃で撃ち倒される。

 

 逃げ場はない。

 

 ヒナやイオリに近付こうものならそれを察知した小鳥がその背後を狙い、遠方からは、敵の動きが良く見える3人の支援によって、カイザーPMCの兵士達は蹂躙された。

 

 援軍を要請するも、返事は無い。

 

 遠くから聞こえる砲撃音。この音は聞き覚えがある。トリニティの牽引式榴弾砲による支援砲撃だ。

 

 シャーレの先生による要請に駆け付けたのだろう。恐らくはアビドスの生徒達を支援する為に。

 

 トリニティも先生に恩を売っておきたいといった所か。それでも良い。少しでも戦力がバラけてくれた方が、やりやすいというものだ。

 

 更に別の所からも戦闘が始まっている。この音は便利屋68か。

 

 風紀委員会と合流するまで、敵の足止めをと依頼していたが、彼女達も、アビドスを支援する為に行動している筈だ。

 

 先ずは彼女達と合流して残存勢力を殲滅するのもありか……。

 

 小鳥はマスク越しに、ペロリと唇をなめた。戦況は目まぐるしく変化する。カイザーPMCも流石に状況を不利と判断したのか、撤退を開始した。

 

 逃げる兵士と、徹底抗戦を見せる兵士達。指揮系統も分断され、各々が独断で行動しているのだろう。

 

 その中で、徹底抗戦を見せている部隊は、恐らくカイザーコーポレーションの理事直属の部隊か。

 

 引くに引けない状況の中での徹底抗戦とは、敵ながら同情を禁じ得ない。

 

 あそこに便利屋68もいるのだろう。粗方兵士達を撃ち倒した小鳥は、彼女達を迎えるべく、未だ戦闘音が鳴り響く戦場へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハロハロ〜お久し振りでありますなぁアルちゃん」

 

 理事直属のカイザーPMC兵士達が徹底抗戦する中、彼等の背後を強襲する形で、小鳥は姿を見せた。

 

 カイザーPMCの兵士達も小鳥の登場に驚くが、それ以上に同じ方角から現れたヒナ達の姿に驚愕していた。

 

 ヒナ達がいた方角には一個大隊に相当する兵が配備されていた筈。それを彼女達だけで突破してきたというのか?

 

 カイザーPMCの兵士達が動揺する中、小鳥は手近な兵士に銃口を向け、マガジンが空になるまで撃ち続けた。突然の奇襲に、兵士達も対応が遅れる。その間に小鳥は弾倉を交換。そしてまた1人兵士を仕留める。

 

 更にヒナやイオリの援護と、風紀委員会の最大戦力と便利屋68の挟撃という形の連携は、流石のカイザーPMCも対応が間に合わず、1分と掛からずに最後の1人が倒れた。

 

 敵を殲滅したと、漸くほっと一息をついた小鳥は、ボロボロになっているアル達に近付き、マスクを外した。

 

「ア〜ルちゃん!! お疲れ様でありました。怪我はないでありますか?」

 

 満面の笑みを浮かべながら、アルの身体をペタペタと触る小鳥。アルは困惑しながらも、皆が無事なのを確認して、緊張の糸が切れたのか、その場にぺたんとへたり込んだ。

 

「あららぁ……やっぱり中々のハードな依頼でありましたからなぁ。どうですか? もし、この後、予定がないのでしたら、ゲヘナまで送りますよ」

 

 護送車ですが、扱いはVIP待遇ですと提案する小鳥だが、護送車で送られるのかと、少し困惑気味だ。

 

「まぁ、護送車に乗るのは勘弁かもでありますが、大勢を乗せるにはこれしかなかったのであります。そこはどうかご了承を。それと、私個人の意見ですが、アルちゃん達には感謝しているのでありますよ。私達も私達なりに動ける理由が欲しかったでありますから」

 

 カヨコが指摘した通り、風紀委員会を動かすのであれば、それなりの理由が必要だ。その理由として、校則違反者であるアル達便利屋68を利用したのは事実。そこは申し訳ないと思っているが、頼めるのは彼女達しかいなかった。

 

 そう言って謝罪する小鳥に、カヨコはアルを見つめ、どうするか問い掛ける。

 

 アルは暫し考え込んだ後、無言で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小鳥達がアル達便利屋68と共に護送車でゲヘナに向かう事を決めた一方、それを遠くから観察する人物がいた。

 

 彼こそ、カイザーコーポレーションを裏で操り、今回の事件の発端となった人物。神秘の研究と探索の名の下に暗躍する組織。そのメンバーの1人、黒服と称するその人物は、彼女達を……正確には小鳥を見て、フッと笑みをこぼしていた。

 

 今回の一件で貴重な素体。キヴォトスにおいて最高の神秘を宿すアビドスの生徒を逃し、更にはその代わりとなり得る生徒も取り逃がした。

 

 失敗に終わったと思っていた今回の件は、別の形で実を結びそうだ。

 

 あれは他の神秘とは異なるベクトルの神秘だ。彼女を研究すればあるいは、別の角度からのアプローチに繋がるかもしれない。

 

 新たな研究対象は決まった。

 

 先ずは彼女とどう接触するか。その事を考えながら、黒服はその場を後にした。




おまけ
風紀委員会メンバー内カイザーPMC総撃破結果
1位 空崎 ヒナ 敵戦力の7割
2位 不死川 小鳥 敵戦力の2割
3位 銀鏡 イオリ 敵戦力の1割




沢山の感想ありがとうございます。
凄く励みとなっています。
前回の更新から遅くなり申し訳ありませんでした。
更新速度が上がるよう頑張ります。
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