夜、ゲヘナ学園の風紀委員会本部地下、特別牢にて、便利屋68の面々が収容されていた。
普段は問題児達を一時的に収容する施設だが、今回は別件での扱いだ。
小鳥との取引でアビドスで共闘する事となった便利屋68だったが、ゲヘナに戻った後、自分達が帰る事務所を引き払っており、仮の宿泊場所として手配されたものだ。
とはいえ、上記の通り、問題児達を収容する施設。アルにとって、此処に滞在するのは窮屈で仕方ない。
「うぅ……まさか、仕方がなかったとはいえ、社員達をこんな所に押し込める事になるとは……」
「まぁまぁ、なんだかんだ言って、住めば都というものでありますよ。それに、今回は特別であります。他の問題児とは意味合いが違いますゆえ~」
落ち込むアルに、小鳥がフォローを入れる。実際、便利屋68の面々は全員が個室を宛がわれており、食事も各個人で用意されており、他の問題児とは待遇が異なる。
「それに、明日になれば釈放でありますし、風紀委員会からは今回の依頼で消費した弾薬や爆薬を全て補償。更には報酬も約束されておりますゆえ……まぁ、とはいえ、確かに特別牢で一泊は申し訳ないでありますが」
今回の一件で、便利屋68は多大なる貢献を果たした。シャーレの先生の頼みを聞く為とはいえ、風紀委員会として動くにはそれなりの理由がいる。その理由として利用されたのが便利屋68だ。
アビドスでの一件で、便利屋68の情報を情報部を通じて得ていた小鳥は、カイザーコーポレーションとの件やその後の状況を粗方把握していた。その上で、カイザーコーポレーションに一矢報いたいと予測し、共闘を提案したのだが、アルは快く了承。
一部、状況を把握していないメンバー(ハルカ)により、無防備な背後から銃床で後頭部を思い切り殴られ困惑したが、事情を聴いた小鳥は、自分の説明不足もあり、この件は水に流した。
話を戻そう。
今回、便利屋68への依頼は、あくまでも小鳥個人の依頼だ。風紀委員会の依頼ではない。
流石に風紀委員会が校則違反者と取引をしていたと発覚すれば、万魔殿に何を言われるか分かったものではない。そこで風紀委員会は、小鳥の個人的な依頼という体で今回の一件を処理する事にした。当然、報酬も小鳥個人が用意したものとして処理される。
そして小鳥が、この特別牢の中にいるのも、それが理由だ。
「ご、ごめんなさい。つい愚痴ってしまって」
「いやいや、寧ろ謝罪するのは私の方ですよ。利用したって所は正しいわけですから。その上、功労者である便利屋68にこの様な待遇。本来ならもっとしっかりした施設を提供するのが筋ってものなんですがねぇ」
私の権限では雨風をしのぐ空間と消費した弾薬の補充、そして僅かばかりの報酬しか用意できない。そう言って、苦笑を浮かべる小鳥に、アルは慌てて大丈夫と返した。
その反応に、小鳥は優しい娘だなぁと思いつつ、ベットに横になりながら天井を見上げていると、同じく特別牢に収容されたカヨコが問い掛けた。
「まぁ、処遇に関しては立場上、仕方はないと思っているけど、それでも、この待遇は些か異例が過ぎるんじゃないかな?」
カヨコの問いに、小鳥の目がスッと細まる。
「アビドスを助けたいって先生からお願いされたって言ってたけど、それならシャーレの権限を使って他の自治区に赴いたと公言すればそれでいい筈。少なくとも、あの先生ならその言い分を認めるし、その事を万魔殿にとやかく言われる筋合いはないと切り捨てる事も出来た」
なのにそれをしなかった。対して、トリニティはどうだろうか。アビドスとは深い関りがなかった筈。先生の要請で動いたという意味ではゲヘナもトリニティも変わらない。唯一の違いは大義名分。
トリニティは、自校の生徒がカイザーコーポレーションに対して悪い影響を受けているという理由と、もう一つは先生に貸しを作る名目で動いたのは間違いない。
ゲヘナは、生徒会ではなく風紀委員会が動き、動く名目として、校則違反者がカイザーコーポレーションに雇われているからそれを捕まえる名目で動いた。
トリニティと同様に、貸しを作る名目もあったのは間違いないが、それなら態々便利屋68を経由する必要はない。その理由を問い掛けるカヨコに、小鳥は暫し思案し、口を開いた。
「理由なんて簡単でありますよ。この件で先生に貸しを作り、便利屋68とは繋がりを得たかった。勿論、先生の方は風紀委員会や生徒会含めて、先生に取り入りたいって所はありますがね」
報酬次第で自由に動ける人材が。それも、ヒナのいない風紀委員会とやり合える実力者揃いの便利屋68に繋がりを持ちたかったと、小鳥は答えた。
「私にとって、アビドスの生徒の事は……そうですね。情報でしか彼女達を知らないので何とも言えません。ですが、シャーレの先生は違います。彼の権限は、もしかするとエデン条約にも影響を及ぼすかもしれないのですから」
アビドスの生徒達との遣り取りを見た事で、悪影響を及ぼす事は無いとは理解できても、予防線を張らない理由にはならない。
何故なら、先生個人がエデン条約に影響を及ぼすのではなく、先生を巡って、エデン条約に影響を及ぼす可能性がある。それが自校のものなのか、それとも他校のものなのかは定かではないが、使える戦力は、最大限に活用しなければいけない。
それが例え、校則違反者であろうとも。立場的に相容れない相手であろうとも。
ヒナ委員長が進めるエデン条約を成功させる為なら、使える手札は全て使い切る。その為の懸け橋として、便利屋68と共闘に及んだのだ。
隠し事は苦手だ。問われたら答えなければならない。腹に一物抱えていると思われれば、信用されていないと同義だ。故に、小鳥は全てを明かした。自分が持つ手札を余すことなく使う為に便利屋68に白羽の矢を立てた……いや、利用したのだと。その結果が今の状況であると。
「折角、お近づきになれたのです。立場は違えど、今後とも御贔屓にして頂けると幸いなのですが、流石に都合がよすぎますかねぇ」
そう言って苦笑する小鳥に、カヨコは暫し考え込んだ後、口を開いた。
「小鳥ちゃんは、エデン条約を締結させる為に動いているんだよね? そして、エデン条約を破綻させようと画策している人がいる可能性があると、そう思って行動しているの?」
「えぇ、何となくですがいると仮定して動こうと思っています。無論直感です。ですが、アビドスの件。今回はアビドスだけの問題でありましたが、あまりにも不可解な事が多すぎる。意味が分かりません。分からないからこそ怖いのです。怖いからこそ備えるのです」
目に見えて分かるものであれば怖くない。しかし、目に見えない不可解な事象は別だ。特に今回のアビドスの事件は不可解な点が多すぎる。
カイザーコーポレーションの不可解な行動。彼等を背後で操る者がいるのは確かだ。だが、その行動が理解できない。今回はアビドスが標的にされた。しかし、次の標的がエデン条約になったとしたら。誰が、どういう理由でエデン条約を破綻させるのか。それが分からないから恐ろしいのだ。だからこそ備える。
「と、此処まで言いましたが、最終的に決めるのは便利屋68の皆さんです。正直、考えすぎなのだと理解してはいますが、それでも、ヒナ委員長が進めるエデン条約を、無事に締結させたいんですよ」
だから、依頼にしても断ってもらっても構わない。決めるのは便利屋68の自由だ。
そう言って、瞼を閉じる小鳥。
その後、カヨコもアルも、無言のままこの先起こりえる未来を想像する。
エデン条約、ゲヘナとトリニティ間で結ばれる不可侵条約。両自治区の紛争解決を行う事で両学園間の全面戦争を回避する為の条約。
話だけ聞けば、両学園に不利益な所はない様に見える条約だが、歴史的にも根深い対立関係にあった事を鑑みれば、快く思わない者も多くいるだろう。
そんな条約を、ヒナ委員長は締結させようと動き、小鳥はそれを陰ながら補佐している。
狂犬と呼ばれた彼女に似合わぬ行動。そんな彼女に、カヨコとアルは、暫し考え込むのだった。
今回でストーリーパートをいったん終了です。
この後、日常パートに戻りたいと思います。
この度、再び日常パートにて見てみたい内容を募集したいと思います。
今回は、日常パートに登場させる人物、もしくは美食研究会や便利屋68の様にグループ単位で絡ませて……といった形のアンケートを取りたいと思います。全部を書く事は出来ないかもですが、頑張ります。それでは失礼します。
アンケートの募集期間は今週の木曜日(5月16日)までとさせて頂きます。
※すみません。此方のミスでアンケート内容に規約違反がある事をご指摘させて頂きました。改めてアンケートをとりますが、前回の投票も記録していますので、ご了承下さい。