風紀の狂犬   作:モノクロさん

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更新が遅くなりました。
アンケートの結果
温泉開発部     35
万魔殿       25
美食研究会と給食部 23
便利屋68       19
風紀委員会     16
シャーレの先生   14
他校の生徒     9
黒服        8
と、なりました。
此方のミスで、アンケートの結果に不備がある状態ですが、削除前の票を含めた場合の結果となっています。
シャーレの先生や、他校の生徒、黒服に関しては改めて用意した内容に関わらずの結果で驚きです。
此方を踏まえた上で日常パートを更新していきます。
次回、不備がないよう気を付けます。



狂犬とシフトチェンジ 前編

「温泉開発部が活動を再開したでありますか?」

 

 便利屋68との一件から暫くして、イオリから温泉開発部が活動を再開した事を聞いた小鳥は、思わず聞き返した。

 

 最後に温泉開発部の部員達を拘束してから暫く経つが、もう少し大人しくしてくれれば、こちらも気が楽なのにと小鳥は考えていたのだが、どうやら温泉開発部の部長が復帰した事で、これまで潜伏していた彼女達の動きが活性化したようだ。

 

「それにしては、私が活動中に温泉開発部の話は聞かなかったでありますな」

 

「小鳥ちゃんが非番の時に活動するからな。報告がないのは仕方ないよ」

 

「ほぉほぉ。それで、部長は兎も角、部員達は捕まえる事は出来たんですか?」

 

「いや、これも中々上手く逃げるものだから、2〜3人くらいしか捕まってないな」

 

 イオリの答えに、小鳥はふむと思案する。

 

 温泉開発部が小鳥の活動日を予測して、行動している事自体は、別段驚くことではない。鬼の居ぬ間になんとやらだ。

 

 小鳥自身も、風紀委員会の活動外では中立的な立場だからこそ、目の前で何か起こったとしても、嗜める程度で、それ以上は関与しないと決めている。

 

 とはいえ、温泉開発部に関しては、あまり放置しておくのも問題だ。他校の自治区に入り込んで問題を起こしたら、それこそ政治的な問題にもなり得る。

 

「因みにですが、何故温泉開発部は私の非番の日を把握しているのですかねぇ。一応、シフトに関しては秘密にしている筈なのですが……」

 

「小鳥ちゃん、日曜日は絶対に休むでしょ。その日に活動してるんだよ。勿論、平日も活動しているけど、きまって小鳥ちゃんが休みの日をねらってるけどね」

 

「うぐ、そうなのですか……それは私の目をもってしても見抜けなんだ……」

 

 確かに、小鳥は日曜日は絶対に休む様にしている。理由は特にないが、日曜日は何となく休みたい衝動に駆られるのだ。

 

 それを見抜いた温泉開発部。彼女達も中々侮れない。

 

 日曜日……休みたい……温泉開発部……ぐぬぬ……。

 

「……今週末、やるしかないでありますな」

 

「本当か? それなら次からは毎週……」

 

「今回だけであります。なんでみんな社畜の様に働くでありますか?」

 

 そう言って、週末に活動する事となった小鳥は、対温泉開発部の為に動き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、ゲヘナ自治区にて温泉開発部による被害報告を受けたイオリは、手勢を率いて現場へと急行した。

 

 イオリが到着した時には既に激戦区となっており、先んじて到着した別動隊と温泉開発部の部員達による銃撃戦が行われていた。

 

「状況は!!」

 

「既に少なくない被害が出ています!! あいつら、道路を爆破した上に、バリケードまで張り巡らせて……」

 

 重機やブルドーザー、そしてショベルカーまで持ち出しての徹底抗戦の構えに、イオリは怒りを通り越して最早呆れるほかなかった。

 

 目測にして、温泉開発部の総数は100~200人以上。遮蔽物のない風紀委員に対して、相手はバリケードを構築した上での万全の体制。

 

 近付こうにも道路は破壊され進む事も出来ず、爆破して開けられた穴に土嚢を積もうにも、それを妨害され、一方的に負傷者が出るばかり。

 

 擲弾兵による砲撃で、温泉開発部にも少なくはないダメージは与えているが、有効的な攻撃手段が限られている以上、有効打にはなり得ない。

 

 このままではジリ貧だ。

 

 ……と、今までの風紀委員会と温泉開発部の遣り取りであれば、そうなっていただろう。

 

「了解した。後は私達に任せてくれ」

 

 そう言って携帯を取り出し、何処かに連絡を入れる。

 

 そして、電話を切った後、メガホンを用意すると、前線で戦っている風紀委員に下がるよう命じ、自ら先陣に立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久方振りに皆の前に立った時、何を言うべきか正直に迷っていた。

 

 あの日、小鳥に捕まったカスミは、拘束されて身動きが取れない状態で、彼女の自宅に監禁されていた。

 

 防音設備の整った彼女の部屋は、例え大声を出そうとも誰にも気付かれる事はない。試しにと、塞がれていた口を解放された後、彼女のいないタイミングを見計らい、声が枯れ果てるまで叫び続け、助けを求めた。

 

 しかし、その声は誰の耳にも届く事はなく、結局は徒労に終わった。

 

「おやおや、助けが来るかどうか確かめたようですね」

 

 帰宅した小鳥がカスミに放った一言がそれだった。

 

 何か変わった事が無いか、それを念入りに調べる様に身体をチェックし、声が枯れている事に気付いてからの一言だ。

 

 薄暗い部屋の中で、彼女の眼だけが妖しく光っていた。それが堪らなく怖かった。

 

 監禁されてから、彼女から暴力を振るわれた事も無ければ、暴言を吐かれる事も、危害といえる危害を加えられる事はなかった。それだけ話せば、彼女の身体的特徴を渾名として広め、そしてそれを本人の前で暴露した自分に対し、温情を与えてくれたと思われるかもしれない。

 

 だが、それはあくまでも方便だ。

 

 カスミにとって、本当に恐ろしかったのは、小鳥のその眼だったのだ。

 

 食事や睡眠、トイレといった生理的現象を除く時間。つまり、小鳥が帰宅して寝るまでの間、彼女は暗がりの部屋の中で、拘束されたカスミの事をジッと観察していたのだ。

 

 一分一秒が永遠に感じるような時間。

 

 碌に瞬きもせずに観察し続ける小鳥に、カスミの精神は徐々に摩耗していった。

 

 そんな中、唯一彼女が視線を外す時があった。それは、自分が粗相をした時である。

 

 食事は与えられるが、拘束された身ではトイレに行く事もままならない。そんな状況下になれば、その後の結果は分かりきっている。

 

 この歳になって粗相をするなど、恥辱以外の何者でもない。なんとか耐えようとはするのだが、生理現象だけはどうしようも無い。その結果、カスミは小鳥が不在の間に、粗相をしてしまった。

 

 しかし、小鳥はそれを咎める事無く、淡々と片付けを済ませると再び観察に戻る。まるで、この程度の事など取るに足らない事だと言わんばかりに。

 

 その後は、地獄だった。地獄だったが、それと同時に、これが救済となった。

 

 ズボンと下着を脱がされ、オムツを履かされる事にはなったが、それでもカスミの精神は安定を取り戻しつつあった。

だが、それも長くは続かない。片付けが終われば、また見られる。

 

 カスミは必死になって自分の身体に負荷を与えた。上手いタイミングで粗相をし、片付けてもらい、また粗相をしての繰り返し。その結果、小鳥に観察される時間は短縮し、カスミは己の尊厳を自ら破壊していった。

 

 それに気付いたある日、カスミは半狂乱になりながら部屋の中でのたうち回った。どれだけ暴れたかは定かではないが、ふと我に返った時、身体中に激痛が走ると共に、拘束が解けていた事に気付いたのだ。

 

 カスミは何も考えずに玄関まで走った。

 

 久し振りに動いたせいか、何度も転倒し、その度に全身に激痛が走った。それでも我武者羅に走った。走ってドアに激突し、震える手でドアノブを回し、外へと出た。

 

 ドアを開けた瞬間、太陽の光がカスミの全身を照らした。もう何年も浴びていないと思わせる感覚に、カスミは自然と涙が零れ落ちた。だが、感傷に浸るのは一瞬だった。

 

 早く此処から離れなければ。

 

 辺りを見渡し、信号待ちをしているトラックが目にとまった。カスミは即座に荷台に飛び乗ると、そのまま運転席から見えないように身を潜めると、信号が変わる時を、今か今かと待ちわびた。そして……

 

「ハ……ハ……ハハ……ハハハ……ハハハハハハ……」

 

 トラックが動き出すと共に、カスミは両手を広げて天を仰ぎ見た。此処まで来れば、もう何も気にする事はない。そう考えただけで自然と笑いが込み上げて来た。そして涙が溢れ出ていた。掠れてまともに発する事が出来なかった笑い声は、トラックの走行音にかき消され、その笑い声を聞く者は誰もいなかった。

 

 その後、訳ありの生徒達を診る医者の所で検査を受け、リハビリを続けた。

 

 小鳥の目から逃れる為に粗相を繰り返し続けた事で、それが癖になり、意識せず漏れる事があったからだ。

 

 碌に動く事も出来なかったので体力も落ちた。それは筋トレで何とか昔の状態まで持ち直す事が出来た。

 

 皆からは心配されたが、漸く温泉開発部の部長として、表舞台に戻る事が出来たのだ。

 

(リハビリも毎日続けた。医者からは、もう暫く経過観察が必要とは言われたが、薬で何とかなっている)

 

 万全な態勢ではないが、小鳥と遭遇しなければ大丈夫だろう。その為に、彼女が風紀委員として活動しない日程を念入りに調べつくした。小鳥が非番の日を狙い、万全な状態で温泉開発部の部員達を集め、活動を再開する旨を宣言した。

 

 皆、カスミを待っていたのか、士気は高まり、これまで以上の成果を見せてきた。

 

 途中、数名程、風紀委員に捕まったが、それでも、今までと比べると微々たる損害だ。そして今日、これまで計画していた地区での大規模な活動に期待に胸を膨らませたカスミは、少しばかり油断していた。

 

 風紀委員の妨害も、微々たるものだ。道を爆破し、バリケードを構築し、相手から有効的な攻撃手段を奪えば、もうこちらのもの。後は温泉を掘り当てれば問題無いだろうと考えていたカスミは、前線で戦う風紀委員が撤退した後に、メガホンを持って前に出るイオリに気付かなかった。

 

 イオリはメガホンを口元に近づけると、大きく息を吸い込み……

 

『温泉開発部の部長に告げる。今日は小鳥ちゃんが他の子とシフトを変えたからそっちに向かってるぞ』

 

 緊張感の欠片もないその声に、否、イオリの口から発せられた『小鳥』という単語に、カスミは目を見開き、ジワリと下着が濡れるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イオリの言葉に、温泉開発部一行に動揺が走る。

 

 彼女の非番の日を狙って、今回の作戦を決行したのだ。それなのに、その行動が読まれていた事に動揺が走るが、すぐさま体制を整える様に指示を出すカスミは流石であると言えるだろう。

 

「は、はーはっはっは!! な、なにを言うかと思えば……こ、ことぉ……か、彼女がこ、こここここ、ここに来る筈ないじゃないか!」

 

 明らかに動揺はしているが、まだ冷静に物事を考える余裕はあるのだろう。イオリからすれば、

 

(小鳥ちゃん、カスミに何をしたんだ?)

 

 と、内心微妙な気分になったが、それでも、警告として告げる。

 

『いや、本当に小鳥ちゃんが来てるぞ。撤退するなら今の内だし、大人しく拘束されるなら保護してやってもいいぞ』

 

 この時の『保護』とは、小鳥から守るぞというニュアンスがあるのだが、カスミは嫌な汗が流れるのを感じながら、気力を振り絞り、掠れた笑い声をあげた。

 

「ず、随分と必死じゃ……ないか。わ、私が、ちゃ、ちゃんと備えてないとでも思っていたのか」

 

 小鳥の名を聞いて、余裕があるのには理由があった。

 

 カスミもまた、小鳥がシフトを変える事を視野には入れていた。過去にも、小鳥の非番時に暴れていた生徒が非番を返上した小鳥の手により、血祭りにあげられたからだ。

 

 彼女達と同じ轍を踏まない為に、カスミは小鳥の家の周辺に部員達を監視させていたのだ。

 

 部員達の報告には、風紀委員会本部から出た後、真っ直ぐ帰宅し、そのまま家から出ていないとある。

 

 影武者の事も視野には入れたが、返り血に濡れたマスクと制服姿の人物など、小鳥以外に考えられない。それ故に、カスミは強気な姿勢を崩す事はない。だが……背中に走る悪寒は本物だ。改めて近くにいた部員に、家を監視している子達に事実確認をする様、命令すると、イオリの出方を窺う事にした。

 

 確認の為に携帯を取りに行った部員と入れ替わる様に、別の部員がカスミに近付く。

 

「か、彼女が……こ、此処に来てるなら。い、一体何処にいるのかな? さ、さぁ、言ってみたまえ!!」

 

 息が荒い、これが終わったら、また病院に行こう。そう考えながら虚勢を張るカスミに、イオリは『ふぅ……』と、息を吐くと、目を細めながらカスミの後方を指さした。

 

『そこにいるだろ』

 

「……え?」

 

『だから、そこにいるだろ。後ろだよ』

 

「う・し・ろ。かっこハート」

 

「……え……は……え……?」

 

 両肩をポンと叩かれ……いや、両肩を掴まれ、背後から声が聞こえた。

 

 恐る恐る見上げる。本当は嫌だったが、見上げざるをえなかった。

 

 最初に映り込んだのは鳥の嘴を模した何かだった。

 

 そして次に見えたのは、温泉開発部の部員……いや、違う。

 

 温泉開発部の部員に扮した小鳥がそこにいた。

 

「カ~ス~ミちゃ~ん。つっかま~えたぁ~」

 

 忘れる筈が無い。あの日、あの時、自分を監禁し。脱走するまでの間、ジッと観察し続けた目を、カスミは忘れる筈もなかった。

 

 反射的に、カスミは自身の防衛本能に無意識化に従い、下着とズボンを濡らしていた。周囲にアンモニア臭が漂う中、カスミは口をパクパクとさせながら汗と涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で小鳥を凝視した。

 

「なん……で……なんで……?」

 

「さぁ、何ででしょうかねぇ」

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