風紀の狂犬   作:モノクロさん

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狂犬とNTR(仮)

 朝、カーテンの隙間越しに覗く太陽の光に、小鳥は目を覚ました。

 

 清々しい朝だ。カーテンを全開にして、部屋全体に光を行き届かせる。小鳥は伸びと共に大きなあくびをすると、温泉開発部の後輩ちゃんを起こそうと振り返る。

 

 しかし、部屋には小鳥以外、誰もいなかった。

 

「……あぁ、そうでした。後輩ちゃん、この間いなくなったのでした」

 

 買い出しの為に留守番を任せていた筈なのに、帰ってきたらドアが開いていた。中に入ると、後輩ちゃんの姿は何処にもなく、部屋の備品は彼方此方に散らばり、誰かが暴れ回ったような形跡が残っていただけだった。

 

「……悲しいでありますなぁ。折角、懐いてきたと思ったのに」

 

 目覚めの良い朝だった筈なのに、少しセンチメンタルな気分になる。部屋の隅に視線を向けると、新しく補充した動物用のおむつが未開封の状態で放置されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、休み明けに風紀委員会本部に赴いた小鳥は、機嫌の悪そうなアコを、イオリと共に遠目で見ていた。

 

「何かあったでありますか?」

 

「昨日、万魔殿が抜き打ちで監査に来たんだよ」

 

「万魔殿が……で、ありますか」

 

「あぁ、マコトの奴がいちゃもんをつけてきたんだよ。風紀委員会の予算は精査する必要があるってな」

 

 誰よりもゲヘナの予算を浪費している生徒会長のマコトが何を言っているんだ?

 

 そう思いながら、昨日、何があったか仔細をイオリから聞く。

 

 元々、風紀委員会の予算の動きに怪しいものがあったと、マコトから指摘を受けた事から始まった。

 

 怪しい動きと言えば、アコが独断で兵力を運用した事が真っ先に出てくるだろう。これに関しては自身も個人的に動いたとはいえ、思う所がある為、なんとも言えない気持ちになる。

 

 アコからすれば、普段はこの手の情報を無視しているのに、こういう時だけ重箱の隅を突く様な事をして……と、不満気だ。

 

 そして、監査に来たのが万魔殿の議員、棗 イロハと丹花 イブキだった。

 

「え、イブキちゃんが来てたでありますか。何で私を呼ばなかったので?」

 

「小鳥ちゃんがいるとイブキの教育に良くないってさ」

 

「私の何処が悪影響なのか……解せないですね」

 

 内心、自分の存在が否定された様な気分になった小鳥は、不機嫌になりながらもイオリから詳しく話を聞いた。あの手この手でいちゃもんをつけて予算を削減して、最終的には来年度の予算ゼロという暴挙。

 

 マコトの命令とはいえ、流石にやりすぎだなぁと思いながら、結局の所、行政的な手続きが必要な為、今回の予算の再分配案は暴論が過ぎる為、流されると思いながらも、やはり、どこか煮え切らない気持ちで一杯になる。

 

 そして、アコの機嫌が最悪な事も、何となく理解は出来る。

 

 この後の展開は大方予測は出来るが、ヒナ委員長の徒労が増えるのは許容できない。仕方なしと、小鳥は不機嫌に書類を整理するアコに近寄り、耳打ちした。

 

「アコ輩先はマコト先輩を肉体的、精神的、どちらを重点的に削りたいですか?」

 

 その言葉に、アコは書類に視線を向けたまま淡々と告げた。

 

「両方」

 

「はっはっは。強欲でありますなぁ。どうでしょう。暫く、此方にちょっかいをかけられない程度に、マコト先輩を攻撃しても?」

 

 アコは書類から目を離し、小鳥を一瞥する。

 

 その視線に、小鳥は微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、何をするつもりだ?」

 

 本部を出た小鳥に、イオリが呆れ気味に問い掛ける。小鳥はそれに、ニッコリと笑みを浮かべながら答えた。

 

「マコト先輩本人に何をしても意味がありませんからねぇ。こういう時は、彼女ではなく、周りの子を狙えばいいのですよ」

 

「小鳥ちゃん、一応言っておくが、犯罪は……」

 

「えぇ、流石に犯罪に走ればそれを好機と捉えるでしょうから、犯罪行為はしませんよ」

 

 そんな事をすればヒナに迷惑がかかる。本末転倒だ。

 

「マコト先輩はヒナ委員長を敵視してますからねぇ。委員長の部下が不祥事を起こせば、それが些細な事でも追及してきます。なので、それが出来ない。もしくはし辛い状況に持ち込めばいいのです。なので、拉致・監禁・暴行といった犯罪行為はNGです。ですが、逆に言えば、それ以外の事なら何をしてもいいのです」

 

「ツッコミどころ満載だけど、結局何をするつもりなんだ?」

 

「これから会う生徒とお食事ですよ。ただのお食事です。それだけですよ」

 

 それだけ?

 

 イオリは訝しむが、小鳥の事だ。何か考えがあるのだろう。そう思う事にした。

 

「確かそろそろ……あぁ、いたいた。あの子ですよあの子」

 

 小鳥は目的の人物を視認する。周りの生徒と比べて幼く見える……いや、実際に幼い年頃の少女。

 

 ゲヘナの生徒会の一人であり、マコトが溺愛している丹花 イブキだ。

 

「それじゃあ、行ってくるでありますよ」

 

「え、ちょ……小鳥ちゃん。それ、本当に大丈夫なのか!!」

 

 小鳥は、イオリの心配を余所に、イブキへ近付く。

 

「ハロハロ〜イブキちゃん、こんにちは。小鳥ちゃんでありますよぉ」

 

「え? あ、小鳥ちゃんだぁ。こんにちは」

 

 突然現れた小鳥に少し驚きながらも、イブキは小鳥に挨拶を返した。

 

「はいはい、こんにちは。ちゃんと挨拶が出来て偉いですねぇ」

 

 そう言って、小鳥はイブキの頭を撫でる。その際、彼女の髪からふわりと良い香りが漂い、心が安らぐのを感じた。

 

 イブキは、小鳥の撫でる手に目を細める。まるで子犬が飼い主に頭を撫でられている様な光景だ。

 

 その様子を見ていたイオリは、その姿に一抹の不安を抱きながらも、止める事も出来ず、二人の動向を見守る。

 

「イロハちゃんから聞きましたよ。お仕事、頑張ったみたいですねぇ」

 

「うん、イブキ、頑張ったよ。ちゃんと、マコト先輩のお役にたてたんだよ」

 

「そっかぁ、偉いですねぇ。まだ若いのに、マコト先輩のお役に立つなんて、イブキちゃんは本当に偉いです」

 

「えへへ、ありがとう。小鳥ちゃん」

 

 イブキは嬉しそうに笑う。それを見て、小鳥の笑みも更に深いものとなる。

 

 あぁ、やはり子供の笑顔はいいなぁと思いながら、懐からある物を取り出す。

 

「実はですね。そんな偉いイブキちゃんに、小鳥ちゃんからささやかなプレゼントがあります」

 

 小鳥が取り出したのは、2枚のチケットだった。

 

 正確には、ケーキバイキングのペアチケットであった。

 

 イブキはそれを見て、目を輝かせた。しかし、すぐに表情を曇らせてしまった。

 

「おや、どうされたのですか?」

 

 その様子に気が付いた小鳥は、優しく語りかける。

 

「あのね、マコト先輩やイロハ先輩から言われてるの。夜ご飯前にデザートを食べたらダメだって」

 

 どうやら、マコトの言いつけを守ろうとしているらしい。しかし、それを律儀に守ろうとするイブキの姿勢に、小鳥は感動した。

 

 だがスイーツの魔力は、イブキの心を確かに掴んでいた。

 

「イブキちゃんは偉いですね。ちゃんと言いつけを守れるなんて。この先のゲヘナは、イブキちゃんがいれば安泰だ」

 

 ですが、と言葉を繋げ、揺れ動くイブキの様子を観察しながら、小鳥は説得を始めた。

 

 少しずつ、イブキの心が揺れ動く。ケーキバイキングに行きたい。だけど、マコトやイロハに怒られるかもしれない……でも、デザートは食べたい。

 

 そんな葛藤が見て取れた。

 

 どんなに頑張っても、心はまだ幼いイブキは文字通り甘い誘惑に飲み込まれて行く。

 

 手に持ったチケットが風に揺れるたびに、視線がチケットと同じようにゆらゆらと揺れ動く。

 

 そして、遂に……イブキの心が陥落した。内心でガッツポーズをとり、こっそり様子を見ていたイオリにウィンクし、善は急げと言わんばかりに正門に向かって走って行く。

 

 その後ろ姿を見送ったイオリは、犯罪者ってこんな感じなんだろうなと思いながら、少しだけ不安な気持ちになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間が経ち、ケーキバイキングを制限時間いっぱいまで楽しんだ2人は、満足気に休憩をとっていた。

 

「いやぁ、美味しかったでありますなぁ」

 

「うん、凄く美味しかった。小鳥ちゃんありがとう」

 

「いえいえ、何時も頑張っているイブキちゃんに、ささやかなプレゼントですよ」

 

 そう言って、時間をチラリと見る。

 

 良い塩梅の時間帯だ。

 

 そしてそれは、イブキにとっては最悪の時間なのだが……。

 

 幸せそうな顔をしていたイブキだが、時計を見て顔を青ざめる。

 

「おや、どうかされましたか?」

 

 何も知らない事を装いながら問い掛けると、先程までの幸せそうな顔から一変して、今にも泣き出してしまいそうな表情をしながら、イブキは小鳥に告げた。

 

「イブキね、お外にいたらいけない時間まで、お店にいたの。マコト先輩やイロハ先輩に怒られちゃう」

 

「おやまぁ、それは大変ですねぇ」

 

「それにイブキ、夜ご飯もあるのに、いっぱいデザートを食べちゃった……どうしよう」

 

 イブキは涙目になりながら、小鳥に助けを求める。その姿を見て、小鳥は思た。

 

(あぁ、これは可愛い)

 

 小鳥の中で、庇護欲が沸々と湧き上がる。守りたい、この泣き顔……。そんな想いに駆られながら、しかし、作戦は成功したと思いながら、小鳥は口を開く。

 

「大丈夫でありますよ。イブキちゃんは私と食事をしただけであります。これはですね、みんなと同じ事をしているのであります」

 

「みんなとおんなじ……本当?」

 

「えぇ、本当です。ほら、周りを見て下さい。同じゲヘナの生徒達も楽しそうにしているじゃないですか。同じ事です。イブキちゃんは、みんなと同じ事をしているだけですよ」

 

 そう言い聞かせながら、小鳥はイブキの頭を撫でる。

 

 みんなと同じ。その言葉に安心したのか、少しだけ気持ちを持ち直したイブキだが、そのタイミングを見計らい、小鳥は携帯を取り出す。

 

 

「まぁ、もしも罪悪感を感じるのでしたら、マコト先輩やイロハちゃんに謝れば良いのです。本当は悪い事なんてしていませんが、悪い事をしちゃったなって思ったら、謝ればそれで良いのです」

 

 ただ、今は面と向かって言えないでしょ? と、言葉を付け足した後、小鳥はイブキに画面を向ける。

 

「折角です。ちゃんと申し訳ない気持ちを動画にとって、それを送りましょう。大丈夫です。元々私から誘ったのですから、私も映りますよ」

 

 そう言って、録画ボタンを押した小鳥はいつもと変わらぬ口調で話し始めた。

 

「ハロハロ〜マコト先輩こんばんはぁ〜小鳥ちゃんですよぉ。今ですね、可愛い可愛いイブキちゃんと一緒に、とてもとても楽しくて良い所でエンジョイしてきましたぁ。ではでは、イブキちゃんに変わりますね」

 

「あ、マコト先輩ごめんなさい。イブキ悪い子になっちゃった。門限も破っちゃったし、デザートのケーキも夜ご飯前に沢山食べちゃった。本当にごめんなさい」

 

「何時も頑張ってるイブキちゃんにささやかなプレゼントと思ってケーキバイキングに連れて行きましたが、少しだけ門限を過ぎたみたいです。ですがご安心下さい。ちゃんとお家まで送って帰りますゆえ。それでは、失礼します」

 

 そこで動画を止め『少し編集しますね』と、いらない部分をカットして調整する。

 

 そして、出来上がった動画を、マコトの携帯に送信して、イブキに親指を立てる。

 

「これでオッケイであります。まぁ、それでも不安があるでしょう。明日の朝まで携帯の電源を切っておいた方が良いと思われます。そして、明日の朝にマコト先輩に改めて謝れば万事解決ですよ」

 

 イブキは言われるがままに、携帯の電源を落とし、申し訳なさそうに小鳥を見上げた。

 

「ごめんね、小鳥ちゃん」

 

「いえいえ、イブキちゃんは私と食事をしただけ。それだけなのです。だから、本来は悪い事なんてしてないんですよ。でも、そんな真面目なイブキちゃんは偉いですねぇ」

 

 そう言って時計を見て、そろそろ時間かと、新品のおしぼりでイブキの口周りを拭って綺麗にする。

 

「ではでは、イブキちゃんも時間が気になるでしょうから行きますか。ご安心下さい。ちゃんとお家まで送りますので」

 

「うん、ありがとう。小鳥ちゃん」

 

 席を立ったイブキの手を握り、会計を済ませる。

 

 そのまま2人は、寄り道する事なく、真っ直ぐにイブキの家まで帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、自宅で倒れていたマコトが病院に搬送されていた。その手には携帯が握られており、小鳥からの音声付きメッセージが表示されていた。

 

『ハロハロ〜マコト先輩こんばんはぁ〜小鳥ちゃんですよぉ。今ですね、可愛い可愛いイブキちゃんと一緒に、とてもとても楽しくて良い所でエンジョイしてきましたぁ。ではでは、イブキちゃんに変わりますね』

 

『マコト先輩ごめんなさい。イブキ悪い子になっちゃっ……』

 

 イブキの言葉が途中から消え不穏な空気が漂う内容となっていた。

 

 実は、あの時動画に撮った内容を音声のみで編集し、イブキのセリフも不安を煽るタイミングで切り取り、編集したものを送ったのだった。

 

 それを聞いたマコトは『ガハッ!!』と、断末魔を上げて卒倒。病院に搬送された後も、暫く意識不明の状態となっていた。

 

 この件について万魔殿から言及されるも……。

 

「何時も頑張ってるイブキちゃんにご褒美をと思いまして」

 

 と、イブキを盾にのらりくらりと言い逃れし、最終的には不問となった。

 

 しかし、ヒナからはしっかり怒られ、反省文を大量に書く事となったのだった。

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