風紀の狂犬   作:モノクロさん

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更新が遅れました。申し訳ありません。


狂犬と美食

「……なんで捕まっているでありますか? ハルナ先輩」

 

 休日、小鳥は風紀委員会本部の特別牢の前で、収監されたとは思えないほど落ち着きを払っているゲヘナの温泉開発部と対を為すテロリスト集団こと美食研究会の会長、黒舘 ハルナに声を掛ける。

 

「あら、小鳥さん」

 

 鉄格子越しに、ハルナは小鳥の姿を確認すると、微笑を浮かべた。

 

「お久し振りでありますねぇ。正確には昨日の夕方ぶりとでも言いましょうか。ヒナ委員長から連絡を頂きまして、様子を見に来たのですが……どうしてこうなったのでしょうか?」

 

 理由はヒナから聞いている。彼女達、美食研究会にとっては日常茶飯事だ。それでも、敢えてハルナ本人に問いただしたのは色々と思う所があったからだ。

 

「そうですね。強いて言うなら、小鳥さんと約束していたお店が安価で質の悪い食材を提供していたから……でしょうか」

 

「あぁ、成程。そういう事だったんですね」

 

 オフの日に食事に行こうと話していたハルナが、目的地を爆破したと聞いた時は何かあったのかと思ったが、やはりそういう事かと、小鳥は納得する。

 

「お店側にも非があるとはいえ……あぁ、いや。ハルナ先輩からしたら、許せない事でありますよね」

 

「えぇ、許せません。特に、小鳥さんが楽しみにしていたお店だったからという事もありますが」

 

 ハルナは微笑を浮かべながら語る。その笑顔は曇りなく純粋だ。そして何より、今回の件は、小鳥にとっても他人事ではなかった。

 

 休みの日に何をするか考えていた小鳥に、ハルナが声をかけ、紹介してくれたお店だ。そのお店で問題があったのだから、彼女の行為は……いや、それでもダメなのだが。

 

「あぁ、小鳥さん。そんなお顔をなさらないで下さい」

 

 小鳥の顔色を見て察したハルナが声を掛ける。

 

「これは私の我儘でもありますから」

 

 自身が紹介したお店に不備があった。そもそも、食に対して意識が強すぎる彼女だからこそ、今回のお店側の行いが許せなかったといった所だろう。

 

 立場上、ハルナの行いは、風紀委員会の一員として許容する事は出来ないが、今はオフの日。今日という日は、風紀委員の小鳥ではなく、1人の生徒として対応しよう。

 

「差し入れ持って、改めて此処に来ますよ」

 

「あら、それは嬉しいですね。普段とは違った趣のある場所でとる食事。楽しみにしてますわ」

 

「あまり期待しないで下さいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしたやり取りの後、小鳥は給食部の元に訪れていた。

 

 時間も昼時からずれている為、食堂を利用している生徒は疎らだ。

 

「それで、ハルナに差し入れするって約束したけど、何を持っていけば良いか分からないから相談しにきたの?」

 

「そうなのです。彼女達が普段から何を食べているかもよく分からないですし、何よりこういった時の差し入れって何が最適解かわからないでありますよ」

 

 その点、美食研究会とはそれなりに付き合いのあるフウカなら、彼女達の好みが分かると思い、相談しに来たのだ。

 

「私も、これが最適解かはわからないけど、それを踏まえた上で話しても良い?」

 

「勿論であります」

 

「分かった。それじゃあ、小鳥ちゃんとハルナが何処に行こうとしていたのか教えて」

 

 それから、フウカは小鳥とハルナが何処に行こうとしていたのか確認した。

 

 場所は有名なスイーツカフェ。そこで限定のタピオカドリンクが提供されている事を知り、オフの日に行こうと話していたのだった。

 

 タピオカなるものは、噂程度には聞いた事があった。しかし、検索画像や雑誌の特集で見たくらいで、実物を見た事がなかった小鳥は、ハルナからそれを聞いた際、この機会に試してみるのもありかと思っていた。

 

 しかし、それを試す機会が、提案されたハルナの手によって無くなってしまった。

 

 タピオカ自体、他のお店でも提供されている為、このお店でなくてはならない訳ではないから、小鳥自身は気にしてないのだが……。

 

「そっか、それなら、差し入れはそれで良いかもね」

 

 話を聞き終えたフウカは紙とペンを取り出し、メモを取り始める。お店やそこで売られている材料を書き連ね、一通り記載し終えると、それを小鳥に手渡した。

 

「此処に書かれた材料を買ってきて。厨房は此処のを貸してあげるから、それで差し入れを作って持っていくと良いよ」

 

「自分で作るでありますか?」

 

「うん。多分、その方がハルナは喜ぶと思うよ」

 

 作り方が分からなかったら手伝うからと、フウカは微笑む。

 

 小鳥はその助言に従い、材料を調達する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、フウカがメモに書き留めたお店に足を運び、目当ての商品を購入した小鳥は、再び食堂を訪れていた。

 

 時間も丁度、昼時を過ぎ、混雑時を避ける事が出来たのは運が良い。

 

「ハロハロ〜フウカちゃん、今戻ったでありますよぉ〜」

 

「あ、お帰り小鳥ちゃん。それじゃあ、早速作ろうか」

 

 片付け作業をしていたフウカが厨房に小鳥を案内すると、材料をテーブルの上に並べていく。

 

「タピオカって粉物だったんでありますなぁ」

 

 

「そうだよ。元々はイモのでん粉で、それをお水に黒砂糖を入れて沸騰させた後、タピオカ粉を混ぜる」

 

 その後、しっかりと混ぜ合わせながら、形が整ってきたら、練った生地をこね、耳たぶくらいの大きさに整える。

 

 それを弱火で20〜30分茹で、冷水で冷ましたらタピオカの完成だ。

 

「ほほぉ、結構手間暇がかかるでありますな」

 

「個人で作るとそうなるかな。だから業者に頼んで出来合いの物を使うんだけどね」

 

 ただし、今回は手作り。値段や格式ではなく、気持ちが篭っているか(結果として生み出される美味)を重視している彼女にはうってつけだ。

 

 フウカの指導のもと、初めての作業に四苦八苦しながらも何とか形が整っていく。そして、時間をかけ、漸くタピオカが完成した。

 

「ははっ、完成したでありますよフウカちゃん」

 

「うん、よかったね。お疲れ様」

 

 出来上がったそれを見ながら、一息つく。

 

「しかし、画像では見てましたが、なんと言いますかこう……見た目が卵に見えますな」

 

「そうだね。注目され始めた時は何かの卵じゃないかって一時期話題にもなってたから……やっぱり、羽持ちからすると親近感湧くのかな?」

 

「ははは、羽は羽でも鳥類の羽ゆえ、これはどちらかと言うと、両生類とか魚の卵に近くないですか?」

 

 そう言って、腰の付け根に生えている羽をパタパタと動かしながら笑う小鳥。

 

 彼女はゲヘナでは珍しく角はなく、羽に関してはトリニティに所属する正義実現委員会の子達のそれとよく似ている。

 

 そんな小鳥は完成したタピオカをじっと見つめながらボソリと呟いた。

 

「これがフウカちゃんと私の初めての共同作業……産みの苦しみに涙ポロポロでありますな」

 

「やめなよ小鳥ちゃん。キヴォトスで産卵プレイは恥ずかしい事なんだよ」

 

 それはつまり、キヴォトスの外では一般プレイなのか……今度先生に聞いてみよう。

 

「ははは。まぁ、冗談はおいといて、ハルナ先輩に食べてもらう前に味見を……」

 

 そう言って、出来上がったタピオカを数粒スプーンですくい、口に運ぶ。

 

「うん……うん…………うん。これ、本当に人気があったやつですか?」

 

「小鳥ちゃん。タピオカは単品で食べるものじゃないよ」

 

「なるほど、やはりそうでしたか」

 

 それなら、ご飯に乗っければ意外といけるかもしれない。見た目は卵、見た目はイクラだ。イクラ丼の要領でわさび醤油を混ぜて食べればあるいは……

 

「……まっず。フウカちゃんまずい。これ、辛い」

 

 イヤな予感がしたので、一口分しか用意しなかったが、驚くほどに不味い。あまりの不味さに泣きそうになった小鳥に、フウカがミルクティーを用意した。

 

「あのね、タピオカはジュースに混ぜて、一緒に飲むのが正解だよ。ハルナと行く予定だったカフェでもタピオカドリンクだったでしょ?」

 

 大きめのストローを渡され、ミルクティーを飲みながらタピオカを吸う。

 

 ジュースの甘味とタピオカのモチモチ感。それは、単品で食べた時よりも、ご飯の上に乗せ、わさび醤油と合わせて食べた時よりも断然美味しかった。

 

「あぁ、良いですねこれ。これなら全然いけますよ」

 

「気に入って貰えて良かった。実はこれ、もうひと手間加えると、もっと美味しくなるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハロハロ〜ハルナ先輩。約束通り、差し入れを持って来たでありますよ」

 

 特別牢に戻ってきた小鳥が、ハルナにジュースを手渡す。

 

 本来、収監した生徒に差し入れを渡すのはあまりよくない事なのだが、監視の子に無理を言って許可して貰った。

 

 差し入れを受け取ったハルナは、それを見て『あら?』と声を漏らす。

 

「小鳥さん、これは」

 

「はい。タピオカドリンクなるものです。フウカちゃんにお願いして、一緒に作りました。是非是非、飲んで欲しいであります」

 

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

 

 ストローをさし、ハルナはタピオカドリンクを飲み始めた。

 

「……あら、これは」

 

 タピオカを一つ咀嚼し、あることに気付く。

 

「このタピオカ、一度シロップに浸して味付けをしてますわね」

 

 そうフウカの言ったひと手間とは、出来上がったタピオカをシロップに漬けて味付けをしていたのだ。

 

 それにより、ジュースの甘みとシロップの甘味を足した事で、タピオカがより美味しく仕上がっていた。

 

「はい。フウカちゃんから色々と指導を受けまして、そしたらびっくりするほど味が変わったのですよ」

 

「あらあら、それはまた」

 

 ちょっとした手間暇で味は変化する。食に対して追求するハルナにとって、フウカや小鳥のそれは、とても好ましいものだった。

 

「あぁ、でも、タピオカは単品ではダメでありますな。見た目に騙されてご飯に乗っけてもダメですし、多分パンに挟んでもダメであります」

 

「あら、他にも色々と試したのですか?」

 

 その後も、二人で談笑を交わし、空になったコップを回収した小鳥は、『次はお店の物も試してみましょう』と、今後の約束をして、特別牢を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、風紀委員会本部に帰還したヒナは、残った書類を整理する為、1人残って作業していると、小鳥がやって来た。

 

「ヒ〜ナ委員長っ、お疲れ様でありま〜す」

 

 今日も今日とてワーカーホリック。そんなヒナの様子に、小鳥は手に持ったドリンクを作業の邪魔なならないように、机の端に置いた。

 

「これは何?」

 

「タピオカなるドリンクです。フウカちゃんと一緒に作ったであります。中々の出来なのでお試し下さい」

 

 ハルナの為に作った物とはまた別に用意したものだ。美味しかったものは共有したい。特に普段から流行りものに疎いヒナには、こういう刺激も必要だろう。

 

「これ、小鳥が作ったの?」

 

「はい、味は美食研究会のハルナ先輩のお墨付きです。休憩がてら如何でしょうか?」

 

「……そうね。いただくわ」

 

 屈託のない笑みを浮かべる小鳥に、ヒナはペンを置き、コップとストローを手に取る。

 

 コップの底に沈んでいる物がタピオカなのだろう。ジュースはミルクティーか。普段コーヒーばかり飲んでいるから新鮮ではある。

 

 しかし、流行りに疎いせいか、タピオカを見て、小鳥と同じく卵みたいと思ってしまう。

 

 ストローに口を付け、タピオカと一緒にミルクティーを飲む。甘味が口に広がり、タピオカを咀嚼する事によってタピオカからの甘味も合わさって、より甘く感じる。

 

 そして、タピオカのモチモチ感とミルクティーの甘味がマッチしてとても美味しい。

 

「美味しい」

 

「でしょでしょ〜これは中々のものでありますよ」

 

 褒められて嬉しそうにする小鳥に、ヒナはもう一度ストローを咥える。また一つタピオカを口にし、味わうように噛み締めながらそれを飲み込む。

 

 それを繰り返していたヒナに、小鳥はボソリと呟いた。

 

「さらば、一姫二太郎」

 

「ブフッ!!」

 

 小鳥の言葉の意味を想像してしまい、ヒナはタピオカを噴出してしまう。その飛沫が書類に飛んでしまい、慌ててハンカチで拭うも、それどころではなくなってしまった。

 

 何を言い出すのかとヒナは小鳥に目を向けるが、彼女はどこか楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

「あっはっは、やはりヒナ委員長もタピオカを卵と連想していましたか」

 

 同じ考えだったのが嬉しかった小鳥を尻目に、ハンカチを握り締めながら息を整えたヒナは、ぐちゃぐちゃになってしまった書類をチラリと見つめた後、スッと立ち上がった。

 

 そして……

 

「ガァァァァァァァァァァァ!!!! ギブギブギブギブッ!!!! ヒナ先輩!! ヒナ先輩っ!! それ以上はいけない!! 関節が酷い事に『ゴキッ』ピギャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ヒナにアームロックをかけられた小鳥は、数日の間、肩から腕に違和感を感じながら仕事をする事を余儀無くされるのだった。




沢山の評価とコメントありがとうございます。
返信出来てないコメントも沢山ありますが、凄く励みになってます。
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