唐突だが、皆はSGをどう思うだろうか?
私個人の意見だが、今まで様々な銃火器を試してきた中で、一番しっくりくるのがSGだった。
散弾も良いけど、単発のスラグ弾も良い。近接戦において火力が高いとか言われてるけど、私の場合は用途が少し違う。まぁ、細かい事は良いよね。
兎に角、相手を至近距離から撃てるって事が、私にとっての推しポイントであり、SGを使うきっかけになったと思って貰えればそれで良いかな?
だから私は、風紀委員として活動する時も、愛銃のM30を携帯している。
ゲヘナ近郊、廃ビルが建ち並ぶ一画にて、ゲヘナ学園の風紀委員と不良生徒達による銃撃戦が始まっていた。
不良生徒達の不法占拠から始まった案件だが、調べている内に、不良生徒達を雇った雇用主がブラックマーケットに関わる人物らしく、彼女達を使って商品の横流しも行っていたのが判明。
その為、風紀委員は彼女達を検挙するべく、不法に占拠された廃ビルに踏み込み、銃撃戦に至った訳である。
風紀委員と不良達の銃撃戦の最中、小鳥はというと、少し離れた区画で購入したサンドイッチを齧りながら、後方で戦況を見守っていた。
「戦況は膠着状態、というより、攻めあぐねているでありますなぁ」
ビル内に隠れた不良生徒達を相手に、風紀委員達は遮蔽物を利用しながら銃撃を行っている。
しかし相手も負けじと応戦し、その均衡は崩れる様子が無い。それどころか、風紀委員達が身を隠す遮蔽物とビルとの間は何もない開けた空間。前に出ようと、遮蔽物から身を乗り出した風紀委員の悉くが廃ビルの屋上を陣取った狙撃手により、1人、また1人と撃ち倒され、被害が増える一方だった。
不良生徒達に紛れて優秀な傭兵が混じっている。特に屋上を陣取った狙撃手は厄介だ。
(腕が良いなぁ。元締めの雇われかなぁ? 嫌な位置取りしているなぁ。丁度太陽を背にしているから狙いづらいし、向こうからは一方的に狙われてるし……あ、また1人やられた)
遮蔽物を削られ、堪らず飛び出した風紀委員の額に、狙撃手からの一発が見舞われる。
小さな悲鳴を漏らしながら倒れる風紀委員を見て、小鳥は嘆息した。
(ヒナ先輩は別格として、イオリちゃんくらいの戦力がないと厳しいって所でありますかなぁ)
小気味よい銃声と爆発音、互いの陣営の怒号が響き渡る中、小鳥は残り僅かなサンドイッチを口の中に放り投げると、それを咀嚼しながらマスクを装着する。
手には愛銃のM30。そして、手持ちの弾はスラグ弾のみ。
それだけで十分だ。
負傷した風紀委員が後方へと運ばれていく中、マスクを装着した小鳥を見た面々は、攻撃の手を緩め、彼女の動向を窺い始めた。
「はーい皆さん傾聴。今から私は廃ビルに突っ込みまーす。その後、屋上の芋砂野郎の悲鳴が聞こえたら突撃する事。オッケイ?」
身振り手振りを交えて、指示を出す小鳥。そんな小鳥の指示に、風紀委員達は困惑した表情を見せたが、彼女達の返答を待たずに、小鳥は遮蔽物のない開けた空間へと足を踏み入れた。
「お、おい……あいつ、まさか」
「げっ!! やべぇぞ、狂犬が出張ってきやがった!!」
「ど、どうする? どうするよこれ?」
「どうするって……やるしかねぇだろ!!」
小鳥が単身乗り込んできた事に、不良生徒達は動揺し、浮き足立つ。しかし、1人の不良生徒の言葉に、皆の動揺は収まった。そうだ、やるしかない。そう覚悟を決めた不良生徒達が小鳥に銃を向けた。
パンッ!! と乾いた音が廃ビル内に響き渡る。それと同時に、小鳥の頭が後ろへ仰け反り、天を仰いだ。
屋上の狙撃手による狙撃だ。その狙撃を合図に、不良生徒達も負けじと引き金を引き、小鳥へ銃弾の雨を降らせる。
遮蔽物の無い開けた空間で1人。多勢に無勢。普通なら勝負にもならない状況だが、小鳥は違った。
彼女は撃たれて天を仰いだ後、屋上の狙撃手に向け、ボソリと呟いた。
「……良いねぇ」
その言葉が狙撃手に届く事はなかった。しかし、スコープ越しに小鳥を視界に捉えていた狙撃手は、マスク越しで見えない筈の彼女の表情が脳裏に浮かび、戦慄を覚えた。
狙撃手の彼女もまた、他の不良生徒と同じく、ブラックマーケットの関係者に雇われた傭兵だった。狙撃の腕を買われ、それなりに依頼をこなし、その手の界隈ではそこそこ名が通っていると自負している。
今回の仕事も、商品の護衛として依頼を受け、運悪くゲヘナ学園の風紀委員に目を付けられてしまったが故の戦闘だった。ついていない。しかし、スコープ越しに相手側の戦力の中に空崎 ヒナや、風紀委員の中で実力のある銀鏡 イオリの姿がない事に安堵し、屋上を陣取っての狩りを楽しむ予定だったが、それがいけなかった。
額を撃たれ、仰け反る小鳥の身体を、不良生徒達の銃弾が豪雨の様にその全身を穿つ。普通なら、それだけで終わりの筈だった。しかし、小鳥は仰け反らせた身体をバネの様に跳ね上げ、何事もなかったかのように不良生徒達の群れへと突っ込んでいった。
小鳥の異常な行動に不良生徒達が怯み、思わず後ずさる。攻撃の手が緩んだ瞬間、小鳥はM30を持ち直すと、正面入り口を陣取っていた不良生徒の1人に狙いを定め、大きく振りかぶった。
鈍い音と共に、不良生徒の顔面を、M30の銃床が深々とめり込み、そのまま勢いよく地面に頭から叩きつけられる。まるでピンポン玉の様に跳ね返った犠牲者を一瞥する事も無く、小鳥は廃ビルの中へと入っていった。
(やばいやばいやばいやばいっ!!)
丁度死角になっていた為、正面入り口で何が起こったか分からなかったが、碌な事ではない事は確かだ。最悪入り口を陣取っていた不良生徒は全滅……いや、今心配する事はそれではない。
奴が来る。此処に。この屋上に奴が来る。早く逃げなければ。
そう思い、SRは重荷になると手放し、身軽な状態でその場から撤退しようとした狙撃手だったが、屋上の扉が大きな音を立てて吹き飛んだ。そして、そこから姿を現したのは、やはり小鳥だった。
屋上へと足を踏み入れた小鳥は周囲を見渡しながらゆっくり歩を進めると、狙撃手と目が合い、マスク越しににへらと笑みを浮かべた。
「やぁやぁ芋砂ちゃんこんにちは。私は不死川 小鳥。お気軽に小鳥ちゃんと呼んでくれると嬉しいです」
その手に握られたM30からは鈍器として使用された形跡からか、赤い液体が付着しており、屋上の床にぽたりぽたりと滴り落ちている。
あれ、絶対痛いやつじゃん。狙撃手はそう思いつつ、引きつった笑みで小鳥に返答した。
「こ、こんにちは……えっと、不死川さん。私は……その……」
何とか隙を見て、この場から逃げなければ。そう考えていた狙撃手だったが、瞬きする間もなく肉薄した小鳥に首を鷲掴みにされ、身体が宙に浮いていた。
片手で装備を纏った人間を1人持ち上げるなんて、なんて力だ。そして、それ以前に、先程までフレンドリーな口調だった小鳥から一変し、殺気にも似たオーラが放たれ、狙撃手は呻き声を漏らした。
「冥途の土産に良い事を教えてあげるね」
低い声色。明らかに怒っている。そう感じさせる声色で、小鳥は狙撃手へ語り掛ける。その声色に恐怖した狙撃手は息を荒げながら涙目で許しを請うも、勢いよく床に叩き付けられ、肺の中の空気が吐き出される感覚と共に、額にほぼゼロ距離で照準を合わせられた銃口が目に飛び込んで来た。
顔を真っ青にした狙撃手に、小鳥はにへらと笑みを浮かべ、口を開いた。
「私、自分の苗字が嫌いなんだよねぇ。ごつくて全然可愛くないからさ」
「ひっ!! ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
バァンッ!! と、廃ビル内に銃声と狙撃手の悲鳴が木霊する。更に一発の銃声が鳴り響き、少し間が空き二発の銃声。更に間が空き、二発の……。
弾を込めなおしてから発砲を繰り返している。恐らくは最初の一発で意識を刈り取られたであろう狙撃手を相手に。
小鳥がゲヘナの狂犬と言われる所以。それは、標的と定めた相手を徹底的に追い詰め、確実に仕留める。その徹底した性格と、容赦のなさからくるものだった。
武術における残心……と言えば響は良いのかもしれないが、相手の身動きを封じ、気を失った後も撃ち続けたり、銃床で何度も顔面を殴り続ける姿は、問題児ばかりのゲヘナ学園においても異様な光景に映るだろう。
弾が切れ、カチカチと引き金を引いても空撃ちの音が虚しく響くだけとなった所で、小鳥は漸く銃を下した。そして、一息ついた所で、思い出したかの様に立ち上がると、屋上から遮蔽物に隠れている風紀委員に声をかけた。
「おーいみんなー。突撃しろっていったよねー!! こっちは終わったよぉー」
その言葉に、風紀委員達は肩を震わせ、思い思いに叫び声をあげながら突入を開始した。入り口を固めていた不良生徒達も、屋上で響き渡る銃声に戦意を損失させたのか、まともな抵抗らしい抵抗も出来ずに制圧されていく。
その後、数分と経たずに廃ビル内にいた不良生徒達は全員拘束された。
おまけ
中国には古来より殺一警百という言葉がある。日本では一罰百戒という熟語が近いらしい。話は戻りますが、殺一警百は文字通り、1人をむごたらしく殺す事によって残りの敵に警告するという意味なのだが、小鳥ちゃんの行動は、はからずともこの効果を齎している。が、本人はそんな事思ってもいないし、この言葉も知らない。