風紀の狂犬   作:モノクロさん

30 / 166
誤字報告ありがとうございます。
修正させて頂きました。


狂犬と賞金首

 陸八魔 アルにとって不運な事は、便利屋68のメンバーと別行動をとっていた事だった。

 

 新しい事務所に引っ越す為の金策として、個別に案件対応する事となった便利屋68だったが、思った以上に早く、依頼をこなしたアルは、ゲヘナの自治区を訪れていた。

 

 目的はゲヘナの自治区に潜伏しているとされる懸賞金をかけられた一団の確保。情報屋からそう安くない金銭で情報を得たアルは、人気の少ない裏路地を散策する。

 

 この辺りに懸賞金をかけられた一団が隠れ潜んでいるらしい。それらしい建物をいくつかピックアップし、改めて便利屋68のメンバーと共に襲撃をかける予定だった。

 

 T字路を曲がった先の、少し開けた広場に、彼女がいなければ。

 

 最初に聞こえたのは少女の悲鳴だった。悲鳴というよりは断末魔に近いもの。最初は悲鳴のような声だったが、鈍い音が響く度に呻き声に変わっていき、徐々に声が小さくなっていく。

 

 それを聞いてしまった以上、確かめたくなるのが人の性だ。

 

 建物の陰からこっそり覗き込むように広場へと目を向ける。

 

 広場の中央。そこに、1人の少女が血溜まりに沈んでいた。

 

 そして、その血溜まりを気にも留めず、倒れた少女の顔を持ち上げ、ジッと凝視する嘴を模したマスクを被った狂犬。不死川 小鳥がそこにいたのだ。

 

「ッッッッ!!」

 

 声を上げそうになるのを必死に抑え込み、小鳥の所業を凝視する。

 

 よく見れば、彼女の周囲には他にも同じく、地面に倒れ伏す少女達が多くみられ、皆、同じ服装をしている。その服装は、アルが狙っていた懸賞金をかけられた一団のものだったのだ。

 

 小鳥が少女達の顔面を鷲掴みにし、持ち上げる。そして……

 

「真っ赤っ赤~」

 

 と、少女の顔を様々な角度から観察する様に見つめながら恍惚の笑みを浮かべていたのだ。

 

(やばいやばいやばいやばいっ!!)

 

 見てはいけないものを見てしまった。普段の風紀委員会として活動する小鳥もだが、今の小鳥も大概だ。

 

(気付かれる前に逃げなくちゃ)

 

 あれに関わってはいけない。特に最近、何か悪い事をした覚えはないが、それでも風紀委員会として活動している彼女に近付くのは憚られるというもの。

 

 そっと忍び足で、引き返そうとした瞬間、足元に転がっていた小石を踏んでしまった。

 

 小石は跳ね上がり、地面に落ちて音を奏でる。

 

 血の気が引くとはこの事か。

 

 耳を澄ませると、『バシャン』と何かが水溜まりに落ちる音。生唾をごくりと飲んだアルは、恐る恐る広場へと繋がるT字路へと目を向けた。

 

 そこには顔半分だけをのぞかせながら此方を凝視するマスク姿の小鳥の姿。蛇に睨まれた蛙とはこの事か。いや、彼女からすればアルなんて蛙以下の存在なのだろう。

 

 小鳥は、アルの姿を認めると、ゆっくりとした動作で、ポケットから携帯を取り出し、画面に目を向ける。

 

 やるしかないか。そう思い、銃を持つ手に力が入った瞬間……。

 

「ご安心を。今日はアルちゃんや他の便利屋68に関しての報告は上がっていませんので」

 

 小鳥が携帯から顔を上げ、そう告げた。

 

 報告が上がっていない。つまり、敵対する意志はない。暗にそう告げる小鳥に、アルは安堵し、銃を握る手から力が抜ける。

 

 そんなアルに、小鳥はマスクを外すと、ニッコリと笑みを浮かべた。この笑顔は、先程の笑みではなく、屈託のないとても嬉しそうな笑みだった。

 

「あっはっは。こんな所でお会いするとは奇遇とはまさにこの事でありますなぁ。よもや、アルちゃんも懸賞金がかかった一団を狙っていたとかでありますか?」

 

 そのまま、小鳥はアルへと歩み寄っていく。そんな彼女に、アルは一歩また一歩と後ずさりながら、口を開いた。

 

「え、えぇ、そうよ。今は色々と入用だから。少しでも足しにしようと思って」

 

「成程成程」

 

 小鳥は、便利屋68が拠点としていた事務所を撤退し、新しい事務所を探している事を知っている。情報部からの情報だ。

 

 そして、金策として懸賞金がかけられた一団を捕まえる事が出来れば、それなりの資金を得る事が出来るのだろう。

 

 とはいえ、件の一団は、現在、風紀委員会も捜索している。小鳥が此処にいるもの、それが理由だ。故に、自分達の管轄にアルがいると、色々と面倒なのだが……。

 

「……アルちゃんアルちゃん。一つご相談なのですが」

 

「相談? 小鳥ちゃんが? 私に?」

 

「はい。正直な話、件の一団は私達風紀委員会も追っています。それなりの人員を割いて捜索しているのですが、中々彼女達を見つける事が難しく。なので……」

 

 そこまで話して、小鳥はアルの耳元に顔を寄せる。そして、囁かれた言葉にアルの顔色が変わった。

 

「此処は一つ、協力しませんか? 私が前衛。そしてアルちゃんが後方支援。報酬は懸賞金がかけられた一団という事で」

 

 

 

 小鳥から持ち掛けられた提案は、アルにとって都合が良いものだった。

 

 一時的とはいえ、戦力としては十分すぎる小鳥と手を組む事はメリットしかないだろう。しいて言うなら、この提案があくまでも小鳥個人のものであり、他の風紀委員と鉢合わせになった時に色々ともめるだろうが、その点は小鳥が何とか取り繕ってくれるとの事。

 

 不安要素はあるが、此処で一気に資金を手にする事が出来れば、部下達に野宿生活を強いる事もなくなる。アルは二つ返事で小鳥の提案を了承した。

 

「それじゃあ、先ずは情報の共有といきましょう」

 

「ですなぁ。擦り合わせってやつですね。ではまず、私から……」

 

 と、情報部が仕入れた情報を提示する小鳥。内容はあくまでも話せる範囲だろう。所々、考える素振りを見せている為、言えない事も多々あるようだ。

 

 次にアルが情報屋から得た情報を提示する。しかし、内容は殆ど小鳥が提示したものと変わらず、情報を付け加えるだけに終わった。

 

 一通り情報を共有し、互いに擦り合わせたところで、今後の動きについて考える。

 

 小鳥が既に構成員の一部を捕縛しているが、皆意識が無く、情報を聞き出すには難しい状況だ。それなら、彼女達を探しに来た構成員を改めて確保すればいいと結論付け、二人は彼女達が倒れている広場の周囲を陣取り、待ち伏せをする事になった。

 

 広場の周辺に身を潜め、構成員が通り掛かるのを今か今かと待つ。そして、数十分後、構成員と思わしき集団が広場に現れた。

 

 数は8人。此処までは作戦通りだ。

 

 皆、血溜まりに倒れる仲間に駆け寄り、何事かと騒ぎ立てている。その背後を、小鳥が襲撃し、構成員の襟首を掴むと、そのまま地面に叩き付けた。

 

 マスク姿の小鳥に、皆が驚愕する。

 

 戦おうとする者もいたが、それらは一瞬で鎮圧され、逃げ出そうとした者はアルの狙撃によって沈黙した。

 

 こうして、小鳥とアルの前に、意識がある構成員は3人だけとなっていた。

 

「さてさて、此処までは作戦通りですねぇ。これからどうしますかい?」

 

「そうね、取り合えず1人ずつ、話を聞きましょうか」

 

 拘束した構成員に歩み寄る小鳥とアル。そんな2人を前に、1人が噛み付く。

 

「クソッ!! テメェら、こんな事をしてただで済むと思ってるのか!?」

 

 そう口火を切った構成員に、アルと小鳥は顔を見合わせる。

 

「威勢が良い子でありますなぁ」

 

「そうね。先ずはこの子に聞くとしましょう」

 

「聞くって何だ!! お前達に話す事は何もないぞ!!」

 

「あら、そうなの? 先ずは私達の話を聞いてk『ドゴッ!!』……小鳥ちゃん?」

 

 小鳥に視線を向けると、彼女は構成員の顔面目掛けて愛銃を振り下ろしていた。鼻血を吹き出し、白目を剝く構成員に、アルと他の構成員が唖然とする。

 

 対して、小鳥は不思議そうな顔をして、もう一度愛銃を振り下ろそうとした。

 

「待って!! ちょっと待ちましょうか小鳥ちゃん!!」

 

 必死に追撃を阻止するアルに、小鳥は首を傾げる。

 

「え、一体何を待つでありますか?」

 

「あのね小鳥ちゃん。先ずはこの子から話を聞くって言ってたでしょ?」

 

「はい、なので話す事が無いと言っていたので用済みかと」

 

 用済み。その発言に、アルは改めて小鳥の恐ろしさを知るのだった。

 

「ま、まぁ……そうね。まだ2人残っているから……」

 

 と、もう1人の構成員に視線を向けると。その構成員はガタガタと震えながら恐怖で顔を歪めていた。

 

「貴女は知らないかしら? 自分達のリーダーの所在地を」

 

「し、知らないです!! 本当に知らないんですごめんなさい!!」

 

 彼女の言い様からすれば本当に知らないのかもしれない。末端にまで情報が回っていないのだろうか?

 

「仕方ないわね。では最後にあn『ドゴォ!!』……小鳥ちゃん?」

 

「え、だって知らないって……」

 

「……わ、分かったわ。そ、それじゃあ、最後の貴女に聞くわね。貴女達の……」

 

「リーダーはゲヘナ自治区の○○にいます!! 後、他の構成員は○○人!! それぞれ……」

 

 最後に残った構成員は2人目の子と違い、末端の構成員をまとめる人物だったのだろう。

 

 彼女から得られた情報により、懸賞金がかけられた一団の居場所が判明した。

 

「よかったわね小鳥ちゃん。これで相手の居場所が……」

 

 そう言いかけたアルは、咄嗟に構成員の服を掴み、自身の傍に引き寄せた。次の瞬間、小鳥の愛銃が空を切り、地面へと打ち付けられる。

 

 大きく穴の開いた地面に戦慄する構成員を他所に、アルは冷や汗を流しながら問い掛けた。

 

「こ、小鳥ちゃん。これは一体……」

 

「え、だって、もう聞きたい事は聞けたので……」

 

「えっと……この子には、此処に転がっている子達を風紀委員に引き渡す際に、身元を証明する為に必要かなって思うの」

 

「……あぁ、成程ですね」

 

 その言葉に納得したのか、追撃しようとした手を止め、びくびくと怯える構成員と目を合わせる。

 

「それじゃあ、今から風紀委員を呼びますが、ちゃんと彼女達の指示に従ってくれますね?」

 

 構成員は首を大きく振って肯定し、アルに向かって小声で『ありがとう』と告げる。

 

「さてさて、それではそろそろ行きましょうか? 私は構いませんが、このまま時間を無為にしていては他の誰かか風紀委員会に先を越されますゆえ」

 

「そ、そうね……それじゃあ早く行きましょう」

 

 

 

 こうして、小鳥とアルは、構成員の彼女から得た情報を元に、懸賞金がかけられた一団のアジトに強襲をかける事に成功。前線を小鳥が暴れ回って攪乱させ、後方で待機していたアルが主犯格を一人ずつ狙撃して仕留めていく。

 

 まさに阿吽の呼吸で一団を壊滅させた2人。

 

 懸賞金をかけられた集団をアルに預けた小鳥は、他の構成員達を風紀委員に引き渡し、そのまま帰宅。

 

 なお、一団をヴァルキューレに引き渡し、懸賞金を受け取ったアルだが、そのまま便利屋68の待つ簡易テントに戻ると同時に、疲れ切ったせいか泥の様に眠るのであった。




豆知識
因みに、仮に便利屋68に対する報告があったとしても、小鳥はあまり手荒な事はしない
一度、大人しく特別牢に入ってくれれば危害を加える事無く、釈放しますとは言う予定ではあった
何故なら、彼女達にはエデン条約に向けて色々と依頼したい事もあったから

感想や評価、ありがとうございます。
感想に関してはまだまだ返信できていない所もありますが、拝見させて頂いております。凄く励みになっています。今後とも風紀の狂犬を閲覧して頂けると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。