「皆さんに集まって頂いたのは他でもありません。この中に、風紀を著しく乱している者がいます」
風紀委員会本部で定期的に行われる定例会議。出張中のヒナを除いた面々が集まる中、行政官のアコが、開口一番に言い放った。
その言葉に、自然と視線が一箇所に向けられる。
「……ふぅ。ま〜た私ですか。いやまぁ、私なんでしょうけどね」
アコの言葉に溜め息を溢し、項垂れるのは小鳥だった。
しかし、最近は真面目に仕事もしているし、不良生徒の検挙率もヒナに次いで高い。何が問題なのだろうか?
「それで、私が一体何をしたんですかい?」
そう問い掛ける小鳥に、隣に座るイオリも、最近の彼女の行いについてを思い返す。
確かに、最近の小鳥は目立った行動はしていない様に思う。ヒナが不在の際は率先して不良生徒を相手にしているし、オフの時も、特段変な事はしていない筈。
強いて言うなら、以前、万魔殿のイブキを連れ回したくらいだが、それに関してはヒナ委員長から直々にお叱りを受けている。
「小鳥ちゃん、もしかしたらだけど、小鳥ちゃんからすれば些細な事で……って可能性があるから、その辺りで何か心当たりは?」
「う〜ん、そう聞かれると困るのですが……」
イオリからの質問に頭を捻る小鳥。しかし、これといった心当たりは浮かばない。
風紀……風紀ねぇ……
と、何気なく腰に手を当てた時、ポケットの中に入っていた携帯の感触に、『あっ』と手をポンと叩く。
「強いて言うなら、ヒナ委員長に、この間買った私服の自撮りをお願いしたくらいですかねぇ」
「あ"ぁ"っ"!!」
小鳥が漏らした一言に、アコは眼をこれでもかと見開きながら声を荒げる。突然の大声に、他の委員達は肩をビクッと震わせた。
「アコ行政官?」
「………………失礼。つい声を荒げてしまいました。それで、その自撮りと言うのは?」
他の委員の前もあり、暫しの間の後、冷静を装いながら質問するアコに、小鳥は『あ、これ地雷だったわ』と、ちょっと後悔しながらその質問を返した。
「アコちゃん輩先には以前お話しましたが、ヒナ委員長とショッピングに行った時に購入した私服の事ですよ」
あの後、私服以外にも小物をいくつか購入したので、それを合わせて着飾った姿を写メで送って欲しいとお願いしたら、渋々ながら了承。
少し恥ずかしかったのか、頬を染めながらぎこちないながらも携帯のカメラに向かってピースサインで撮った写メを送られてきた時は、そんな彼女の様子に、『うはぁ、うちの風紀委員長可愛すぎかよ』と微笑ましく思ったものだ。
「その時の写真がこれです。まぁ、これなら見せても問題ないでしょう」
携帯を操作し、ヒナから送られた写メを表示し、アコとイオリに見せる。すると、他の子達も見たかったのか、席を外して小鳥の背後に集まり、画面を覗き込んできた。
「それで、これが件の風紀の乱れってやつですか? 私としては、普通の事だと思っていたのですが……」
「……そうですね、これに関しては特に問題ないでしょう。しかし、これ以外にもヒナ委員長に自撮りを強要したんじゃないですか? それについても詳しい説明を要求します!!」
鼻息を荒くしながら別の画像がないか問いかけるアコに『やっぱ地雷だったわ』と、改めて後悔した小鳥だが、今度は首を横に振って、その問いを否定した。
「残念ながら、写メはこれだけですよ。それ以外は何も……」
「これなら見せてもいい……と、言いましたよね?」
「……言ってないですよ」
そう言って否定するも、今度は懐からボイスレコーダーを取り出して、先程の内容を再生し始めた。
『その時の写真がこれです。まぁ、これなら見せても問題ないでしょう』
「言いましたよね?」
「……はい」
この行政官、嫌な行政官だ。そう思いながら、そっと携帯をしまおうとした小鳥の腕を、アコがガッチリとホールド。
「それで、他に写真は無いんですか?」
「……後一枚だけ」
小鳥がポツリと呟くと同時に、アコの瞳がキラリと光る。
「一枚、ですか?」
何やら嫌な予感がした小鳥は、目線を逸らして誤魔化そうとするも、アコから鋭い視線を向けられる。
「他には、無いんですか?」
「……一枚だけです」
観念して両手を上げるも、携帯の画面は真っ暗なままだ。
「中身を拝見しても?」
「ダメです」
「何故?」
「これをアコちゃん輩先が見ると、大変な事になるからです」
見せられるわけがない。何故ならこれは、ヒナ委員長に無理を言って撮って頂いた、超レアな一枚。
ヒナに『誰にも見せないで』と言われた事もあり、小鳥は是が非でもアコに見せたくないのだ。
「小鳥ちゃん? いいえ、風紀委員会所属、不死川 小鳥さん」
笑顔で威圧してくるアコに、小鳥も負けじと笑顔で対抗する。
「どうしても、ダメですか?」
「ええ、ダメですね」
暫しの沈黙の後、『分かりました……』と諦めた素振りを見せるアコに、小鳥はスッと身構えて臨戦態勢に入った。
そして……。
「本当は穏便に済ませたかったのですが、ヤるしかなさそうですね?」
「はっはっは!! その発言、気をつけた方が良いですよ。何処ぞの字幕で翻訳されればセンシティブになるってSNSで調べましたから!!」
「何を言っているかわかりませんが、ファクトチェックはお忘れ無く!!」
その後は携帯の奪い合いからのキャットファイトに発展した定例会議。
フィジカル強者の小鳥だが、身内には甘い為、アコに根負けして携帯を奪われてしまう。
「さぁ小鳥ちゃん!! その携帯の中身を……」
と、そこまで言ったアコだったが、会議室の扉が開く音に、一同が静まり返る。
「アコ、それに小鳥。何をしているの?」
扉を開けたのは、出張から戻ったヒナだった。定例会議の場にヒナが戻って来た事に、アコは慌てて携帯を隠しながら立ち上がる。一方小鳥はと言うと固まったまま微動だにしていない。
ヒナは、そんな2人の前まで歩いて行くと、アコに隠した携帯を出すように要求した。
「ヒナ委員長。これはですね。ちゃんと理由が……」
「アコ。携帯、出して」
「は、はい……」
アコは、ヒナの圧に負けて携帯を差し出す。受け取ったヒナは、画面を表示させると、そこに写っていた写真を見て納得した。
「あぁ……成程……そういう……そういうこと」
何やら納得したヒナは、小鳥に向き合うと……。
『ゴンッ!!』っと鈍い音がし、会議室にいた委員達の誰もがびくりと身を震わせた。
「その写真は見せないでって伝えた筈だけど?」
「……申し訳ないです。ですが、まだ誰にも見せてないです」
「そもそもどういう話の流れでこの写真を……まぁ、いいわ」
頭を押さえて蹲る小鳥を見下ろしながら、暫し思案した後、深く溜息を漏らしながら、ヒナは携帯に表示された画像をアコに見やすいように傾けた。
携帯の画面には、自宅で水着姿のヒナが、私服姿の時と同じように恥ずかし気にピースサインをしている姿が映し出されている。
「小鳥にはこの水着を買って貰ったお礼にって理由で写真が欲しいって言われたの。だから、撮るかわりに他の人に見せないように伝えたんだけど、それを理由に風紀委員会のなかで不和が起きるくらいなら……まぁ、小鳥はそんな意図は無かったみたいだけど」
そう言って、携帯の画面を閉じ、小鳥に携帯を返すと、アコに小鳥の処遇を言い渡す。
「それでも、定例会議で暴走した二人には、私が良いと言うまで反省文を書いてもらうわ。異論はある?」
ヒナの問いかけにアコと小鳥は、首を横に振って答えた。
ヒナの命令で反省文を書く小鳥とアコ。そんな二人にイオリは問い掛けた。
「それで、結局風紀を乱しているやつって誰だったんだ? やっぱり小鳥ちゃん?」
「いえ、違いますよ」
「え?」
「え?」
「『え?』って皆さんが小鳥ちゃんに目を向けるものですから話が勝手に進んだんじゃないですか。私は一言でも言いましたか? 小鳥ちゃんが風紀を乱していると」
今回の定例会議は、末端に指示を送る風紀委員達の中に、仕事中にサボっている者がいると複数の報告を受けていたので、注意勧告も兼ね、話し合いの場を設けたとの事だった。
つまり、最初の段階で全員が小鳥を疑い、小鳥が自分自身の普段の行いが風紀を乱していると心の何処かで思っていた事。小鳥がそれを否定しなかった事が、定例会議をおかしな方向に進めてしまったとの事らしい。
まぁ、それでヒナ委員長の私服姿と水着姿の自撮り写真を拝む事が出来たアコからすれば、この程度の反省文は意に介さないといった所だろう。
「それより小鳥ちゃん。先程のヒナ委員長の自撮り写メ、私の携帯に送って欲しいのですが」
反省文をすらすらと書きながら写真のデータを要求するアコに、小鳥は『絶対にお断りです』と返すのであった。