風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
修正させて頂きました。


狂犬は恋の狩人にて候

「ほぉほぉ、つまり、最近の外出はシャーレの先生との逢瀬が理由であるということですか」

 

「小鳥、ちゃんと話を聞いてた?」

 

「はい、ヒナ委員長が夜な夜なお出掛けしているのが、シャーレの先生と会う為という事ですよね?」

 

「えぇ、そうよ。今後はシャーレとも連携をとって事にあたる活動も増える筈。それに向けて部隊の運用や戦術も含めて擦り合わせをしていく必要があると思うの」

 

「ふむ……それが後々にゲヘナの為にもなりえるし、何よりキヴォトス全体の為にもなりえると」

 

 そこで一旦区切った小鳥は、ヒナの瞳を真っ直ぐに見つめて思案する。

 

 ヒナの言い分は正しい。

 

 現在キヴォトスでは、連邦生徒会長の失踪により、犯罪率は増加の一途を辿っている。

 

 各自治区で発生している犯罪を防ぐ為には、シャーレの先生や他の自治区との連携も必要不可欠となって来るだろう。

 

 迫るエデン条約の締結も、その犯罪を減らす為の一手になりえる。

 

 ヒナからすれば、エデン条約の締結に加えて各自地区と連携しての犯罪の取り締まり強化と問題は山積みだ。

 

 シャーレの先生と夜に会う事もまた、ヒナからすれば貴重な睡眠時間を削っての事なのだが……多分色々と問題が生じるだろう。

 

 今回に限っての問題は、所謂、男女の仲で……と、言う事なのだが。

 

「ヒナ委員長。私から少しばかりお話があります」

 

「何かしら?」

 

「私は、ヒナ委員長の今後の対策に対しては賛成派です。ですが、一つだけ問題があると思われます」

 

「問題?」

 

 ヒナ委員長は、特定の権力を持った人物が自身と会う事を、誰かに知られては危険と判断したのだろう。

 

 何せ、ヒナ委員長には敵が多い。

 

 敵対する人物が、その矛先をシャーレの先生に向けた時、彼は格好の的となる。それを避ける為に、夜の、人気の無い場所で会っていた。

 

 それが問題なのだ。

 

「先程は冗談で言ったのですが。それを踏まえて、例えばの話ですが、ヒナ委員長が夜中にぶらりと外に出たとします。その時、私が異性の大人と人気の無い所に歩いていってたら、どう思われますか?」

 

「どうって……小鳥の事だから特に事件性は感じないけど」

 

「あはは、成程ですね。ですが、私の事を知らない赤の他人からすれば、異性の二人が人気の無い所に行くことに対して、いかがわしいと捉える者も一定数いるわけなのですよ」

 

「いかがわしい……っ!!」

 

 そこまで言われて漸く気付いたのだろう。ヒナがその頬を僅かに朱に染める。

 

「つまり、私は勘違いされるような行動を取っていたという事?」

 

「あくまでも、一定数の相手に対してですがね。勿論、最初から人気の無い所を選んでいるわけですし、ヒナ委員長と先生を目撃する者が少ないとはいえ、噂は一人歩きしますゆえ」

 

「な、成程、その対策は必要ね……。小鳥、何かいい案はないかしら?」

 

 ヒナの問い掛けに、小鳥は顎に手を当てて考える。

 

「普通に昼間に会えば良いのではないですか? 先生の護衛も兼ねて」

 

「でも、昼間は風紀委員会の仕事が……」

 

「それなら、巡回は私が、後の書類関連の雑務は他のメンバーにお願いするのもありですね。最悪、リモートでやり取りするというのもありですが……」

 

 と、直接会うのではなく通信端末でのやり取りを提案しようとした小鳥だったが、ヒナの瞳に揺らぎを感じ、『おやっ?』となる。

 

 もしかしてヒナ委員長、先生に会いたい?

 

「……リモートでは細かなやり取りが出来ないので、やはり面と向かって話し合った方が良いですからねぇ」

 

 そうやって、話を切り替えてみたらあら不思議、先程と打って変わり、少し嬉しそうな表情のヒナ委員長に早替わりではないか。

 

(これはあれですね。最初は仕事として先生に会っていたけど、先生の人柄に絆されちゃったパターンですね)

 

 そう考えると、ヒナ委員長の幸せそうな表情に、小鳥は心が締め付けられる感覚を覚えた。

 

 これは何か?

 

 ヒナ委員長の幸せを応援すべきなのか?

 

(……考えるまでもないじゃないですか)

 

 自分のやるべき事は決まっている。ヒナ委員長が幸せになる為に、自分は全力で彼女を応援するのだ。

 

「ならば話は早いですな。先ずは先生に会う時間帯はもっと調整しましょう。そして、その際に生じる仕事のスケジュールは調整して下さい。もしも他の子達に任せるのが申し訳ないなら、私が仕事を受け持ちます」

 

 とはいえ、出来る事と言えば、暴力一辺倒だけど、それでも、このゲヘナであれば十分に活躍できる。

 

「それと、ついでに先生と巡回も兼ねてゲヘナの自治区を巡るのもありですね。実際に目で見た方が、今後の対策にもなりますゆえ」

 

 一緒にショッピングに行った時のように、先生と一緒に巡回をしつつ、様々な地域の問題も直接触れる事が出来る。一石二鳥だ。

 

「そ、そんなの悪いわ。小鳥には小鳥の仕事があるし……」

 

「問題ありません。やるべき事をやるべき人間がやる。その一環で、少し息抜きする事も大事ですよ。特にヒナ委員長は、此処の所、お休みらしい休みをとってないみたいですので」

 

 そう言ってカラカラと笑うと、ヒナ委員長は『うぐっ』と唸る。

 

「そ、それじゃあ……その……」

 

「はい」

 

「ご厚意に甘えさせてもらおうかしら」

 

「はいはい。存分に甘えて下さい。それでは早速、先生と時間の調整でもされますか?」

 

「……ごめんなさい。少し急すぎて、色々と準備をしなくちゃ」

 

 ヒナ委員長は、そう言うと立ち上がって小鳥の隣を通り過ぎる。

 

「ヒナ委員長。人に頼ると言うのも中々良いものですよ」

 

「……えぇ、ありがとう」

 

 そう言い残して去っていくヒナを見送る小鳥。その後ろ姿は、何時もよりも軽やかで、楽し気に見えた。

 

「はっはっは。うむうむ……どうやら上手くいったようですね」

 

 ヒナの居なくなった執務室で、小鳥は1人呟く。

 

「あのヒナ委員長が色を知るとは、いやはや、人生とは分からぬものですねぇ。あれは守護らねば無作法というもの」

 

 そう言って、弓を引く姿をイメージして弓を引くような動作を幾度か繰り返すと、『うむ』と満足そうに頷いた。

 

「ならばこそ、なるしかねぇよなぁ!! 恋のキューピットってやつによぉ!!」

 

 その姿は獲物の心臓を穿つ狩人が如く。小鳥の瞳は、鋭く研ぎ澄まされ、そして滾っていた。

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