後日、恋のキューピットになる事を誓った小鳥は、無事にヴァルキューレ警察学校の生徒達に不審者として逮捕されていた。
取り調べ室にて、小鳥は手錠をかけられ、パイプ椅子に座らされている。
その目の前には、ヴァルキューレ警察公安局の局長である尾刃 カンナが座っていた。
「すげぇ、ヴァルキューレの狂犬とゲヘナの狂犬が向かい合ってる」
「だね。なんか凄い事が起きそう」
部屋の様子を廊下から伺うのは、ヴァルキューレ警察学校の生徒達。
ゲヘナの狂犬と恐れられている小鳥に興味津々といった様子だ。
対して、小鳥はというと、この状況を快く思ってはいなかった。寧ろ、この状況に冷や汗だらだらである。
(何故こうなった?)
運良く非番の日にヒナとシャーレの先生がゲヘナ自治区で話し合いがあると聞きつけ、場所を特定したまでは良かった。
正確には、ヒナ本人から、先生と自治区内を巡回する旨を聞いており、見守る為に出向いた矢先に不審者として逮捕されたのだ。
「……それで、ゲヘナ学園風紀委員会所属の不死川 小鳥さん。これからいくつか質問させて頂きますが、答えられる範囲で良いのでお答え下さい」
「あ、はい……」
何時もの調子が出ない。そもそも何故捕まったのだ?
不審者という理由で捕まったが、それなら普段の活動中は、もっと酷い事をしているというのに。
ヴァルキューレ学校の生徒達は、変なタイミングで優秀か? と、小鳥は泣き出したい気持ちを抑えつつ、カンナの質問に答える。
「先ずは、貴女が所持していた銃に関してですが……」
今は没収されている銃器に関する質問だ。
「貴女は普段、M30を携帯している筈なのですが、何故今日に限って対戦車ライフルを所持していたのですか?」
小鳥は今、普段使用している愛銃ではなく、対戦車ライフルのパンツァービュクセ(PzB)を携帯していた。
「……良い塩梅の弓と矢が無かったので、それなら対戦車ライフルかなと」
「……仰っている意味が分からないのですが」
「あはは、私も意味が分かりません」
「そ、そうですか」
言える筈がない。先ずは形から入ろうとして弓と矢を探したが、中々良いものが見つからなかったので、代わりに対戦車ライフルを様々な伝手で入手したなんて、言えるはずがない。
「それでは、次の質問ですが、ショッピングモール外の一角を陣取り、スコープ越しに辺りを伺っていた理由は?」
「……不審な人物を探しておりまして」
「その貴女が不審者として捕えられたのですが」
「何も言い返す事が出来ません」
その通りなので、何も言い返せない。元々はヒナと先生の周辺に怪しい人物がいないか見張っていたのだが、その事に集中しすぎて、他がおざなりになってしまった。
「……そうですか」
素直に答える小鳥に、カンナもどう対応するか悩んでいるようだ。
小鳥の人柄はある程度把握している。
風紀委員会に所属する前は色々と荒れていたが、それ以降は、ヒナ委員長の下で能力を発揮し、多くの不良生徒達を取り締まっている。
少々やりすぎな面も見られるが、治安が良いとは言えないゲヘナにおいて、抑止力となっている彼女の実力には、カンナ自身も一目置いていた。
それがまさか、不審者として捕まるとは、人生何が起こるか分からないものである。
「まぁ……今回はあくまでも任意という形での事情聴取です。手錠に関しては、どうしても怪しい見た目だったので行った処置ですが……」
と、話を聞いているうちに、怪しい動きをしていたが、恐らくは白だろうと判断し、今後は注意するようにと忠告する。
それらの話も素直に頷いて聞いていた小鳥だったが、内心ではほっとしていた。
ひとまず今の危機から逃れる事は出来た。後は、上手くヒナ委員長と先生を見守るだけだと、そう思いながら話を聞いていたが、カンナが発した次の言葉で、冷や汗が一気に溢れ出した。
「では、後の事は風紀委員長の空崎 ヒナさんに内容をお伝えして……あの、小鳥さん?」
ヒナの名が出た瞬間、流れる様な動作で床に膝をつき、黄金比率の完璧な土下座を繰り出した小鳥。
その光景に、カンナも周りのヴァルキューレの生徒達も唖然としてしまう。
「あの……小鳥さ……」
「なにとぞっ!! なにとぞヒナ委員長にはご内密に!! なにとぞご内密にお願いします!!」
バレたらヤバいなんてものではない。ヒナの事だ。話を聞けば、何故小鳥がこんなバカな事をしたのか分かってしまう。
その先の未来を想像しただけで、小鳥の全身からは冷や汗が滝のように流れ出した。
その様子に、カンナは戸惑いながらも土下座を止めるように説得する。そして、何とか土下座を止めて貰うのに数十分の時間を要し、今回だけ、ヒナ委員長には伝えない事を約束し、そのまま釈放した。
釈放された小鳥は、とぼとぼと帰路に着く。既に外は暗く、街灯の灯りが道を照らす。
ヒナにバレないようにと行動したのにも関わらず、最後は不審者として捕まる始末。
(まさかこんなアホな事になるなんて)
小鳥は、自分の行動が如何に浅はかなものだったのかを思い知りながら、とぼとぼと歩く。普段の愛銃と違い、対戦車ライフルが重く感じる。
これどうしよう。使い道ないな。
そう思いながら重たい足取りで自宅に帰ろうとしていると、道の真ん中を黒いスーツ姿の人物が佇んでいた。
視線が、足先から上へと上がっていき、その人物の顔で視線が留まる。
見た事もない人だ。いや、あれは人なのか?
身体は影のように無機質で、右目らしき場所は発光しており、そこから顔全体に亀裂が走った人物。
小鳥の直感が警鐘を鳴らす。
あれは敵だ。そう認識した瞬間、小鳥は対戦車ライフルを握る手に力をこめた。
しかし、相手は小鳥の様子を気にも止めず、ただ此方を見つめるだけだった。
その立ち振る舞いに敵意はない。寧ろこれは……
「はじめまして、不死川 小鳥さん。貴女とは一度こうしてお会いしたかった」
観察者だ。
「先ずは自己紹介を。私達は『ゲマトリア』そして、私個人の事は『黒服』とお呼び下さい」
実験動物を観察する、観察者のようだった。
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次回より日常パートからメインストーリーにかわる予定です。