風紀の狂犬   作:モノクロさん

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今回、一部生徒のメモロビがあります。
ご了承ください。


狂犬は迷わない

 黒服と別れた小鳥は、薄暗い自室のベットに寝転がりながら、マスクを弄っていた。

 

 なんの変哲もないマスク。それこそ、通販で購入できる市販の製品だ。

 

 しかし、このマスクのお陰で、今の私が神秘に侵食されないでいると言われたのだ。

 

 その意味は分からない。

 

 ただ一つ、彼の言葉には信憑性があった。かつて悩まされた傷の再生速度。手榴弾の爆発に巻き込まれながら、傷は瞬時に再生し、痛みも感じなかったそれは、風紀委員会に所属してからというもの、少しずつ変化が現れ始めた。

 

 便利屋68との戦闘時、アルの放った弾丸を側頭部に受けた時、『痛み』を感じた。

 

 それだけではない。その時の戦闘でマスクが破壊された後、追撃の為にカヨコが運転する車にとりつき、そして引き剥がされての落下と電柱へ顔面を叩きつけられた時も、全身に痛みを感じた。

 

 その時は、頑丈な身体で良かったと、そう思えた自分に驚いたが、その後も暫く、負傷した部位の治癒が思っていた以上に遅かった。

 

 黒服の言う、神秘の弱体化。二つの顔、相反する二面性を持つ神秘が、マスクを被る事で分かたれ、衰退した。

 

 それは、小鳥個人としては好ましい事なのだろう。

 

 彼女にとって、その神秘は忌み嫌うものである。

 

 しかし、今の小鳥は、忌み嫌うべき己の神秘を、迫るエデン条約に向け、必要に迫られるかもしれないのだ。

 

 目に見えなかった敵が明確になった感覚。

 

 敵は確実に存在する。それも、小鳥の想像を超える可能性がある敵が、確実に存在するのだ。

 

 黒服の忠告に従うなら、自身の神秘が、ヒナを守る剣……いや、弾丸と成り得るのならば、小鳥は今一度、己の神秘と向き合う必要がある。

 

 例えそれが、己の身体を蝕む毒となろうとも。

 

 これはなんとも、都合の良いものだなと、笑ってしまう。

 

 いらないと、不要と切り捨てながら、都合が悪くなれば必要だなんて、我ながら、自分勝手なものだと自嘲する。

 

 だが、今一度向き合うべきだと思えた以上、行動すべきだ。

 

 迷う事など、ある筈が無い。

 

 あの時、小鳥はヒナの言葉に救われた。

 

 今度は、自分がヒナにその恩に報いる番なのだと、小鳥はそう、決意した。

 

 

 

 

 

 

 後日

 街中で不良達を全員もれなく病院送りにした小鳥は、書類整理に追われているであろうヒナに、夜食をと思い、風紀委員会本部を足を運んだ。

 

 一部を除いて灯りのない、静まり返った本部。執務室だけが明るく、中ではヒナが書類と格闘している事だろう。

 

 予想通りで余計に悲しくなるワーカーホリック姿に、小鳥はやれやれといった表情で、執務室に向かった。

 

 しかし、本部に入った所で、足音が聴こえ、首を傾げる。

 

 自分以外に誰か来たのか?

 

 そう思いながら、扉をノックする音と共に、男性の声が聞こえる。

 

 この声に聞き覚えがあった。

 

 先生だ。シャーレの先生が来ているのだ。

 

 こんな時間に? シャーレの先生が?

 

(何だろう? 心臓の鼓動が跳ね上がってきた)

 

 気配を消し、忍び足で執務室の前に立つ。

 

 そして、悪い事だと思いながら、そっと扉に耳を当てた。

 

 ヒナと先生が何やら話している。

 

 ヒナの声色から察するに、最近徹夜続きで疲労が溜まっているのだろう。

 

 先生はというと、仕事の手伝いに来たとの事だが、それに関しては、ヒナにしか出来ない内容だった為、仕事の様子を見守るとの事だ。

 

 暫しの沈黙、ドア越しに聞こえるペンの走る音。

 

 胸の鼓動が先程よりも早くなるのを感じながら、より意識を集中させる為に目を閉じる。

 

ー……やっぱりちょっと気になるー

 

 ヒナの声だ。

 

(はい、私もかなり気になります。部屋の中で何が起こっているでありますか!! 第三次大戦待ったなしですよこれは!!)

 

 先生の事が気になるヒナは執務中の姿を見られる事に恥じらいを感じているというのか。これは……これは中々に良い!!

 

ー先生が横で見ていると、あまり集中できないー

 

(すみませんヒナ委員長。私いま、ものすっごい集中力が上がってます!! 申し訳ありません、ありがとうございます!!)

 

ーというか、なんでこんなに暑いんだろうー

 

(暑い……今、暑いって言いましたか!! おいおいおいおい、この扉の向こうで、とんでもねぇ事がおっぱじまるんじゃないですか!!)

 

ーま、待って!! 何をっ……ー

 

(え? え? ま、マジなのですか!!)

 

―おでこが熱々だよー

 

(あっ(察し)……スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ。ごめんなさいヒナ委員長。勝手に盛り上がってました)

 

 思わず、愛銃の銃口を口に突っ込みたくなる程、心の中で謝罪を述べた。

 

―……生理現象なの!! 眠いと体温が高くなるの!!―

 

(…………)

 

 その間にも会話は進んでおり、小鳥は改めてドアに耳を当て、会話を聞き入る。

 

 そんな、小鳥がドア越しに会話を聞いている事など、二人は知る由も無く、自然といい雰囲気になっていく。

 

 神秘的な夜、執務室に先生と二人きりでいる事に、ヒナは何処か安堵の声色を滲ませながら、眠りについたようだ。

 

 徹夜続きの限界状態で、安心できる先生が傍に居た事で、気が緩んでしまったのだろう。

 

 ヒナを抱きかかえ、少し離れた所に横たえさせた音が聞こえる。

 

 その衝撃で、微睡の中に目を覚ましたヒナが、薄れた意識の中で、先生と何かを話していた。

 

 そして……。

 

―実は……先生のそういう顔が好き―

 

 先生に対する思いを、微睡の中で打ち明けたのだ。

 

 それを聞いた小鳥は、そっとドアから耳を離し、執務室前から離れた位置に移動する。

 

 少しして、先生が部屋から出るのを確認した小鳥は、執務室前に戻って、そっと扉を開いた。

 

 窓辺でコートをかけられたヒナが静かに寝息を立てている。

 

 月明かりに淡く照らされたヒナに、小鳥は優しく微笑みかけた。

 

 そして、そのまま執務室を出た小鳥は、廊下を歩く。

 

 そのまま本部を出た小鳥は、急ぎ足で自宅に戻ると、そのままベットに倒れ込んだ。

 

 枕を抱き寄せ、顔を埋めながら、声にならない声をあげ続ける。

 

 そして……。

 

「こりゃ頑張るしかねぇよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 神秘の浸食なんぼのもんじゃい!! やってやっからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 改めて決意を露わにした。




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