風紀の狂犬   作:モノクロさん

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狂犬は先生に相談する

『ハロハロー先生、わたしだよ〜』

 

『こんにちは、小鳥。今日はどうしたの?』

 

『いえいえ〜実はですね、先生がトリニティにいるという情報をとある情報筋から聞きましてね』

 

『是非是非お会いしたいと思いまして』

 

『なんと私、今日は非番でトリニティのスイーツショップにいるのです』

 

『美味しいスイーツを用意しますので、是非是非付き合って下さいな』

 

『今から?』

 

『ですです〜お時間とかそう取りませんのでなにとぞ〜』

 

『分かった、用意するから少し待ってて』

 

『ありがたみぃ〜場所は此方ですので首を洗って待っております』

 

 モモトークを閉じ待っている間にお勧めスイーツを堪能する。乙女の胃袋は別腹なので実質カロリー0なのです。なんと素敵な響きなのでしょう。

 

 と、お店に並ぶケーキを堪能しながら先生を待つこと数十分後。走ってきたのか、汗を額に浮かべた先生が息を切らしながらやってきた。

 

「やぁ小鳥、お待たせ」

 

「先生、お待ちしておりましたぁ。ささっ此方の席にどうぞどうぞ。カムカムでありますよぉ」

 

 先生を席に案内して、早速先生用にケーキと紅茶を注文する。

 

 既にテーブルには空になったお皿がいくつかあったが、先生は敢えてそれには言及しなかった。

 

「此処のスイーツは、どれも美味な味わいでしてね、この紅茶によく合うのですよ」

 

「へぇ、そうなんだ。小鳥はゲヘナの生徒なのにトリニティに詳しいんだ」

 

「休日の行動範囲が広いゆえに、こうしてトリニティのお店はある程度網羅しているでありますよ。まぁ、今回はお忍びみたいなものなんですがね」

 

「お忍び?」

 

「えぇ、今のゲヘナとトリニティは色々とピリピリしてますゆえ、休日とはいえ、長居をしていると色々と問題があるのですよ」

 

「そうなんだ。それじゃあ、場所を変える?」

 

「いえいえ、此処は穴場ゆえ、問題ありません。なんでしたら、変装用のマスクとメガネも持参しているであります」

 

 嘴のようなものがついたマスクではなく、ただのマスクと額縁メガネを装着して『ふふん』とドヤ顔をする小鳥に、先生は苦笑を浮かべながら、用意されたケーキに目を通す。

 

 お勧めするだけあって、どれも美味しそうだ。手前にあるショートケーキのイチゴと生クリームのついたスポンジ部分をフォークに刺し、口に運ぶ。

 

「ん、美味しい」

 

 口の中に広がる甘味と酸味が混ざり合った味わいは、とても美味しいものだった。

 

「ふっふ〜ん、気に入っていただけたようでなによりであります」

 

 小鳥もその反応を見て満足したのか、マスクを外した後、フォークでロールケーキを切り分け、口に運んだ。

 

「うんうん、やはりここのスイーツは絶品ですなぁ」

 

 そう言って、テーブルに置かれたスイーツを先生と一通り堪能すると、紅茶で口の中をリフレッシュさせ、本題を切り出した。

 

「ふぅ……さてさて、先生にお勧めのお店を紹介できて良かった良かった。と言う事で、先生も忙しい身であります。早速本題に入りたいと思います」

 

「そうだね。小鳥から連絡がきた時は、何時もの気紛れかと思ったけど」

 

「あはは、タピオカの件はお忘れ下され。と、すみません。話が逸れました。私とて、それなりの立場ゆえ、色々とお話を耳にする機会があります。先生がトリニティにいる理由も含めて」

 

「……そっか」

 

 表面上、先生がトリニティに滞在する理由は、補習授業部の生徒たちが退学になるのを防ぐ為。しかし、補習授業部を設立した本当の目的は、エデン条約締結を阻もうとするスパイを炙り出す事。

 

 先生の反応を見るに、情報部からの報告は正しかったのだと確信する。

 

「先生が此処にいる理由、深くは追求しません。ですが、その上で、私からもお話があるのです」

 

「話?」

 

「はい。これも、先生からすれば疑わしい内容かもしれませんが、頭の片隅において頂けるだけでも構いません。恐らく、先生にとっても重要な事なので」

 

「……分かった。小鳥がそこまで言うのなら、心に留めておくよ」

 

 まだ話の内容は聞いていない。だけど、小鳥の言葉に嘘はないと信頼したのか、先生は首を縦に振った。

 

「ありがとうございます。では、お話しさせて頂きます」

 

 そう言って、小鳥は先生に、ナギサと会って感じた違和感を話し始めた。

 

 スパイの炙り出しに関しては、自身の命が狙われているのではないかという疑心暗鬼からきたものである事。そして現に、本来のホストであるセイアの情報が、ある日を境に途切れている事。そして……。

 

「先生は『黒服』について、何かご存知ないですか?」

 

 ヒナにも伝えていない、話の核心に迫る。

 

「それを何処で……いや、もしかして小鳥も、黒服に会ったのかい?」

 

「はは、やはり先生も、彼に会っていましたか。はい。私がトリニティの現状を調べるきっかけになった人物です。私から見ても、あれは不気味です。見透かされたような気持ちになりました。そして彼から、エデン条約で騒動が起きるかもしれないと仄めかされたのです」

 

 自身の神秘に関する話は控えよう。情報が多過ぎると、何から手をつければいいか、分からなくなる恐れがあるからだ。

 

 それに、黒服の話からすれば、自分の事に関しては後回しで良さそうだ。今はトリニティの事に心血を注ぐ方が良いのだろう。

 

「全ては私の仮説。黒服と会った事で、少し過敏になっていると自負しています。ですが、事が起きる前に対処が出来るなら、それに越した事はありません」

 

 そこまで話して、一息つく。突拍子もない内容だ。そう自覚してはいるが、先生は至って真面目な表情で、小鳥の話を聞いていた。

 

 そして、同じようにカップに入った紅茶を口に運び、喉を潤した後、口を開いた。

 

「教えてくれてありがとう。小鳥も今回の件を穏便に解決できればと思っての事なんだよね」

 

「あはは、そんな大袈裟な事……なんですかね。そうですね。私は無事にエデン条約が結ばれれば、それで良いのです。その為に動いて、その結果として色んな情報が入ってきたから、それを解決する為に先生に相談した。それだけの話なのです」

 

 自分の言葉に嘘はない。ただ、全てを語れていないのは事実だ。

 

 セイアの件、ナギサの件。それに付随してゲヘナの万魔殿に関する問題もあるが、結論付けるにはまだ早い。

 

 予防線をはるくらいしか出来ない現状ではあるが、それでも、先生の力になれるならと、先生の力を頼れたらと、今回の事も話している。

 

 今は、その事だけに集中しよう。

 

 そう決意を新たにしていると、先生が小鳥を見て、朗らかに笑う。

 

「それでも、小鳥は他校の問題を解決する為に協力してくれた。自分では解決する事は難しいと理解した上で、私に相談してくれた。それだけでも、私は嬉しく思うよ」

 

「え……あはは、なるなる。そう言って頂けると照れ臭くなりますな」

 

 成程、ヒナ委員長が絆された理由が分かった。何気ない言葉に、彼の優しさが感じられる。

 

 人を観察するのが得意なせいか、その仕草や表情の変化、瞳の揺らぎに、その人の内面が見えてしまう。

 

 これはいけない。あぁ、なんて事だ。まさか、私ですらこんなに早く絆されてしまうだなんて。不覚だ。けど、不快じゃない。むしろ……。

 

 と、咳払いを一つし、紅茶の残りを飲み干すと、私からのお話は此処までと切り上げ、席を立ち上がる。

 

 会計を済ませようとすると、先生からやんわりと断られた。

 

 美味しいお店を紹介してくれたお礼と言うが、先生が来る前にそこそこ……いや、かなり注文していたのでかなり申し訳なく感じてしまう。

 

 すまぬ先生。今回の出費、ガチャ約30連分なのです。

 

「先生申し訳ありません。まさかご馳走になるとは……」

 

「良いんだよ。気にしないで」

 

「あはは……この借りはいずれ何処かで」

 

「あはは、それじゃあ、何か会った時は、小鳥を頼ろうかな」

 

「……はは、ですです。是非ともお頼り下さいな」

 

 と、笑いながら小鳥と先生は店の前で別れた。此処で少し残念に思ったのは、先生ともう少し他愛もない話がしたかった事だ。けれど、それはまた次の機会に……。

 

 そう思いながら、トリニティの街並みを歩き出す。やる事はやった。伝えるべき事は伝えた。それだけでも、十分な成果だろう。

 

 これで、少しでも事態が好転してくれるとありがたいのだが、きっとやる事はまだまだ多い。

 

(まぁ、個人的には、先生にはもっとヒナ委員長に構って頂けたらそれが1番なのですが、それも、エデン条約が結ばれればいけるでしょう)

 

 絆されたとはいえ、NTRは悪い文明。やって良いのは本の世界だけだ。小鳥はこれからの行動に思いを馳せながら、帰路に着くのであった。




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