風紀の狂犬   作:モノクロさん

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今回は少し短めです。


狂犬とヒナ

 先生と別れた次の日の夕方、何時ものように書類整理に追われるヒナと、差し入れを持参し、休憩時間を共にする小鳥。

 

 この時間がとても心地良い。互いにコーヒーを啜りながら、片や書類にペンを走らせ、片やペンの音に耳を傾ける。とても貴重な時間だ。

 

「……そういえば」

 

 ペンの走る音が止まり、代わりにヒナの声が小鳥の耳に届く。

 

 視線を向けると、書類整理を終えたヒナが、コーヒーを口に運びながら此方を見ていた。

 

「昨日はゆっくり出来たの?」

 

「はい、久方振りのお出かけでスイーツ巡りと洒落込んで来ました。ヒナ委員長こそ、昨日は大変だったみたいですね。夜遅くまで用事があったみたいで」

 

「そうね、ちょっとトリニティまで美食研究会を引き取りに行ってきたわ」

 

「私に声をかけてくだされば、お手伝いしたのですが……」

 

「小鳥に頼む程の事じゃなかったから。それに、日を跨ぐとはいえ、1日に2回もトリニティに行くのは大変でしょ?」

 

「……あ〜気付かれてましたか」

 

 ヒナの指摘に、小鳥はバツの悪そうに頬をかいた。目立たないように、私服姿で先生に会ったのだが、やはり人の目というのは誤魔化せないものだ。

 

「先生と話す機会があったから、少しだけ情報の共有をしたの。そしたら、私と小鳥しか知らない筈の情報があったから、もしかしたらと思ったけど、やっぱりそうなのね」

 

「あはは……少し気になる事があったので……」

 

「……そう」

 

 小鳥の声色から、何かしらの事情を察したのだろう。先生も、小鳥から聞いたとは言わず、言葉を選んでいたのだが、その内容が2人しか知らないものなら意味を成さない。

 

 それでも、小鳥を庇おうとしたのは、先生なりの配慮だったのだろう。

 

 それを踏まえた上で、ヒナは言葉を選ぶように思案した後、小鳥の目をじっと見つめて問い掛けた。

 

「伝えたい事はちゃんと伝えられた?」

 

「……はい。それでしたら、バッチリと」

 

「そう。それなら良かった」

 

 フッと笑みを浮かべて、コーヒーを飲み干す。なんだか、それが妙に気恥ずかしく感じた小鳥は、誤魔化すようにコーヒーに口をつけた。

 

 立場上、ヒナが他校に干渉する事は難しい。しかし、知名度こそはあれ、一般の風紀委員である小鳥ならば、多少の無茶は通じる。

 

 ナギサの状況を察したヒナからすれば、彼女の身の安全を誰かに任せたいという気持ちはあるだろう。しかし、それを立場ある身分の自分が関われば、政治的な問題に発展する可能性がある。

 

 それを理解しているからこそ、ヒナは小鳥の行動を、ある程度は許容しているのだ。

 

 先生に伝えた内容も、元を正せばエデン条約関連。つまり、ヒナの負担を減らす意味合いが強い。

 

 服装も私服で、待ち合わせ場所も人目につかない場所を選んでいる。

 

 誰かを思い、そして行動する小鳥に成長を感じながら、ヒナは空になったコーヒーカップのふちを撫でた。

 

「ヒナ委員長」

 

 不意に、小鳥がヒナに声をかける。視線は手元のコーヒーカップに向けられているものの、言葉を選んでいるようにも見えた。

 

 その表情を見て、ヒナも何かしらの話がある事を察して『何?』と尋ねる。

 

「私は、先生に伝えたい事はしっかり伝えました。ヒナ委員長はどうだったのですか? 仕事とか情報の共有以外で、何かお話とかしなかったのですか?」

 

「先生と……話?」

 

 思わぬ形の突然の問い掛けに、ヒナは一瞬かたまり、美食研究会を引き取りに行った日の事を思い返す。

 

 あの時は、エデン条約についてどう思うか問われ、それに答えた。

 

 補習授業部の生徒たちを守るために頑張っているのか問い掛け、肯定した先生に、胸の奥が温かくなるのを感じると同時に、締め付けられる感覚も覚えた。

 

 そして……。

 

「…………ぁ」

 

 別れ際に先生と交わした約束。それが脳裏に浮かび、顔が熱くなるのを感じた。

 

 そして、人の仕草や表情の変化に敏感な小鳥が、それを見逃す筈がなかった。

 

「……ヒナ委員長」

 

「待って小鳥。これには訳があるの」

 

 慌てて制止しようとするが、時既に遅し。小鳥の好奇心を刺激してしまったようだ。

 

「詳しく、説明して頂きたい。私は今、理性を失いそうになっております」

 

「な、なんで。大した事じゃないから、話す必要なんて……」

 

「ヒナ委員長」

 

 そう言って、小鳥は真剣な眼差しで見つめる。その瞳に圧倒されたヒナは、顔を背けるも、逃げ場がない。

 

「……では、こうしましょう。何があったかお話しするか、私とハグするか。さぁ、どちらが宜しいですか?」

 

「え、えぇ……話すか、ハグするか……」

 

「はい、話すなら何もしません。しかし、ハグを選ぶのでしたら、思いっきり、ギュッと抱きしめます」

 

「話さずに穏便に済ませるって選択肢はないの?」

 

「すみませんが、先程の選択肢になかったらないですね」

 

「そ、そう……結構グイグイ来るのね」

 

 そう言って、ヒナは諦めたようにため息を吐いた。そして、少し頬を赤らめながら、小鳥に視線を向ける。

 

 そして、諦めたように両手を広げ、ハグを選択した。

 

「えぇ〜ハグの方を選んじゃうのですか。それはそれで驚きですよ」

 

 自分で選択肢に入れておきながら、話すのではなくハグを選択した辺り、本人としては、恥ずかしい事なのだろう。

 

 だが、相手はヒナだ。恐らく、思っている以上に、ハードルそのものは低いはず。

 

 そして、先生自身、生徒に対して、そこまで変な事は言わないだろう。ただし、イオリの足を舐めた事は別問題だが……

 

(あくまで、ハードルは低く見積もりつつ、ヒナ委員長にとって恥ずかしい事……う〜ん)

 

 手を繋ぐ、ヒナ吸い……お出かけ……あぁ、成程。

 

「あぁ、先生とお出かけを提案して、デートだねって言われたのですね」

 

「っ!!」

 

 まるで顔から火が出たように、ヒナの顔が真っ赤に染まり上がる。それを見て、小鳥は見事に的中させた事を察した。

 

 そして、ヒナと先生がそこまで進展したのかという嬉しさに、両手を広げたまま固まっているヒナに飛び込む形で抱きついた。

 

「あっはっは。ヒナ委員長は分かりやすいでありますなぁ!! ですが、かなり良きですよぉ。良いですね良いですね青春ですねっ!! 今、私、凄く嬉しいです!!」

 

 ヒナを抱きしめて、大はしゃぎする小鳥と、真っ赤になった顔でプルプルと震えるヒナ。暫くの間、小鳥の騒がしい声が執務室内に響き渡るのであった。




おまけ
小鳥「ヒナ委員長をハグした時ですか。えぇ、凄くいい匂いがしました。そしてほんのりあったかくて心地良かったです。その後どうなったか……ですか。そうですね。鯖折りされて、暫く動けませんでした」
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