風紀の狂犬   作:モノクロさん

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狂犬と試験 後編

 先生とトリニティの生徒達に絡む不良生徒のうち、1人は鎮圧。そしてもう1人は拘束する形で無力化した小鳥は、不良生徒の口内に銃口を押し付けたまま、視線をトリニティの面々へと向けた。

 

(トリニティ……補習授業部か。数も見た目も情報通り。やっぱり、先生とナギサさんとで意見が対立しちゃったわけか)

 

 トリニティの生徒と先生を見ながら、そう判断した小鳥は銃口を更に強く押し付ける。すると、不良生徒は恐怖に顔を歪ませた。

 

 何かを叫びたくとも、銃口を押し付けられたせいでまともに喋る事も出来ない。小鳥の指が、いつ引き金に掛かるかも分からない恐怖に、不良生徒は怯えていた。

 

「小鳥、それ以上はダメだよ」

 

 それを見ていた先生が、咄嗟に小鳥を止める。銃口を突きつけた生徒を庇うような発言に、小鳥は一瞬だが首を傾げるも、暫し考え、銃口を不良生徒から離した。

 

「不良生徒ちゃん。君に聞きたい事があります」

 

「き、聞きたいこと?」

 

 不良生徒は、恐怖と困惑の入り混じった表情を浮かべた。急に銃口を向けられたかと思えば、今度は質問されるという展開に、理解が追いつかないのだろう。

小鳥は、そんな不良生徒に構う事なく質問を続けた。

 

「今、貴女は迷子でありますか? 迷子な貴女は風紀委員である私に、道案内をお願いしたい。そうでありますな?」

 

 意味不明な質問に、不良生徒は更に困惑する。しかし、小鳥は気にする事なく続けた。

 

「早くお答え下さい。それとも、選択肢にした方がいいでありますか? では選ばせてあげましょう。迷子な貴女は私に道案内して欲しい? それとも、お口を銃でバンバンされて、口内炎を沢山作りたいでありますか?」

 

 そう言って、小鳥は銃口を不良生徒の頬に軽く押し付けた。

 

 それが意味する事を瞬時に理解した不良生徒は、慌てて道案内を所望すると、小鳥は笑顔になって、ゆっくりと立ち上がった。

 

 そして……

 

「かしこまりぃ〜」

 

 笑顔で愛銃を持ち直し、そのまま不良生徒の顔面に銃床を振り下ろした。鈍い音と共に、不良生徒の身体がビクンと跳ね、白目を剥いて気絶した。

 

 それを見た一部のトリニティ生徒は顔を青褪めさせながら、思わず後ずさる。

 

 しかし、小鳥は気にせずに不良生徒の頭を鷲掴みして持ち上げた後、先生に向き直って口を開いた。

 

「せ〜んせ、此処ではこれが日常であります。不良生徒は厳しく取り締まる。そうしなければ、この手の輩は反省もしなければ心すらも痛めない悪い子なのです。そこはどうかご了承下さい」

 

 そう言って、小鳥はゴホンと咳払いすると、改めて先生とトリニティの生徒達に向き合い、頭を下げた。

 

「とはいえ、お見苦しい所をお見せしました。申し訳ありません。そして、改めて自己紹介をさせて頂きます。私は不死川 小鳥。気軽に小鳥ちゃんと呼んで頂けると幸いです」

 

 そう言って、小鳥は下げた頭を上げると、不良生徒を抱き抱えながら、笑顔で問いかけた。

 

「そう言えば、貴女達も迷子でありますか? 場所を教えて頂きたい。もしも、この子と同じ場所なら、一緒に案内してあげますよ」

 

 ゲヘナ自治区は治安が悪い。特に、トリニティの制服を着た生徒が、深夜にこの無法地帯にいたら、どうなるかは想像に難くない。

 

 もしも、この迷子な不良と同じか、近場まで用事があるのなら、一緒にいた方が安全だと告げる小鳥に、トリニティの生徒達はお互いの顔を見合わせる。

 

「実は、私達も道に迷っていて。場所は『ゲヘナ自治区第15エリア77番街』なんだけど……」

 

「あ〜成程ですね。はいはい、この子もそこに行きたいって言ってたので、良かったら一緒にどうですか? ちょうど護送車で周辺をパトロールしていたので、乗って行きますか? 道中の安全は、ある程度保証出来ますよ」

 

 そう言って、小鳥は護送車を指差した。それを見たトリニティの生徒の1人が先生に視線を向けると、先生も頷いたのを見てから小鳥に向き直り、護送車に乗せて欲しいと頼んだ。

 

 小鳥はトリニティの生徒達を護送車の後部座席に乗せ、その隣に自分も乗り込む。白目を剥いた不良と共に。

 

 流石に、先生を後部座席に乗せるのは気が引ける為、助手席に座ってもらう事にして、後部座席には小鳥と不良の2人とトリニティの生徒4人の計6人。

 

 普段とは異なる光景の護送車の中で、血塗れの小鳥と、白目を剥いて気絶している不良生徒が、あまりにも異様に思えた。

 

「小鳥ちゃん。本当に宜しいのですか?」 

 

 運転席に座る風紀委員が問い掛ける。

 

「はい、何も問題ありません。私達は善良な風紀委員会です。道に迷った市民がいたら、案内するのは当然の事でありましょう。後、此処にいる生徒たちは、偶々同じ場所を目指していたけど道に迷っていた他校の生徒です。ですが、私達がやる事に変わりはありませんのでそこのところ、よろよろです」

 

 笑顔で答える小鳥に、運転手は苦笑すると、アクセルを踏んで護送車を走らせる。向かう先はゲヘナ自治区第15エリア77番街だ。

 

 

 

 

 

 護送車で移動すること数分、揺れる車内の中で、トリニティの生徒である阿慈谷 ヒフミが小鳥に話しかける。

 

「あの、小鳥さん」

 

「ん? はいはい、なんでしょうか?」

 

「小鳥さんは、なんで私たちに協力してくれたんですか? 今はエデン条約前で、トリニティもゲヘナも、互いに警戒し合っています。それなのに、風紀委員会が私達に関わっている事が知られたら、政治的な問題に発展するのではないですか?」

 

 ヒフミの言うことはもっともだ。小鳥の行動は、下手をすれば、学校間の政治的な問題にも発展する可能性がある。更に言えば、それがエデン条約に繋がる可能性だってあるのだ。

 

 それを一介の風紀委員である小鳥の采配で、決めて良い事ではない。

 

 しかし……。

 

「そうですね。私としても、この一件がエデン条約に影響を与えるのであればと、考えなかったわけではありません。ですが、この件はそちらのティーパーティーが起こした問題。その問題はホストであるナギサさんが責任をとって然るべき案件でありましょう」

 

 そして、そもそもエデン条約を推し進めているのはナギサ本人だ。この件で此方を糾弾し、条約そのものを破綻させるのは、ナギサの首を絞める行為に他ならない。

 

「私たちは私たちの仕事をしただけであります。それだけの事でありますよ」

 

 そう言って笑みを浮かべる小鳥。その目はヒフミの挙動を観察し、結論付ける。

 

(この子は白だ。少なくとも、スパイや裏切り者といった類いではない。ならば……)

 

 と、今度はヒフミの隣に座る下江 コハルへと矛先を向ける。

 

「そう言えば、貴女は正義実現委員会に所属していたでありましょう? 確か、下江 コハルちゃんでしたかな?」

 

 名前を呼ばれ、コハルはビクッと肩を震わせた。

 

(あれ、怯えている……何故?)

 

 そう、コハルは怯えていた。小鳥から目を逸らし、小さく震えながら俯いている。

 

「おやおや、もしや怖がらせてしまいましたかな? あぁ、この出で立ちが原因でありましょうか。それは失礼しました」

 

 そう言ってマスクを外して素顔を晒す。コハルに対して敵意がない事を示す為だ。しかし、コハルの震えは止まらなかった。

 

「コハルちゃん……」

 

 その様子を見ていたヒフミが、コハルを安心させるようにその手を握った。

 

「大丈夫? 小鳥さん、優しい人だよ。さっきのはちょっとアレだったけど」

 

 ヒフミにそう言われた事で、先程の不良に対する扱いが怖がらせる原因だったのだと気付き、苦笑を浮かべた。

 

「あ〜その件でしたら申し訳ないであります。素行の悪い不良には、あれくらいしないといけないので……」

 

 そう言いかけ、コハルが首を左右に振って否定する。

 

「ち、違うの……その、さっきのも怖かったけど……」

 

 そう言うと、コハルは小鳥を真っ直ぐに見つめた。その目には涙が浮かんでいた。

 

「前に、風紀委員会との合同演習の時、ツルギ委員長との模擬戦で……」

 

「……あ〜その事でありますか」

 

 過去に正義実現委員会と風紀委員会とで合同演習を行なった時、小鳥はツルギと模擬戦をしていた事を思い出し、納得した。

 

「その試合見て、怖くなりました?」

 

 今度は首を縦に振って肯定する。

 

 あの時は凄かった。片腕が完全に折れた状態からの、隙をついての裸締め。完全に決まったと思った矢先にフィジカルで無理矢理解かれてからの脳天唐竹割り(銃床バージョン)からの頭蓋骨陥没。

 

 見事、黒星を獲得した小鳥は互いの健闘を讃え合い、ツルギとハグするのであったが、それを最前席で頭蓋骨が陥没する様を見せつけられたコハルの心境は、恐怖以外の何物でもなかった。

 

 今回の小鳥が不良に行った行為は、その延長線みたいな所があったのだろう。

 

「あ〜それは……うん、申し訳ないであります」

 

 小鳥はコハルのトラウマを刺激した事を謝罪した。

 

 なんとか気持ちを落ち着かせる事には成功したが、苦手意識が抜けていない状態で、これ以上の会話は難しい。

 

 だが、短いやりとりではあるが、コハルもまた、白である事は理解できた。

 

 そして、残りの2人は……と考えたが、ヒフミとコハルとのやりとりの中で、浦和 ハナコも白判定した。

 

(あれは……此方の意図に気付いているな。多分何を話しても『観る』事は出来ない。凄いなぁ、そういう人、初めて見た)

 

 観る事は出来ないが、その代わりに、彼女は白と断言できる。直感とも言えるが、前情報こみで彼女の事を見れば、自ずと答えが導き出される。

 

 そして最後は、白洲 アズサだが……

 

(あ〜彼女は……成程ですねぇ)

 

 黒……ではないが白とも言い難い。それが、彼女に対する評価だった。

 

 

 

 

 

 ゲヘナ自治区第15エリア77番街に無事に到着した補習授業部は廃墟の1階に隠されていたテスト用紙を見つけ、各々が試験に取り掛かる。

 

 小鳥と先生は、廃墟の外で、皆が試験を終わらせるのを待っている。

 

 試験が終われば、今度はトリニティに戻らなければならない。此処からトリニティの自治区に歩いて戻るのは一苦労という事で、小鳥が先生に提案したのだ。

 

「ありがとう小鳥。小鳥のおかげで、みんなが無事に試験を受けられたよ」

 

「あっはっは、お礼なら私ではなくヒナ委員長にお願いします。私はただ、ヒナ委員長の指示に従っただけですゆえ」

 

「そうなんだ。それじゃあ、後でトリニティに帰ったら、改めてヒナにはお礼を言っておくよ」

 

 先生はそう言って、廃墟の出入口の方に視線を向けた。その視線から察するに、彼女達の事が気がかりらしい。

 

「せ〜んせ、先生は彼女達の事を信じているのでありましょう」

 

「そうだね。ヒフミ達が試験に合格する為に頑張ってきた事は知ってるから、無事に合格する事を祈っていた所だよ」

 

「……スパイに関しては、どうなのですか?」

 

「…………」

 

「すみません。今のは意地悪な言い方でした。ですが先生は彼女達のことを信じているのでありましょう? それなら、私は先生が信じる彼女たちを信じるであります」

 

 此処でアズサの事を話してもいいのだろうが、それだと疑いの目を彼女に向ける事になる。その時の先生の心情を慮れば、今は黙っておくべきだろう。

 

「うん、そうだね」

 

 先生はそう言って笑った。小鳥もそれに釣られて笑う。

 

「無事に受かるといいでありますな」

 

「うん。そうだね」

 

 そう言って、先生は空を見上げた。つられて小鳥も空を見上げる。代わり映えのしない空。しかし、小鳥にはその空が何処か明るく見えた。




おまけ
同じ試験を受けた小鳥
(あ、これ分かる…これも…あれも…凄い、いけるじゃないですか私!!)

結果
不死川 小鳥 100点中21点 不合格

「ヒナ委員長!! やりました!! 20点以上取りましたぞ!!」


たくさんの感想ありがとうございます。
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