全ての準備は整った。
この時を、どれだけ待ちわびただろうか。
「準備は?」
「問題なし」
「は、はい!! 終わりました。チェックも出来てますし、いろいろと確認も……」
「あの人形との接触のほうは……そうか、なら、問題なさそうだな」
各々の準備が整ったのを確認し、目的地へと向かう。
「巡行ミサイルは?」
「発射準備は整ったけど、ターゲットが目的地にいないって報告があった」
「……どういうことだ? 空崎 ヒナはエデン条約に参加していないのか?」
仲間の返答に……戒野 ミサキの返答に、リーダー格である錠前 サオリが首を傾げた。
「何かトラブルがあったみたいだけど詳しくはわからない。ターゲットがいない事も、ついさっき分かったみたいだから。どうする?」
「全く、全てが万事上手くいかないと言うことか……空崎 ヒナは式典近くにはいるんだな?」
「近くにはいるみたい。だけど、出席ではなく警備の為……もしかして私たち、マコトに騙された?」
「いや、あれとは利害関係が一致していたんだ。今更、私たちを騙して、なんのメリットがある?」
「……それもそうか」
「作戦に変更はない。色々と準備はしたが、少し予定が狂った程度だ。完全にやることは出来ずとも、負傷させる程度の事は可能だろう」
「じ、人生って、そう上手くはいかないものですね。つらいですね。式典に参加したみんなも、これから苦しむんですね……ですが、仕方ありませんね」
「あぁ、そうだな」
本来、ヒナが出席予定だった式典にミサイルを着弾させ、更に仕掛けていた爆弾でヒナを再起不能にする予定だった。
だが、目標であるヒナはエデン条約の警備として参加。しかし、その式典近くにいる事に違いはない。ならば、予定通りに作戦を遂行する。
そう判断し、サオリはメンバーに指示を出した。
別動隊は時間に合わせて作戦地域に突入予定。
ミサキ率いるチームⅡは混乱に陥ったトリニティを。チームⅢは悲観的な言葉を並べる槌永 ヒヨリが率いてゲヘナを襲撃。
トリニティとゲヘナ。それぞれ、ツルギとヒナを警戒する必要がある。
「チームⅢはヒナの警戒を……最悪の場合、狂犬とやらも相手にする必要があるな」
「狂犬ですか……聞いた事があります。人を人と思わない暴力の化身。つらいですね。彼女も無事だったら私のチームだけじゃ……」
「わかっている。最悪、時間を稼ぐだけでもいい。此方の目的さえ達成できれば、ヒナもツルギも、狂犬すらも恐れることはない」
そう言って最後に、チームⅠを率いる人物に視線を向ける。
チームⅠを率いるはガスマスクで顔を隠した秤 アツコはその視線を静かに受け止めていた。
「姫、知っての通り、一番重要な任務だ。空崎 ヒナの件もそうだが、任務成功が私たちアリウスの勝利につながる」
つまり、失敗すれば先行して各学園の生徒達を襲撃するサオリ達の身が危険にさらされる。その事を踏まえたうえで、己の心境を手話として伝えると、サオリは申し訳なさそうな表情を浮かべて返事を返した。
「……分かってる。気分は悪いだろうけど、もう少し我慢してほしい」
そう伝えると、アツコは暫し沈黙した後に頷いて了承する。
「私は他に用事がある。それが終わり次第、チームⅤと合流予定だ」
全員に指示を出し終えたサオリは、そのまま散開して別行動に移った。
ヒナと別れた後、小鳥は風紀委員の子を連れ、式典会場近くを警護していた。
今の所、問題なく進んでいる。
後は各校の首脳陣達が出席し、調印式が無事に終われば、条約は締結される。
その大事な式典に、ヒナが出席できず、自分達と同じ、警備を任されている事には、小鳥を含む、風紀委員会のメンバーは納得していなかったが、それでも、ヒナから気にするなと言われたら、それに従うしかない。
いや、小鳥は、ヒナが式典に出席出来なくなった要因の中に、自分が含まれている事は分かっていた。
先生に頼られたとはいえ、トリニティの生徒をゲヘナの自治区に招き入れた事。トリニティの自治区で先生と会った事。後は……私的な事で言えば、イブキの事か……。
我ながら軽率な事をしたものだ。
それが原因で、ヒナが式典に出席出来なくなったともならば目も当てられない。
だが、一度起きた出来事は、もう取り返しのつかない事だ。
ならば、今できる事をするしかない。エデン条約締結まで、怪しい人物がいないか見守り続ける。
それが、小鳥にできる最善の事だった。
「アコ行政官が到着したようです。他にも万魔殿のマコトさんや他のメンバーも……」
「そうですか。では、より一層、警戒を怠らないようにしないといけませんね」
時間的にも、式典が始まる頃合いだ。トリニティの方でも、ティーパーティーのナギサやシスターフッドのリーダーである歌住 サクラコも順次到着している模様。
此処までは問題ない。
仮に、アリウス分校の生徒たちによる襲撃があったとしても、正義実現委員会と風紀委員会の戦力をもってすれば、襲撃は防ぐ事は可能だろう。
ミカによる支援も無くなり、物資の補給が出来なくなった彼女たちが出来ることは限られている。
せめて一矢報いる為に、玉砕覚悟で一点突破を……なんて、そんな無謀な事をするとは思えない。
何かするのであれば、それこそ、自分たちが不利な状況を一変させる手を……
そこまで考え、ふと、聞き慣れない音が鼓膜を震わせた。
目を見開き、空を見上げる。
いくつか可能性を考え、現実的にはありえないと切り捨てていた最悪の可能性が、今まさに目の前で現実となっていた。
咄嗟に、隣を歩いていた風紀委員の子に覆い被さるように押し倒し、衝撃に備える。
「こ、小鳥ちゃん!! 何をっ!!」
困惑する彼女を他所に、小鳥は少しでも彼女に被害が出ないよう、覆いかぶさり続けた。
次の瞬間、耳をつんざくような轟音と衝撃が周囲を襲う。
身体全身に感じる熱感と衝撃波。
吹き飛ばされぬよう、必死に耐えるも、小鳥の身体は、風紀委員の子と共に吹き飛ばされた。
幾度となく地面に叩きつけられ、身体の感覚が狂わされていく。
それでも、小鳥は離さなかった。決して風紀委員の子を離さないよう必死に耐えた。
再び背中に感じる強い衝撃。壁に背中を叩きつけられ、肺の中の空気が一気に吐き出される感覚に、小鳥は苦悶の表情を浮かべながら、必死に意識を保ち続けた。
しかし、現実はあまりにも残酷だった。小鳥達と同じく、衝撃波によって破壊された建物の残骸が2人目掛けて降り注いできたのだ。
「っ!!」
風紀委員の子は……意識はない。
小鳥自身も、幾度も身体にダメージを受け続けた結果、直ぐには行動に移せない。
ならばと、再び風紀委員の子に覆い被さった。その身体の上を、無情にも瓦礫の山が押し潰していく。
身体中に襲い掛かる激痛。
しかし、小鳥はそれでも必死に耐えた。風紀委員の子を守る為に……。
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