何が起こった……?
身体に瓦礫が降り注ぎ、立ち込める砂煙にむせながら、ヒナは必死に状況を把握しようとしていた。
身体中が痛い……聞き慣れない音がして、咄嗟に先生を守ろうとしたのまでは覚えている。
だが、その後はどうなった?
轟音と共に背中に衝撃を受けた事までは記憶がある。だが、それ以降の記憶が無い。つまり、気を失っていたと言うことだ。
痛む身体を無理やり起こし、周囲を確認する。幸いなことに瓦礫に埋め尽くされているものの、動けない程ではなかった。
不幸中の幸いと言えよう。少なくとも瓦礫に埋まっていたお陰で、少しとはいえ、衝撃を和らげる事が出来たのだから。
しかし、状況は芳しくない。周囲が砂煙に包まれ、視界が悪いうえに、遠くから聞こえる悲鳴と轟音。
そして、何より、ヒナの腕の中には意識を失った先生の姿があった。
この状態では、満足に動く事すらままならないだろう。
見たところ、怪我はない。その事に安堵しつつ、ヒナは先生の身体を軽く揺すった。
本来なら安静にするのが一番だろう。しかし、今は非常事態。
少なくとも、この騒動は何者かの悪意によって起こされたもの。
ならば、この騒ぎに乗じて先生を害する存在がいないとも限らない。そう判断し、ヒナは先生の身体を揺すり続けた。
程なくして、先生の瞼が開くと、ヒナは再び安堵の表情を浮かべる。
「先生、大丈夫?」
「……ヒナ……何が起こって……」
「詳しい事は分からない。でも、このまま此処にいたら先生が危ない。少しでも遠くに避難して、それから状況を確かめる」
そう言って、ヒナは先生の身体を支えながら、ゆっくりと立ち上がった。
瓦礫が崩れないよう注意を払い、先生を支えながら、一歩ずつ確実に歩みを進めていく。そして、瓦礫から抜け出した2人の眼前には、地獄が広がっていた。
辺りには負傷した生徒たちが横たわり、意識がある生徒たちは、我先にと逃げ惑う。
建物らしい建物は殆ど倒壊し、瓦礫の山が積み上げられていた。
視界に広がる新たな情報に、ヒナはこれが、巡航ミサイル規模の攻撃を受けたのだと、瞬時に理解した。
しかし、一体誰が?
対空防御システムが迎撃出来ない程の速さをミサイルに組み込む技術をもった組織は限られている。
それに、被害の規模が、従来のそれとは桁違いだ。
ミサイル以外にも、式典に爆薬を仕掛けていたならあるいは……。
アコは無事だろうか?
他の風紀委員は……小鳥も無事だろうか?
様々な不安が脳裏を過る。しかし、今は目の前の状況を打破する方が先決だ。ヒナは意識を切り替えると、先生を連れて、少しでも遠くへと避難を始めた。
この混乱の中でも、敵がいないとも限らない。慎重に行動するべきだが、先生を守れるのは、この場にいるヒナだけ。
そう判断し、皆の無事を祈りつつ、ヒナは先生を連れて走り続けた。
しかし……。
「リ、リーダー。ヒナさんと、先生を見つけました」
瓦礫の影から現れた人物に、ヒナは咄嗟に先生を庇うように前に出た。
『そうか、本命もそこにいるんだな?』
「は、はい。先生も一緒です。でも、ヒナさんは普通に立っていて……直撃は避けられたとはいえ、怪我もしている筈なのに……あ、でも……」
携帯越しに、誰かと連絡を取っている。彼女の後ろにはガスマスクを装着した生徒達が銃を構えているが問題ない。
油断している指揮官らしき彼女に向け、愛銃を構えようとしたヒナだったが、そこにある筈の銃がない事に気付き、言葉を失った。
「…………ぁ」
「じ、銃を所持していません。もしかしたら、先程の爆発で壊れたのかも」
その言葉に、ヒナは絶句した。
先生を守る事で頭がいっぱいになり、先生を助けようとした時に、咄嗟に銃を手放していた事を失念していた。
『そうか……空崎 ヒナは銃を所持していないんだな?』
「は、はい!! 間違いありません。つ、辛いですね。苦しいですよね。銃を持たない状態で、私たちを相手にしないといけないなんて……」
『いや、ヒヨリとチームⅢはヒナを相手にする必要はない』
「え、でも……」
「…………っ!!」
おどおどする彼女の様子から、何を話しているか予想がついた。
愛銃がなくとも、相手を制圧する事も可能だったが、相手の目論みを理解したからこそ、ヒナは最善の手を打つべく、先生に駆け寄り、有無を言わさず抱き抱えた。
「先生!! 掴まってて!!」
『シャーレの先生を狙え。それだけで空崎 ヒナは無力化できる』
その言葉に、ガスマスクを装着した生徒たちが一斉に銃口を向ける。
狙いはヒナではなく先生。キヴォトスの人間ではない外の住人である先生は、銃弾一発ですら致命傷となりえる。
銃があれば、先生を庇いながら反撃する事も出来ただろう。
しかし、銃を持たぬ身であれば、先生を守るだけで手一杯だ。
銃弾の雨が、先生目掛けて降り注ぐ。
躊躇なく先生を狙う凶弾を一身に受け、ヒナはその場から逃げる事を選択した。
「リ、リーダー!! ヒナさんが逃げました!!」
『問題ない。チームⅤと連携して、追い詰めるぞ』
「わ、わかりました……辛いですね、不自由な戦いを強いられるのって……でも、仕方がないですよね」
『あぁ、その通りだ。私も用事がすんだ。直ぐに合流する』
携帯を閉じ、ヒナの後を追う。
他のチームも、各々が戦闘を開始し、正義実現委員会や風紀委員会の残党を殲滅している頃だろう。
そして、チームⅠを率いるアツコも……。
「そ、そう言うことですので、すみませんね、ヒナさん。えへへ……」
おどおどしながらも、命令に従いヒナの後を追うヒヨリとチームⅢのアリウス生徒達。
彼女達の作戦は、まだ始まったばかりだ。
沢山の感想ありがとうございます。
凄く励みになっています。
今回の銃の紛失とそれに気付かなかった件は賛否分かれると思いますが、それだけ必死だったと解釈して頂ければと思います。
それでは失礼します。