風紀の狂犬   作:モノクロさん

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ヘイロー破壊爆弾

 折れた腕は元に戻った。足も大丈夫……。

 

 問題ない。少し昔に戻ったくらいだ。寧ろ感謝している。

 

 これなら、心置きなく暴れる事が出来る……。

 

 セナ先輩に連絡は入れた。後は合流するだけだ。主犯格の情報も手に入れた。目的も、何もかも。

 

 マスクは……ダメだ。今の私は、風紀委員としての体裁を保つ事が出来ない。

 

 ヒナ委員長と先生の無事を確認したら外そう。

 

 私には、このマスクを被って彼女達を取り締まる資格がないのだから……。

 

 

 

 

 

 何故だ……何故倒れない?

 

 鳴り響く銃声の中、その身に銃弾をくまなく浴びながらも、それは倒れる事はなかった。

 

 足を撃ち、腕を撃ち。胴体を撃ち。頭にも幾百と弾丸を叩き込んだ。それでも奴は……不死川 小鳥は倒れない。

 

 撃たれる度に、顔を歪ませ、歯を食いしばりながらも銃弾の嵐を耐え続ける。

 

 弾が切れるタイミングを見計らい、懐に潜り込んでは1人、また1人とアリウス分校の生徒達の悲鳴が木霊する。

 

 或いは、同士討ちを誘うようにわざと距離を詰め、ユスティナ聖徒会の複製が攻撃できないよう立ち回る。

 

 小鳥の表情は苦痛に歪んでいるが、その目は死んでいない。反撃の機会を窺いつつ、少しずつ、アリウス分校の戦力を削り取っていく。

 

『1人でも多く、お前達を道連れにしてやる』

 

 その言葉を思い出し、サオリは身震いした。

 

「くそっ!! なんなんだこいつは!!」

 

「何故だ!! 何故倒れない!! この化物め!!」

 

「そっちに行ったぞ!! 気を付けろ!!」

 

「ち、ちくしょう!! く、くるな……くるなっ!! う、うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 マガジンの弾を撃ち尽くしてなお、それら全てを被弾させたにも関わらず、小鳥は愛銃を振り上げ、力任せに振り下ろす。その衝撃で、アリウス分校の生徒が吹き飛ぶと、小鳥は倒れた彼女の所まで駆け、その膝へと、再び愛銃を振り下ろした。

 

 膝の骨が砕ける鈍い音。痛みで悲鳴を上げながら痙攣するアリウスの生徒を一瞥し、小鳥は次なる獲物を狙う。

 

 ユスティナ聖徒会の複製がいくら倒れようと関係ない。再び呼び出せば良いのだから。しかし、アリウス分校の生徒達はそうはいかない。

 

 既に少なくない数の仲間がやられた。アツコに至っては、既に数え切れない襲撃を受けた為、ユスティナ聖徒会の複製を数十体護衛に付けなければ、守りきれないと判断した。

 

 ユスティナ聖徒会は過去の亡霊だ。消えてもアツコの権限で何度も呼び出す事ができる。

 

 だが、アリウス分校の生徒達は違う。兵力に限りがある上に、此処での戦闘以外にやるべき事が残っている。

 

 これ以上、1人の敵に時間も兵力も割かれるわけにはいかない。

 

 だと言うのに……。

 

「ひっ!!」

 

 後方で援護していたヒヨリの悲鳴。銃弾を掻い潜り、小鳥がヒヨリの眼前へと迫る。

 

 咄嗟に銃口を向けるも、眼前にまで攻められれば、スナイパーとしての力は発揮できない。

 

 ヒヨリの銃を掴んで射線をずらすと、そのままヒヨリの腹部へ渾身の蹴りを放つ。鈍い音と共に、ヒヨリは後方へと吹き飛ばされる。

 

 背中に背負っていたガンケースやリュックが、ヒヨリから離れた位置に乱雑に転がった。

 

 まだ意識はある。だが、腹部に受けた衝撃で胃液が込み上げてきたのか、涙目になりながらヒヨリは胃の内容物を吐き出した。

 

 彼女の銃は小鳥の手の中にある。それを持ち直すと、瓦礫に向け、銃を振り下ろす。

 

 瓦礫は音を立てて崩れ落ち、ヒヨリの銃は銃身が曲がって使い物にならなくなった。

 

「リーダー。不味いよ。道連れにするって言いながらあいつ、しっかりハラスメントに切り替えている」

 

 負傷したアリウスの生徒はそのまま放置し、武器は破壊する。アリウスにとって、負傷した同胞は今後の作戦に参加させる事は出来ない上に、彼女達を安全な場所まで避難させ、治療する必要もある。

 

 物資とて無限ではない。これ以上の被害は許容する事は出来ない。

 

 サオリ自身、小鳥から幾度となく攻撃を受けた。しかし、効果が薄かったと判断された瞬間、小鳥は標的を変更し、サオリ以外を襲い始める。

 

「このまま体力が切れるまで待つ時間もないよ。それだと、態勢を立て直したトリニティとゲヘナが……」

 

「分かっている」

 

 悔しいが、認めざるを得ないだろう。不死川 小鳥。当初はツルギやヒナこそ注意すべき人物で、小鳥はあくまでも二の次だった。それが、このような形で脅威になるとは……。

 

 これは、使わざるをえないだろう。

 

 作戦前に受け取った対ヒナやツルギを想定した爆弾を。

 

 かつて、トリニティのティーパーティーのホストであるセイアをアズサが襲撃した際に用いた爆弾。

 

 ヘイローを破壊する爆弾を。

 

「アツコ、兵を少し貸してくれ」

 

「…………」

 

「すまない。だが、あれは本当の意味で力尽きるまで止まらない。それに付き合う必要がないからな」

 

 サオリの言葉に、アツコは無言で頷くと、ユスティナ聖徒会の複製を呼び出して小鳥を襲わせた。

 

 そして、彼女達の影に隠れて、サオリが小鳥へと駆け出した。

 

 

 

 

 身体中が痛い。

 

 無理もない。

 

 直撃しなかったとはいえ、巡航ミサイルの余波で吹き飛ばされた上に、瓦礫に押し潰されたのだ。

 

 風紀委員の子に目立った怪我が無かった事が奇跡だったと思えるほどに。

 

 その代わり、小鳥の身体は瓦礫に潰されて、致命傷に近い状態だった。

 

 手足は潰れ、折れた肋骨が内臓を傷つけ、こうして立っていられる事すら、本来ありえない事だった。

 

 だが、この時ばかりは、自分の身体の体質に心から感謝した。

 

 本来、致命傷である筈の傷は回復し、こうして無茶が出来るのだから。

 

 しかし、蓄積されたダメージまではどうしようもない。

 

 如何に傷の再生が早かろうと、肉体そのものは限界を迎えている。ただの銃弾1発ですら、痛覚を感じる程に……。

 

 それでも、身体は動く。動かす。動かして見せる。倒れるその瞬間まで。目の前の敵を1人でも多く道連れにするまで、倒れるわけにはいかない。

 

 歯を食いしばれ。前を見ろ。目の前には敵がいるぞ。

 

 押し寄せるユスティナ聖徒会の複製。その後ろから迫るサオリの姿を視界に収めながら、小鳥は銃を持ち直した。

 

 複製に構っている暇はない。真っ直ぐに、標的のサオリを見据える。

 

 振り下ろされる愛銃を、サオリは最低限の動きで躱すと、そのままサオリは、小鳥の腕を取り、関節技へと持ち込んだ。

 

 小鳥の銃を持つ手が、嫌な音を立てた。ミシミシと音を鳴らす。サオリは戦闘のプロだ。少なくとも、技術において、小鳥の遥か上をいくだろう。

 

 だが、サオリの戦法は、対人戦を想定したものだ。

 

 かつて化物と、怪物と、悪魔と称された小鳥に対するには、少々迂闊な判断だった。

 

 骨が折れる感覚に、サオリは驚愕する。関節技を決め、動きを封じた瞬間に、小鳥は自らの身体を犠牲にしたのだ。

 

「なっ!!」

 

 サオリは咄嗟に、小鳥から離れようとした。しかし、遅かった。

 

 小鳥はそのまま、片腕の力のみでサオリのコートを鷲掴みにして動きを封じると、渾身の頭突きを叩き込む。

 

 鈍い音と共に、サオリの鼻から血が噴き出す。鼻が折れたか?

 

 しかし、サオリもただで転ぶつもりはない。頭突きを食らうと同時に、小鳥の身体を手前に引き、体勢を崩させると、背負い投げの要領で小鳥の背中を瓦礫へと叩きつけた。

 

 コートを脱ぎ捨て、小鳥からの拘束から逃れると、起き上がった小鳥に向けて銃を放ちながらの近接戦に持ち込む。

 

 小鳥もまた、すぐに立ち上がって銃を構えた。折れた筈の腕は、既に回復している。その事に、サオリは再び驚愕したが、すぐに気を持ち直すと、銃を持つ手を狙って蹴りを放つ。

 

 小鳥は咄嗟に腕を引っ込めるも間に合わず、その腕から愛銃が弾かれ、銃口が明後日の方角へと向けられ、そのまま無駄撃ちに終わってしまった。

 

 だが、小鳥は構わずそのまま銃を横薙ぎに振り抜き、サオリはそれを片腕を犠牲に防いで見せた。

 

 そこから先は銃を用いたぶつかりあいだ。

 

 敢えて攻撃を受け、サオリの隙を狙っての一撃を放つ小鳥と、手数と技術を用いて、小鳥の一撃を躱しながら、確実にダメージを蓄積させるサオリ。

 

 両者一歩も譲らない攻防戦は、徐々に小鳥を不利へと追いやった。

 

 元々限界だった体が、今の一連の攻防で更にガタがきたのだろう。

 

 小鳥の膝が、ガクンと折れる。その隙をサオリは逃さなかった。

 

「っ!!」

 

 小鳥の顔面を狙って膝蹴りを放ち、倒れた小鳥に向かってユスティナ聖徒会の複製をけしかける。

 

 小鳥の腕を、足を、胴体を……ユスティナ聖徒会の複製が殺到して拘束すると、最後の一体、その手に爆弾を抱えたユスティナ聖徒会の複製がその爆弾を小鳥の胸に押し当てた。

 

 その様子を見届け、サオリはすぐさま、その場から飛び退く。同時に、ユスティナ聖徒会の複製が起爆スイッチを押すと、閃光と共に爆発が起こり、辺りは爆煙に包まれた。

 

 煙が徐々に晴れる。

 

 ユスティナ聖徒会の複製の姿はない。爆発に巻き込まれて消滅したのだろう。

 

 だが、小鳥はそこに残っていた。

 

 頭上のヘイローからはノイズが走り、身体を痙攣させながら、それすらも徐々に弱まり、動かなくなる。

 

 その光景を見て、サオリは安堵した。

終わったと。これで、ゲヘナの戦力を削ぐ事が出来たと。

 

「作戦終了だ。撤退するぞ」

 

 サオリは負傷した仲間達に、静かにそう告げた。




沢山の評価・感想、本当にありがとうございます。
本当に励みとなっています。

そして、たくさんの誤字報告ありがとうございます。
修正させて頂きました。
また、誤字がありましたら教えて頂けると幸いです。
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