風紀の狂犬   作:モノクロさん

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ルール・ブレイカー

 引き金を引いた瞬間……否、放たれた弾丸が小鳥の頭を撃ち抜いた瞬間、サオリは見た。

 

 崩れ落ちる瞬間の小鳥の顔を。

 

 虚な瞳は何も映さず、しかして、口角が僅かに吊り上がったのを。

 

 刹那、小鳥のヘイローは砕け、彼女の肉体が死を迎えた事を悟り、そして地獄が生まれた瞬間を、サオリは目の当たりにした。

 

 小鳥の身体が、内側から炎に包まれる。炎は皮膚を焦がし、その肉を焼き、骨を焦がし……。

 

 小鳥の背中から、化物が姿を現した。

 

 卵から孵る雛の如く。しかし、その姿は雛と呼ぶには余りにも歪で、異様だった。

 

 翼の生えた巨大な怪鳥……否、かつて偉大なる王が封じたとされる悪魔の72柱が1柱、不死鳥の悪魔と称されるフェネクス。それが小鳥の肉体を内側から食い破り、その姿を現したのだ。

 

 それはまるで、神話の世界から飛び出してきたかのような化物だった。

 

「な、なんなんだよあれは……なんなんだよあれは!!」

 

「リーダー!! あんたいったい、何をした!!」

 

 アリウス分校の生徒達は狼狽する。目の前の現実を受け入れられずに、全ての責任をサオリに押し付ける。それしか、彼女達に出来る事がなかったからだ。

 

 だが、それはサオリもまた、彼女達とは別に、突如として現れた化物を相手に、どう対処すべきか必死に思考を巡らせていた。

 

 しかし、それは彼女達に考える暇すらも与えなかった。

 

 フェネクスが、その翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。同時に放たれた咆哮は、それだけでアリウス分校の生徒達に恐怖を齎した。

 

ー其は死と再生を司るものなりー

 

 アリウス分校の生徒にとって、死とは身近な存在だった。隣人とも言えるだろう。それは、彼女達を指導した人物の教育によるものだ。

 

 死という概念に疎いキヴォトスの人間よりも、死に対して敏感であった彼女達にとって、死を司る存在は恐怖であり畏怖の存在以外のなにものでもなかった。

 

 身体が硬直する。足が竦む。息が出来ない。指一本動かせない。言葉すら出ない。

 

 そんな彼女達を他所に、フェネクスは再び咆哮を轟かせる。

 

 その咆哮に呼応するように、砕けた筈の小鳥のヘイローの残骸が、異形の者へと変貌を遂げる。

 

ー其は20の悪魔を率いる大いなる侯爵なりー

 

 その姿は、まるで童話の世界に登場するような悪魔の姿。しかし、現実の世界に顕現された童話の悪魔は何処までも醜悪で悍ましい。

 

 悪魔達が一斉に笑う。醜悪な声色で、アリウス分校の生徒達を見下し、腹を抱えて笑い転げる。

 

 カチカチと何かがぶつかる音が聞こえた。それは、アリウス分校の生徒達から発せられたものだ。恐怖が限界に達し、その歯と歯がぶつかり合う音。

 

 恐怖で涙を流す者がいた。現実を受け入れられず、狼狽する者がいた。

 

 それは無論、アリウススクワッドも例外ではなかった。

 

 恐怖に怯えるアリウス分校の生徒達を他所に、悪魔達は笑いながら、彼女達に近付く。

 

 そして限界を迎えた。

 

「く、くるなっ!! くるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 誰かが叫んだ。その声に感化され、全員が一斉に銃を乱射した。

 

 弾丸は悪魔達を捉え、上空のフェネクスに被弾する。しかし、有効的なダメージを与えられていない事は明らかだった。

 

 悪魔達は笑う。無駄な足掻きをする彼女達を。フェネクスは嗤う。無駄な足掻きをする彼女達を。

 

 神秘によって顕現された存在に、現世の理が通用する筈がない。

 

 神秘に抗うのならば、同じく神秘をもって挑む他ない。

 

 その事を、アリウスの生徒達は知らなかった。そしてそれは、サオリも例外ではなかった。

 

 一頻り銃弾を受け続けたフェネクスは、己の神秘を行使する。

 

 フェネクスの眼前に出現するは、小鳥が愛用していたM30。神秘を纏ったそれは、照準をアリウス分校の生徒達へと定めると、1匹の悪魔が、小鳥の愛銃へと纏わり付いた。

 

 悪魔の姿が銃弾へと変わる。

 

 神秘を纏った銃弾。

 

 『死』と『再生』を司るフェネクスの神秘を纏った銃弾が、アリウススクワッドの生徒達へと放たれた。

 

死者を生者に・生者を死者に( Dead or Alive)

 

「っ!!」

 

 咄嗟に、アツコはユスティナ聖徒会の複製を召喚し、アリウス分校の生徒達を庇うように展開した。

 

 散弾の雨がユスティナ聖徒会の複製へと降り注ぐ。弾は全て彼女達に被弾し、アリウス分校の生徒達は難を逃れた。

 

 だが、次の瞬間……。

 

「ッ!!!!!?!!!!!」

 

 ユスティナ聖徒会の複製達の断末魔が地上に響き渡った。

 

 この世界に顕現したフェネクスの神秘。死と再生を司る悪魔の神秘は、世界のルールを捻じ曲げる。

 

 この世界に召喚されたユスティナ聖徒会の複製は、言わば亡霊だ。死した者。ならば、フェネクスの再生の権限をもって、蘇る事も可能だ。

 

 しかし、魂は蘇ったとしても、器なき魂は、世界にドロリと零れ落ちる。

 

 自我を取り戻し、現世に蘇った彼女達は、自身の魂がドロドロに崩れ落ちるのを実感しながら、本当の意味で、2度目の死を迎え入れる。

 

 崩れ落ちる身体。恐怖に慄くアリウス分校の生徒達。今、彼女達の目の前に、死が広がっている。

 

(死ぬ……私達も……此処で?)

 

(こんな……こんな意味も分からない事で……私は死ぬの?)

 

(死ぬ……死ぬ……殺される……っ!!)

 

 ドロドロに崩れ落ちるユスティナ聖徒会の複製がアリウス分校の生徒に助けを求める。必死に腕を掴み、助けてくれと懇願する彼女だが、魂のみのその身体は、掴んだ腕を残して、ボトリと崩れ落ちた。

 

「ぃや……だ……」

 

 恐怖に思考が蝕まれてゆく。そしてその恐怖は……。

 

「い、いやだ!! いやだっ!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ……伝染する。




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