「こんにちは、小鳥。身体の調子は……聞くまでもないみたいね」
「ハロハロ〜先生。お久し振りでありますなぁ。見ての通り元気……とは言い難いですが、なんとか無事に入院生活であります」
エデン条約の後、シャーレの先生は小鳥のいる病室を訪れていた。
検査の結果は、身体の方には異常はないが、暫くは絶対安静で、退院は出来ないとの事だった。
仕方が無い。身体は問題ないのだが、ヘイローの半分が消失し、残った半分にも亀裂が入っているのだ。
恐らく、一時的なものだとは思われるが、念の為にとヒナからの提案でもある。
小鳥のヘイローは、いや、正確には、肉体も含めて、彼女の神秘に眠るフェネクスの権限によって再生した。しかし、ヒナから事の詳細を聞かされた先生は、素直に喜んでいいのか分からない状態だ。
自分達を守る為に、1人で無茶をして、神秘を顕現させる事によって、エデン条約を破綻させたアリウスを退けた。
その代償として、身体に負荷をかけるどころか、ヘイローが半分消失させるに至った小鳥に、大人として不甲斐無いとすら思った。
生徒を守るのが先生の役目だ。それが、生徒に守られ、あまつさえ、生徒をこんな目に合わせたのだ。
しかし、そんな先生に対して、小鳥はあっけらかんとしながら答えた。
「せ〜んせっ。そう畏まらずとも、私は私の役割を果たしただけに過ぎませぬゆえ〜」
先生を安心させるかのように、小鳥はニッコリと微笑んだ。そんな小鳥に対して、先生は苦笑を浮かべた。
ヒナから報告を受けた時は、本当に肝を冷やしたものだ。だが、今の小鳥は元気そうだ。先生の知る小鳥のままだった。
先生は、心から安堵した。自分の知っている小鳥がここにいる。それだけで、先生も救われたような気持ちになったのだ。先生は椅子に腰掛け、小鳥に語りかける。今後の事も含め、小鳥が入院していた時に起こった出来事を。
それを小鳥は、静かに聞いていた。入院して日が浅いというのに、外では様々な事が起きていたようだ。先生が話し終えて、一息ついていると、小鳥は少し考える素振りを見せ、スッと目を細めた。
「では、ヒナ委員長は、暫くの間……いいえ、引き続き風紀委員会に所属するという事なのですね」
小鳥の言葉に先生は頷く。ヒナはあの後、引き続き風紀委員会に席を置き、活動する旨を先生に伝えていた。それを聞いた小鳥の心境は、複雑なものだった。
ヒナが風紀委員会に残るという事は、小鳥としても歓迎するべき事だ。だが、漸く自由になれると思っていたヒナの事を思えば、素直には喜べる筈もない。
ヒナはまた、混沌を極めるゲヘナの風紀を取り締まる側として、その身を粉にして働き続けるのだろう。それが、ヒナの選んだ道である事は分かっている。だが……。
小鳥の心情を察したのか、先生は優しく微笑み、口を開いた。その口から紡がれた言葉に耳を傾ける。
「ヒナは、自分の意志でゲヘナの風紀を正したいと、そう考えての決断だよ。だから、私は彼女のその思いを尊重したい」
先生は、そう答えた。小鳥は、先生の言葉を聞き、そして考える。ヒナが決めた事だ。ならば、自分がとやかく言っても仕方が無い。
それなら、自分も早く退院して、ヒナの手助けをしなくては。そんな事を考えながら、小鳥は窓の外へと目を向けた。空が青い。小鳥は、その青さに目を細めながら、小さく呟いた。
「では、私も、私の道を行く事にします」
ヒナは風紀委員会に席を置く。なら、私は……。小鳥の呟きを聞いていた先生は、静かに頷いた。
ヒナが風紀委員会に残るのであれば、自分も同じ道を選ぶ。そう小鳥は決めたのだ。自分がするべき事は一つ。ヒナと共に、ゲヘナの風紀を正し続ける。自分がやれる事をやり通す為に。
先生は、そんな小鳥の言葉に対して頷いた後、柔和な笑みを浮かべて、口を開いた。
「それが、小鳥が選んだ選択なら、私はそれを尊重するよ」
先生は、そう答えた。小鳥はそんな先生に対して微笑む。そして、先生はゆっくりと立ち上がった。そろそろ面会時間も終わる頃だ。先生は、小鳥の頭を優しく撫でてから、病室を後にした。
1人になった小鳥は、ベッドに横になり、静かに目を瞑った。小鳥は考える。これからのゲヘナの事を。そして、己の内に秘めた神秘の事を。小鳥の身体に宿っていたフェネクスの神秘。それは、今も彼女の内で眠っている。
これから先も、小鳥はフェネクスの神秘と向かい合う必要がある。『死』と『再生』……相反する2つの権限。それと向かい合う必要があるのだ。
感想・評価ありがとうございます。
凄く励みになっています。
エデン条約で物語終了と思っていましたが、ついつい他の事も書きたい衝動にかられています。続編を書くか、それとも同じ世界線の別の物語を書くか、凄く悩みどころです。
他にも短編集なども書いてみたいというものもあるので、もしもこう言うのはどうですかみたいなものがありましたら是非ともメッセージボックスかハーメルン用のアカウントも用意してますので、そちらにご提案下さい。それでは失礼します。