風紀の狂犬   作:モノクロさん

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ヒナ委員長の夏休み-前日譚 後編-

「これで……最後っ!!」

 

 アラバ海岸近辺を拠点にしていたスケバンとヘルメット団の構成員達を拘束した小鳥は、マスクについた返り血を拭いつつ、一息つく。

 

 事前に聞いていた情報の範囲内で、そこまで脅威となる相手はいなかったが、数が多かった為、時間はかかった。拘束した構成員達を、事前に用意されていた護送車に積み込み始めると、無線機で連絡を取る。

 

「おつおつであります。先程ヘルメット団とスケバンの拠点を制圧したであります。そちらの方はどうでありますか?」

 

 小鳥がそう言うと、無線機から返事が返ってくる。

 

『お疲れ様です。小鳥ちゃん。此方も先程、アラバ海岸に到着しました』

 

 無線の声を聞いて、小鳥は安堵した。どうやら、無事に合流できそうだ。

 

「了解であります。ではでは、此方も違反者達を護送車に突っ込み次第、そちらに向かうでありますよ。何か必要なものはありますか?」

 

『必要なもの……あ~いいえ。大丈夫ですよ。サメの駆除に必要なものは揃ってますので、小鳥ちゃんはそのまま此方と合流してください。くれぐれも』

 

 くれぐれも……と、言葉を付けたし、無線の先から釘を刺す。

 

『スケバンやヘルメット団の構成員達の血液やらなんやらをバケツに入れて持ってきたりしないでくださいね。ちゃんとサメを誘き寄せるためのエサは用意してますから』

 

「え、要らないでありますか? 了解であります。みんなごめーん!! サメ用のエサ、要らないって!!」

 

 その言葉に、流血で濡れた床を雑巾で拭き、バケツにため込んでいた風紀委員が作業の手を止め、小鳥の方を見る。

 

『……集めてたの?』

 

「はい、必要かなと思いまして」

 

『……いいですか小鳥ちゃん。仮にですよ。サメを誘き寄せるエサとして人間の血を海にまくとします。それに集まったサメやら魚を駆除した後、それを食べるにしても嫌じゃないですか?』

 

「……あぁ~成程ですね」

 

 言われてみると確かに嫌だ。少なくとも小鳥は言われてそう思ったし、他の風紀委員も同様だろう。貴重なキャビアに人の血が混じっているかもしれないと思ったら、少し嫌だな。

 

『なので、サメのエサは要りません。不要なバケツは処分するように。わかりましたね?』

 

「了解であります」

 

 無線にそう告げると、小鳥はスケバンやヘルメット団達の血液がそこそこ溜まったバケツを処分するように命じ、風紀委員達もそれに従って、バケツを処分した。

 

 その後、積み込みを完了させた小鳥達は、アラバ海岸で待機している風紀委員達と合流する為に護送車に乗り込み、移動を開始する。窓から見えるアラバ海岸の景色を見ながら、小鳥は今日の晩にはおいしい食事が出来るのだと期待に胸を膨らませていた。

 

 

 

 

 

 アラバ海岸に到着した小鳥は、護送車から降りると辺りを見渡す。海にはアコが手配したであろう、小型のボートが見える。どうやらアレに乗ってサメと対峙することになるらしい。

 

「小鳥ちゃんお疲れ様です」

 

 小鳥がボートを眺めていると、不意に声をかけられた。視線をそちらに移すと、無線で連絡を取り合っていた風紀委員と他のメンバー達の姿を確認する。各々、サメを駆除するための武器や誘き寄せる為の資材をボートに運び込んでいる最中である。

 

 因みに、小鳥が拘束した構成員達の護送は別の風紀委員に任せている。人数も多いので、分けて作業した方が効率が良いからだ。

 

 そうして、全ての物資を運び終わると、無線で連絡を取り合っていた風紀委員の子と共にボートに乗り込む小鳥。

 

「アコ行政官から話は聞いていましたが、本当に小鳥ちゃんがサメの駆除を? 他のメンバーは?」

 

「他の方々は各々、別行動をとっていますゆえ。それに、サメを駆除するのであれば、私が一番効率が良かったのでしょう」

 

 風紀委員の子の質問に、小鳥はそう返答した。

 

 風紀委員の子は、小鳥の返答に納得し、それ以上は何も言わなかった。ただ、心配そうな視線を小鳥に向けている。風紀委員の子としては、いくら小鳥が空崎に次ぐ実力者とはいえ、校則違反者を拘束するのとサメの駆除は訳が違う。

 

 いくら腕っぷしが優秀な風紀委員とはいえ、サメの駆除は想定されていない。それ以前に、海の中での戦闘など、人が想定するものではない。

 

「まぁ、何とかなりますよ。私はこう見えて、結構頑丈なので」

 

「はは、それは昔から知ってますよ。それこそ、1年前までヒナ委員長より身長が小さかったあの時からね」

 

「あはは、そういえば、先輩はあの時、ヒナ委員長と一緒にいましたね」

 

「えぇ、いきなり私達の前に出てきたかと思えば、ヒナ委員長を襲いますなんて言うから、驚きましたよ」

 

 風紀委員の子は、1年前の出来事を思い出しながら苦笑する。その様子に釣られて、小鳥も少し頬を緩ませた。

 

「あの時は迷惑をおかけしました」

 

「いやいや、私は何もしませんでしたから。それに、もっと驚いたのが、襲われた本人が小鳥ちゃんを風紀委員会にスカウトした事ですからね」

 

 風紀委員の子はそう言うと、小鳥の顔を見る。本当に小さかった小鳥が、いつしかヒナの身長を追い越し、更に風紀委員会にとって必要な人材にまで成長するとは。一線を退き、後方支援がメインとなった自分と違い、小鳥は今も前線で活躍している。

 

 そう考えると、感慨深いものを感じてしまう。

 

「さてさて、それでは、サメの駆除にかかるとしましょう」

 

 そうこう話している内に、ボートは目的の場所に到着した。サメが目撃されたポイント周辺。そこにサメを誘き寄せる為のエサを撒き、魚群探知機でサメの魚影が映るのを待つ。

 

 そして、それから1時間後。魚群探知機に他の小さな魚影と異なる1匹の大きな魚影が映りこんだ。恐らくこれが、アラバ海岸で目撃されたサメだろう。

 

 再び海面にエサを撒き、海を覗くと、その姿を目視することが出来た。体長にして、およそ5メートル。その姿を見て、小鳥はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ははは、中々の大きさでありますな」

 

「目測で5メートル……大丈夫ですか?」

 

「えぇ、私の身長の約3倍程度であります。まぁ、何とかなるでありましょう」

 

 そう言うなり、小鳥は銛を片手にボートから海へ飛び込む。そして、海面で一度バシャリと大きな水しぶきを上げながら、海へ潜った。

 

 その様子をボートの上から眺めていた他の風紀委員の子は、心配そうな眼差しで海を眺める。水中はサメの領域。いくら小鳥でも、無事である保証はない。だが、そんな心配は杞憂に終わった。

 

 海へ潜ってから僅か数秒と立たず、海面が膨れ上がると、海面にサメの背に跨りながら眼球を銛で刺し潰す小鳥が浮上してきた。

 

 辺りにサメの血液や眼球の破片を撒き散らしながら、海面から飛び出してくる小鳥。その姿を見て、風紀委員の子を含め、周囲のボートに乗っていたメンバーは啞然とした表情を浮かべる。

 

 視覚を奪われ、のたうち回るサメを他所に、振り落とされないようにサメを押さえつけ、銛を短く持ち直すと、眼窩の奥まで銛を深々と何度も刺しては引き抜く動作を繰り返し、サメの脳を何度も破壊する。

 

 そして、動かなくなった頃合いを見計らって、引き抜いた銛を捨てると、サメの顔をじっと見つめ、観察を始める。完全に死んだことを確認すると、サメから飛び降りて、ボートに着地する小鳥。

 

 その一連の行動を見て、風紀委員の子は驚愕した。

 

「ほいっと!! ははは、無事にサメの駆除完了でありますな」

 

 小鳥は風紀委員の子に振り向き、いつもの調子でそう言った。

 

「……はは、本当に小鳥ちゃんは、なんというか」

 

「凄かったでありますか?」

 

「……そうですね。凄かったと言いたい気持ちと、相変わらず、無茶をするなぁという気持ちと、他にも色々ありますが……とにかく凄かったです」

 

 風紀委員の子はそう言うと、ボートをサメの近くに寄せた。そして、サメを陸に引き上げるための準備を始める。その様子を眺めながら、小鳥は海の方に目を向けた。

 

 これでヒナ委員長が休息をとる為の準備が整った。ひとまず、自分に出来る事は終わった事に安堵しながら、ちらりとサメに視線を向け、頬を緩ませた。

 

 その胸の内には、サメから取れるであろうキャビアの事が浮かんでいた。

 

「先輩先輩、この後、時間は空いていますか?」

 

「ん? あぁ、この後は特に用事はないけど」

 

「ではでは、この後一緒にサメを捌いてBBQを楽しみましょう。折角捕まえたのです。処分してはもったいないでありますからな。それに、これだけ大きいのです。きっと沢山、キャビアが取れますよ」

 

「キャビアって……ははは、そうですね。それは楽しみだ。ですが、サメをどう捌きますか?」

 

「それについては問題ありません。食べるにしても丁度いい人材がいますので」

 

 そう言って、浜辺に近付いた所で携帯を取り出した小鳥は、ある人物に連絡を取った。

 

「あ、もしもし。ハルナ先輩でありますか? はい、小鳥ちゃんであります。確か今日、釈放されていると思いますが今どちらに? はい……はい……あぁ、フウカちゃんと一緒でありますか。また拉致ってるでありますね? 丁度よかった。今、アラバ海岸でサメを駆除したでありますが、サメを捌ける人がいなくて……はい……はい……あ、良いでありますか。感謝です。折角ですから一緒にキャビアを食べましょう。はい……はい……あ、画像送りますので宜しくであります。ではでは~」

 

 電話を終えると、風紀委員の子にハルナ達美食研究会と拉致されたフウカが来る事を伝える。そして、駆除したサメの写真を送った小鳥は、満足そうに微笑んだ。これでキャビアを食べられると。

 

 対して、釈放されて直ぐに犯罪行為に及んでいた美食研究会を呼んでBBQを楽しもうとする小鳥に、風紀委員の子は苦笑する。相変わらず、自由な子だと。

 

 

 

 

 その頃、電話を切り、送られてきた画像を見たハルナは、猿轡を解いたフウカに画像を見せながら苦笑を浮かべる。確かにサメだ。それもかなり大きめの。しかし……。

 

「これってゲヘナホホジロザメ……だよね」

 

「えぇ、そうですわね」

 

「えっと、小鳥ちゃんはこのサメからキャビアが取れるって言ってたの?」

 

 そう問いかけるフウカに、ハルナは再び苦笑を浮かべる。声色からして、このサメからキャビアが取れると本気で信じているのだろう。確かに、ゲヘナホホジロザメは食用として扱われてはいるが、このサメからはキャビアは取れない。そもそも、自治区内において、キャビアが取れるのはゲヘナチョウザメといい、サメはサメでもチョウザメ科といい、サメではないのだ。

 

 どういう理由で小鳥がアラバ海岸のサメを駆除し、どういう理由でこのサメからキャビアを取れると思ったのかは定かではないが、真実を伝えるか否か、判断に迷う所があった。

 

 しかし、フウカは暫し考えた後、ハルナに提案した。

 

「ちょっと近くのスーパーに寄って貰っていい?」

 

「何か買い物ですの?」

 

「ハルナ達に急に拉致されたからまともな道具がないの。本当なら今頃、明日の昼食の準備があったんだけど、流石に小鳥ちゃんが可哀想だから」

 

 そう言って、苦笑いを浮かべながらサメと満面の笑みを浮かべる小鳥の画像を見つめるフウカ。明日の仕込みもあるが、今は友人が楽しみにしているサメの事が先決だろう。そう考えながら、ハルナはフウカの提案を受け入れて近くのスーパーへ寄ると、電話で必要な器具が揃っているか確認し、足りないものを購入するのであった。

 

 尚、アラバ海岸に到着したフウカから、このサメからはキャビアが取れない事を知った小鳥が、アコに対して『よくも騙したな!!』とお気持ちモモトークを送った事は言うまでもない。




おまけ
アコ「あ、小鳥ちゃんから連絡が……」

小鳥『よくも騙したな!! 許さんぞ!! 許さんぞ陸八魔 アル!!』

イオリ「小鳥ちゃんから? あ~これはちょっと怒ってるね。後でちゃんと謝った方がいいよ」

……数十分後

アコ「あ、また小鳥ちゃんから連絡が……」

小鳥『ハロハロ~アコちゃん輩先。今、サメ肉パーティーを開いているであります。一緒にどうですか? うまうまでありますよぉ~』

イオリ「あ、機嫌なおったみたいだな」

アコ「そうみたいですね。それよりなんで、美食研究会と給食部のフウカさんが一緒にいるのでしょう?」

イオリ「あ~多分、キャビア取るなら料理の経験者って思ったんじゃないか?」




おまけのおまけ
小鳥の身長:大体150~155cmくらい




いつも感想ありがとうございます。
遅くなりましたが、風紀の狂犬の総合評価が2000を突破することが出来ました。
これもすべて、閲覧してくださっている皆様のおかげです。
これを記念に、本作にて短編集を書きたいと思っています。何か希望がありましたら、ハーメルン用のアカウントにマシュマロを用意してますので、そちらにコメントか、ハーメルンのメッセージにてDMして頂けたら幸いです。
それでは失礼します。
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