風紀の狂犬   作:モノクロさん

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狂犬と短編集

狂犬とアコ

 これはまだ、小鳥が風紀委員会に所属して間もない頃の話。

 

 何時ものように、ヒナの後ろをついて歩く小鳥。両手に愛銃を抱え、テチテチと歩く姿は、親鳥の後を追いかける雛鳥の如く。

 

 ヒナも、小鳥のそんな姿に微笑ましく思いながら、今日も風紀委員会の仕事をこなしていた。

 

 そんな時だった。執務室で書類仕事をこなしていたヒナと、その姿をじっと見つめる小鳥。ペンが書類をなぞる音を心地良く聞き入る小鳥の耳が、不意にある音を拾った。執務室に近付く足音。その音に反応し、小鳥が愛銃を抱えてヒナの傍に近寄る。

 

 その様子に、ヒナは手を止めると、執務室につながる扉へと目をやった。

 

 扉を叩く音と共に、部屋の外から声が聞こえる。

 

「失礼します」

 

 その声の主は、後に行政官となるアコだった。アコは室内に入ると、ヒナに用件を伝える。

 

 その様子を、小鳥はじっと見つめている。そんな小鳥を他所に、ヒナはアコの話に耳を傾けていると、不意に背後から感じた気配に、ヒナは振り返った。

 

 そこには、アコに銃口を向けている小鳥の姿があった。

 

「小鳥っ!!」

 

 咄嗟に銃口に手をかざし、小鳥の引き金を引く指を止めながら、アコを庇うように立つヒナ。小鳥はそんなヒナに驚きつつも、銃の引き金から指を外すと、ヒナに何故彼女を庇うのかと抗議の目を向ける。

 

 対して、アコは突然自身に銃口を向けてきた小鳥に驚愕し、言葉を失う。

 

「……小鳥、どうしてアコに銃口を向けたの?」

 

 ヒナの問いに、小鳥は首を傾げながら答える。

 

「風紀を乱してました。だから取り締まります」

 

 小鳥の回答に、今度はヒナとアコが首を傾げる。

 

「小鳥、アコの何処が風紀を乱しているの? もしよかったら教えてくれる?」

 

 ヒナのその問いかけに、小鳥はアコの方へ目を向ける。そして、一点を見つめた後、口を開いた。

 

「肌が凄く露出してます。ネットで見ました。露出が激しいと風紀が乱れるって」

 

 小鳥のその回答に、ヒナとアコは唖然とする。同時に、2人共小さな溜息を吐く。確かに、アコの服装は肌の露出が多い。特に胸の辺りだ。しかし……しかし?

 

 ふと、アコの服装に関して、ヒナは思案してしまう。小鳥の言っていることは、果たして間違えているのかと。確かに、アコの服装は肌を露出している。しかし、別に風紀を乱すほどではないのではないと思っていたが、それをどう伝えるべきか?

 

「ヒナ委員長?」

 

 今度はアコが不安気な声を漏らす。ヒナは暫し考えた後、小鳥に視線を向けて口を開いた。風紀を乱しているか否か、それをどう小鳥に伝えるべきか。それを小鳥に伝えるために。

 

「いい、小鳥、アコの服装は………………許容の範囲内よ」

 

「ヒナ委員長!!」

 

 ヒナの答えに、アコが悲鳴に近い声を上げる。確かに、自身の服装は肌を露出しているし、横乳も丸見えだ。しかし、同じ風紀委員のメンバーに銃口を向けられるほどのものでもない筈だ。しかし、そんなアコの思いは届かず、小鳥はヒナに抗議する。

 

「ですが、こう……なんと言いますか。アコちゃん輩先を見ていると、凄く悲しくなってきます」

 

 そう言って、ヒナに訴える小鳥。その姿はまるで、母親に諭されながらも、玩具を買ってほしいと駄々をこねる子供のようだ。ただし、内容はアコのスタイルが羨ましい事と、開けた横乳という、少々話は変わってくるが。

 

 しかし、ヒナはそんな小鳥に対して、首を横に振った。

 

「小鳥、ネットの情報を鵜呑みにするのはダメよ。ちゃんと自分で何が正しいのか調べた上で、言葉を選ぶの。アコも……そういうファッションなの」

 

「ヒナ委員長!!」

 

 言葉を選ぶにしても、それは如何なものかとアコは抗議の声を上げる。だが、ヒナはそんなアコを無視して小鳥を諭すと、それ以降、アコに銃口を向ける事はなくなった。しかし、1年たった今でも、アコのスタイルを見ると、少し羨ましくなる小鳥であった。

 

狂犬とイオリ

 巡回を終え、帰路についたイオリは、風紀委員会本部で寛ぐ小鳥を見かけた。その手には和菓子が握られており、それを美味しそうに食べている。

 

「おや? はろはろ~イオリちゃん。お仕事お疲れ様であります」

 

「おぉ、お疲れ。小鳥ちゃんは此処で何してるんだ?」

 

「見ての通り、美味しい食べ物に舌鼓を打っている最中であります」

 

 そう言って、手に持っているものを見せる小鳥。その手には塩豆大福が握られていた。

 

「へぇ、普段はスイーツ系がメインなのに、和菓子も食べるんだな」

 

 イオリのその問いかけに、小鳥は微笑みながら答える。

 

「はい。私だって何時も同じものを食べているわけではないのですよ。偶には味変とやらで、スイーツ以外も食べるであります」

 

 そう言って、塩豆大福に齧りつく小鳥。その様子を見ながら、近くのソファーに腰掛けるイオリに、小鳥は塩豆大福が入った袋をイオリに差し出す。

 

 どうやら、1人で食べるのも味気ないと思い、イオリを誘ったらしい。その誘いに、イオリは小腹も空いていた事もあり、塩豆大福に手を伸ばした。

 

 一口齧ると、程よい甘さとしょっぱさが口いっぱいに広がる。なるほど、確かにこれは美味いとイオリはぺろりと一つ平らげた。

 

 そして、もう一つ如何と提案する小鳥に、塩豆大福に手を伸ばしかけた所で、イオリは何気なく問いかけた。

 

「それで、味変に塩豆大福を選んだ理由とかあるのか? 確か、その袋に書かれているお店って、此処から結構遠くにあるお店だろ?」

 

 そう、イオリの言う通り、お店は此処から結構な距離がある。にも関わらず、小鳥がこの店で買った理由。何故、塩豆大福を選んだのか。イオリはその理由が気になったのだ。

 

 そんなイオリの疑問に、小鳥は苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「夢を見た……でありますよ」

 

「夢?」

 

「はい。あれは今日見た夢の話です」

 

 夢の中では、小鳥はトレーニングジムで運動するヒナを見たという。何故、ジムで運動するのか問いかけると、最近書類整理ばかりで身体が鈍っているからとヒナは答えた。

 

 その返答に、小鳥はなんとなく頷きながら、今度はすぐ近くにいたアコに問いかけた。アコは何をしているのかと。

 

「私はヒナ委員長が搔いた汗で塩を精製して塩豆大福を作ろうと思って」

 

「成程、私も偶にはドーナツやらケーキばかりでなく、和菓子も食べたいでありますな。沢山出来たら私にも分けてほしいであります」

 

 そう言って、小鳥はヒナが運動して汗を流す中、その汗を収拾するアコの様子を眺め続ける夢を見たのだと、イオリに告げた。

 

「……あ~それで、今日は塩豆大福の気分と」

 

「はい。食べてみれば意外と美味しかったであります」

 

「そっかぁ……ちょっとその話は、聞きたくなかったな」

 

 2個目の塩豆大福は既に食べ始めたばかりだ。流石に残すのは忍びない。だが、なんとなくありえそうな夢の話を聞かされた後では、口に含む塩豆大福の味は、イオリにとって少ししょっぱいものとなった。

 

狂犬とチナツ

 チナツは小鳥にとって可愛い後輩だ。元々は救急医学部に所属していたが、現在は風紀委員会の救護を担当している。前線で身体を張る事がメインの小鳥にとって、彼女のお陰で、多少のケガも迅速に治療できるのが有難い。

 

 とはいえ、小鳥の体質上、ケガらしいケガを負う事も少なく、寧ろ、小鳥が出張る前に不良生徒達と対峙した彼女の部下がケガを負う事が多く、小鳥が部下の付き添いでチナツの元を訪れる場面の方が圧倒的に多い。

 

 その為、部下の手当てをする彼女の姿を見る事は多々あれ、自分との接点は殆ど無いため、小鳥はチナツと会話する事を殆どした事がない。

 

 しかし、ある日の事だった。風紀委員会本部で書類仕事をこなしていたチナツの元に、小鳥が顔を覗かせた。チナツは突然の来訪者に驚いたものの、すぐに笑顔を浮かべると、その来客を歓迎した。

 

「小鳥ちゃん、どうかしましたか?」

 

「いえいえ、いつも頑張ってるチナツちゃんに差し入れをと思いまして」

 

 そう言って、小鳥は手に持っていたクッキーの包みをチナツに渡す。チナツはクッキーの包みを受け取ると、小鳥にお礼を告げた。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 チナツの感謝の言葉に小鳥は微笑みを返すと、チナツにクッキーを渡した理由を話す。

 

 普段、ケガをした部下を治療しているチナツに対する感謝の気持ち。今後もチナツのような救護を担当する者が風紀委員会には必要不可欠な存在であること。そして何より、可愛い後輩は愛でねば不作法というものと、最後は冗談を交えて小鳥はチナツに告げた。

 

 小鳥の感謝の言葉に、チナツは少し照れくさそうにしながら頬を掻くと、包みを開き、クッキーを一つ齧る。口の中に広がる甘味とバターのコクに、チナツは思わず頬を緩ませた。その様子を見た小鳥は『後輩ちゃんは可愛いですなぁ』と心の中で呟きながら、チナツに別れを告げて風紀委員会本部を後にした。

 

ヒナ委員長は温かい

 小鳥が同じ風紀委員に拘束された。その事件は、特に広がる事もなく、風紀委員会内部で処理された。

 

 校則違反者を収容する特別牢。その最奥に、全身を拘束具で拘束された小鳥の姿があった。牢の中は薄暗く、唯一の明かりは天井の小さな豆電球のみ。しかし、視界も拘束されているため、彼女にとっては部屋が明るかろうが暗かろうが全く関係がない。その状況の中、小鳥は内心の不安を隠しながら、部屋の扉が開く音を聞いた。誰かが牢に入ってきたのだろうと、小鳥は思ったが、扉から入ってきたのは予想外の人物だった。

 

 その人物とは、ヒナだった。何故、ヒナが牢の中に入って来るのか?

 

 その答えは直ぐに分かった。

 

「拘束具を解いて。早く」

 

 ヒナのその指示に、看守の風紀委員が小鳥の拘束具を順に外していく。そして、全ての拘束具が外された後で、ヒナは小鳥に近づいた。

 

「……大丈夫?」

 

 心配そうな声色のヒナに、小鳥は小さく頷きながら口を開く。

 

「あぁ……ヒナ委員長。私は大丈夫でありますが、ヒナ委員長は……その……」

 

「うん。凄くびっくりした」

 

 小鳥の問いかけに、ヒナは苦笑いを浮かべる。その反応に、小鳥も少し安心した表情を浮かべた。しかし、直ぐに表情を引き締めると、ヒナに頭を下げた。

 

「ヒナ委員長。本当に申し訳ありませんでした。出来心とはいえ、徹夜明けのヒナ委員長を正面から抱きしめるなんて」

 

 小鳥の言葉に、ヒナは首を横に振った。確かに驚いたが、悪意があった訳ではないのは分かっている。だが、驚いた事には変わりない。

 

 そもそも、今回の騒動は、徹夜明けで少しぼぉっとしていたヒナを見るや否や、後ろからこっそり近付いた小鳥が、振り返ったヒナを抱きしめた事が原因である。

 

 その現場に居合わせたアコが他の風紀委員に小鳥を拘束するように命じ、その後、なし崩し的に拘束具で身体を固定され、そのまま特別牢に入れられたのである。

 

 拘束され、特別牢に収容される中、アコからは犯罪者を見る目つきで究極の二択を突き付けた。

 

「小鳥ちゃん。私は非常に悲しいです。貴女には絞首刑か斬首刑の二択しかありません。1日そこでどちらにするか考えていてください」

 

「アコちゃん輩先!! ちょっとやった事と、その選択肢は酷くないですか!?」

 

 一緒にいたイオリからは『まぁ、もう少ししたら釈放されると思うから、大丈夫だろ』と言われ、チナツからは何と言葉をかければいいのか分からず、困った顔をされたのを覚えている。

 

 尚、ヒナはその頃、徹夜明けもあり、後の事はアコに任せていたため、まさか小鳥が特別牢に収容されるなど全く想像していなかったのだ。

 

 そのため、ヒナが小鳥が特別牢に収容されているのを知ったのが、仮眠をとった後の事であり、ヒナは慌てて小鳥の元に訪れたという。

 

「それで、どうして急に抱きしめてきたの?」

 

 ヒナのその問いかけに、小鳥は返答に困った。それは、ある日の夜、ヒナと先生が執務室での会話を盗み聞きしていた事から起因する。先生との会話の中で、ヒナが徹夜をすると体温が上がるという話を聞いていたのだ。そして、ヒナを抱きしめたそのタイミングこそが、徹夜明けの状態の彼女だったというわけだ。

 

 考える間もなく、小鳥は本能に従い、真実を突き止めるべく行動に移したのだ。その結果、ヒナは温かかった。そして凄く良い匂いがした。恐らく、サバ折されたあの時以上に抱き心地が良かったし、あの時以上に良い匂いがした。

 

 その事を告げれば、あの時の会話を聞かれていたとヒナは気付くだろう。そして、その事を話せば間違いなく軽蔑される。小鳥は視線を泳がせながら、どうにかこの場を乗り切る事が出来るような言い訳を考えるが、一向に出てこない。

 

 寧ろ、考えれば考える程、先生との会話を盗み聞きした事実だけが浮き彫りになっていき、小鳥の胃がキリキリと痛みだした。

 

 そんな小鳥の様子を見て、ヒナは何を思ったのか、そっと小鳥を抱きしめた。突然のヒナの行動に、小鳥は思わず目を見開くが、その温もりに少し落ち着きを取り戻す。

 

 しかし、次の瞬間には別の意味で驚いた。ヒナは小鳥を抱きしめたかと思うと、そのまま彼女の頭を撫で始めたのだ。突然の行動に、小鳥は思わず硬直してしまう。

 

 ヒナは気にする様子もなく、小鳥を抱きしめたまま頭を撫で続ける。その状況が暫く続き、小鳥が思わず放心状態になりかけた頃、ヒナは小鳥を抱きしめるのを止め、ゆっくりと立ち上がった。

 

 そして、微笑みながら言った。

 

「大きくなっても、まだ甘えたい時もあるんだから、その時は私を頼って良いのよ。でも、急にされたらびっくりするから気を付けるように」

 

 そう言って、ヒナは特別牢の出口へと歩いていく。小鳥は何も言えず、ただその背中を見送った。そして、ヒナが特別牢から出て行った後、小鳥はそっと自分の頭を触る。

 

 撫でられた箇所には、まだヒナの温もりが残っていた。




おまけ
小鳥ちゃんの人物別好感度
・風紀委員会
ヒナ:凄く大好き。今の自分がこうしていられるのは、全てヒナ委員長のお陰である。
アコ:実はかなり好き。悪い事をしたらしっかり叱ってくれるし物怖じもしないから。
イオリ:凄く好き。マイフレンド。
チナツ:好き。可愛い後輩ちゃん。
先輩モブ:好き。尊敬する存在。
同期モブ:好き。一緒に風紀を守りたいと思える存在。
後輩モブ:好き。守るべき存在。

・万魔殿
マコト:嫌い。何時もヒナ委員長に迷惑をかけるから。でも、謎のカリスマを感じる。
イブキ:好き。可愛い。持ち帰りしたいがマコトの目がある為何もできない。

・温泉開発部
カスミ:気が付いたら好きの部類に。部屋に置いていると色んな反応を示してくれる。
温泉開発部後輩:気が付いたら好きの部類に。部屋に置いていると可愛く思えてきた。

・便利屋68
アル:好き。仲間思いな所が特に好き。
カヨコ:好き。判断が早い。
ムツキ:好き。小悪魔的な可愛さがある。
ハルカ:好き。暴走気味だが、仲間を思っての事な為。不器用だなとも思っている。

・美食研究会
ハルナ:好き。美味しい食事の事を色々と教えてくれる。ただし、行きたいお店を爆破することもあるので、それはそれで風紀委員としての仕事はこなす。

・給食部
フウカ:大好き。美味しい食事を作ってくれる。ゲヘナの良心。

・ゲマトリア
黒服:嫌い。絶対信用してはならない。

・シャーレ
先生:好き。この人なら信頼できる。安心感がある。


あとがき
何時も感想ありがとうございます。
凄く励みになっています。
今回は短編集4本立てで構成しました。
また機会があればやってみたいと思っています。
他にも、第二部が始まるまで、外伝を少し書きたいと思っていますので、こういう話も読んでみたいなどありましたら、お気軽にDMかメッセージボックスにて対応しております。なお、明日からブルアカにて新章の続きが始まるので、皆さんも是非是非一緒に楽しみましょう。私はネタバレが怖いので、明日の夕方以降は新章をクリアするまではSNSは見ないように心がけます。ネタバレは怖いので……それでは、失礼します。
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