風紀の狂犬   作:モノクロさん

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今回の話は空崎 ヒナ復刻ピックアップ記念です。



尽力の翼

 彼女を、空崎 ヒナを表現するなら、『尽力』という言葉が相応しい。

 

 混沌を極める学園と自治区の風紀と治安を司る風紀委員として、規則と秩序に厳格であり、己の立場に責任を持ち、怜悧かつ誠実な人柄など、ゲヘナにおいて類稀なる精神を持つ彼女。

 

 校則違反者たちが、数々の事件や問題行動を起こすたびに『めんどう』と漏らすも、それらの対処に日々奔走している。

 

 そして、周囲に対しての気遣いや面倒見の良さを持ち合わせており、自分以外の誰かの為に行動する事を厭わない。そんな彼女だからこそ、小鳥はその背中を見て、成長する事が出来たのだ。

 

 しかし、ある日ふと思う。

 

 その立場と責任感ゆえに、彼女が束縛され、雁字搦めになっているのではないかと。

 

 彼女の人柄を知れば知る程、小鳥はそんな疑問が頭を過ぎる。そして、一度生まれたその疑問は、日を追う毎に、大きくなっていった。

 

 そこから、小鳥はヒナの背中を観察するようになった。執務室で書類整理をする彼女。自治区の見回りをする彼女。

 

 何時もと変わらない日常を過ごすヒナだが、小鳥はそんな彼女を見ていて、ふとした瞬間、彼女の背中に重りがのしかかっているように感じてしまった。

 

 それは、小鳥がヒナを尊敬しているからこそ感じてしまう錯覚なのか。或いは、彼女に対しての思いの強さゆえに見えてしまった幻影か。それを知る術を、小鳥は持ち合わせていない。

 

 知らないなら、分からないならと、小鳥はその疑問を解消すべく、ヒナに問い掛けた。

 

「ヒナ委員長。質問があります」

 

「どうしたの、小鳥?」

 

 執務室での書類整理の最中、小鳥の問いに、作業の手を止める。

 

「私は、ヒナ委員長が働いている姿しか見た事がありません。貴女は、休みの日は何をしているのですか?」

 

 小鳥のその問いかけに、ヒナは少し目を大きくして驚いた。まさか、そんな質問を投げかけられるとは思わなかったのだ。そして、少し考え込んでから答えた。

 

「そうね。そう言えば最近、休んだ事がなかったわね。この間も、ヘルメット団と温泉開発部の衝突で、鎮圧の任に付いていたし」

 

 そう言って、再び作業に戻ろうとするヒナに、小鳥は更に質問を投げかける。

 

「では、ヒナ委員長は休まずにずっと、働いているのですか?」

 

「……そうね。最近は忙しかったから、休んだ記憶は、先月も含めて、なかったかもしれないわ」

 

 ヒナのその返答に、小鳥はズキリと胸が痛むのを感じた。まさか、本当に休みなしで働いていたとは。しかし、ヒナはそんな小鳥の心情を知らずに、言葉を続けた。

 

 その声音は、何時もの彼女と変わらないように聞こえたが、何処か疲れが滲んでいるような気がした。

 

「いい、小鳥。ゲヘナでは事件や問題行動を起こす生徒が後を絶たないわ。私達は風紀を守るべく活動している。私達がやる事で、他の生徒や地域に住まう住民の安全を確保しているの。これは凄く大事な事よ」

 

 ヒナは作業する手を止め、小鳥に向き直る。その目は真剣そのもので、小鳥は思わず姿勢を正した。

 

「で、ですが、それでヒナ委員長の負担が増えてしまっては、本末転倒ではないですか。貴女も此処では、1人の学生なのですよ」

 

 小鳥の言葉に、ヒナは苦笑いを浮かべた。その答えは、至極当然の物だった。ヒナもまた、1人の生徒。その生徒1人に負担を強いるのは、本来間違っているかもしれない。

 

「そうね、確かに小鳥の言う通りよ。でもね、誰かがやらないと、ゲヘナは今以上に無法地帯になってしまう。それは絶対に避けないといけない事よ。めんどうな事はかもしれないけど、これは、出来る人がやらなくちゃいけないの」

 

 そう言って、ヒナは作業を再開する。その横顔に、疲れの色が見える。それでも、自分に出来る事を、彼女は全力でやろうとしているのだ。

 

 その意思を、曲げる事は出来ない。

 

 ヒナのその横顔を眺めながら、小鳥は考える。そして、一つの結論へと至った。

 

 それなら、自分が体現すれば良いのだ。仕事をする時は仕事を。そして休む時はしっかりと休む事を。

 

 仕事をする時は、ヒナがそうしているように、自分もまた、それを実践する。休む時はしっかり休んで、それを彼女に伝えて、勧めてみる。そうすれば、彼女自身も興味をもって休みを取る事だろう。

 

 小鳥は、その時から毎日ヒナの後ろをついていくのではなく、ヒナが知らない事を知るために、風紀委員会とただの生徒である自分とを切り替えるようにした。

 

 スケジュールを組み、休みの日は、出来るだけ遠くに行くようにした。自治区の外へと足を運び、そこで見かけた物や人について、ヒナに話して聞かせるようにした。

 

 言葉遣いも変えるようにした。最近は携帯1つで流行りのものや様々な映像媒体を見る事が出来る為、見様見真似で普段の口調を変えるようにした。

 

 畏まった口調では、相手との距離感を感じてしまう。くだけた口調で話す事が、距離感を縮める第一歩となる。そうSNSに書いてあった。

 

「はろはろ〜お疲れ様でありま〜す」

 

「おや、小鳥ちゃん。急にどうしたんですか?」

 

「最近、この口調が流行っているみたいです。どうでありますか?」

 

「そうですね。悪くないと思いますよ」

 

 他の風紀委員は、小鳥のその変化を特に気にする事もなく受け入れた。そこから少しずつ変えていこうと考えた。

 

「お疲れ様であります。わっぴ〜!」

 

「わ、わっぴ〜?」

 

「え、わっぴ〜?」

 

「……なるほど。わっぴ〜はやめた方が良さそうです」

 

 『わっぴ〜!』はやめておく事にした。そして、ヒナにも話しかけてみたが、特に口調の変化には気にした様子もなかったようだったので、そのまま続ける事にした。

 

 風紀委員会としての仕事も、スケジュールを組んでのシフト制にした事も、特に気にした様子もなかった。

 

 違う自治区の話をしても、話に耳を傾ける事はあってもそれ以上の事は無かった。

 

 もしかしたら根本的な所で間違えてしまったか?

 

 不安に駆られる事もあったが、諦めずに試し続けた。

 

 小鳥は何時ものように書類整理をしているヒナに声をかける。

 

 何時ものように、話を持ちかけ、それを聞きながら作業を続けるヒナ。そんな何時も通りの日常が過ぎ去っていく。

 

 話を終え、明日は仕事をしっかりやりますと笑顔で退室する小鳥を見送り、ヒナは書類整理を再開する。

 

 そして、1人になった執務室でヒナは呟いた。その呟きは、誰の耳にも届かず、ただ静かに消えていった。




あとがき
マシュマロにて、こういう話を読んでみたいというコメント頂き、ありがとうございます。今、内容を構成中ですので、楽しみにして頂けたら幸いです。
そして、今日からブルアカにてストーリーが更新されるので、凄く楽しみです。今日という日に感謝です。それでは、失礼します。
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