風紀の狂犬   作:モノクロさん

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マシュマロにてリクエストにあった内容です。
解釈違いでしたら申し訳ありません。


日頃の感謝の気持ちを込めて

 ある日の放課後、不良同士のいざこざから発生した暴動を鎮圧した小鳥は、後始末を他の風紀委員に任せ、一息ついていた。

 

「お疲れ様です。小鳥ちゃん」

 

「はいはい、お疲れ様であります」

 

 護送車に不良達を詰め込んだ後、風紀委員の子が小鳥に労いの言葉をかけた。それに対し、小鳥は何時ものように軽く返事を返す。

 

 相変わらず、仕事の後は返り血に濡れ、制服が焦げ痕と銃痕でボロボロである。服の替えは沢山あるので問題ないが、事が起こるたびに、制服を新調しなければならないのは、少し問題かもしれないと小鳥は思った。

 

「今日は一段とボロボロですね」

 

「あはは、申し訳ないですなぁ。それ以外は全く問題ないんですがねぇ」

 

 鎮圧に赴いたのが小鳥と分かった瞬間、不良生徒達の銃口が一斉に向けられ、銃弾が雨のように降り注いだ。

 

 その弾幕を正面から受け止め、不良達を1人ずつ仕留めていったのだが、最後の最後で、やぶれかぶれの特攻によるゼロ距離パンツァーファウストは流石に予想外だった。

 

 使用した不良本人も、爆発に巻き込まれて再起不能になったが、小鳥自身も、爆風で吹き飛ばされて、壁に叩きつけられる羽目になったのだ。

 

「銃痕くらいでしたら問題ないのですが、流石に爆発で焦げ焦げな服装で活動していては、ヒナ委員長に叱られてしまいますね」

 

(そもそも、あの爆発で吹き飛んでいて殆ど無傷なのがおかしいのですが)

 

 小鳥の呟きに、風紀委員は内心でそう思ったが、それを口に出すような愚かな真似はしなかった。下手な地雷は踏まないに限る。

 

 やがて、他の護送車も、不良生徒達の詰め込みが完了したのか、順次移動を始めている。そんな様子を横目で眺めながら、小鳥は携帯を取り出した。

 

 爆発の衝撃の後だ。もしかしたら壊れているかもしれない。そう思いながら恐る恐る画面を見てみると、問題なく起動した。

 

 小鳥は安堵の息を漏らすと、マスクを外したあと、携帯の電源を入れ、SNSに投稿されている情報に目を走らせる。

 

 携帯とは便利なものだ。自治区のみならず、他の自治区の情報も、ネットを使えば簡単に手に入る。例えば、ゲヘナの生徒達の間で人気なファッションブランドや人気のあるアニメやドラマ。そして、他の自治区の特産品やスイーツ関連など、知りたい情報が簡単に手に入る。

 

 小鳥は、携帯に表示される様々な情報に目を通しながら、ヒナが好みそうな情報をピックアップしていく。そして、それを忘れないように、携帯にメモとして残しておく。

 

 休みの日に集めた情報をもとに自ら出向き、ヒナを誘うか、もしくは商品を持ち帰り、多忙な彼女のお土産として渡し、一緒に幸せを共有する。

 

 そう思うと、小鳥の口元が僅かに緩んだ。

 

「おや、何か面白い情報でもありましたか?」

 

 風紀委員が声をかけると、小鳥はハッと我に返り、口元を慌てて隠した。

 

「失礼しました。ちょっと気持ちが緩んでいたようですな」

 

「いえいえ、お気になさらずに。小鳥ちゃんの緩んだ表情って、あまり見た事ないので貴重な体験でした」

 

 そう言って笑う風紀委員に釣られるようにして、小鳥も小さく笑みを浮かべる。

 

 そして、視線を携帯に戻すと、トリニティの自治区で人気のスイーツが売り出されている情報をSNS上で見つけた。

 

 気になって調べてみると、どうやら数量限定らしい。

 

 詳しく見てみると、普段から世話になっている上司へのプレゼントに最適と書かれていた。これは、見過ごす事はできない。期間も丁度、オフの日が被っている。

 

 小鳥は、携帯の画面を見ながら、小さく頷き、決意を固めた。

 

 

 

 

 後日、私服姿に身を包んだ小鳥は、一般のマスクをつけ、トリニティの自治区へと足を運んでいた。

 

 目的は当然、限定のスイーツを購入する事だ。開店前に並べば購入できるだろうと思ったが、かなり人気の高い店らしく、既に開店前から行列が出来ていた。

 

「これは結構待つかもしれませんねぇ」

 

 小鳥は小さく呟きながら、列の最後尾に並ぶ。順番待ちをしている間、なんとなく周りを見渡すと、トリニティの自治区以外の生徒もちらほら見かけた。

 

 ゲヘナの生徒は……見渡す限りでは見当たらない。校風的に、開店前に並んで買うような生徒は稀だ。見かけるとすれば、開店してから暫くしてからだろう。

 

 その場合、その殆どが問題を起こす生徒なので、注意が必要になってくる。小鳥は警戒を強めながら列に並び続けた。

 

 待つ事数十分、お店が開き、生徒や一般人が順番に店の中に入り、限定商品を購入していく。小鳥もその波に乗り、長い列を少しずつ進みながら、漸く店内へと足を踏み入れた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 店員の挨拶を聞きながら、小鳥はショーケースの中を覗き込む生徒へと目を向けた。

 

 見覚えのある生徒だ。確か……ヴァルキューレ警察学校の公安局の生徒だ。

 

 以前、ヴァルキューレに世話になった際、局長のカンナと一緒にいたのを記憶している。苗字はうろ覚えだが、他の生徒からはコノカと呼ばれていた事まで思い出した小鳥は、小さく息を吐いた。

 

 ヴァルキューレに世話になった件は黒歴史だ。それに、向こうは此方の事を覚えているかどうかも怪しい上に、今は私服とマスクで身元が割れる事はないだろう。

 

 此処は気付かないふりをするのが賢明だろうと考え、小鳥は店員に声をかけようとしたが、ぶつぶつと何かを呟く彼女が気になり、その呟きに耳を傾けた。

 

「うわぁ、なんなんすかこれは……限定スイーツ、残り4つとか、縁起が悪いじゃないっすか。でも折角此処まで来たのに何も買わずに帰るなんて……それに、上司にプレゼントすれば運気が上昇するって書いてあったし……あぁでも、この不吉な数字の限定スイーツとか……」

 

 小鳥は首を傾げたが、すぐに納得した。どうやら彼女はショーケースに並んだ限定商品を見て、購入するか悩んでいるようだ。それも、ただ悩んでいるのではなく、在庫が不吉な数字だからと、購入する事を躊躇っているらしい。

 

 その気持ちは分かる。何時もならたくさん吹き出す筈の血飛沫が、思っていた以上に出なかったら、気になってもう一度殴って確かめたくなるものだ。きっと彼女も、そんな気持ちなのだろう。

 

 仕方がない。此処は一つ、助け舟を出そう。そう思い、小鳥はコノカに声をかけた。

 

「すみません、なにかお困りのようですので声をかけたのですが、何かありましたか?」

 

「え? あ、あぁ! いや、別に困ってるというか……」

 

 突然声をかけられ、驚いた表情を浮かべるコノカに小鳥はマスクを外して笑いかける。

 

「お久しぶり……といっても、貴女は覚えていないと思いますので、改めて自己紹介を。不死川 小鳥です。以前、私がヴァルキューレでお世話になった時以来です」

 

 そう自己紹介をすると、思い出したようにコノカは目を見開いた。

 

「以前……あぁ、ゲヘナの狂犬っすか!! 久し振りっすね。ショッピングモールの一角を占拠していたところを検挙して以来っすか?」

 

「あ、あはは……あの時はご迷惑をおかけしました」

 

 あの時の事を蒸し返され、苦笑いを浮かべる。そして、咳ばらいを一つした後、小鳥は話を続けた。

 

「それで、話を戻しますが、先程から数や縁起などの独り言を聞いていたのですが……もしかして、限定品のスイーツを買いたいけど、在庫の数が不吉な数字だから手が出しづらいといったところですか?」

 

 小鳥がそう尋ねると、コノカはバツが悪そうに頭をかいた。どうやら図星のようだ。

 

「成程。ではコノカさんは何個欲しいのですか?」

 

 そう問いかけると、コノカは指を2本立てた。

 

 小鳥はその指の数を見て、それなら問題ないなと判断し、店員に声をかけた。

 

「すみません。この限定スイーツを2つください」

 

 そう言って、店員に注文すると、店員は笑顔で応対し、ショーケース内のケーキを箱に詰め込み、代金と引き換えに小鳥に手渡した。これでショーケース内の限定スイーツの在庫は2つ。キリが良く、コノカが後で注文して丁度在庫切れとなった。

 

 無事に目的のものを購入することができた小鳥とコノカは、折角だからと、持ち帰り用とは別にケーキを注文して、店内のイートインスペースで食べることにした。

 

 最初は近くのラーメン屋に行こうと提案されたが、折角トリニティに来たのだ。ニンニクマシマシの豚骨ラーメンよりもスイーツ系の美味しいものを味わいたい。そう説得すると、渋々ではあるが納得してくれた。

 

 そして、小鳥はケーキを頬張りながら、目の前で同じようにケーキを食べるコノカに話しかけた。

 

 内容は購入した限定スイーツを誰に送るのか。コノカの場合、上司であるカンナである事は間違いないが、話題を振った理由は、純粋にコノカともっと話をしたかったからだ。

 

 他の自治区の生徒と話す機会は滅多にない。貴重な機会を、みすみすと見逃す手はない。

 

 コノカは小鳥の質問に対し、ケーキを頬張りながら答えた。

 

「んぁ? ケーキを送る相手っすか? そりゃ勿論、姉御……カンナさんっすよ」

 

 ケーキを飲み込むと、コノカはフォークを咥えながら答えた。そして、そのまま小鳥の質問に答えていく。

 

 曰く、仕事の合間に携帯を弄っていたら、小鳥が見つけた投稿と同じ内容のものが目に留まり、上司であるカンナに日頃のお世話にという名目で購入したとのこと。

 

 更に、ちょうど良いタイミングで、人に対して贈り物をすると自身の運気が上昇するという占いも見たので、その効果も期待していると、笑いながら語ってくれた。

 

 それを聞きながら、小鳥はケーキを一口口に含む。しっとりとした生地と生クリームの甘さが口の中に広がり、幸せな気分になる。

 

 そして、小鳥は満足げに息を吐くと、視線を店内へと向けた。

 

 売り切れていた限定スイーツ。どうやらあれは、午前の部と午後の部で分けて提供するシステムだったらしく、午前中に購入出来なかった生徒達が、限定スイーツを求めて再びお店へと足を運んでいるようだ。

 

「どうやら追加で入荷したようですね」

 

「みたいっすねぇ〜。まぁ、午前中に来れない子達用の救済処置って所じゃないっすか?」

 

「ですねぇ〜。ゲヘナの生徒が午前中にいなかったのも、時間帯別に在庫を提供するって分かっていたからかもですね」

 

 小鳥がそう呟くと、コノカも店の様子に目を向けた。そして、手に持っているフォークをプラプラと揺らしながら、コノカは口を開く。

 

「それじゃあ、問題が起きるとしたら、今からかもしれないっすね〜」

 

「あはは、勘弁して下さいよ。今日の私は非番です。オフの日は働かないと決めているんですから」

 

 この場合、何か問題が起きたら正義実現委員会が現場に到着するまでの間、ヴァルキューレに所属するコノカが動く必要があるのではと投げかけると、コノカは心底嫌そうな表情を浮かべた。

 

 恐らく、コノカもまた、小鳥と同じく非番で休暇を楽しんでいる最中だったのだろう。そして、せっかくの休日に事件に巻き込まれるのは勘弁願いたいといった様子だ。

 

 小鳥もそれに同意するように頷く。

 

 その後も、ケーキを食べながら他愛もない話を続ける2人。そんな中、案の定というべきか、必然と言うべきか、店内にてわガラの悪そうな生徒の怒鳴り声が響いてきた。

 

 どうやら、売り切れだった限定スイーツを購入できた他の生徒の分を強引に奪い、店員が慌てて対応している姿も見える。

 

「あちゃ〜。これってフラグ回収ってやつですかねぇ」

 

「ですねぇ……しかもあれ、うわぁ……うちのとこの生徒達ですよ」

 

 小鳥は顔を歪め、頭を抱えた。遠目に見ても分かるゲヘナの不良生徒。何度か彼女を拘束した事がある小鳥からすれば、また問題行動を起こしていると、頭が痛くなる案件である。

 

 流石に、この状況を放置する訳にもいかない。そう思い、席を立とうとすると、コノカが手を掴んで制止した。

 

「まぁまぁ、折角の非番に余計な仕事を背負い込む必要はないっすよ。此処は正義実現委員会が出張るまで様子をみるのが賢い選択ってやつじゃないっすか?」

 

「それはまぁ……そうなのですが」

 

「それに、きっと大丈夫っすよ。この辺りは正義実現委員会の生徒達の巡回ルートでもあるんで、そろそろ来るんじゃないっすかね」

 

 そう言って、入口の方へと目を向けるコノカにつられて、小鳥もそちらへ目を向ける。

 

 すると、正義実現委員会の生徒達が店内へと足を踏み入れるのが見えた。

 

「お、来たみたいっすね。ほら、小鳥さんも座ってたらどうっすか? 大丈夫っすよきっと」

 

 コノカは笑いながらそう言うと、不良生徒と正義実現委員会の生徒達とのやり取りを観戦しながらコーヒーを啜る。

 

 小鳥は暫く頭を悩ませていたが、やがて諦めたように席に着くと、コノカと同様にコーヒーを飲みながら観戦することにした。

 

 正義実現委員会の生徒……あの顔も見覚えがある。確か風紀委員会と正義実現委員会との合同演習で見かけた顔だ。

 

 確か名前は……そう、イチカだ。

 

 仲正 イチカ。正義実現委員会の中では、良心的な立ち位置に存在する彼女は、その人柄から、学園間や組織間における外交や仲裁をよく担当している為、合同演習以外にも、何度か顔を合わせている。

 

「へぇ、正義実現委員会のイチカじゃないっすか。あの子なら、不良生徒達も大人しくなるかもしれないっすね」

 

「確かに。でも、色々と失敗したら、凄い事になりますよ?」

 

「凄い事?」

 

「はい、イチカちゃんとは何度か面識がありますけど、あの子はどちらかと言うと、ゲヘナ寄りの子ですからね」

 

「え、マジ?」

 

「マジっす。とはいえ、そう滅多な事でこちら側になる事はありませんが、危ないと思ったら手助けも視野に入れた方が良いですよ」

 

「う〜ん、まぁ、そうっすね。一応、頭の片隅に入れておくっす」

 

 そう言って頷くコノカに小鳥は頷くと、再び観戦へと意識を向ける。イチカと不良生徒達のやり取りは、予通りというかなんというか、実に不毛なやり取りであった。

 

 宥めるイチカに対して、噛みつく不良生徒達。数では自分達が有利と踏んだのか、イチカに対して罵詈雑言を容赦なく浴びせる。

 

 対して、イチカはそれに反論することなく、淡々と受け流していた。

 

 暫くは、そんなやり取りが続いたのだが、やがて不良生徒達の苛立ちが限界に達したのか、イチカの胸ぐらを掴み、声を荒げた。

 

「いい加減にしろよ!! こちとらな、これで生活がかかってんだよ!!」

 

「そうだ、この限定スイートを、トリニティまで買いに来れない奴らの為に、わざわざ足を運んで買いに来たんだ!! それを、邪魔するとか、どういう了見だ、あぁん!!」

 

 その言葉に、今度は小鳥が反応した。

 

「……転売? 転売目的か?」

 

「小鳥さん?」

 

 突如急変した小鳥に、コノカは驚きの表情を浮かべる。しかし、小鳥はそれに構う事なく言葉を続けた。

 

「……転売目的なら、話は早い」

 

「え? いや、小鳥さん? 急にどうしたっすか?」

 

 愛銃の銃身を掴んで歩き始める小鳥に、コノカは戸惑いの声を上げた。しかし、小鳥はそれを無視して、不良生徒達の元へと歩いていく。

 

「ゲヘナでは古来より、転売ヤーは手足の骨を砕いた後に市中引き回しと共に斬首と決まっているのです」

 

「急にどうした? 転売ヤーに大切な人でも転売されたっすか?」

 

 コノカの問いに、小鳥は首を横に振った。そして、淡々とした口調で告げる。

 

「いえ、全く。ですが、それくらいに、転売ヤーは悪しき存在であるとSNSに書いてました。その所業はゲヘナの温泉開発部と美食研究会を遥かに超えると言われてます」

 

「上司に言われない? 情報は精査しろって」

 

「よく言われます。ですが、皆が利用しているSNSです。情報に誤りがあるとは思えません」

 

「いや、まぁ……う〜ん」

 

 とはいえ、転売ヤーに関しては、確かに悪しき存在であると認識されている。それに過剰な反応を示すのは如何なものかと、コノカは苦笑いを浮かべた。

 

「まっ、転売目的は明白ですし、始末しちゃっても構わないっすよね」

 

「そして私達は、あくまで正義実現委員会に協力する善良な生徒。それ以上も以下もありません」

 

「うっす、その設定でいこうじゃないっすか」

 

 そう言って笑うコノカに、小鳥もニヤリと笑みを浮かべる。そして、愛銃を持ち直すと限定スイーツの入った箱を持つ不良生徒へと向け、勢いよく振り下ろした。

 

「ふべらっ!!」

 

 突然の衝撃に、不良生徒の一人が奇妙な声を上げる。そして、手に持っていたケーキの箱が宙に舞い、それをコノカがキャッチした。

 

「ケーキは?」

 

「大丈夫っす。人質は無事に確保したっすよ」

 

「おっけいです。ではでは、悪い転売ヤーにはキツイお灸を据えねばですな」

 

 そう言って、倒れた不良生徒にむかって、再び銃を振り下ろし、今度は頭部を殴打する。

 

「ぐべっ!!」

 

 鈍い音と共に不良生徒は床に倒れ伏した。そして、小鳥は倒れた不良生徒を踏みつけながら、他の不良生徒達に視線を向ける。

 

「おやおや、悪い転売ヤーさんが1人2人と沢山おいでなすって。これは纏めて市中引き回しの上、斬首の刑に処さないといけませんねぇ」

 

「な、なんだてめぇら!!」

 

 突然現れた小鳥とコノカに、不良生徒達は戸惑いの声を上げる。

 

「なんだって……まぁ」

 

「そうっすねぇ……」

 

 小鳥とコノカは、互いに顔を見合わせた後、同時に口を開いた。

 

「「そこらのモブ生徒です」っす」

 

 次の瞬間、不良生徒達の悲鳴が店内に響き渡った。

 

 なるべく店内を荒らさないよう、不良生徒達を店外へと追いやり、尚且つ、逃さぬよう退路を塞ぎながら1人ずつ確実に始末していく小鳥とコノカ。

 

「ほいっす、小鳥さん」

 

 不良生徒の首根っこを掴み、小鳥のいる方向へと放り投げる。

 

「名前呼びは禁止ですよコノカさん」

 

 小鳥はそれを受け取り、そのまま不良生徒の腹に蹴りを入れる。そして、倒れた所を踏みつけ、トドメの一撃と言わんばかりに顔面に拳を叩き込んだ。

 

「了解っす、小鳥さん」

 

「名前はダメですコノカさん!!」

 

 不良生徒達が袋叩きにされている隙を見て、逃げ出そうとする不良生徒が現れた。だが、コノカがその逃げ道を塞ぎ、小鳥に視線を向ける。

 

「おっと、こっちは任せて欲しいっす」

 

 その言葉に、小鳥は頷くと、そのまま他の不良生徒の顔面を殴り飛ばした。

 

 その光景を、イチカは不良生徒に胸ぐらを掴まれたまま、呆然と眺めていた。

 

「……何やってんすか。2人とも」

 

 穏便に事を済ませるつもりが、気付けば店の外は修羅場と化していた。

 

 店内を見渡す。此処は比較的に被害は少ない。あるのは床に顔をめり込ませている不良生徒が1人と胸ぐらを掴んだまま、外の惨状に唖然としている不良生徒だけだ。

 

 仕方が無いと、イチカは溜め息を漏らすと、不良生徒に話しかけた。

 

「手を離してもらっても良いっすか?」

 

 イチカの言葉に我を取り戻したのか、不良生徒は慌てたように手を離す。

 

「素直に聞いてくれて感謝っす」

 

 次の瞬間、イチカの拳が不良生徒の顔面にめり込んだ。

 

 不良生徒は壁に激突し、そのまま動かなくなった。

 

「胸ぐら掴まれたままじゃ、服が破けてたかもしれないっすからねぇ」

 

 そう言ってイチカは、床に倒れていた不良生徒を掴み上げると、そのまま外に向かって投げ飛ばした。

 

 外にいた不良生徒も、ちょうど全滅したらしく、一息ついた2人の足元に、ちょうど不良生徒が投げ飛ばされてきた。

 

「いやぁ、協力してくれたお2人には感謝っす……」

 

 と、朗らかな笑みを浮かべた後、イチカの目がスッと妖しく開かれた。

 

「……と、言うと思ったっすか? ゲヘナの小鳥ちゃんに、ヴァルキューレのコノカさん」

 

 イチカの言葉に、2人は一瞬表情を強ばらせた後、すぐに笑顔に戻った。

 

「気のせいですよ。私は見ての通り、何処にでもある可愛いモブで……」

 

「ゲヘナ学園、風紀委員会所属、2年生、不死川 小鳥さん。この間の合同演習以来っすね。ツルギ先輩との模擬戦で怪我した腕と頭は大丈夫っすか?」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

「それと、ヴァルキューレ警察学校、公安局副局長のコノカさん」

 

「……うっす」

 

「一応、お二人は此処がトリニティの自治区である事はご存知っすよね? ヴァルキューレは兎も角、ゲヘナの風紀委員会に所属する小鳥ちゃんが、他の自治区で問題を起こしてどうするんすか?」

 

「あ、すみません。そこで伸びてる子達、ゲヘナの子達だったので……」

 

「そうっすねぇ、そこで伸びてる生徒達は、ここ最近、この辺りで問題を起こしているゲヘナの生徒達っす。有名なスイーツ店を巡っては、限定商品を買い漁って転売する問題児っす」

 

 他の店舗でも同じ事を繰り返していた彼女達は、当然の事ながら、トリニティも目を付けていた。

 

 次に出没する可能性がある店舗に正義実現委員会の生徒達を待機させ、厳重注意の後に、今後同じ事を繰り返さないように指導する予定だったのだが、それがどうして、こんな事になったのか。

 

 イチカは溜め息を漏らした。

 

「取り敢えず、お2人には事情を聞く必要があるので、大人しく同行してくれると助かるっす」

 

 イチカの言葉に、小鳥とコノカは両手を上げて降参のポーズをとった。

 

「はい、大人しく同行させて頂きます」

 

「同じくっす」

 

「とはいえ、流石に小鳥ちゃん……ゲヘナとは今後の事もあるので、今回は小鳥ちゃんとコノカさん個人へのお説教をする事になるっす。覚悟して下さいよ」

 

 イチカのその言葉に、小鳥とコノカは苦笑いを浮かべながら、深々と頭を下げた。

 

「あはは……本当に申し訳ありません」

 

「っす」

 

「なら、その反省をちゃんと行動で示す事っす。良いっすね?」

 

 2人の返事にイチカは頷くと、他の正義実現委員会の生徒達に、今回の事は内密にと口止めをした後、2人をトリニティ自治区の外へと連れ出す事にした。

 

 

 

 

「あはははははっ!! なんなんすかこれ!!」

 

 イチカの笑い声が響く。

 

「いや〜、まさかあのケーキがそんな値段で売られていたとは」

 

 あの後、自治区の外に出た3人は限定スイーツを転売していた不良生徒のアカウント情報を入手し、ネットで調べてみたのだが、その価格に驚愕した。

 

 店舗で売られていた金額のおよそ10倍。これは明らかにぼったくりだ。

 

 それでも購入者がいるという事は、それだけの価値がある事の証左であり、転売する側にも旨味があるという事なのだろう。

 

「まぁ、その値段なら買い占める気持ちは分かるっすけどねぇ。けど、他人の物を奪ってまでして売ろうだなんて、ナンセンスっすね」

 

 そんな会話をしつつ、3人は自治区の外を歩き続ける。そして暫く歩いた後……。

 

「さてと、私としては、此処で解散しても良いんすけど、その前に……」

 

 そう言って、イチカは小鳥とコノカの2人に視線を向けた。その視線に気付き、姿勢を正す。

 

「結果はどうあれ、お2人のお陰で、被害を最小限に抑える事が出来たっす。ありがとうございました」

 

 そう言って頭を下げるイチカに小鳥とコノカは顔を見合わせると、照れくさそうに頭を掻き、そしてイチカと同じように頭を下げた。

 

「いえ、そんな……」

 

「あはは……照れるっすね」

 

 小鳥とコノカは顔を上げると、イチカに向き直り、笑みを浮かべた。

 

 その後、解散となった3人はそれぞれ帰路についた。

 

 

 

 

おまけ

 風紀委員会本部に戻った小鳥は、何時ものように書類整理に明け暮れるヒナのもとを訪れた。

 

「お疲れ様でありますヒナ委員長!! 不肖、不死川 小鳥。無事に帰還しました」

 

 扉を開けると、ヒナは小鳥の方に視線を向け、『お帰りなさい』と一言告げると、再び書類へと視線を戻した。

 

 何時もと変わらない景色である。小鳥もまた、何時ものように無遠慮にヒナに近付き、彼女によく見えるようにスイーツが入った箱を机の上に置いた。

 

「これは?」

 

「ヒナ委員長に日頃の感謝の気持ちを込めてプレゼントであります」

 

「感謝?」

 

「はい。何時もヒナ委員長に助けられております故、そのお礼の気持ちを表した次第であります」

 

 そう言って、小鳥は笑みを浮かべると、ヒナは『そう』と呟く。

 

「別に気にしなくても良いのに」

 

「いえいえ、これは私個人の感謝の気持ちであります故」

 

「そう。なら、遠慮なく貰っておくわ」

 

 そう言ってヒナは箱を開けると、中には限定スイーツが2つ。1つは自分の分として、もう1つは小鳥の分だろう。

 

「あ、もう1つはアコちゃん輩先の分であります故、後日渡しておいて頂けると助かります」

 

「そう。分かったわ」

 

「では、私はこれで」

 

 小鳥はそう言ってヒナに背を向けると、そのまま部屋を後にしようとする。

しかし、そんな小鳥をヒナは呼び止めた。

 

「小鳥、良かったら一緒にどう?」

 

「へ?」

 

「一緒にこれ、食べましょ」

 

 ヒナの言葉に小鳥は振り返ると、笑みを浮かべながら『良いのですか?』と尋ねると、ヒナは小さく頷いた。

 

「ええ、勿論」

 

 ヒナの言葉に小鳥は満面の笑みを浮かべると、そのまま彼女の元へと駆け寄った。

 

「では、お言葉に甘えて頂きます」

 

 2人分のコーヒーとスイーツを乗せたお皿を机の上に置き、ヒナと向かい合う。

 

 1つのケーキを2人でシェアする。そんな些細な事ではあるが、ヒナと2人で同じ物を食べれるという事がとても嬉しかった。

 

「では、いただきます」

 

 そう言って小鳥はケーキを一口頬張る。程良く甘味のあるクリームと柔らかなスポンジが口の中に広がり、幸せな気持ちになった。

 

「美味しいわね」

 

 ヒナの言葉に、小鳥はケーキを飲み込むと笑顔で答えた。

 

「とても美味しいであります」

 

 その笑顔に、ヒナもまた笑みを浮かべると、ケーキを口に運ぶ。小鳥と同じく口の中に甘さが広がり、自然と笑みが溢れた。




いつも閲覧頂き、ありがとうございます。
感想・評価・ここすきなど、励みになっています。

報告
次回より、第二章を書き始めたいと思います。
ゲヘナを離れた小鳥と協力者の少女による神秘の追求。
あり得たかもしれないキヴォトスを巡る物語。
・対策委員会編
・時計じかけの花のパヴァーヌ編
・カルバノグの兎編
・エデン条約編
・百花繚乱編
を予定しております。
長期の連載を予定しておりますが、頑張って行きたいと思っています。
どうか、最後まで閲覧して頂けると幸いです。
それでは、失礼します。
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